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2024年5月17日

 

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 ■ 試合データ

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米国時間:2024年5月16日

日本時間:2024年5月17日(金曜日)

11時10分開始

ロサンゼルス・ドジャース

対シンシナティ・レッズ

@ドジャースタジアム

 

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【MLB.JP 戦評】

 日本時間5月17日、エリー・デラクルーズ(レッズ)がドジャース戦に「2番・遊撃」でスタメン出場し、4打数4安打1打点1四球4盗塁の大暴れ。ホセ・カバイェロ(レイズ)に次いで今季2人目の1試合4盗塁をマークし、開幕44試合目にして早くもシーズン30盗塁に到達した。「44試合で30盗塁」をシーズン162試合に換算すると、驚異の110盗塁ペース。1900年以降ではリッキー・ヘンダーソン(1982年130盗塁)、ルー・ブロック(1974年118盗塁)、ビンス・コールマン(1985年110盗塁)しか到達していない領域に足を踏み入れる可能性が出てきた。

 

 米公式サイト「MLB.com」のサラ・ラングス記者によると、開幕44試合で30盗塁以上を記録した選手は、1900年以降ではブロック(1974年)、ティム・レインズ(1981年)、ヘンダーソン(1982年・1986年・1988年)、コールマン(1987年)、ケニー・ロフトン(1996年)に次いでデラクルーズが6人目。昨季から牽制回数の制限、ベースサイズの拡大など、走者に有利な新ルールが導入されているため、過去のスピードスターたちとの単純比較はできないものの、驚異的なペースで盗塁を積み重ねている。

 

 MLB全体で今季2番目に盗塁が多いのは、ア・リーグのトップを走っているカバイェロの17盗塁。ナ・リーグの2位はブライス・トゥラング(ブリュワーズ)の16盗塁であり、デラクルーズの盗塁数が突出していることがわかる。各チームの盗塁を見てみても、メジャー12位のドジャースがデラクルーズと同数の30盗塁。30球団中18球団はデラクルーズより盗塁数が少ないという状況になっている。

 

 なお、米データサイト「ファングラフス」は今季開幕前、デラクルーズの今季成績を「30盗塁」と予想していた。まだシーズンの3割未満しか消化していないが、早くも米データサイトの予想に並んだことになる。今後、どこまで数字を伸ばしていけるか注目だ。

 

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 ■ 今日の大谷翔平(関連NEWS)

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【スタメン】

2番DH

 

【出場成績/打者】

2打数 0安打 1三振 1四球

通算打率・360

OPS1・099

 

◆第1打席:

(結果)四球

(状況)1回1死走者なし

(投手)ブレント・スーター左

※フルカウントからの6球目、内角低めのスライダーを見送り、四球で歩いた。続くフリーマンの打席でけん制球が左太もも裏を直撃。痛そうな表情を見せると何度も患部を手で押さえた。二死後、投手が右腕パガンに交代。すると4番T・ヘルナンデスの初球にスタートを切り、楽々二盗に成功した、今季11個目。

 

◆第2打席:

(結果)キャッチャーフライ

(状況)3回2死走者なし

(投手)ニコラス・マルティネス右

※カウント2―2からの5球目、外角高めの82・8マイル(約133・3キロ)のチェンジアップを打ち損じて捕邪飛に倒れた。

 

◆第3打席:

(結果)空振り三振

(状況)6回1死走者なし

(投手)ニコラス・マルティネス右

※カウント1―2からの4球目、外角低めの80・8マイル(約130キロ)のチェンジアップにバットは空を切った。

 

◆第4打席:

(結果)代打アンディ・パヘス

(状況)9回無死1塁

(投手)サム・モール左

 

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【コメント】

試合後

――ボブルヘッドデーで少年が始球式を務めたが。

「できれば勝って、見せてあげられればよかったですけど。残念ながら負けてしまったので。いい思い出にファーストピッチがなってくれればうれしいなと思います」

 

――ファンと分かち合える時間。

「自分が子ども時代、もちろんこういうことがあれば良い思い出になると思う。第一にチームが好きで来てくれたので、それ自体にすごく感謝したいと思います」

 

