2023年12月22日

 

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 ■ 今日の大谷翔平(関連NEWS)

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◯ 大きな注目を集めていた山本由伸の争奪戦がついに決着した。日本時間12月22日、米スポーツ専門チャンネル「ESPN」のジェフ・パッサン記者が報じたところによると、ドジャースは山本と12年3億2500万ドルの超大型契約を結ぶことで合意に至ったという。契約総額はゲリット・コール(ヤンキース)の9年3億2400万ドルを上回り、投手ではメジャー史上最高に。また、投手による12年契約も最長記録である。ドジャースは10年7億ドルで契約した大谷翔平とのダブル獲得を実現させた。

 

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◯ 大谷が21日(日本時間22日)、ロサンゼルスに本拠地を置くNFLのラムズの試合を観戦した。革ジャン姿の大谷は水原一平通訳、代理人のネズ・バレロ氏とグラウンドに現れると、ラムズの背番号「17」のユニホームを手にマスコットらと記念撮影。アメフトのボールを手にする場面やラムズの選手とがっちり握手を交わす場面もあった。FOX Sportsも「大谷翔平は今夜、ラムズの試合にいます」と記し、大谷が背番号「17」のラムズのユニホームを持ち笑みを浮かべる写真を投稿した。

 

 

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◯ 米スポーツ専門メディア「ジ・アスレチック」のジェフ・ショルツ記者が21日(日本時間22日)、ブレーブスのアレックス・アンソポロスGMが大谷翔平獲得を見送った理由を明かした。

 

「(なぜ大谷を獲得しなかったかと聞かれて)彼は素晴らしい選手で、ドジャースも素晴らしい球団だ。よくこの質問をされる。球団にとって最善の選択をしなければいけないし、他のチームの動向もみないといけない。しかしながら、私たちは同地区の4チームの動向に対して(動きを)合わせていく」

 

「現在の価値を考えると(契約は)人々が予想した範囲内に収まっている。彼は二刀流の選手で、ぼぼ間違いなく歴代最高レベルの選手だし、彼は最大の契約を得るべきだから、この契約について強い意見はない。でも、ぜいたく税の壁がある。私たちの総年俸は(MLBで)トップ10に入る。高年俸を貰っている選手が何人かいる」

 

◯ 写真や動画などを世界200か国以上に提供する世界最大級のデジタルコンテンツカンパニー「Getty Images(ゲッティイメージズ)」の日本法人「ゲッティイメージズ ジャパン株式会社」は、2023年を報道写真で振り返る「Year in Review by Getty Images」を発表。各部門でクリエイティブな写真が採用される中、大谷も登場。ニューヨークメディアも“白旗”を揚げた今季の衝撃場面が入った。4月18日(日本時間19日)の敵地ヤンキース戦。大谷は初回第1打席で7試合ぶりの4号となる弾丸2ランを放った。スライダーを完璧にとらえ、打球は右中間のヤンキースブルペンへ。打球速度116,7マイル(約187.8キロ)の一撃を追った右翼手アーロン・ジャッジもただ見送るしかなかった。

 

 

◯ 大谷翔平が21日、AP通信の「今年の男性アスリート」に選出された。2年ぶり2度目の受賞で、日本代表を3大会ぶりの優勝に導いた3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)や、今季プレーしたエンゼルスでの活躍が評価された。

 

◯ 「MLBホームラン王記念!SHO-TIME 大谷翔平メモリアルフォトブック PERFECT SHOT 2018-2023」(宝島社刊)が25日付の「オリコン週間BOOKランキング」の写真集部門で売り上げ1位を獲得したことが21日分かった。12月4日に発売され、8位、2位と徐々に順位を上げていた。メジャーデビューから6年間の名場面を収録。プレー写真や球場外の素顔も含まれている。

 

 

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 ■ 球界情報

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◯ 山本由伸投手(25)が21日(日本時間22日)、ドジャースと12年総額3億2500万ドル(約455億円)で契約合意した。MLB公式サイトが報じた。

 

 ◆山本由伸の契約金 米メディアによると年俸などの総額は3億2500万ドル(約455億円)。うち5000万ドル(約70億円)が契約金で、残り2億7500万ドル(約385億円)が年俸。後払いはない。

