2023年9月26日

 

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 ■ 今日の大谷翔平(関連NEWS)

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◯ フィル・ネビン監督は25日、本拠地のレンジャーズ戦前に報道陣の取材に応じ、大谷の合流が今週末になる可能性を示唆した。「彼は来る。まだ手術から回復している状態だ。時間のかかることだ。家でゆっくりして、リカバリーする時間が必要だ。でも彼はチームメートと一緒にいたいということを明確に示してきた。今週末に見れるだろう」と話すにとどめた。

 

◯ マイク・トラウト外野手は25日、本拠地でのレンジャーズ戦の試合前に取材に応じ、大谷について話した。「手術をしたことを聞いた。わからないけど、ホームに来ると聞いている」と詳しくは知らされていない様子。「彼は日本にいるという報道をよく聞いたし、実際わからないじゃないか」と、ジョークで報道陣を笑わせた。投手としてプレーできないことについて聞かれると、「打てることは過去に実証済みだ。それでもプレーはできる。信じられないシーズンだった。見ていて楽しかったし、テキサス遠征は今まで見たことのないような活躍だった」と振り返った。

 

過熱する大谷の去就報道について、「常に人々から『ショウヘイはどこに行くの?』と、質問を受ける。教えてあげるよ。彼次第だ。彼に聞けばいい。彼が決断することだ。彼は私に何も言っていない」と明かした。「プライバシーを尊重すべきで、彼が決断することだ。彼が思う正しい選択をするだろう。見守ろう」と言及。

 

 

◯ レンジャーズのブルース・ボウチー監督が25日、敵地エンゼルス戦前に取材に応じ大谷に言及。

「メジャーリーグで彼がやっていることができるなんて、本当にクレージーだ。ベーブ・ルースまで遡る。彼は惜しまない。マウンドでの素晴らしい投球は驚くべきことであり、特に我々の球場で見せた打撃は信じられないほどだった。だから彼は信じられないほどのアスリートなんだ。おそらくそれと同じくらい、タフネスのど真ん中のことを彼はやってのけるのだろう」

「(同地区で1年間対戦してみて?)彼がどれほどの天才アスリートかわかるかい?信じられないようなパワーがある」

「僕は少し年をとったけど、まさかこんなことが見られるようになるとは思わなかった。高校時代にフットボールのリーグ戦をプレーしている時にメジャーリーグのレベルでそれをやっているのを見ることができるんだから。かなりクールだ。彼の運動能力と才能にどれほど感謝していることか。言葉では言い表せないよ」

 

◯ パドレスが来季のサラリー総額を今季の2億5300万ドルから20%ほど削り、2億ドル前後にすることがわかった。地元紙サンディエゴ・ユニオン・トリビューンが、25日に報じた。パドレスはスモールマーケットチームながら近年積極的な補強を続け、18年以降収益は2倍に伸びたが、選手のサラリーも18年の1億400万ドルから今季のシーズン終了時には2億5300万ドルと約2・5倍になった。

 

赤字覚悟のピーター・サイドラーオーナーの支えがあってのことだが、債務返済能力を超えており、借入金の返済余裕度を見る指標(Debt service ratio)において、MLBのコンプライアンス違反になっている。

今季もポストシーズンを逃すことで、少なくとも収益が1000万ドル分は減った。サラリー総額を5000万ドル削るのは大変だ。年俸1410万ドルのジョシュ・ヘイダー、1660万ドルのブレイク・スネル両投手はこのオフにFAの資格を得て、価格はFA市場で大幅に上昇するため、引き留めることは不可能。大谷翔平についても有力な移籍先と言われてきたが、5000万ドルも削るなら大谷争奪戦に参加することはできない

 

 

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 ■ ロサンゼルス・エンゼルス情報

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◯ 左手有鉤骨骨折から復帰を目指していたマイク・トラウト外野手が25日、本拠地レンジャーズ戦前に日米メディアの取材に応じた。24日に10日間の負傷者リストから60日間に移され、残り試合の欠場が決まった。以下、トラウトとの主な一問一答。