――多くのファンが来場していたが。

「素晴らしい取り組みでしたし、選手冥利に尽きるというか。本当に壮観で、プレーしていて素晴らしい瞬間だったと思います」

 

――デラクルーズの活躍を見て。

「もちろん素晴らしい選手ですし、得点の起点になっていたんじゃないかなと思って。素晴らしい活躍だったなと思います」

 

――自分が子ども時代にプロの選手と接したことは。

「いや、ないです。僕は1回だけしかプロ野球の試合を観に行ったことがないので。もちろん、始球式みたいなことはやったことはないです」

 

――少年の始球式の経緯は。

「元々、球団からは『(始球式に)奥さんとかどうですか?』と言われていたんですけど。光栄なことですけど、本人と話して、違う子に、野球好きな子どもだったりとか、あまり試合に観にこれない子どもだったりとか、そっちの方がいいんじゃないかと」

 

――少年は現在、野球を頑張っている。

「難しい状況の中で、本当、好きでやってくれたらそれだけで嬉しいですし、今日が良い思い出になってくれたらそれで十分かなと思います」

 

――喜んでいる笑顔やリアクションを見て。

「もちろん、それで喜んでくれたらすごくうれしいですし。何より、勝てたら一番良かったんですけど。なかなかそういうわけにはいかない。切り替えて。明日、また見るかもしれないですし、勝てるように頑張りたいと思います」

 

――盗塁へのこだわり。

「盗塁……。なんですかね、スタートが全てじゃないかなと思うので。走り出したら行くしかないですし。スタートを切るタイミングと勇気が一番かなと思います」

 

――夢を与えるためにだけプレーしていない? とかつて発言。現在、変化はあるのか。

「変化はないですかね。与えるつもりではないというか、押し付けるものではないと思っているだけなんで。もちろん、受け取り方の問題でもありますし、今日もそうですけど、それで元気が出るとか頑張りたいと思ったと。受け取り手側のそう感じ取ってくれてのものではあると思うので。もちろん、そう思ってくれているならうれしいですし、一番は自分のやることをしっかりとやって。それで何かを感じ取ってくれたら、どんな人でもうれしいのかなと思います」

 

 

【NEWS情報】

◯ 大谷は自身のインスタグラムを更新し、始球式を行ったアルバート・リー君(13)とのツーショット写真などを公開した。リー君はロサンゼルス市内にあるUCLA子供病院で心臓など4度の手術を受けた経験がある。始球式の捕手役は大谷が務め、投球後は写真撮影などを行っていた。

 

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◯ 大谷はMLB公式サイトが16日に発表した今季4度目の「打者パワーランキング」で前回の2位から1位に浮上し、開幕からトップを守ってきた同僚のムーキー・ベッツ内野手と入れ替わった。同サイトは「オフシーズンの右ヒジの手術により今シーズンの投球が妨げられ、フィールド外でもヘッドラインをにぎわせている事情(元通訳・水原一平被告の銀行詐欺事件)から、今年の大谷のパフォーマンスが低下しても十分に言い訳できるところだが、大谷は言い訳するよりも、ほぼ毎日、より良いパフォーマンスを出す方法を見つけている」と手放しで絶賛した。

 

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◯ 記念品が早くも転売されている。16日は「大谷翔平ボブルヘッドデー」として、大谷のボブルヘッド人形が先着4万人に配布された。試合終了からほどなくして、米オークションサイト「ebay」では、大谷のボブルヘッド人形が出品された。日本時間午後4時ごろでの最高出品額は35万円以上。10万円台で出品され、既に落札された人形もある。この日は大谷のボブルヘッド人形効果もあってか、本拠地ドジャースタジアムの観衆は今季MLB最多の5万3527人だった。

 

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◯ 大谷の記録が変更となった。13日のジャイアンツ戦、3回に二盗を試みて飛び出し、けん制球で挟まれたが、一塁手の送球がそれて三塁まで進塁した。当初は盗塁死と失策が記録されていたが、訂正されて二盗成功。今季10盗塁で成功率も100%をキープした。2ケタ本塁打&2ケタ盗塁は4年連続6度目。チーム43試合目で2ケタ10盗塁はメジャー7年目で最速となった。オフから走塁改革に着手し、今春キャンプでは盗塁のリードの取り方にも工夫を加えた。取り組みの成果が表れ、2ケタ本塁打&2ケタ盗塁の到達は今季、両リーグで最速となっ

