心の目を。。。 | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

心の目を。。。

新しくなった渋谷のPARCO劇場にて

井上ひさしさんの「藪原検校」を観劇ひらめき電球


盗み、強請り、殺しと悪の限りを尽くした

稀代の大悪党の杉の市の生き様を描いた

作品で主演は歌舞伎役者の市川猿之助さん。



演出の杉原邦夫さんは猿之助さんとは

スーパー歌舞伎II「オグリ」でも長く

タッグを組んでいるので阿吽の呼吸ですニコニコ



スプレーの落書きで埋め尽くされた

セットはまるで現代の渋谷の裏路地に

迷い込んでしまったような怪しい雰囲気。



しかも舞台上には黄色と黒の工事に使う

ロープで四角く区切られているスペースが。



杉の市達は常に杖を頼りにロープを跨ぐ

必要があり目が見えないことを意識させる



演出か心の中のバリアを可視化したものか

はたまた人を縛る足枷を表現したものか。

 


舞台は江戸中期の日本三景松原に近い塩釜。

タイムスリップしたような着物姿の役者が

居ても違和感なく見えてくるのが不思議。


三宅健さん演じる魚売りの夫婦の間に

1人の男の子が誕生しますが生まれつき

目が見えないことに母親が気づきます。



実は小悪党だった父親がお産のための

お金欲しさに座頭を殺したためその罪の

因果が子共に報いたためだと嘆き自害。


今から200年以上も前で目が見えない者は

盲人で作る互助組織の"当道座"に入るしか

生きていく術がない厳しい時代でした。



座頭の琴の市に預けられ杉の市の名前を

もらうも手癖が悪く手も早い彼はなんと

師匠の女房にまで手をつけてしまう始末。



"生まれながらに悪人はいない。。。"と

信じたいけれど父親譲りの曲がった性根。



悪行を重ねるのは杉の市の天賦のものと

思わせるくらい猿之助さんはまり役です。



一方で才能には恵まれていた杉の市は

師匠の後を受けて源平合戦をもじって



白黒餅が闘うというパロディを歌い上げる

場面ではこれでもかというほどの長台詞ビックリマーク



前半の見せ場でもあり杉の市と言うより

"歌舞伎役者"猿之助さんの独壇場でした。



師匠よりもおひねりを多くもらいますが

そこに登場したのが当道座の中で最も偉い



"検校"で自分に許可もなく公演したと

難癖をつけて金を巻き上げようとする。



タイトルにもある「検校(けんぎょう)」は

琵琶、琴、三味線などの芸能だけでなく

按摩、鍼、灸などの技術などに秀でていて



そんじょそこらの小藩の大名は叶わない

敬意と権威を当時は持っていたそうです。



現実には何もかも金次第でそんな制度や

社会の歪みも杉の市を狂わせる要因に。



カッとした杉の市は検校のお供を務める

青眼者の結解(けっけ)を殺めてしまいます。



ちなみに結解も三宅さんが演じています。



塩釜には居られないと別れを告げに寄った

我が家では母の膝に幼児のように泣きつく


 

杉の市ですが歌舞伎でもあるあるの

何故このタイミングという間の悪さで



母の元に通う間男と鉢合わせしてしまい

揉めているうちに誤って母を刺してしまう。



更に杉の市は松雪泰子さん演じる妖艶な

師匠の女房お市と師匠を亡き者にして



駆け落ちしようと企みますが師匠には

バレていて瀕死の師匠がお市を道連れに。



息子の目が見えないことが分かった時に

父親は自ら命を断ち母親も居なくなり



"1人殺したらあとは何人でも。。。"と

心のタガを自ら外してしまった杉の市は

それなら偉くなるしかないと1人江戸へ。



舞台の全編を通して語り部を務めるのは

川平慈英さんで川平さんも目が不自由な



盲大夫という設定で金に物を言わせる

検校制度の実態や村々を回り語ることで



暮らしを立てていた座頭達が飢饉の時には

彼らを導くはずの綱が日本海に向かっていて



350人を超える仲間が海に消えたという

壮絶な受難の歴史の暗部も物語ります。



本人も何で引き受けたのかと言うほど 

冒頭から出ずっぱりであまりにも台詞が



膨大であやしい時がもありましたがあせるあせる

ギター演奏に合わせポップで粋な狂言回し音譜



たった1人で江戸に乗り込む杉の市が

日本橋を渡るシーンは目の見えない彼が



感じる街の賑わいを川平さんの語りにより

商人の掛け声など全ての音を可視化して。



三宅さんは6役と大活躍ですが杉の市とは

全く真逆で真摯に音読により学問を積み

検校にまで上り詰める盲目の塙保己市役も。



"目が見える人以上に品性を磨く必要がある"



世の中は全て金と考えている杉の市には

静かに諭す塙保己市のこの言葉は届かず。



そして何の良心の呵責も無く2度目の

主殺しに手を染め念願だった検校の座を

手にし2代目藪原検校となった杉の市。



手に手を取るはずだったお市が実は。。。

という歌舞伎的な展開もあり最終的に

破滅へと突き進んでいく運命の皮肉。



親や師匠を殺めてまで手に入れた権力が

さらに大きな権力によりいとも簡単に

捻り潰されてしまうのは世の常か。。。



生まれながらのハンデを乗り越えて

生き抜こうとした杉の市の"生命力"



奇しくも母が障害を持ち現代社会でも 

なお生き辛さを経験した家族の1人として



敵対視すべきは障害が無い人ではなく

そして自分の道を切り開く頼りは権力でなく

"心の目"だと杉の市に語りかけたかった。


虐げられる者が抱く怒りや憎しみは

自分の存在を認めて欲しいと願う

心の悲鳴であり深い哀しみの裏返し。。。



理不尽な運命には抗うことが出来ると

信じている私はこの物語を哀しいだけで

終わらせてはならないと強く思いましたクローバー



大好きな俳優の佐藤誓さんも最初に

殺されてしまう師匠などで出ていますニコニコ



短い人生を必死に生きた男の物語を紡ぐ

井上ひさしさんの傑作戯曲「藪原検校」

PARCO劇場にて来月7日まで上映ですひらめき電球