――フラストレーションのレベルは。
「そうだね、イライラしている。(涙声で)今は良くなっているけど…。戻りたい…。つらい…」

――万全の状態でシーズンに臨んだと思うがケガをしてしまった。
「シーズンを迎えるにあたり一番大切なことは健康でいることだった。それが目標だった。春季キャンプの時もそうだったし、オフシーズンに計画を立てたくさんの人を雇って僕の体を鍛えた。体はとてもいい感じで自由にでき、それをフォローアップしていた。(8月中盤の)復帰は必要以上に早かったかもしれない。みんなと一緒にプレーしたかった。とにかく痛かった。不快だった。復帰した時はいつも痛かった。スイングは正しかったが自分らしくなかった。痛みや違和感がなくなるように1日1日を過ごしていたけど、一向に治らなかった。今は数週間の休養をとっている。スイングのプロセスが始まったがスイングは戻ってこない。オフシーズンに向けこれまでを整理したかった。気持ちを整理し健康的なオフシーズンにしたい」

――左手首の状態。
「守備は大丈夫。ファウルボールや空振りも良かった。できる限り早く戻ろうとした。少し早まったかもしれないが僕はあそこにいたかった。仲間とともにいたかった」

――あとどのくらいで完璧な準備ができると思うか。
「最後のセッションが終了する時には完全に健康な状態になっている予定だ。少し痛みはあるけど今は普通のことだ。シャットダウンされた時の目標は復帰してみんなとプレーできるようになることだった」

――ジョン・カルピーノ球団社長と話をしたいことは何か。
「毎年、我々はオープンに会話する。今年に限らず毎年している。フロントオフィスのジョンやペリー(・ミナシアンGM)、そこにいる全ての人とプライベートな会話をするんだ。だから僕にはいつも通りのこと。オフシーズンに2、3週間休んで気持ちを切り替えて、体調を整えて、プレーをする準備をする」

――ネビン監督について。
「彼は仲間を大切にしてくれる。チームのためにベストを尽くしてくれる。彼がどれだけ僕らのことを気にかけてくれているかはわかっている」

――チームは長い間、低迷を続けている。
「ここ数年間は明らかにね。今年を振り返ってみると個人的には期待外れとなった。明らかに僕らはいいところにいたんだ。真夏の頃まではね。ただそこから物事が僕らから離れていった」

――チームに残ってプレーしたいか。
「ジョンとはすでにプライベートな会話をしたし、さっきも言ったように昨年と同じことをするんだ。この13年間、オフシーズンに春の準備をし、春にエンゼルスのユニフォームを着るということを繰り返してきた」
 

――今後、エンゼルスが向かっている方向に自信はあるか。
「ここ数週間はタフだった。僕以上に勝ちたいと思っている選手はいないんじゃないかな」

――このチームはあなたを勝利に導いてくれると感じているか。
「多くの若い選手が入ってきた。この1年で起こったことを見ていると、4月に我々がここでプレーしていた時に大学でプレーしていた選手(シャヌエル)がここに上がってきて活躍をしているのをみるのは初めてだ。僕はロースター全員を通して見ることができる。アスリートとして、選手として、それは大変なことだ。僕はマイナーリーグを知っている。そこで育って今の僕がある。スポットライトを浴びて信じられないような仕事をするのは大変なことなんだ。彼らは信じられないような仕事をしている」

――今シーズンを振り返ってうまくいかなかったことは。
「いつでも振り返ることはできる。(故障で)テキサスの試合では1試合で4人を失った。でも僕個人としては左手首を骨折した時だった。悔しかった。(これがなければ)状況は少し変わっていたと思う」

――球団とのオフの話し合いについて。
「毎年するよ。あと契約は7年間残っているし、みんな聞きたがっている。2、3週間腰を落ち着けて、家族と一緒に心を整理し、それからオフシーズンごとにフロントオフィスと話をするんだ、それは何も変わらない。2、3週間休んで全体像を見て、何が起こったかを確認するんだ。自分の意見を言うプライベートな会話だ。僕はなんでもする」

――大谷も残り試合欠場が決まった。会話はしたか。
「もう(右肘を)手術をした。よく知らないけど、彼はこの本拠地での試合(最後の6試合)に来ると思うよ。彼はもう日本にいるという多くのリポート(フェイクニュース)も聞く(笑い)」

――右肘を手術をしたと聞いて。
「彼がまだ打てることは見てきた。プレーできることはわかっていた。それから右脇腹の問題が出てきた。信じられないシーズンだった。見ていて楽しかった。(6月の)テキサスのシリーズは凄かった」

――春(WBC後)に彼が戻ってきた時に話をしたいと言っていた。
「もちろんだ。彼とは話したよ。みんな翔平がどこに行く(移籍する)かを僕に聞く。でも最終的には彼が決めることだ。彼は僕に何も言わない。黙っている。チームメートとしてプライバシーを守ってあげればいい。彼が決めることだ。彼にとって彼が正しいことをするだけだ」

