2024年5月5日

 

-------------------------------------------------------------

 ■ 試合データ

-------------------------------------------------------------

 

米国時間:2024年5月4日

日本時間:2024年5月5日(日曜日)

10時10分開始

ロサンゼルス・ドジャース

対アトランタ・ブレーブス

@ドジャースタジアム

 

image

 

【MLB.JP 戦評】

 日本時間5月5日、ドジャースは本拠地ドジャー・スタジアムでのブレーブス3連戦の2戦目を迎え、マックス・マンシーが3本塁打を放つ活躍を見せるなど、打線が4本塁打を含む16安打と爆発して11対2で快勝。あすの最終戦を残して3連戦の勝ち越しを決めた。ドジャース先発のタイラー・グラスノーは7回96球を投げて被安打5、奪三振10、与四球1、失点2の好投でメジャー最多タイの6勝目(1敗)をマーク。ブレーブス先発のブライス・エルダーは4回途中7安打7失点で今季初黒星(1勝)を喫した。

 

 前日の熱戦を制したドジャースは、2回裏にマンシーの6号2ランで先制。3回裏には大谷翔平が8号ソロを放ち、リードを3点に広げた。4回表に1点を返されたが、4回裏にアンディ・パヘスの4号ソロ、大谷、フレディ・フリーマン、ウィル・スミスの3連続タイムリーで4点を追加。7回表に再び1点を奪われたが、7回裏にマンシーの7号ソロとムーキー・ベッツの2点タイムリーでさらにリードを広げると、8回裏にはマンシーがこの試合3本目の一発となる8号ソロを放ち、とどめを刺した。

 

 ドジャースの大谷は「2番・DH」でスタメン出場し、初回の第1打席は空振り三振に倒れたが、3回裏の第2打席で8号ソロ。これで大谷はデーブ・ロバーツ監督(沖縄出身)の7本を上回り、ドジャースの日本出身選手最多本塁打記録を更新した。4回裏の第3打席ではタイムリーを放ち、6回裏の第4打席はレフトフライに倒れたものの、7回裏の第5打席はセンターへのヒットで今季5度目の1試合3安打をマーク。5打数3安打2打点の活躍で今季の打撃成績は打率.345、出塁率.411、OPS1.044となっている。

 

imageimageimage

 

-------------------------------------------------------------

 ■ 今日の大谷翔平(関連NEWS)

-------------------------------------------------------------

 

【スタメン】

2番DH

 

【出場成績/打者】

5打数 3安打 2打点 2得点 1三振 1本塁打(8号)

通算打率・345

OPS1・044

 

◆第1打席:

(結果)空振り三振

(状況)1回無死走者なし

(投手)ブライス・エルダー右

※2球であっさり追い込まれ、3球目の鋭いスライダーに空振り三振。

 

◆第2打席:

(結果)ホームラン

(状況)3回無死走者なし

(投手)ブライス・エルダー右

※146キロの内角高めのフォーシームを右翼席に高々と放り込んだ。4月26日以来の8号ソロ弾でリードを広げた。やや詰まりながら打球速度は103・4マイル(約166・4キロ)、飛距離は392フィート(119・5メートル)の大谷らしい豪快アーチ。ベンチではひまわりの種で迎えられ、笑顔に包まれた。日本生まれのドジャース選手ではロバーツ監督の持つ7本の記録を塗り替え、指揮官もハイタッチで称えた。

 

 

 

 

◆第3打席:

(結果)レフト線2塁打

(状況)4回1死1、2塁

(投手)ブライス・エルダー右

※2ボール1ストライクから外角シンカーを流し打ち。快足を飛ばして一気に二塁に達した。これで出場3戦ぶりのマルチ安打。

 

◆第4打席:

(結果)レフトフライ

(状況)6回1死走者なし

(投手)ディラン・リー左

 

◆第5打席:

(結果)センター前ヒット

(状況)7回2死1塁

(投手)ジャクソン・スティーブンス右

※直前に1番ベッツの一打が敵失を誘って8点リード。なお2死一塁で大谷が打席へ。ブレーブスの救援右腕・スティーブンスの初球、内角のシンカーを左中間に運んだ。第2、3打席と併せて3本目。4月24日の敵地でのナショナルズ戦以来の1試合3安打とした。

 

【コメント】

試合後

ーーロバーツ監督の記録を抜いて気持ちは?

「すっきりしました」

 

ーー自動車のおもちゃのプレゼントについては。

「車欲しいって言っていたので、本人も喜んでもらって、よかったなと思います」

 

ーーそういうジョークはよくする?