 

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 ■ 試合情報(ドジャース関連NEWS)

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【コメント】

デーブ・ロバーツ監督:

「明らかに大谷効果だ。幸運にもチケットが取れれば、ホットなアイテムがもらえるんだね。(開門前からファンが並んでることに)驚きはないよ。彼と毎日会えば、会うほどどれだけ彼が特別な選手で、特別な人間かがわかるんだ」

 

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 ■ 球界情報

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ニューヨーク・ヤンキース:

◯ 日本時間5月17日、3連勝中のヤンキースは敵地ターゲット・フィールドでのツインズ3連戦の最終戦を迎え、初回に3点を先制するなど8対0で快勝。3連戦を見事にスイープし、連勝を4に伸ばすとともに、ア・リーグ最速で今季30勝に到達した。ヤンキース先発のクラーク・シュミットは8回103球を投げて被安打3、奪三振8、与四球0、失点0という素晴らしいピッチングを見せ、5勝目(1敗)をマーク。ツインズ先発のジョー・ライアンは6回途中6安打4失点で降板し、3敗目(2勝)を喫した。

 

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 ■ 注目記事&コラム

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◆ 大谷翔平の一貫した考え 真美子夫人の始球式打診も心臓疾患と戦ってきた野球少年リー君へ夢舞台

斎藤庸裕氏/情報:日刊スポーツ)

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【ロサンゼルス(米カリフォルニア州)16日(日本時間17日)=斎藤庸裕、久保賢吾】ドジャース大谷翔平投手(29)が、子どもたちに夢舞台を用意した。

 

 レッズ戦に「2番DH」で出場し2打数無安打。13日に失敗とされていた盗塁の記録が成功に変更され、4年連続2ケタ盗塁を達成すると、試合では今季11個目の盗塁をマークした。試合前には、心臓疾患と闘ってきた野球少年アルバート・リー君(13)の始球式で捕手役を担当。この日は大谷のボブルヘッド(首振り人形)デーで、当初は球団から真美子夫人の始球式を打診されたが、2人で相談して辞退したことを明かした。

 

    ◇   ◇   ◇

 

 夢のようなひとときで、大谷が満面の笑みを見せた。試合前、リー君の始球式でグラブを構えて座った。ワンバウンドの投球をキャッチすると、大きな拍手と歓声が上がった。「できれば勝って(プレーする姿を)見せられれば良かったですけど、負けてしまったので。いい思い出にファーストピッチがなってくれればうれしい」。完敗で、勝利を届けることはできなかった。悔しいはずだが、試合後の表情は穏やかだった。

 

 移籍後、大谷のボブルヘッドデーは初めて。選手の家族が始球式を行うことも多く、球団側から真美子夫人への打診があったという。「『奥さんどうですか』って言われてたんですけど、光栄なことですけど本人と話して、野球好きな子どもだったり、あんまり見に来られない病院の子だったり、そっちの方が良いんじゃないかなっていう感じで決めました」。2人の思い出よりも、病と闘い、野球を続ける子どもへ夢舞台をプレゼントすることを選んだ。

 

 13歳のリー君は生後13日で心臓を手術。腹部を含めて計4度の手術を乗り越え、リトルリーグでプレーしている。大谷は始球式の前にサプライズでリー君と面会。ユニホームに筆を走らせながら、英語で「今日、来てくれてありがとう」と伝えた。「難しい状況の中で、好きで(野球を)やってくれたらそれだけでうれしいですし。ほんとに今日は、いい思い出になってくれたら、それで十分かなと思います」。子どもたちの喜ぶ顔を見るのは、何より心地よかったに違いない。

 

 プレーする姿に夢を抱いてくれるなら、なおさらありがたい。「(夢を)与えるつもりはないというか、押し付けるものではないっていう。例えば元気が出た、頑張りたいなと思ったっていうのは、受け取った側がそう感じ取ってくれてるものではあると思うので。もちろん、そう思ってくれるのはうれしいことですし、一番は自分のやることをまずしっかりとやって、それで何か感じてくれたら、どんな人でもうれしいかなと思います」。まずは人それぞれの気持ちを大事に-。一貫した大谷の考えだ。