 

 総額はコール(ヤンキース)の9年3億2400万ドルを抜いて、投手(二刀流の大谷を除く)では史上最高額。野手も含めるとシーガー(レンジャーズ)スタントン(ヤンキース)に並ぶ9位タイ。契約総額を1年平均にすると2708万3333ドル(約37億9000万円)で、来季の投手(大谷除く)では9位に相当する。

 

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 ■ 注目記事&コラム

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◆ 「夢を与え勇気づけるためのシンボルに」大谷翔平選手からのグラブついに届く!第一号は地元 手紙も添えて

(情報:FNNプライムオンライン)

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メジャーリーグ・ドジャースに移籍した大谷翔平選手の寄贈グラブが、大谷選手の母校岩手県奥州市立姉体小学校でお披露目された。全国で奥州市への配送が一番早く到着した。

 

大谷選手の母校、姉体小学校の体育館では、終業式後、校長先生より大谷選手から寄贈されたグラブが紹介されると、大きな拍手が響いた。

 

大谷選手は11月9日に自身のインスタグラムを更新し、「野球しようぜ!」というメッセージとともに日本全国のおよそ2万校のすべて小学校へ各3つのグラブを寄贈することを発表していた。

 

小学校低学年用のサイズで、右利き用2個、左利き用1個の組み合わせとなっていて、インスタグラムには、「野球を通じて元気に楽しく日々を過ごしてもらえたら嬉しいです。このグローブを使っていた子どもたちと将来一緒に野球ができることを楽しみにしています!」とのコメントも寄せられていた。

 

まだグラブには大谷選手からの手紙も添えられていて「私はこのグローブが、私たちの次の世代に夢を与え、勇気づけるためのシンボルとなることを望んでいます。それは、野球こそが、私が充実した人生を送る機会を与えてく入れたスポーツだからです」との子ども達に向けたメッセージが記されていた。

 

グラブの紹介のあと、姉体小学校の代表の在校生による「使い始め」キャッチボールが行われた。少し早い大谷サンタからのプレゼント。

 

大谷の「野球しようぜ」の思いがここから日本全国へと広がっていく。

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◆ 大谷翔平と山本由伸を待つドジャースタジアムの隠れた日本庭園の物語

谷口輝世子氏/情報:スポナビ)

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ドジャースタジアムの裏手に、ファンや観光客にほとんど知られていない隠れた名所がある。ライト方向の駐車場ロット6の後方だ。今は、生い茂る草に埋もれているが、そこには、ドジャースと日本との交流の歴史を示し、つながりの象徴ともいえるものがある。

 

ドジャースと日本の野球の交流の歴史はよく知られているところだろう。それを支えた鈴木惣太郎さんという人物に聞き覚えはあるだろうか。1890年に群馬県で生まれ、コロンビア大学の聴講生として渡米。日本に帰国後は、日本プロ野球の創成期から日米の交流に尽力した。ベーブ・ルースが日本にやってきた1934年の日米野球でもマネジメントを担当し、さまざまな交渉を行ったようだ。

 

1956年には、まだニューヨークのブルックリンをホームとしていたドジャースが、10月から11月にかけて、日米野球のために来日し、19試合を繰り広げた。この企画に携わったのも鈴木惣太郎さんである。1947年に人種の壁を破って、メジャーデビューしたジャッキー・ロビンソンが現役選手として最後に出場した試合でもあった。

 

それから数年後の1958年にドジャースはロサンゼルスに移転。1962年にはドジャースタジアムがオープンした。日米野球でつながりを深めたドジャースのオーナー、オマリーさんは、鈴木惣太郎さんをドジャースタジアムのこけら落としの試合に招待した。そこで、鈴木惣太郎さんは何か記念になるものをお返しに贈りたいと考えて帰国した。石灯篭がふさわしいのではないかと思いつき、愛知県にある清水組石材工業に連絡を取り、ドジャースのために石灯篭の建設を依頼したのだ。この石灯篭には、「1962年4月9日のドジャースタジアム開場を記念して」と刻まれているという。

 

