物語のチカラ | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

物語のチカラ

"芸術の灯をともし続けよう~舞台にエール"



野田秀樹さん作・演出NODAMAP

「フェイクスピア」を観劇してきましたひらめき電球



野田さんの作品は幾つも観ていますが

全く予想を裏切る展開になるので今回も

タイトルから想像するにシェイクスピアに



絡めてフェイクと真実を織り交ぜながら

野田さんがどんなチャレンジをするのか

予習せずありのままを受け止める気持ちでショック!



冒頭のシーンは誰にも聞かれないまま

音を立て倒れていく木々をアンサンブルが。



そして深い森の中で見つけた謎の箱を

大事そうに胸に抱えた高橋一生さん演じる



mono(モノ)が誰にも聞かれない言葉は

言葉たりえるのかと私達に投げかけます。



やはりキーワードは「言葉」。。。



そして場面は変わり舞台はなんと恐山。

試験に何度も落ちているイタコ見習い

皆来アタイを演じるのは白石加世子さんで



女優になる前に実はイタコを目指して

修行をしていたと真面目に語るフェイクに

はじめからすっかり騙されてしまう私あせる



そんなアタイの元に現れたのはmono

橋爪功さん演じる楽で口寄せをお願いするも



楽(タノ)が語る設定が毎回違っていて更に

お約束のようにアタイではなくmono



シェイクスピアの四大悲劇のリア王や

オセロにハムレットなどのヒロインが憑依。



名場面を橋爪さんとやりとりしmono

パタッと倒れるというパターンを繰り返し

なかなか本題に進みませんが掛け合いの



場面の中にさりげなく出てくる言葉が後の

ノンフィクションの伏線になっています。


舞台は役者泣かせの八百屋舞台でしかも

かなり急な傾斜を烏に扮したアンサンブルが

衣装をはためかせて縦横無尽に駆け巡り



左右からシャーと大きな幕が素早く引かれ

場面転換するブレヒト幕という手法を。



そんな中に登場するのは前田敦子さんで

伝説のイタコ、星の王子さま、白い烏の



3役を演じ分けますが星の王子さまが

連想させる飛行機やmonoが持つ謎の箱



シェイクスピアの悲劇に死者の声と

幾つかのピースが集まってフィクションの

中の真実が朧げに形を現していきます。



そして「大切なものは目に見えない」と

あまりにも有名な言葉に続けて王子さまは



文字で書かれた言葉は目に見えるけど

人の声で発せられた言葉は目に見えない。



だから発せられた言葉が大切なんだと

全力で棒読みなのはきっとわざとのはず。



さらに神様の使者だというアブラハムを

川平慈英さん、三日坊主を伊原剛志さんで

2人の目的はmonoから箱を奪い返すこと。



そして待ってましたの野田さんは劇作家

シェイクスピアと息子のフェイクスピア!?



かなり高いテンションで台詞を畳み掛け

フィクションビックリマークノンフィクションビックリマーク



叫んだりラップ調になったりとにかく

舞台を駆け回っているいやかき回している

姿は嬉々とした子供のようでかなり自由にひひ



ちなみに星の王子さまもシェイクスピアも

伝説のイタコも試験に落ち続けて見習いの



アタイにちゃんと憑依していて本人が

気づいてないのは本物のイタコである証か!?


ちなみに橋爪さんと白石さんは共に79歳

舞台でも実は元同級生だったという設定。



前半は怒涛のように押し寄せる創作の

言葉の洪水に抗わずに身を委ねながらも



野田マジックが繰り出すフェイクの中に

巧みに仕組まれた真実は何かを思索する私。



高橋さんはNODAMAP初出演ですが

どこか儚い印象がありながらも柔らかく

しなやかな強さが光を放っていましたクローバー



虚構で埋め尽くされた野田さんの不思議な

世界の中で1人ナチュラルな存在のmono。



唯一のという意味があるmonoが語るから

ただひとつの彼の物語と解釈でき彼だけが

真実なのかなど創造の泉は広がりますひらめき電球



恐山で偶然出逢ったはずのmonoと楽。



2人は記憶を失くしていましたがmono

箱を神様から盗んだことや実は死んだ楽の

パパであることを少しずつ思い出していき


楽も父親が3歳の時に亡くなった記憶が

蘇ってパパと次第に子供のような話し方に。



そして過去を語り出す楽は生きていくのが

辛くて死んでしまおうと思っていた時に

隣の人が線路に飛び込んで人身事故に遭遇。



命には無関心で迷惑だと口にする人々に

絶望してさらに死にたいと思ってしまうが

そんな時に誰かが自分を呼んでいて恐山に。



深い森の中で「真のコトバ」を探す彼らが

辿り着いたのは誰もが知っているあの悲劇。



箱から溢れ出た言葉はフェイクが入り込む

余地のない事実であり最期まで生きるために

望みをかけ発せられた「コトバの一群」



キャスターがついた椅子のみで緊迫した

やりとりを高橋さんを始めとするキャストが

息詰まるほどの迫真の演技で完全に再現。



私ごときに創り変えられてはならないと

思わせた強いコトバの一群に野田さんが

遭遇したのは今から30年ほど前だったそう。



そんな"やっちゃあいけないこと"とはに

次第に気づいていく観客と役者が共有する

空気感はリアルでないと味わえないもの。



観客の前で演じて舞台は完成するもので

演劇の観客は第三者ではなく当事者だと



野田さんは言っていましたが演劇の底力

そして舞台人の覚悟を見せてもらいました。



病のため言葉が不自由になった母が私に

何を語りかけていたのかを知りたくて



生き辛さを抱えた人達の言葉に耳を傾け

自分の言葉で伝える仕事を生業に選んだ私。



伝え手としてノンフィクションの世界に

身を置き25年以上が経ちますが日々

伝えることの難しさを痛感すると共に



大切なのは一方的に伝えることではなく

相手に言葉が伝わるかどうかということで

これはフィクションも同じだと思います



母の介護や貧困などを経験した1020代は

目の前の現実が厳しすぎてフィクションに

少なからず救いや希望を求めてきました。



死者であろうと物語の主人公であろうと

舞台では逢いたい人に逢えるという魔法を

使うことができるのがフィクションです。



20年以上経っても母に逢いたいと願う私に

フィクションでありながら世界中の人々に



語り継がれてきた物語の中の"コトバ"

死者を口寄せするイタコが語る"コトバ"


そして"生きろ"という死んだ父親からの

息子へのメッセージが流れ込んできました。



人間にとってお互いを理解するために必要な

コミュニケーションツールでもありますが



相手との間に信頼関係がなければ人の心は

動かせず言葉は言葉たり得ないと思います。



目に見えない大切なものを感じる心を養い

人を絶望させるのではなくきょうあすを

生きていこうと思える希望の言葉を紡ぎたい。



真実の言葉といのちを吹き込まれた物語の

力を信じたいと思わせくれる舞台でしたクローバー



「フェイクスピア」は池袋東京芸術劇場

プレイハウスにて今月11日まで上演中ひらめき電球