 

 この日は、観客動員数で今季のメジャー最多となる5万3527人を記録した。「選手冥利(みょうり)に尽きるというか、本当に壮観で。プレーしてて素晴らしい瞬間だった」。無安打だったが、二盗を決め、スピーディーな姿を披露。スターたるゆえんは、豪快な本塁打だけではない。試合は完敗したが、超満員のスタジアムを盛り上げ、ハートと足で魅了した。

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◆ 【現地は騒然】水原一平の「ノット・ギルティー」を見られず なぜ報道陣は法廷に入れなかったのか

長野美穂氏/情報:AERA.net)

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「ノット・ギルティー(無罪)」。水原一平被告が法廷でそう声を発した5月14日。報道陣は、ひとりも法廷に入室を許されなかった。あの日、ロサンゼルス(LA)の裁判所で何が起きていたのか、在米ジャーナリストが伝える。

 

*    *  *

 

「鞄の底に小さな乾電池が二つ入っているのが画面に映ってる。すぐ出して」

 

 水原氏の罪状認否の日の朝、米連邦地方裁判所の入り口で荷物検査のX線探知機を操作していたセキュリティー係員にそう言われた。

 

 かなりチェックが厳しい裁判所だなと思いつつ、6階にエレベーターで上がり、法廷640号室に向かった。

 

 すでに40人ほどの日米の報道陣が法廷の扉の前に集まっていた。「皆、勝手に扉の近くに行かないで。ここに列があるからちゃんと並ぼうよ」と全員に呼びかけて、列が扇状に広がらないように、統制を取る米メディアの記者がいた。

 

 午前11時頃、例のセキュリティー係員がやってきて「君たち、携帯の電源は必ず切って。法廷内で電源を切らなかったり、携帯を手で触ったりした場合は、即刻退場だ」と警告した。

 

 その瞬間、ほぼ全ての記者たちが手にスマホを握りしめていた。法廷内での録音や撮影が厳禁なことは全員が承知の上だ。

 

 すると今度は別のセキュリティー係員がやってきて「これから報道陣は全員、別室に移動してもらう」と言った。てっきり、別の広い法廷に水原氏の罪状認否の場所が変更になったのかと思い、すぐに全員が係員に続いて別の部屋に入場した。

 

 スマホの電源を切って中に入ろうとするとAP通信で犯罪事件を担当するステファニー・ダジオ記者に会った。

 

「前回は、水原容疑者が保釈金を1ドルも払わずに保釈されたカラクリを指摘してくれてありがとう。助かった。皆があなたの記事を参考にしていた」と声をかけると「まあ、うちは速報だから、そういう役回りになるんだよね」と彼女は答えた。

 

 ステファニーの手にはノートと黄色いシャープペンシルが握られている。法廷内でペンのインク切れが起きたら困るからペンは使わない。録音が一切許されない法廷内では、一言一句、被告人と判事の発言を正確に書き留める必要がある。1秒でもロスしないためにインク不要のシャーペンを選ぶのだ。

 

 傍聴席に報道陣が座ると、セキュリティーの係員の男性が「君たち報道陣には、この部屋で傍聴してもらうから」と言った。

 

 え? 私たちは水原氏が罪状認否する瞬間を直接見ることができないということか。その瞬間、どよめきの声が上がった。

 

「突然、どうしてですか? 理由は?」「法廷内の様子は映像で見せてもらえるんですか?まさか音声だけってことはないですよね?」

 

 すると男性係員はこう答えた。

 

「これは担当判事が決定したことだから」

 

 きょうの担当判事の名前はジーン・ローゼンブルース。彼女はいわゆる微罪判事という立場であり、重罪の案件を扱う権限がないため、今回は形式的に「無罪」発言が水原氏から出るだろうと予想されていた。

 

 このローゼンブルース判事は、地元LAの南カリフォルニア大学のロースクールを卒業する前は、ロサンゼルス・タイムズ紙の音楽欄担当記者で、ローリングストーン誌にも寄稿した経歴を持つ。その後、LAで連邦検事補を務めた後、母校で大学教授になり、2011年に現職に転身しているのだ。

 

 つまり、かつてジャーナリストだった判事が、50人近いジャーナリストを別室に押し込めて、直接取材させないようにしているということーーなのか?