石灯籠は、6つに分割されてロサンゼルスに運ばれた。石灯篭を受け取ったオマリーさんは、助言も受けて、ライト後方に、桜の木を植えて、小道を作り、伝統的な日本庭園に仕上げた。1967年にはNPBの巨人がドジャースと合同キャンプをしたのだが、巨人の選手らと思われる人たちがこの庭園を見ている写真が残っている。

 

この日本庭園を実際にデザインしたのは、ミッチ・イナムラさんという庭師だという。また、鈴木惣太郎さんの友人だった日系2世のフランク・江籠さんも90年代までは桜の木の手入れなどを行っていたが、2000年に亡くなった。

 

2003年に、ドジャースはこの庭園を再び奉納した。このときにはドジャースの元監督、トミー・ラソーダさんが庭園の前でスピーチを行い、報道陣も多数詰めかけていた。このときの庭園は汚れひとつないものだった。しかし、ここ数年は、手入れがなされておらず、冒頭でふれたように草木に覆われてしまっている。

 

1990年代に桜を植えて、庭園を維持してきたフランク・江籠さんの遺族は、日本人の大谷翔平と北米スポーツ史に残る契約を結んだドジャースが、日本庭園を復活させてくれることを望んでいる。ドジャースと合意したと報じられている山本由伸の入団も決まれば、日本からのドジャースへの注目度はさらに高まるだろう。ドジャースタジアムの敷地内にある日本庭園が再び整備されれば、大谷翔平や山本由伸を一目みようと球場に詰めかける観客たちが、ドジャースと日本球界との歴史に思いをはせることのできる貴重な空間になるのではないだろうか。

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◆ 解説者としてではなく一ファンとして。五十嵐亮太から見た大谷翔平の移籍騒動

菊田康彦氏/情報:VICTORY)

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 このオフにロサンゼルス・エンゼルスからフリーエージェント(FA)となり、その動向がメジャーリーグでも最大の関心事となっていた大谷翔平の移籍先が、ロサンゼルス・ドジャースに決まった。12月14日(日本時間15日)にはドジャースの本拠地であるドジャー・スタジアムで入団会見が行われ、大谷は「明確な勝利を目指すビジョンと、豊富な球団の歴史を持つこのロサンゼルス・ドジャースの一員になれることを、心よりうれしく思うと同時に今すごく興奮しています」などと語った。

 

 現役時代はプロ野球、メジャーリーグで23年間にわたってプレーし、現在は野球解説やコメンテーターで活躍中の五十嵐亮太氏は、「大谷ファン」を自認する1人である。このオフも大谷に関して各方面からコメントを求められるなど、ある意味で移籍騒動の渦中にいた五十嵐氏に、今回の決断について聞いた。

 

「僕はドジャースと予想してたんで、予想どおりですね。(エンゼルスに)残ることがまず考えられなかったので『残る意味がない』って言ってたんですけど、ここ数年のようにシーズン途中で『今年も(ポストシーズンは)無理か』ってなってしまうとキツいのでね。ドジャースでそういったことがなくなるのは、大谷選手にとってもかなりプラスに働くと思います」

 

 エンゼルスは2014年のアメリカン・リーグ西地区優勝を最後にポストシーズンから遠ざかっており、大谷が入団した2018年以降はシーズンの最終勝率が5割に届くことすらなかった。大谷の活躍を伝えるニュースが「なおエンゼルスは敗れています」といった一節で結ばれることも多く、「なおエ」なるネットスラングが生まれたほどだ。

 

 一方で大谷が移籍を決めたドジャースは、ナショナル・リーグ優勝24回、ワールドシリーズ制覇7回の名門で、今季まで11年連続ポストシーズン進出、うち2021年を除いてすべて西地区優勝という現在のメジャーでも屈指の強豪チームである。大谷自身も入団会見で「勝つことっていうのが僕にとって今、一番大事なことかなと思います」と話したように、このチームでならメジャー移籍後初のポストシーズン、そしてワールドシリーズ出場も大いに期待できる。

 