「そうですね、笑ってもらうのは好きだと思うので、今後なにかあれば、またやりたいなと思います」

 

ーーきのうは10回ウラで同点のタイムリーヒット、きょうも貴重な活躍を…

(ロバーツ監督が乱入)

「すいません、取材中におじゃまします。みなさんに見せたいのが、きのう翔平からもらったプレゼントです。今夜、彼は日本生まれの選手のドジャースのホームラン記録で私を抜きました。翔平、おめでとう」

 

(大谷)

「サンキュー!」

 

(ロバーツ監督)

「ありがとう。これが私の車です!ジョー・ケリーの車は私の部屋に収まりませんが、この車は私の机にぴったりです。ありがとう、翔平」

 

ーー本物の自動車は買う?

「まあ、ワールドシリーズ勝てたら考えます。(笑)」

 

ーーこのジョークのアイデアはどこから?

「これは、ワトソンさん(ドジャース中継局の女性レポーター)がやったらどうだと言っていたので」

 

ーーメジャーリーグで一番おもしろいジョークだと思いますか?

「どうなんですかね、わからないです、それは」

 

ーーここ12試合で10勝、その前の不調からチームが好調になった要因は。

「連敗たしかにありましたし、まあ、なにかあればすぐにチームでミーティング、選手だけでミーティングしたりとか、やっぱり出てる選手とか出てない選手とかいろいろいますけど、そういうの関係なく全員で意見を出し合いながら、やる雰囲気というのは、僕は今年1年目なので初めてですけど、そこはすばらしいなと思っていました」

 

ーー前の環境と比べて、ドジャースには連敗を抜けられる要素がある?

「んー、どうなんですかね、前がどうのではないですけど、みんなプロ意識持って、ひとりひとりが、なんていうんですかね、試合だけじゃなくて、その前の取り組みも、練習もそうですし、毎日やるべきことをしっかりやってる結果じゃないかなと、見てては思うので、そういう選手たちが多いなというのは思います」

 

ーー得点圏でセンター返しや逆方向に打っているが、新しいアプローチか?

「んー、特にまあ大きく変えてはいないですし、なるべく変えたくはないとは思っているので、たまたまその、そういうアプローチになる球が多いのかなとは思います」

 

ーーシーズン8号ホームランの狙いと感触は?

「インサイドよりでしたけど、あの、反応して引っ張れたので、いい角度で上がって、ちょっと詰まってましたけど、なんとか入ってくれてよかったなと思います」

 

ーー以前、ロバーツ監督の記録を抜くことが目標です、とおっしゃっていましたけど、いま実際に抜いて次の目標というのは?

「また新しいのを探したいなと思います。はい」

 

ーー1塁を回ったところからずっと笑顔だったのが印象的でしたが、誰かに何かを言われたのか、自然に出た感情だったのか、ダイアモンドを回っているときの感情は?

「入らないかなというのが第一印象だったので、まず入ってくれてよかったなというのと、ブルペンもダグアウトも喜んでくれてたのでよかったなって感じでしたね」

 

ーーカメラマンからの報告でホームラン打つ前に非常に険しい顔をしていたという…

「いつですか?」

 

ーーホームランを打つ前の瞬間、ボールを待ってるとき…

「ボールを待ってるとき?いつですかね?ボールを待ってるとき?打席でってことですかね?」

 

ーー誰かに何か言われたとか?

「いや、普通にいつも通りの打席でした」

 

ーー今日、マンシー選手の3本塁打もありましたが、自身を含めた打線の迫力っていうのはどんな風に感じていますか

「追加点をどのピッチャーからも取っていくというのは、連戦重ねる中で、中継ぎのやりくりをしていく中でも大事なことかなと思うので、3戦目に、明日につながる追加点だったかなと思いますし、全体的にね、みんな振れてて、いいつながりだったんじゃないかなって思います」

 

ーーさっき笑顔で回っているっていう質問がありましたけど、こんなに楽しく回ったホームランは初めてですかね?

「そんなことはないですね」

 

ーー他にはどんな?

「全部覚えてるわけではないので、あれですけど、印象に残っているホームランはそれなりに打ってきているので、まあ何個かはあるかなと思います」

 

ーーロバーツ監督とはこうして冗談も言い合える仲だと思うんですけど、改めて大谷さんにとってロバーツ監督とはどういった存在、監督ですか?