――前向きになれることの原動力は。
「このゲームをプレーするのが好きだからだ。僕のキャリアはまだたくさん残っている。だからここでモヤモヤしているわけにはいかない。人生全てにおいてそうするように心がけている」

――プレーオフ進出への思いは。
「一番大事なことは個人的な観点で言えば1年を通してケガをしないようにすること。成功へと確実に繋げるものと思う」

 

 

◯ エンゼルスは25日、本拠地で行われたレンジャーズ戦で逆転負けを喫し、今季ワーストを更新する借金17となった。レンジャーズは6連勝で地区首位をキープ。先発左腕サンドバルが4回無死一塁からガーバーに四球を与えたところで右脇腹の張りで負傷降板した。1点リードの6回には救援ハーゲットが元巨人ガルシアの37号ソロ、ガーバーの19号ソロ、ロウの17号ソロと3者連続被弾。あっという間に逆転を許した。ガルシアはリーグ最多44本塁打の大谷と7本差となった。

 

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◯ ノーラン・シャヌエル内野手が、デビューからの連続出塁を27試合に伸ばし、メジャー歴代単独4位に浮上した。シャヌエルは本拠地でのレンジャーズ戦に「1番一塁」で出場。初回の第1打席で、1ストライクから先発右腕グレイのチェンジアップを振り抜き、右翼線二塁打とした。これでデビューした8月18日のレイズ戦から27試合連続出塁。これは61年ディック・ハウザー(アスレチックス)と66年ジョージ・スコット(レッドソックス)の26試合を抜いて単独4位。1位は84年アルビン・デービス(マリナーズ)の47試合となっている。

 

 

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 ■ 注目記事&コラム

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◆ 大谷翔平は残留か…どうなるFA 二刀流復活の25年にはMLB史上初の年俸74億円も【AKI猪瀬コラム】

AKI猪瀬氏/情報:中日スポーツ)

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 ポストシーズン進出チームが出そろわないほどの激戦になった今シーズン。偉大な記録を樹立したブレーブスのアクーニャ、ダイヤモンドバックスの新人キャロルの大活躍、そしてメッツの千賀やレッドソックスの吉田の新人王争いの行方など話題は満載ですが、やはり読者の皆さんの注目は、大谷のFAの行方だと思います。

 9月19日に右肘靱帯(じんたい)の修復手術を行い、無事成功。どんな術式かは全くわかりませんが、執刀医は打者として2024年開幕からの出場と25年シーズン中に投手としての復活に太鼓判を押しています。24年は二刀流が封印されますが、FA市場での大谷の価値と注目度は変わらないので、争奪戦になります。

 契約年数は、おそらく3年契約になると予想します。契約内容は、打者専任となる24年はヤンキースのジャッジが記録した野手史上最高年俸と同じ4000万ドル(約59億円)。二刀流が復活する25年は4000万ドルの年俸に加えて、投手のパフォーマンス・ボーナスが付帯されるでしょう。

 内容はシーズン5先発を消化した時点で250万ドル、10先発で250万ドル、15先発で250万ドル、20先発で250万ドル。すなわち25年に20先発できれば満額回答の1000万ドルとなり、MLB史上初となる1年5000万ドル(約74億円)の選手が誕生します。

 開幕から二刀流が完全復活する26年は6000万ドル(約88億8000万円)。契約の全体像は3年1億5000万ドル(約222億円)です。そしてこの契約の最大の鍵は、二刀流として復活を果たす25年オフに大谷が3年目の契約を破棄し、再びFAになれるオプトアウトの権利を付帯条項として契約に入れること。このような契約内容でエンゼルスに残留すると思います。

 24年シーズンから打者として出場し、投手としてのリハビリも同時進行で行われます。緻密に計算された日々のリハビリスケジュールを順調に消化するためには、シーズンを通して温暖な気候の南カリフォルニアが最適。そしてエンゼルスには18年のトミー・ジョン手術から大谷が復活するまでサポートした人材と知見があります。仮に他チームに移籍した場合は、新しいメディカルスタッフやトレーナーたちと一から関係性を構築しながら、二刀流の細かなルーティンなどを監督やコーチ、選手たちに理解してもらう必要があります。