「やっぱり(エンゼルス時代は)シーズン途中で(地区)優勝やポストシーズンを諦めなければいけないっていうところに、淋しさであったり、辛さ、もどかしさっていうのは感じてたと思うんですよ。だからそうじゃない、ワールドチャンピオンの可能性を秘めたチームでやりたいっていうのは、プレーヤーとして当たり前の考えですよね。しかも(エンゼルスが)弱いからってすぐに出ていくっていうわけじゃなくて、6年間しっかり戦った上でFAになってのことなのでね」

 

 ちなみに大谷がドジャースと結んだ10年総額7億ドル、日本円にしておよそ1000億円という契約額はメジャーリーグのみならず、野球以外の北米3大スポーツや、サッカーのような世界的スポーツを含めても、史上最高になるという。これほどまでに巨額な契約は大谷にとって1つのモチベーションになるのか、それともプレッシャーになるのか?

 

「モチベーションというよりは、いただいたものに対して応えなきゃいけないっていうのが選手の心理だと思うんですよ。僕は大谷選手とは比較にならないですけど、それでも貰っている分、もしくはそれ以上の成績を残したいって常に思ってました。よく複数年(契約)だと『もうお金(年俸)は決まってるから結果はダメでもいいじゃないか』って思われることもあるんですけど、全然そんなことはないです。やっぱり結果を出したいし、チームも含めてそうじゃなかった時の苦しさっていうのは、稼いでいる人になればなるほど重くなる。ただ大谷選手の場合は、そのプレッシャーを乗り越えてというか、うまく受け入れながら消化してやっていける選手だと思うので、僕は楽しみのほうが大きいのかなと思いますね」

 

 14日の会見で、大谷はドジャースの一員として「まず優勝することを目指しながら、そのところで欠かせなかったと言われる存在にやっぱりなりたいですし、そういう期待を込めた契約だと思うので、そこの期待に応えられるように今後も全力で頑張っていきたいなと思ってます」とも語っている。そんな大谷に対し、五十嵐氏が期待するものとは──。

 

「もちろん両リーグでのホームラン王とかMVPとかあるんですけど、今まであまりにも僕らの想像を超えてきたので、もう(数字的なものは)期待しないようにして、元気にシーズンを戦ってくれたらそれだけで十分幸せだと思います。あとは彼の勝負強さっていうのが今までは発揮しにくい環境だったんですけど、来年は(シーズン終盤の)ポストシーズンがかかった時とか、短期決戦でそれが見られる可能性が非常に高いので、その辺がめちゃくちゃ楽しみですね。やっぱりWBCでの大谷選手の姿、あれをメジャーでも見たいんですよ」

 

 マウンドで1球1球に雄たけびを上げ、打席では相手を揺さぶるセーフティバント。1点を追う場面で先頭打者として二塁打を放ち、ベース上で両腕を振り上げてナインを鼓舞したかと思えば、最後はクローザーとして優勝を決め、思わずグラブを放り投げる──。3月に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で大谷が見せた「あの姿」を、メジャーリーグでも見たいと思っているのは、五十嵐氏だけではないはずだ。ポストシーズン“常連”のドジャースでなら、それが実現する可能性はグッと高まる。

 

 大谷は今秋に右ヒジ手術を受けており、来年はバッターに専念する。再来年以降は再び“二刀流”復活が期待されるが、その頃には三十路を迎えている。現在はシアトル・マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー氏が、かつて大谷について「投げることも打つこともやるのであれば、ワンシーズンはピッチャー、次のシーズンは打者として。それでサイヤング賞とホームラン王を獲ったら……」と話したことがあるが、五十嵐氏は大谷の今後をどう見ているのか?

 

「本人が何を望むかですね。たぶんピッチャーだけ、バッターだけっていうのは、どこか本人の中で物足りなさを感じてしまうと思うんですよ。だからヒジの状態さえ良ければ同じような形(二刀流)になっていくと思います。ただ、登板数であったりとか、先発(登板)の前後に負担をどう減らすかとか、あるいはWBCでやったみたいに抑えも可能なんじゃないかっていうところで、可能性がすごく広がっていくと思うんですよ。そう考えると、今後どういったプランでどういった形で結果を残してくれるのか、どうやってフィールドに立ち続けるのかっていうところを想像すると、まだまだ可能性を秘めてるなっていうふうに思いますね。