「うーん、基本的には選手に寄り添うタイプの監督かなと思いますけど、良くないプレーに対して、まあまあしっかり、こう、改善点もそうですけど、どの選手にもアプローチ含めて、話し合える関係性ももちろんどの選手ともあると思って、そういうメリハリのある監督かなと思いますけど」

 

 

【NEWS情報】

◯ 3回の今季8号本塁打は、ライトスタンドに座っていたバレラさんが手に入れた。他の客に当たって足元に転がってきたボールをつかんだ。「最高の気分だよ」。今季初観戦で、幸運を手にした。「このボールはキープする。家にフレームを作って飾るよ」と興奮気味に語った。カーショーのTシャツを着ての来場で「父親がニューヨーク出身で、ヤンキースファンなんだ」と明かしたが、「翔平は大好きな選手」と笑顔で話した。

 

 

◯ 谷繁元信氏の解説

「大谷は投手との“せめぎ合い”を制した。第2打席のホームランは、インハイのフォーシームを打ったもの。第1打席は空振り三振だったが、初球でインハイに投げられファウル。おそらく、そのイメージが頭にあったと思う。また、今シーズンはここまで、ストレート系を打ったホームランが限られていた。ストレート系でインハイを攻められる確率が高い中で、その球をしっかり打ち返した。

 

 苦手なコースや球種があれば、当然ながら、相手はどんどん、そこを攻めてくる。それで打てないままだと、さらに攻められてしまう。逆に、そこで打つことができれば、今度は相手の方が考えてくれる。その結果、より打ちやすいところに投げてくる可能性が高まる。これが投手とのせめぎ合い。投手でもある大谷なら、インハイを攻められやすい状況にあることは分かっていたはずだ。

 

 早々とせめぎ合いを制したことで、大谷は自分のペースに持ち込んだ。インハイを打った直後の第3打席は、外主体の攻めが予想された。その通り、外の球を逆らわず左前に運んだ。第4打席、4球目の右翼ポール際のファウルは惜しかった。最後は左飛に倒れたが、内容は悪くない。第5打席は、初球の甘い球をきっちり中前に運んだ。

 

 技術的には、今のバッティングには特にいいも、悪いも目につかなかった。言い換えれば、これが大谷の通常モードということだろう。ブレーブスにはアクーニャ、オルソン、オズナらタイトルホルダー。そして、ドジャースには大谷を含むMVPトリオ。両チームそうそうたるメンバーの中で、通常モードの大谷が活躍した。今や、それが当たり前になっている。もちろん、メジャーのトップレベルであることは分かっている。ただ、強いブレーブスが相手だっただけに、あらためて大谷のレベルの高さを感じた」

 

-------------------------------------------------------------

 ■ 試合情報(ドジャース関連NEWS)

-------------------------------------------------------------

 

【コメント】

デーブ・ロバーツ監督:

(試合前)

「私のドジャースでの記録を破る寸前の選手が、ポルシェのギフトを買ってくれた。ショウヘイは私のために、素敵なちっちゃなポルシェをオフィスに持ってきてくれたよ」

 

 

(試合後)

「(ミニカーをプレゼントした翌日に一発が生まれたことについて)いいタイミングで打てたので良かったと思います。幸先よくカード2つ取ったので、また明日3つめ取れるように切り替えて頑張りたいです」

 

-------------------------------------------------------------

 ■ 球界情報

-------------------------------------------------------------

 

松井秀喜氏:

◯ 松井秀喜氏ヤンキースGM付特別アドバイザー=が5日、故郷の石川・能美市で野球教室「MLB PLAY BALL」にゲスト参加。1月1日に発生した能登半島地震の被災者を含む約150人の子供たちと交流し、フリー打撃では特大アーチをプレゼントして喜ばせた。直近2度の野球教室ではノーアーチ。途中でバットも折れたが、26スイング目でついに豪快なアーチを右中間席にかけた。「どうしてもホームランを見て帰ってほしかったので、きょうは出るまで打とうと思っていた。明日からの新たなエネルギーができたのなら一番うれしい」。松井氏にしかできない贈り物だった。主催したMLBジャパンは珠洲市、輪島市、七尾市、能登町、穴水町、志賀町の幼稚園、保育園にグラブなどを寄贈。松井氏も「チャンスがあればまたやりたいと思います」と継続支援を誓った。

 

 

-------------------------------------------------------------

 ■ 注目記事&コラム

-------------------------------------------------------------

 