 自分が慣れ親しんだエンゼルスに残ることが、今の状況の大谷には得策だと思います。24年も、二刀流が復活する25年もエンゼルスが勝てなかったら、二刀流完全復活を掲げ、オプトアウトを行使して本人が望む「ヒリヒリとした戦い」ができるチームに移籍すれば良いと思います。

 ただ、大谷選手の本心はおそらく「エンゼルスの仲間とともにヒリヒリとした戦い」を演じたいではないでしょうか。自分の力でエンゼルスの仲間をポストシーズンの舞台に導きたい、と思っているような気がしてなりません。(大リーグアナリスト)

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◆ 「大谷翔平“負傷者リスト入り”球団メールにガソリンスタンドで…」“テレビに映らないショウヘイの手術前後”番記者日記「ネトには打撃の助言」

柳原直之氏/情報:NumberWEB)

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 右ヒジ手術を決断した大谷翔平。日本ハム時代から長年にわたって取材する番記者が見た“テレビ中継には映らない日記”で振り返る。(全2回の第1回/第2回も)

《9月15日 タイガース戦:“大谷ロッカー整理に騒然”の舞台裏》

 今季3度目の米国出張初日。午後2時30分。クラブハウスで約1カ月ぶりに見た大谷は以前と何も変わっていなかった。赤い練習用Tシャツ、ハーフパンツ姿。自身のロッカーの椅子に座り、スマートフォンやタブレット端末を触り、忙しなく試合に向けて準備をしていた。数分後にはバットを持って、クラブハウス裏の室内打撃ケージへ。気合がみなぎった表情で、10試合連続で欠場している選手の姿にはとても見えなかった。

 だが、スタメン発表は遅れ、発表されたのは通常より1時間ほど遅い、試合開始の2時間30分前。出場の可否を巡り、結論が遅れたことが予想されたが、大谷の名前はなかった。

釈然としない説明にアメリカ人記者が詰め寄る場面も
 驚きは試合後だった。

 監督会見が終わり、クラブハウスに向かうと、大谷は既にロッカーを整理して球場を後にしていた。バット、グラブ、スパイク、帽子など野球道具一式がなくなり、荷物がぱんぱんに詰められた今夏の球宴仕様のロゴ入りボストンバッグが置かれていたのみ。

 練習用Tシャツ約10枚、ユニホームの下、赤い5本指靴下、サンダル、ボール一つは残されていたが、自身が契約するニューバランスの大量の靴箱、サッカー元日本代表の吉田麻也のロサンゼルス・ギャラクシーのユニホームなど大谷個人の私物とみられるものは全て片付けられていた。

 当初、エ軍広報は「分からない」と詳細を伏せた。その後も釈然としない説明が続き、スポーツサイト「ジ・アスレチック」のサム・ブラム記者が「大谷は野球界だけでなく、スポーツ界のスーパースターなんだぞ」と詰め寄る場面もあった。

 その後、広報はクラブハウス裏でペリー・ミナシアンGMら上層部と話し合いの場を持ち「状況は変わらない。16日(日本時間17日)に何らかの発表を行う予定」と説明するのがやっと。大谷が本塁打を打った際に兜を被せる役目でお馴染みの外野手のフィリップスも「彼はどこに行った?  僕は分からない」と困惑気味だった。

 大谷は3日(同4日)アスレチックス戦に打者出場して以降、試合に出場しておらず、これで11試合連続の欠場。試合は2-11で敗れて3連敗。“逆マジック”を示すエリミネーションナンバーが「0」となり、地区優勝の可能性が完全に消滅した。

 チームの勝利に誰よりも飢えている大谷らしい決断のタイミングとも言えたが、突然の“別れ”に日米約20人の報道陣は騒然となった。

 

球団からのメールを受け、ガソリンスタンドで…


《9月16日 タイガース戦:LAで“張り込み”開始》

 紙面3ページの原稿を任された前夜の執筆は深夜にまで及び、一段落がついた時に時計の針は午前4時を回っていた。ただ、このままナイターゲームの取材に備えて眠りにつくわけにはいかなかった。

 24年の打者での開幕、25年の二刀流復帰を目指して、右肘の手術は早ければ早いに越したことはない。18年の1度目の右肘手術はシーズン終了翌日だったことも頭に残っていた。アナハイムから約40分かけてレンタカーを飛ばし、ロサンゼルス市内の「カーラン・ジョーブ・クリニック」に到着。寝ずに午前7時から病院近くで“張り込み”が始まった。