 

「こんなこと、あっていいはずがない」

 

 隣に座っていたステファニーはそう言い、取材ノートを席に置き「ちょっとこの席取っといて。エディターに電話してくる」と言い、バックパックを抱えて出て行った。

 

 しばらくして戻ってくると、ステファニーはいきなり取材ノートの紙をひきちぎり始めた。

 

「ちょっとペン貸して」と言い、筆者が黒ペンを差し出すと、背中を丸めて一心不乱に何かを書き始めた。

 

「何それ?」

 

「プロテスト(抗議文)だよ。法廷を傍聴するのは市民やジャーナリストの権利。それを剥奪するなんて、裁判所が明確にルール違反している。断固、異議申し立てしないと」。

 

 彼女がノートの紙に書いた文章はこうだ。

 

「2024年5月14日

 

 私たち、プレスのメンバーは『合衆国vs.水原』の審理の際に、別室に押し込まれた決定に異議を申し立てます。これは公の機関である裁判所の公判プロセスに明確に違反するものです。しかも、私たちは事前に異議を唱える機会を封じられたまま別室に入れられました。メインの法廷に、私たちが入室許可されることを要求します。

 

 ステファニー・ダジオ AP通信」

 

 すると彼女は立ち上がってこう言った。「ちょっと皆聞いて。私の名前はステファニー、AP通信の記者です。今から裁判所の処遇に反対を表明した抗議文を回します。賛同する人いますか? いたら署名してください」

 

 すると部屋から「いいぞ!」「署名するよ」と歓声が上がった。

 

 ステファニーは抗議文を報道陣全員に向かって読み上げると、その紙を私に手渡した。

 

 抗議文を裏返して、そこに名前と自分が記事を寄稿する媒体名を書き、次の人に渡した。みんなが黙々と署名し、まるでリレーのように、次々に紙が人々の間を回っていく。

 

 しかし、審理開始時間までもうあまり時間がない。「何枚か紙を同時に回さないと間に合わないよ」とステファニーに言うと「わかった」と言って、彼女はさらに3枚ほどノートの紙を引きちぎって通しのページ番号を書き、部屋の反対側のベンチ席の記者たちにも配った。

 

 その間にスポーツ専門媒体のESPNの調査報道記者、ティシャ・トンプソン氏が白いジャケットを着て、扉から入ってきた。

 

「あ、ESPNだ」と誰もが気づいた。

 

 韓国・ソウルでのドジャース球団の開幕戦直前、水原氏と独占電話インタビューを行ったトンプソン記者。日本でもその存在は今や有名だ。

 

 彼女の記事が、水原氏の違法賭博関与と、彼が大谷翔平選手の銀行口座から約26.5億円を胴元側に不正送金していたことを明らかにする大きなきっかけだった。

 

 ワシントンDCを拠点とする彼女が飛行機に乗ってLAにやって来るほど、今回のこの審理は注目されているわけだ。

 

 するとステファニーがまた部屋の外に出て行った。「エディターにもう一押ししてもらう」と言い残して。

 

「私たち、罪状認否の審理が始まる前に、判事と直接話せませんか? 直接取材できなくちゃ意味がない」と記者の誰かが声をあげると、セキュリティー係員の男性は「判事に直接会いたければ、判事の部屋に電話してもらってかまわない。君たちの自由だ。だが、判事が君たちに会うかどうかは判事の判断だけど」と返答した。

 

 その直後に「君! 今すぐ退室して!」という鋭い声が響いた。セキュリティー係員が指さしていたのは、遅れて入ってきた背の高い女性記者だった。「スマホを触っていたね。退室だ」。そう言われて彼女はすぐに「はい」と言い、荷物を持って退出した。

 

 ピリピリした空気が部屋中を包む。

 

 セキュリティー係員の男性は部屋の全員に対して、おもむろにこう言った。

 