◆ 大谷翔平が監督に渡した「ポルシェのミニカー」仕掛け人は妻・真美子さんとも親交のある「あの人」【記者コラム】

阿部太郎氏/情報:中日スポーツ)

###

◇コラム「番記者が見た」

 

 ドジャースの大谷翔平が、ロバーツ監督にポルシェのミニカーを「ギフト」として渡した。監督が持つ「球団の日本生まれの最多本塁打」に並んだ記念にジョークのきいた贈り物。このエピソードを監督が日米の記者に披露した4日、大谷はブレーブス戦で「ロバーツ超え」の8号を放った。

 

 この「おもちゃのポルシェ」のアイデアを考えたのは、地元放送局「スポーツネットLA」のキルステン・ワトソンさん(30)だ。大谷は「ワトソンさんがそうしたらどうだって言ったので」と種明かしをして、「また何かあればやりたいなと思う」と笑った。

 

 ワトソンさんは遠征で監督や選手と同じチャーター機で移動するチームに近い存在。大谷の妻の真美子さんとも親交があり「(真美子さんは)すごく愛らしい、すてきな女性」と語っていた。

 

 ワトソンさんに大谷にアイデアを伝えた経緯を聞くと、「ワシントンDCの遠征だったかな。米メディアの間で、翔平が監督の記録を破ったらミニカーをあげたらどうだろうって盛り上がったの。それを翔平に伝えたら、いいアイデアだねって言って、本当に渡したのよ」。監督が大喜びした面白いストーリーを仕掛けた立役者も、うれしそうだった。(阿部太郎)

###

 

◆ 大谷翔平新通訳、水原一平とは全然別の訳し方。違いは「行間」

松樹悠太朗氏/情報:Forbes Japan)

###

ここのところ世間を騒がせた、大谷翔平氏の専属通訳水原一平氏の違法スポーツ賭博事件だが、その後大谷氏の新通訳としてウィル・アイアトン氏が就任し、実際に稼働を始めている。

 

おもしろいことに、水原氏、アイアトン氏両名の「通訳の流儀」には大きな違いがあるという──。大谷翔平「新通訳アイアトン」、水原一平と訳し方の差くっきり。実例で分析に続いて以下、国際交渉のコンサルティングを行うYouWorld代表取締役の松樹悠太朗氏が、水原氏の流儀を分析した後に、「2つの流儀」は、対話に実際にどう影響するかを考察する。

 

■水原訳は「主張と本論の順番を入れ替える」

 

大谷翔平「新通訳アイアトン」、訳し方が水原一平と段違い。実例で分析したでは主にアイアトン氏の通訳の流儀について紹介した。

 

本稿では、過去の水原氏の通訳例も見ながら、2人の「流儀」を比較してみたい。

 

水原氏は「意訳スタイル」であると言われている。アイアトン氏と比較すると大きく違う点の一つは、水原氏は英語の作法に合わせて主張と本論の順番を入れ替える点である。次に違う点は、水原氏は話の要点を捉えつつ、必要であれば単語を入れ替え、時には肉付けし、不要であれば割愛するなど、その都度日本語と英語の行間の調整を瞬時に行いながら通訳を行っていくことである。

 

彼のこのスタイルが顕著に表れているのが次の3つの通訳例である。まずは英語のコミュニケーションの作法に合わせた通訳のスキルを見ていく。アイアトン氏の通訳とは違い、1.の本論と2.の主張が入れ替えられていることが分かる(本稿でも記事末に、同じ内容を表形式でも掲載した)。

 

(大谷選手の実際のコメント)

まあ、1. 攻撃に本当にいいリズムをくれるピッチングだったなと思うので、2. 今日はサンディー素晴らしい活躍だったなと思います。

 

(水原氏の通訳:ChatGPTによる和訳)

1. 明らかに彼は素晴らしいピッチングをしました。2.良い流れをもたらし、マウンドから私たちの方にその流れを持ってきたと思います。

 

英語の行間に合わせて単語を入れ替えた例

さらに次の例は、英語の行間に合わせて単語を入れ替えた通訳である。

 

(大谷選手の実際のコメント)

まあチャンスだったので、あの、どんどんストライクに来たら振ろうと思っていて、まあ、結果いい結果になったので、すごくいいホームランだったなと思います。 

 

(水原氏の通訳:ChatGPTによる和訳)

はい、何人かのランナーが出ていましたし、大きなヒットを打てばリードを奪えると分かっていたので、ストライクをスイングしようと狙っていました。

 