 定期的に場所を変えながら、ひたすら待ち続けた。

 複数ある病院の入り口に視線を送ること約4時間。残念ながら、大谷の姿を確認することはできなかった。だが、再びアナハイムへと車を走らせた道中で、球団からメールが届いた。内容は「大谷が右脇腹痛で負傷者リスト入り」という発表。すぐに高速道路を降りて、ガソリンスタンドの駐車場で速報記事を配信。球場に到着したのはミナシアンGMの会見開始30分前だった。

ベンチに姿を現した大谷は三冠王カブレラに…


 日米計50人以上の報道陣が集まった会見場は、無数のフラッシュに包まれた。ミナシアンGMは、大谷が前日に右脇腹のMRI検査を受けたことを明かしたうえで「(前日15日の)試合の初回あたりで結果が出てから、彼は荷物をまとめ始めた。近日中に右肘じん帯の手術を受けるだろう。手術方法など詳細は分からない」と説明した。

 さらに「彼は早めに手術を受けて24年に準備したいと考えている。それが彼の考え方。彼は特別な男、特別な選手。(GMに就任後)この3年間、彼に出会えて光栄だった。彼ができるだけ長くここにいることを願っている」と率直な思いを口にした。

 この日、大谷は試合中にベンチに姿を現した。

 今季限りで引退する現役唯一の三冠王経験者カブレラに帽子を取って笑顔であいさつし、モニアクらと笑いながら言葉を交わした。その様子を撮影しようとベンチ上の観客席には人だかりができ、スタッフがファンを制する場面もあった。チームは4連敗を喫し、9年連続でプレーオフ進出の可能性が消滅した。

 

大谷がネトに身振り手振りで打撃の助言を


《9月17日 タイガース戦:ネビン監督が語った“ショウヘイの好影響”》

 前日に右脇腹炎症で負傷者リスト入りして今季残り試合の欠場が決まった大谷は2試合連続でベンチに姿を現した。グリチェクらと笑顔で話し、新人遊撃手のネトには身振り手振りを加えて打撃の助言を送る場面もあった。試合は敗れ、5連敗で16年から8年連続でシーズン負け越しが決定した。

 フィル・ネビン監督は大谷について「野球の教訓は経験を積んだ同僚から得るもの。若手は翔平の靴下のはき方から、人と話すときの様子まで見ている」と好影響を語った。右脇腹炎症だけでなく右肘じん帯損傷も抱える大谷は19日からの遠征には同行せず、25日(同26日)からの本拠地6試合でチームに再び合流することが改めて発表された。この時点で試合のない18日に右肘の手術を受けるのではと予想を立て、病院近くのホテルに宿の予約を切り替えた。

 ◇ ◇ ◇

 手術のために大谷は病院を訪れるのか……番記者としての責務を背負った筆者は、エンゼルス戦のない休養日も仕事をしつつ、大谷のいないエンゼルスを追う遠征へと旅立つことになる。しかしその姿はなくても、ベンチ内での話題には背番号17の存在感の大きさを感じることになる――。

<第2回に続く>

(「メジャーリーグPRESS」柳原直之(スポーツニッポン) = 文)

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◆ 大谷翔平が病院に来るかも?「“患者さん”を待ってます」張り込みのち番記者が聞いた“ヒジ手術先輩”のエール「復活は間違いないだろう」

柳原直之氏/情報:NumberWEB)

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右ヒジ手術を決断した大谷翔平。日本ハム時代から長年にわたって取材する番記者が見た“テレビ中継には映らない日記”で振り返る。(全2回の第2回/第1回も)

《9月18日 試合のない休養日:「患者さんを待っています」》

 遠征に帯同されない大谷が“来る”かもしれない――。

 午前7時。再びロサンゼルス市内の「カーラン・ジョーブ・クリニック」でカメラマンとともに張り込みを始めた。この日も定期的に場所を変えていたが、公共の立体駐車場でしばらくすると女性警備員がこちらを見ていることに気付いた。胸の鼓動が自然と早くなった。近づいてくる。不審に思われたのだろう。ついには声を掛けられた。