 

 大谷翔平、29歳。10年先まで契約が保証された至高の“二刀流”は、海の向こうの最高峰の舞台で今後もファンに無限の楽しみを与えてくれそうだ。

(了)

 

菊田康彦

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◆ 専門家が分析、大谷翔平の会見で 水原一平が「最高の通訳」だとわかった5つの理由

廣津留真理氏/情報:現代ビジネス)

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 世界中が注目した大谷翔平のドジャーズ入団会見。大谷選手の言葉とともに注目を集めたのが、水原一平さんの通訳だ。

 

 水原一平さんが大谷選手と出会ったのは、日本ハムファイターズ時代。ヤンキースで岡島秀樹選手の専属通訳だった水原さんが岡島さんの退団と共にヤンキースから日本ハムの球団通訳となったのが2012年のことだった。大谷翔平選手が入団したのは2013年。ここで運命的な出会いをしたともいえる。その後、2017年のエンゼルス入団に伴い、大谷選手の専属通訳として渡米。かつて会見で大谷選手をして「一番お世話になった人」として名指しされたのはご存知の通りだ。

 

 そんな水原さんは通訳として何が一体すごいのか。

「水原さんの通訳が素晴らしかったのは、その5つの超絶スキルにあります」と語るのは、オンライン英語教室「ディリーゴ」の代表・廣津留真理さん。試験に通用する英語だけではなく、世界で通用するスピーチの技法を子どもたちに教えており、著書『ハーバード生たちに学んだ 「好き」と「得意」を伸ばす子育てのルール15』では、英語を使う場面で日本人がコミュ力を発揮するのが難しい理由と、その克服法も語っている。

 

 その廣津留さんに、水原さんの通訳から学べる「日本人が英語を得意にするコツ」について分析していただいた。

 

水原一平さんの「5つのスキル」とは

 一口に通訳といっても、3種類あります。それは「同時通訳」「逐次通訳」「ウィスパー通訳」の3つ。

 

 今回の会見における水原さんの通訳は、スピーカー(発言者)の発言の区切りごとにまとめて訳していく逐次通訳です。メモも取らずにスラスラと的確に英語に変換する姿が衝撃的でした。

 

 水原さんの通訳がみなさんの注目を集めたのは5つのスキルが完璧だからです。それはこの5つです。

 

 (1)俯瞰力 (2)まとめ力 (3)聞く力 (4)集中力 (5)瞬発力 

 

 しかも、前代未聞の契約について世界中が知りたがっているという責任重大な場面で、これらを「平常心」でやってのけていたのがポイントです。 具体的に見ていきましょう 。

 

訳していないことがある理由

 

 (1)【俯瞰力】 

 

 やるべきことの細部ではなく全体像を、広い視点から掴むのが俯瞰力。スピーチは聞き手があってのものなので、1)相手に自分をどんなふうに印象付けたいか、2)それに対してどうリアクションしてほしいか、3)その結果、どんなアドバンテージが得られるか。これら3つが、今回のスピーチのミッションのすべてでした。

 

 つまり、大谷選手がこの日に伝えるべきメッセージは、「1)新球団とみなさんに感謝を伝え、2)世界にこれからの活躍を期待させ、3)その結果、自分と球団、ひいては野球界全体を応援してもらう」こと。水原さんは何よりもまず、この伝えるべきメッセージをメインメッセージとして把握していました。

 

 (2)【まとめ力】

誰もが驚いたのは、水原さんがメモなしで大谷選手の言葉をごく自然な英語に一発変換していたことだと思います。しかも抜群に上手かったのは、日本語独特の曖昧な言い回しを英語にすることです。

 

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質問:6年前エンゼルスに入団した時の気持ちと、今回ドジャースに入団した時の気持ちの違いは? 

大谷:日本でいえばファイターズでしたし、今回エンゼルスを去りましたけど、そこの寂しさというのもやはり心の中にあるのは事実かなと思います。

 

水原:Last time it was the Fighters in this case it was the Angels. 

It’s always sad leaving your team, leaving your teammates. 