──打者にとって「チャンス」と言えば、日本語の行間では塁上にランナーがいることを指す。これは広く日本では理解されている。

 

しかし英語に通訳する際、チャンスは「機会」と訳される。これでは行間が広くなり、どのような「機会」であるかは不明瞭だ。

 

冒頭で述べたように、英語のコミュニケーションでは、発話者は行間を狭め、誰が聞いていても同じ様に理解できるように発言を行うため、水原氏は「チャンス」という言葉が持つ日本語の行間を理解した上で、英語らしく「何人かのランナーが出ていましたし、大きなヒットを打てばリードを奪えると分かっていた」といった具合に、「行間を狭めた」通訳を展開したのである。

 

実は水原氏の行間の調整は日本語から英語だけに適応されているだけではない。次はインタビュアーの英語を日本語の広い行間に直した例を見ていく。

 

(インタビュアーの質問)

最後の質問ですが、ショウヘイ、今夜は先発のパトリック・サンドバル(投手)にもちょっとした愛を注がなければなりません。彼はまたもやとても良い投球を見せましたね。ヤンキースの打線と対戦する彼を見るのはどれほど楽しかったですか?

 

(水原氏の通訳:ChatGPTによる和訳)

まあ先発のサンディすごいいいピッチングしてましたけど、(サンディを)どういう風に見守ってましたか?

 

インタビュアーはパトリック・サンドバル投手がこの日どのようなピッチング内容だったか、さらにはその投球内容は評価に値すると具体的に表現している。行間はとても狭い。

 

しかし水原氏がこの英語の質問を日本語にしたとき、要点はずらさずに包括的で行間が広い表現に通訳していることが分かる。太字でハイライトした部分がそうである。

 

また、青字部でも同じように、インタビュアーは「どれほど楽しかったですか?」と狭い行間で楽しみの程度を質問しているのに対し、日本語では「どのように見守っていたか?」という具合に、「行間が広い」質問に通訳されている。

 

このように見ると水原氏は日本語と英語の行間をそれぞれの行間とコミュニケーション作法に自然な表現となるように通訳していたことが分かる。しかし、このような流儀を考慮せず、通訳された言葉だけを見ていくと、水原氏の訳は確かに雑さを感じさせてしまうだろう。訳が適合していない印象が強くなるからだ。

 

「2つの流儀」は、対話にどう影響するか?

では彼らの流儀の違いは、どのように大谷選手とインタビュアーの対話を左右するのだろうか?

 

まず「直訳スタイル」を見ていこう。「直訳スタイル」は、行間や作法の違いよりも一つ一つ訳すことに力を入れる為、それぞれの発話者の要点を見失うリスクがある。それが顕著に表れている対話がある。

 

アイアトン氏が通訳を行った際の対話である。青字部に注目してみると冒頭で触れた「ぎこちない印象」が理解できるだろう。

 

(インタビュアーの質問)

デイブ・ロバーツ監督は、時々一つのスイングがすべてを解き放つことがあるとおっしゃいました。あなたにとって、そのスイングが攻撃面で事態を好転させるきっかけになると感じましたか?

 

(アイアトン氏の通訳:ChatGPTによる和訳)

実際、今朝、私は監督と話をしました。彼はただ自分らしくいることを勧めてくれて、あまり無理をしないようにと言ってくれたので、それは本当に私を助けてくれました。自分自身を落ち着かせて、自分らしくいることができたので、本当に嬉しいです。そして、これからもそれ(自分らしくいること)を続けられるといいなと思います。

 

(インタビュアーの質問)

これはあなたにとってドジャースタジアムでの初めてのホームスタンドでした。 1試合で両チーム合計6本のホームランを打ち、ここでのこのエネルギーの電気を感じました。 これ(ホームランの打ち合い、満員のスタジアム)がどのような経験だったと表現しますか?

 

(アイアトン氏が通訳した大谷選手の回答:ChatGPTによる和訳)

確かに、この観客の前でプレーできることは、活力を感じます。だから、良い成績を続けられることを願っています。

 

上の対話の1つ目の対話では、質問者は、ホームランがなかなか出なかった大谷選手に対して、今回の1号目のホームランが、前年度のようにホームランを打つきっかけになるか、という意図をこめて質問している。しかし、大谷選手の回答は質問に対して明確な回答とはなっておらず「これからも自分らしいスイングを続けられるといい」というちぐはぐさがある。

 

2つ目の対話は、1つのゲームで6本のホームランが出た試合であったことに加え、ドジャース・スタジアムで初ホームランを打った際のファンたちの大きな興奮についてなどに、具体的にどのような印象を持ったか、と聞いている。