「こんにちは? 何か手伝えることはある? 患者さんを待っているの?」

 女性警備員の笑顔は意外なほどにやさしかった。

「そうです、患者さんを待っています」

 嘘ではない。だが、モヤモヤとしたものが残り、心優しい女性警備員に対して少し申し訳ない気持ちになった。

 正午を過ぎても大谷は来なかった。カメラマンに後を託し、エンゼルスの次の遠征先となるフロリダ州タンパへ移動。大谷はチームに同行していないが、ミナシアンGM、ネビン監督から大谷に関する情報のアップデートがあるため、担当記者として“外せない”遠征だ。移動中にカメラマンから大谷がこの日も病院に来なかった報告を受けた。別の病院で手術を受けるのか。

 大谷はどこへ向かったのか。そんな不安をよそに、翌19日に事態は大きく動いた。

米国での“日帰り手術”は一般的だと聞いて…
《9月19日 レイズ戦:監督、GMに話をぶつけてみると》

 ロサンゼルスからシカゴを経由し、レッド・アイ(深夜便)で午前中にタンパに到着。カメラマンから「来ました」というLINEが届いた。主語はなかったが、何が起こったのかすぐに察した。

 その報告によれば、大谷は午前7時前には「カーラン・ジョーブ・クリニック」に入った可能性が高いという。同15分にネズ・バレロ代理人と水原一平通訳が病院から外出し、約3時間後の10時30分に戻ったことを確認。11時30分にバレロ代理人が自身の車を病院の裏口に回し、午後0時15分に車が出発した。大谷の姿は確認できなかったが、乗車していたのではという推察だ。

 この時点でもちろん100%の確証は得られなかったが、状況的に右肘の手術を受けたと考えていいだろう。入院の可能性も考えられたが、日本の医療関係者から、肘のデイ・サージャーリー(日帰り手術)は米国では一般的だと聞き、さらに納得がいった。

 既に締め切りは過ぎ、新聞への掲載は間に合わない。あとは、いつ球団から発表されるかを待つだけだった。

 

「翔平は今後、何年も二刀流を続けることを希望した」


 ところが、レイズの本拠地トロピカーナ・フィールドについてもなかなか情報は出回らなかった。ネビン監督は試合前会見で、大谷の右肘手術の予定など新情報を尋ねられたが「NO!」と一蹴。それどころか「彼が今、何をしているのか分からない。ただ家でゆっくり過ごしているのではないか」と続けた。

 このまま公表しないのか。そんな疑念を抱き始めた頃、練習中の三塁ベンチでミナシアンGMとアダム・チョズコー広報部長が密談。直後にミナシアンGMに話を聞きにいくと「今は何も言えない。すぐに分かる」とひと言。

 その5分後の午後4時37分だった。球団はバレロ代理人の声明として「大谷がロサンゼルス市内の病院でじん帯を損傷している右肘の手術に成功した」というリリースを発表した。手術法は未発表だったが、バレロ代理人は「翔平は今後、何年も二刀流を続けることを希望した」というコメントを寄せた。

疑問は残ったが、契約に影響を与えるのは間違いない


 右肘じん帯を損傷して以降も沈黙していた大谷も、自身のSNSを更新。「早朝に手術を受け無事成功しました。不本意ながらシーズン途中でチームを離れることになりましたが残り試合のチームの勝利を祈りつつ、自分自身一日でも早くグラウンドに戻れるように頑張ります」と報告。敵地でのレイズ戦後に吉報を聞いたネビン監督は「電話をして、元気にしているか確認したい」と頬を緩めた。

 試合前にネビン監督は本心で話しているように見えた。

 あの時点で本当に大谷の手術を知らなかったのか。女性警備員が球団に報告した可能性も捨てきれないが、なぜ発表は試合前でも試合後の会見ではなく、すぐに会見を開くことができない試合開始2時間前という不可思議なタイミングだったのか。そして24年の打者、25年の投手復帰への見通しを発表したのに、手術法を伏せたのはなぜだろうか――。

 数々の疑問が残ったが、この手術が今季終了後にFAになる大谷の契約にも影響を与えることは間違いない。スポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」は声明に不明点が多いとし「大谷と代理人が情報提供を拒否したことで、さらに複雑化している」と断じた。

 

“手術の先輩”いわく「彼は長く健康でいられるだろう」


《9月20日 レイズ戦:“ハイブリッド手術の先輩”に聞いた経験談》

 試合前、レイズのクラブハウスに向かった。21年8月に受けた右肘のハイブリッド手術から今季復活を遂げた先発右腕グラスノーに話を聞くためだ。2メートル3、102キロの巨体は想像以上のド迫力。ただ、物腰は柔らかく穏やかな口調で語り始めた。

