怒りを生きる力に | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

怒りを生きる力に

水俣病の実態を世界に知らしめた写真を

撮影したユージン・スミスの遺作になった



写真集を基にドキュメンタリーではなく

映画という手法を使って真実に肉薄した

「MINAMATA」を観てきました。



ユージンを演じた主演のデップは自分の

存在が見えすぎて負担にならないかという



葛藤を抱えていたそうですがスクリーンを

何度も何度も確認してしまうほど完全に



存在を消していましたし共に水俣で闘った

アイリーンさんをして"しばらくユージンに



会ってなかったから会いにいこうと"

一瞬、思ったと言わしめた自然な演技。



デップを突き動かしたのはもちろん

水俣の歴史を語り継ぐために映画の力で

メッセージを伝えたいという想いでしたが



それ以上にこの問題が未だに解決されずに

"今"も続いている事実が衝撃的だったから。



化学工業メーカーのチッソがメチル水銀を

含んだ廃液を無処理のまま工場から海に



垂れ流したことが原因となって発生した

日本の四大公害病の一つである水俣病。



被害が公式に確認されたのは1956年で

65年が経った今も訴訟も行われ被害者が



救済されていない現在進行形の問題なのに

私達は水俣病にどれぐらい関心や知識を

持っていただろうかと身につまされました。



「MINAMATA」は記録映画ではないので

実際に起きた出来事とは違うエピソードも



盛り込まれていますが深刻な健康被害を

知りながら事実を隠蔽する大企業の病理



工場で働く住民もたくさんいて声高に

被害を訴えられない弱みにつけ込んで



お金で分断しようとする卑劣なやり方に

既視感があるのは私だけではないはず。



人間が引き起こす不条理や理不尽なことに

もっともっと私達は"怒り"感じる必要がある。



自分に関係ないからと見て見ぬ振りをしたり

世の中はこんなものだと諦めてしまったら



不都合な事実を捻じ曲げたり隠そうとする

人間のそれこそ思う壺になってしまう。



"写真は時として撮る者の魂をも奪う"



そのことを知りながら写真を撮り続けた

ユージンの覚悟を胸に刻みたいと思う。



水俣に生きる人々の怒りと悲しみを

全身で受け止め写真一枚一枚に自分の

生命まで注ぎ込んだ写真家ユージン。



映画でもチッソの工場を取材した際に

暴行を受けるシーンがありますが実際は



カメラも壊され脊椎を損傷し失明寸前の

重傷だったそうでその前に沖縄戦の取材で



受けていた身体と心の傷も癒えておらず

激しい痛みにずっと苦しめられていたそう。



ジャーナリズムのしきたりから客観的という

言葉を取り除きたいと言っていたユージン。



人間は誰もが偏見や先入観を持っている。

ジャーナリズムはその偏見や先入観を



知ることにより変えていき真実へと導く

ひとつの方法だとユージンは考えていた。



この映画は水俣で起きた「事実」を見せる

ドキュメンタリーではないからこそ

「真実」を浮き上がらせているのである。



事実はひとつしかないが真実は体験した

人によりそして観た人により違っていて



ひとりひとりが考える本当のことを意味し

人の数だけ存在するということになる。



ユージンの足元にも及びませんが私も

人の生き辛さ、怒り、悲しみ、痛みに

耳を傾けて言葉に紡いで伝えてきました。



"私達は皆、ただの一片のホコリです。

同時に小さな力なのです"と語るディプ。



これからも"もし自分だったら"という

視点を忘れず伝え続けることで無関心な



人が自分事として考えるきっかけを

小さくても良いから作っていきたい。



そしてひとりひとりが抱く「真実」が

少しでも偏見のないものになるように。。。



そして中山七里さんの小説を原作とした

映画「護られなかった者たちへ」もまた



やり場のない理不尽な境遇への怒りに

満ちた作品でこちらはフィクションですが



地震や台風など自然災害が頻発する日本に

住んでいる私達は全てを奪われるリスクと



常に隣り合わせで生きているということを

忘れてはならず決して他人事ではない物語。



突然、母の介護に直面したことで貧困の

連鎖に落ちた私には痛いほど分かる。。。



誰も助けてくれない中でどうしたら惨めな

暮らしから抜け出すことが出来るのか。



怒りという負の感情を持ち続けることは

大袈裟ではなく人間の魂を消耗させていく。



その怒りを見えない敵に向けるのではなく

生きる力に変えたいともがいたことは

間違いではなかったと今も信じています。



映画「護られなかった者たちへ」も

「MINAMATA」と合わせてぜひ劇場で映画