 

一般的な英語の会話なら、「今日は凄い試合だったね」とか「ファンの声援には感謝しているよ」という回答となるところ、大谷選手の回答は今後のことを述べる展開になってしまっている。

 

一つ一つ丁寧に訳そうとすることが行間や作法への意識を阻害することで、要点からずれた通訳となり、それがぎこちない印象を与える対話となってしまうのだ。

 

「意訳」スタイルには、行間を読み間違うリスクも

一方で水原氏の通訳には、そもそも行間を読み間違うリスクがある。行間に慣れてくれば要点がずれるような対話にはなりづらい半面、通訳の依頼主に「雑」な印象を与えてしまう危険性があるのだ。対話がスムーズであればいいのではないか、と感じると思うが、実際に通訳に当たった際、以下のような通訳は依頼者に不信感を与えてしまう可能性がある。

 

(インタビュアーの質問)

シーズン30本目のホームランは大きな瞬間でしたね。ヤンキースの守備のミスを利用することにどれくらい集中していましたか?

 

(水原氏の通訳:ChatGPTによる和訳)

あのホームランの方、振り返ってもらっていいですか?

 

この対話は2021年の際のものであるが、インタビュアーの質問が2つの文章で展開されているのに対し、水原氏の通訳は一文(ひと言)となっており、その長さから水原氏が「文字通りちゃんと訳していない」ということくらいは大谷選手も感じるだろう。

 

このように感じさせることには、対話自体が要点を見失うリスクはないものの、自分のサービス(通訳)を利用するクライアントとの信頼関係を築く上では、障害となってしまう可能性があるのだ。

 

またもう一つのリスク、あるいは難しい点は、日本語と英語の双方の行間を読めるようになるためには、それぞれの文化におけるコミュニケーションを一定期間以上経験することが必要となる、ということである。

 

水原氏は大谷選手のドライバーを努めるなど、大谷選手と常に行動を共にしていた経験値が背景にある。このように大谷選手の行間を学ぶ期間が十分にあっただけでなく、日本ハムファイターズで通訳を努めた経験から、日米間の野球文化の違いや交わされる言葉の行間なども経験した背景がある。

 

このような経験がある水原氏だからこそ、行間を瞬時に調整する「通訳スタイル」が可能になったと言えるだろう。

 

結婚会見での水原氏の「失敗」

だが、実は水原氏でも経験値が足りないことが読み取れた大谷選手のインタビューがある。大谷選手が結婚を発表した際の囲み取材である。

 

大谷選手はインタビュアーに「What can you tell about your new wife?(奥様について何か教えてくれる?) 」と聞かれた際、水原氏の通訳を通じて、奥様の真美子さんのことを「普通の人ですよ」と答えていた。

 

しかしである。この「普通の人」という日本語の行間はとても広い。日本の芸能人が自分の結婚相手を「普通の人、一般の人、一般人」と表現した場合、「(私と同じような)芸能人ではない」ことを意味する。

 

大谷選手の結婚発表の際のインスタグラムを読むと、メディアに対して「両親族を含め無許可での取材などはお控えいただきますよう宜しくお願い申し上げます」と発言していたこともあり、この「普通の人」という表現は「平凡でどこにでもいる人」という意味ではなく「私のようなメディアに出る人ではない、一般の人」という行間があったと読み取ることができる。

 

しかし水原氏にとって、大谷選手の結婚発表の通訳はもちろんこの時が初めてであり、インタビュアーの「What can you tell about your new wife? 」をそのまま「奥様について何か教えてくれる?」と通訳した上、大谷選手が言った「普通の人」を「She is a normal Japanese woman.」と訳してしまった。

 

これまでの水原氏のインタビューを見れば、結婚発表の通訳経験があれば、インタビュアーの質問を「大谷選手にとって真美子さんはどのような存在ですか?」と通訳しただろうことは容易に推測できる上、大谷選手の真美子さんに対する発言も「彼女は私のような芸能人でありません」と、誰が聞いても分かるように、英語の行間を汲んで通訳しただろう。

 

後日、英語の記事ではこの「She is a normal Japanese woman.」という訳に対して「not celebrity / non-celebrity(芸能人ではないという意味)」と注意書きを入れた記事があったことからも、この表現が英語では理解しづらいものだったことが分かるだろう。

 