「こっちだって、何も君たちを退場させたくてやってるんじゃないんだ。これが仕事なんだ。わかってほしい」

 

 そしてこう続けた。

 

「以前、この裁判所の法廷内の審理の様子をこっそり録画した人間がいた。その動画がユーチューブに上げられた。担当裁判官は当然怒った。今は、眼鏡のつるにカメラが埋め込まれていることだってある。そこまでされたらこっちはもうお手上げだ。君たちを信じるしかないんだ。頼むよ」

 

 間もなくステファニーが戻ってきてこう言った。「うちのエディターに電話してもらったけど、結局、罪状認否の審理が終わってから、裁判所の受付に抗議文を提出しろと言われたって。終わってからじゃ遅いんだけど」と悔しそうだった。

 

「でも、抗議文を正式に提出したという証拠を残すためにも提出はする」と彼女。

 

「ステファニー、今回、あなた自身がニュースの一部になったね」と言うと「まずいよ」と彼女は言った。「AP通信の記者たる者、絶対に自分がニュースの一部になっちゃいけないんだよ。うちは特にそういうの厳しいから」と言った。

 

「もう遅いよ。抗議文のことはみんな当然記事に書くから、腹をくくらないと」と声をかけると「そうだよね。今回ばかりは我慢できなかったし」と彼女は言い、すっくと立ち上がって、大声で全員に聞こえるようにこう言った。

 

「みんな、私のステファニーのスペルはphじゃなくてfだからね。くれぐれも表記を間違えないように。私ニュージャージー出身だからこだわりが強いからね」と言うと「私はブルックリン出身でphのステファニー」や「自分もジャージー出身だよ」という声が部屋から上がった。

 

 その時、部屋の外に出ていたスポーツ専門メディアのジ・アスレチックのサム・ブラム記者が戻ってきて「一平が歩いて法廷に入ったのを見たよ。白シャツ、ダークスーツ、ネクタイなしだった」と言った。「一平」という言葉で水原氏を形容する彼は、水原氏と取材で頻繁にやりとりしてきたMLB記者のひとりだ。

 

 すると「え、オオタニが入ってきたの?!」という声が響き、すぐに「あ、間違えた。ミズハラだった」という声がした。小さな笑いが部屋の中に起きた。

 

 被告を「一平」と呼ぶ人がいる一方、水原という名前がすぐにぱっと出てこなくてとっさに「オオタニ」と言い間違えてしまう人。そんなさまざまな立場の記者たちが同席していた。そんな多様なLAの記者たちに共通しているのは、ほとんどの人間が、地方の小さなメディアの記者から出発して、転職を繰り返し、大都市のLAで仕事をする記者になったという点だろう。

 

 回収した署名用紙の名前を全部数えて、隣の人に数をダブルチェックしてもらうと、全部で46人の署名が集まったことがわかった。室内にいたほぼ全員が署名していた。

 

 その時、室内にあるスピーカーから女性の声が聞こえた。「報道陣の皆さんから抗議があったと聞きました。私自身、ロサンゼルス・タイムズ紙の記者だったので、メディアの方たちの気持ちはとてもよくわかります。今回の措置は、セキュリティー担当の係員が安全上の理由で決断したことで、私が決断したことではありません。ごめんなさい。あなたたちが、はっきり聞こえるように話しますから」

 

 ローゼンブルース判事の発言内容と、セキュリティー係員たちの発言は、真っ向から対立していた。つまり、どちらかが嘘をついているわけだ。

 

 だが、たとえどちらかが嘘をついていたとしても、担当判事の権限で、今から記者たちを法廷内に入室させることは可能なはずだ。ほんの2、3分あれば隣の640号法廷に全員が移動できる。これだけ全米の注目が高い事件を扱っているという自覚が判事と裁判所にどのぐらいあるのか、それが試される時だ。私たちは耳を澄ました。

 

 だが、判事はそのまま続けて罪状認否の審理に入った。

 

 スピーカーを通して「ノット・ギルティー」という水原氏の声が聞こえた。

 

 形式的であれ「無罪」という言葉をどんな表情で被告席の水原氏は口にしたのか。その光景を報道できる者は誰も存在しない。

 