=前回はファイターズで、今回はエンゼルス。チームを去り、チームメイトと別れるのはいつも寂しいものです。

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 この例から分かるように、「心の中」「事実かな」などは直訳していません。メモを取らないメリットがここに現れています。それは、「聞くこと」に集中できるからです。

 

 聞くことができると、まとめ力がアップします。なぜなら、メモを取ったり、見返して反芻する時間をすべて、「まとめ」に使うことができるからです。ここは、英語資格試験のリスニングや、英語で行われる会議の場などで、ぜひマネしてみたいところです。

 

「一番伝えたいこと」を伝えられる理由

 

 (3)【聞く力】(4)【集中力】

水原さんは、質問者の発言をよく聞くことにまず集中して、理解が曖昧な時はさっと聞き返しています。そして、質問者のメインメッセージ=質問の主旨、だけに特化して、そこを大谷選手や聞き手に伝えています。

 

 たとえば、水原さんが、質問者の質問の主旨をうまく捉えて、大谷選手の回答より詳しく英訳している箇所を見てみましょう。

 

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質問:年俸のほとんどを後払いにした理由は? 

大谷:今、自分が受け取れる金額を我慢して、ペイロールに柔軟性を持たせられるのであれば、ぜんぜん後払いでいいですというのが始まりですけど。

 

水原:So I was looking into it and did some calculations and I figured, I mean if I can defer as much money as I can, that's going to help the CBT and that's going to help the Dodgers and be able to sign better players and make a better team.

=計算してみたところ、できる限り後払いを多くすることで、CBT(戦力均衡税)から守られ、ドジャーズがよりよい選手と契約してチーム強化するのを助けることになると考えました。

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 メジャーリーグはアメリカの制度なので、聞いているアメリカ人はCBTも分かっているという前提で英語で説明しています。

 

 質問のメインメッセージを聞くことができれば、回答を訳す時にとても便利です。なぜなら、究極、メインメッセージにさえ答えればよいのですから。この心の余裕が自信につながります。こうして、発言に最も近い言葉を選び、流れるように自然に訳すことができているのです。

 

空気を和ませることができる理由

 

 (5)【瞬発力】 

何をするにも、迷いがあると一瞬のムダな間が空きます。それが決断の失敗につながることがよくあります。水原さんの訳はその対極で、迷いをすべて排除した瞬発力があります。

 

 たとえば、

 

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質問:2回目のひじの手術はトミー・ジョン手術なのか? 

大谷:そこはドクターのほうが詳しいかなと思います。

 

水原:You could probably talk to my doctor about that.

=私の主治医に聞いてくださるのがいいかもしれません。

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 こんなふうに、あくまでもでしゃばらないレベルの意訳で、周りの空気を和ませることができるのは、瞬発力が抜群だからです。ここで記者たちから上手く笑いを取っていました。

 

 さらに、これらすべてが平常心でできるのは、通訳に必須の「事前準備」「下調べ」が、大谷選手との日々のコミュニケーションをベースにしっかりできているから。大谷翔平についてどんなことを聞かれても、自分の頭の中の引き出しに入っているから答えられる、という自信があります。それは、お互いへの信頼のなせる技なのでしょう。

 

英語スピーチの基本構成

 

 ちなみにこの会見は、英語スピーチの定型を端的に表しているので、覚えておくと便利です。

 

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英語スピーチの定型:

挨拶(この機会をありがとう)

謝辞(〇〇さん、△△さん、ありがとう)

メインメッセージ(みんなに感謝の気持ちを伝えます)

具体例(記者との質疑応答)

締めくくり(これで終わります)

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 えてして時候の挨拶から始まって、最後に謝辞で締めくくる日本のスピーチとはまったく異なるのが分かります。今回は、「みなさん、ありがとう!」が、大谷選手の一番伝えたかったことです。水原さんは、そこを一貫して見失わずに伝えきりました。

 

 相手に伝えるべきメインメッセージは何か。それが分かっている大谷選手がいて、そのメインメッセージをブレさせずに伝えられていたからこそ、水原さんは名通訳者として多くの人たちに感銘を与えていたのでしょう。

 

 (構成/下井香織)

 

廣津留 真理(ディリーゴ英語教室代表)

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 ■ NOTE

 

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