「依頼者の行間」を通訳者にしっかり理解してもらっておく

水原氏もアイアトン氏も、野球選手の通訳として高い経験値に裏付けされたスキルを持っていることは間違いない。しかしその両通訳者の流儀には違いがある。その違いこそが、対話やクライアントに異なった影響を与えるのである。そればかりでなく、水原氏のような「心得た」通訳でさえ、経験が浅いトピック(上の場合の「結婚会見」など)の通訳であれば、要点を捉えることが難しくなる。

 

日本はまだまだこれから世界に出ていくシーンが増えていくだろう。その際に通訳者の力を借りることも増えていくことが予想されるが、国際コミュニケーションをより円滑に行うためにも、日本と海外では行間の違いがあることを理解した上で、まずは通訳者の流儀を理解し、通訳者と信頼関係を築くことに努めるべきだろう。

 

さらには(費用面などの相談は必要になるだろうが)、あらかじめ質疑応答のシミュレーションを行い、少なくとも「依頼者の行間」を通訳者にしっかり理解してもらっておくことは、事業の国際展開を成功に導く鍵の一つとなるだろう。

 

日本と英語の行間の違いでコンサルティングを行っている筆者の視点から、前回に続き、本稿でも両通訳者の違いを見てきた。読者であるビジネスパーソン諸氏にとって、国際ビジネスの成功へのヒントとなったとすれば幸いである。

 

松樹悠太朗(まつき・ゆうたろう)◎1978年香港生まれ。国際交渉のコンサルティングを行うYouWorld 代表取締役。特徴的な技術は、日本語と英語の行間や作法の違いによるコミュニケーションのニュアンスを調整すること。特に国際交渉の軌道修正、効果的な英文Eメール、プレゼン資料の修正において成果を上げている。クライアントはスタートアップCEO、金融機関取締役、日系商社支社長、製薬関連企業代表、日本刃物ブランドなど。

###

 

◆ 大谷翔平を追うLA記者が驚き「ショウヘイは昔よりオープンに…」水原一平騒動後に見せた“新たな素顔”「チャーター機誤報の件も話すなんて」

杉浦大介氏/情報:NumberWEB)

###

 ロサンゼルス・ドジャース移籍1年目、好スタートを切った大谷翔平。2日(現地1日)のダイヤモンドバックス戦で初めて休養日が与えられたが、開幕からスタメン出場を続けた32戦では打率.336、7本塁打、19打点、OPS1.017と好成績をマークしている。水原一平・元通訳の違法賭博&窃盗事件というとてつもないスキャンダルが明るみに出た後でも、打撃のペースは落ちていない。

 

 そんな大谷の序盤戦を改めて評価すべく、「ロサンゼルス・タイムズ」のドジャース番記者、ジャック・ハリス氏に意見を求めた。波乱の1カ月強を過ごした大谷に変化はあるのか。ロサンゼルス・エンゼルス時代から大谷を取材した経験を持つハリス記者の目にも、ここまでのフィールド内外での大谷のパフォーマンスはハイレベルに映っているようだ(以下、ハリス記者の一人語り)。

 

「もう少しスロースタートでも許された」

 翔平はドジャースとそのファンが期待した通りの活躍をしていると思う。上質なパフォーマンスは数字に現れている通りだし、チームメイト、コーチからはその練習熱心な姿勢を絶賛されている。フィールド外でも新しい同僚たちに明るく接し、早い段階から受け入れられてきた。

 

 開幕直後に起こった水原一平の事件を考慮すれば、もう少しスロースタートを切っていたとしても許容されていたはずだ。そんな中でも優れた成績を残し、チームにもすぐに馴染んだことは、翔平の集中力、才能の素晴らしさ、そして適応能力の高さを表していると思う。

 

 メジャーリーグでハイレベルのプレーを続けることは簡単ではない。翔平の場合、最高級の貢献を果たすようになってもうこれが4年目だ。2021年、トロント・ブルージェイズのウラディミール・ゲレーロJr.がライバルのように目されていたが、もう彼と翔平を同列に並べる人はいないだろう。5月1日まで対戦したアリゾナ・ダイアモンドバックスのコービン・キャロルは昨季、好成績で新人王を獲得したが、実働2年目の今年は不振に喘いでいる。

 

 そんな例は数え切れないほどある中で、翔平は優れたパフォーマンスを継続している。その事実は天賦の才だけでなく、努力に裏打ちされた安定感も備えていることを示しているのだろう。

 