 法廷内のスケッチを専門とする画家だけが特別に法廷に入室を許されていた以外は。

 

 5分足らずの罪状認否が終わると、みんな一斉に部屋を出た。エレベーターに向かって歩いてきた水原氏は、球場で大谷選手とキャッチボールをしていたときよりも背が高く見えた。エレベーターの中で記者にぐるっと囲まれても、水原氏はまっすぐ扉の方を見つめていた。その表情からは、感情が読み取れなかった。

 

 満員のエレベーターの扉が閉まるのを目の前で見ながら、私たちはすぐ隣のエレベーターに飛び乗って、1階に降りた。

 

 数十人の記者たちやテレビカメラに囲まれながら、何も答えず、顔をまっすぐ上げて弁護士と共に歩いていく水原氏。

 

 その姿を見て、世界中で、彼より“報道陣慣れ”している被告人は恐らく存在しないだろうな、と感じた。

 

 大谷選手を追いかける報道陣を目にするのが「日常茶飯事」だった彼にとっては、大スターの発言を日々通訳することが仕事で、自分のことを語らないことも日常だったはずだ。つまり、この大騒ぎも彼にとっては実はこちらが考えるほど「異様」なことではないのかもしれない。無言で車に乗り込み、あっという間に去っていった。

 

 地元のテレビ局の記者たちは「あの判事、嘘をついていると思う。一介のセキュリティー係員に報道陣を閉め出す決定権があるとはとても思えないし」と語った。

 

 一方、「判事が法廷で公に嘘をつくことはあり得ないよ。それをやったら職業的自殺だ。恐らくセキュリティー係員の独断で、僕たちは閉め出されたんだろうな」と言う記者もいた。

 

 また、途中で退場を命じられた記者を見つけて声をかけると彼女は「恥ずかしかった。私がつい、スマホをいじってしまったのは事実だから、私が悪いんだけど」と言った。

 

 今回は、ロサンゼルスではよく知られたフリーランスの法務専門記者のメーガン・クニフ記者も裁判所の入り口の前で、水原氏を報道陣が囲んでいるのをビデオ撮影しており、その映像をX(旧ツイッター)にさっそくアップしていた。

 

 そしてその頃にはすでにステファニーが書いた記事がAP通信のサイトにアップされていた。

 

 全米のテレビ、新聞、ネットなどあらゆる媒体で水原氏の出廷の記事が報道される中、唯一、LAタイムズ紙だけは、翌日になるまで水原氏の記事を掲載しなかった。

 

 そして翌日の午前10時近くになって、やっとLAタイムズが掲載したのは、何とステファニーが書いたAP通信の記事だった。

 

 つまり、ロサンゼルスという大都市の地元最大の新聞が、地元最大の事件のひとつである「合衆国vs.水原」の取材に自社の記者を送らず、独自取材をしなかったということを意味する。

 

同紙の調査報道部門は、水原氏の違法賭博関与を最初にスクープした実力があるのに、だ。

 

 LAタイムズは今年1月下旬に115人の記者をコストカットと称して大量解雇している。解雇された中には、エンゼルス球団の番記者として、大谷選手を取材してきたサラ・バレンズエラ記者も含まれていた。つまり、LAタイムズはすでに危機的状態なのだ。

 

「この国では、ジャーナリストたちは炭鉱労働者よりも、速いスピードで職を失っています。カンパをお願いします」というお馴染みのメッセージがLAの公共ラジオから流れてくるのを聞きながら運転してLAダウンタウンを後にした。

 

 このLAで、水原氏の「歯の治療費」にかかった6万ドル(約930万円)以下の年俸で働いているジャーナリストたちは多数いる。

 

 それでも、民主主義の一端を担う仕事である報道を選んだ矜持は誰もが心の底にひっそりと宿している。46人が署名した手書きの抗議文に対する返信が、翌5月15日、米連邦裁判所のカリフォルニア州セントラル地区の裁判長から正式に発表された。

 

「今回は“行き違い”によって報道陣が別室で審理を聞くことになってしまった。今後、このようなことが起こらないようにする」と書かれていた。

 

(ジャーナリスト・長野美穂)

 

※AERAオンライン限定記事

 

長野美穂

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 ■ NOTE

 

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