番記者も懸念していた事件後の振る舞い

 一平事件に関して興味深かったことは、翔平がこれまでにない試練にどう対処するかが見られたことだ。エンゼルス時代はとにかくベースボールに集中し、その話題だけだった。それが今回、途方もないスキャンダルに見舞われたことで、私たちメディアとファンは翔平のこれまでと違う面を目の当たりにすることになった。

 

 自身に一番近いところにいた人物があのような事件を起こし、突然いなくなったのだから、とてつもなく巨大なアジャストメントだったはずだ。思いもよらぬ混乱に上手に対応できる選手もいれば、そうではない選手もいる。

 

 翔平は突然の試練に上手に対処したと思う。序盤戦の成績の素晴らしさは先ほども述べた通りだし、今回の件が彼と他のチームメイトたちとの関係に悪い影響を及ぼしていないことも印象的だった。

 

 一平の事件があった後、翔平は私たちメディアを避けて回るようなことはなかった。ドジャースを取材する記者はエンゼルス時代よりもはるかに多く、常に優勝候補なのだから、いずれにしても翔平はこれまでより頻繁なメディア対応を必要とされていただろう。低迷期が多いエンゼルスと同じようにはいかなかったはずだ。

 

 これまで翔平に関して、何をするにも一平を通じて行われていた。間に入る人が1人でもいたら、選手と他の選手、選手とメディアの間に少なからずの距離ができるのは当然のことだった。その仲介役がいなくなり、しかもあれほどのスキャンダルが起きたあと、翔平はよりオープンにメディア対応しようという意思を示していると思う。取材時にも、これまで以上に自分自身を見せようと努めているように感じる。

 

 質疑応答の途中によく笑うし、トロントでのメディア対応時には例のチャーター機の一件についても話したのは象徴的だった。なぜそういう方向になったのかはわからないが、エンゼルス時代から翔平を取材してきた記者として新鮮に感じているのは確かだ。

 

 振り返ってみれば、一平事件直後の会見でも、翔平は私たちが想定していた以上に詳細に話してくれた。それによってあの騒ぎが多少なりとも鎮静化することにもなった。

 

 また、チームメイト、メディアに明るく接していることで、ドジャースのクラブハウス、ファンベースに溶け込むスピードを早めていると思う。このように翔平がよりオープンになったことはポジティブな要素であることは間違いない。

 

 フィールドでのパフォーマンスの話に戻ると、2024年開始前から注目されていたのは、今季は投手としての登板がないことが翔平の打撃成績にどう影響するかだった。

 

 昨季に残した打率.304、44本塁打という基準を超えるのは容易なことではないが、ドジャース首脳陣の一部はそれが可能だと信じていた。そして、序盤戦のプレーを見る限り、実際にキャリアハイの成績を残しても驚くべきではなさそうだ。

 

 今季も3割以上の打率を残すことは十分可能だろうし、本塁打も40本に届きそうだ。ドジャースの強力打線の一員になったのだから、打点も100を超えるかもしれない。もちろん今後、どうなっていくかはわからないが、打率.300、40本塁打以上、そして110打点くらいを挙げることは十分に射程圏内に思える。

 

得点圏打率の低さ「騒がれすぎ」

 ほぼ唯一の突っ込みどころといえる得点圏打率の低さに関しては、少々騒がれすぎではないかと思う。まだ試合数、打席数が少なく、完全なスモールサンプルだからだ。

 

 翔平はもともと積極的な打者だが、チャンスでの打席ではストライクゾーンから外れた球をスイングするケースが目立つのは事実である。それをした上で、結果が伴わなかった場合、「プレッシャーがかかっているんじゃないか」とか「必要以上にやろうとしているのではないか」と思われてしまう。デイブ・ロバーツ監督は「走者を置いた場面ではもう少し辛抱強く」という話を翔平としたことをすでに明かしている。

 

 ただ、繰り返すが、得点圏打率というスタッツには偶然性も含まれ、特筆され過ぎるべきではないというのが私の考え方だ。過去2年、プレーオフでは、スター選手まで含めてチャンスでいい打撃ができなかったことがドジャース敗退の主要因になった。そんな背景を考えればファンが懸念し、反応するのは理解できるが、私はこれまで見てきて、翔平がチャンスに結果を出せない打者だとは考えていない。自身、周囲ともに向上を誓っているだけに、得点圏打率も徐々に上がっていくだろうと予想している。

 

(「メジャーリーグPRESS」杉浦大介 = 文)

###

 

-------------------------------------------------------------

 ■ NOTE

 

imageimageimage