「手術後、不快感はあるかもしれないが、1年半以内にそれはなくなるだろう。真新しいじん帯がつくられる感覚が生まれ、その後は良い投球ができるだろう。そうすれば彼は長く健康でいられるだろう」

 グラスノーは21年6月に右肘じん帯損傷が判明。8月に人工じん帯を入れてより強化する「インターナル・ブレース」と、自身の腱を移植するじん帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)を同時に行うハイブリッド手術を受けた。今年5月に復帰し、ここまで19試合に投げ9勝6敗、防御率3.53と先発ローテーションの一角として活躍している。

 一般的に人工じん帯は自身の腱を移植する手術法より患部の違和感が強いとされる。ただ、グラスノーは「移植した腱は最初は固く締まって結んでいるし、それがハイブリッドの場合、二重。手術するまで右肘痛に長いこと苦しんでいたからそれくらいの張りはなんでもなかった。今は手術から2年。全く問題はなくなっている」と語った。

 大谷より1歳年上の93年生まれの30歳。大谷と会話をしたことがないが、同世代で同じ100マイル(約161キロ)超えの速球を武器とする同タイプの先発右腕として意識する存在だ。「彼には本当に良い医師がいて、きっちり運動量も管理されているから大丈夫だ。すぐに“新品”のように元気になるだろう。彼が復活するかどうかなんてノークエスチョンだ。驚異的でアメージングな選手。(復活は)間違いないだろう」と期待を寄せた。 

ここ最近初めてショウヘイの質問が出なかった
《9月21日 レイズ戦:少女に監督が「ノー・オオタニ。ソーリー」》

 試合前の監督会見後。ネビン監督は「ここ最近で初めて翔平の質問が出なかった」と笑った。

 大谷に関する質問は日米メディア問わず頻繁に飛び出るが、4日の試合前フリー打撃で右脇腹を痛めて以降は欠場が続いたため、毎日、大谷の状態やスタメン出場に関する質問が飛んでいた。

 事前に大谷が今回の遠征に帯同されないことが分かっていたため、遠征にやって来た米メディアは地元紙1人、大リーグ公式サイトの遊軍記者1人、中継局のスタッフのみ。残りは日本メディアで合計10人ほどしかいなかった。

「ノー・オオタニ。ソーリー」


 スタンドにはいつもは大勢見かける日本のファンも少なかった。試合前練習では、関係者に連れられてグラウンドでシティー・コネクト仕様の大谷の背番号17のユニホームを着用した少女が練習見学していたが、ネビン監督が歩み寄り「ノー・オオタニ。ソーリー」と謝る場面もあった。

 試合は9回1点リードを抑えのエステベスが守れずサヨナラ負け。8月は8勝19敗、9月は5勝14敗と大失速で、クラブハウスは暗い空気に包まれた。

(「メジャーリーグPRESS」柳原直之(スポーツニッポン) = 文)

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◆ 菊池雄星が「これでダメだったらダメでしょ」と臨んだメジャー5年目 2つの欠点を改善して掴んだ二桁勝利

杉浦大介氏/情報:webSportiva)

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【「やっと辿り着いた」メジャー5年目の二桁勝利】

「5年目で初めてですからね......。『やっと』というところ。嬉しいです。チームも勝ち、(自身の勝ち星も)二桁に乗って、すっきりとした部分はあります」

 節目の勝利に到達した直後、ヤンキースタジアムの通路で取材に応じた菊池雄星からは歓喜というよりも、安堵を感じた。

 トロント・ブルージェイズの先発として活躍する菊池は現地時間9月19日、敵地でのヤンキース戦で今季10勝目を挙げた。8月2日のボルティモア・オリオールズ戦以来、白星から遠ざかること7戦。8度目の挑戦で自身メジャー初の二桁勝利を挙げ、噛み締めるように感慨にふけった。

「時間がかかりましたからね。家族、トレーナー、通訳とも一緒に悩んで、一緒に戦って、やっと辿り着いた。まだまだここが天井だとは思っていないですけど、みんなで喜べるというのは嬉しいですね」

 近年のMLBでは投手の勝ち星が軽視される風潮にあるが、特に先発投手の場合、リードを保って5イニング以上を投げなければならないのだから、勝利投手になることが無価値だとはやはり思えない。いや、投手の役割分担が完全確立した時代だからこそ、先発の積み重ねた勝利数には余計に意味があるとも言えるのではないか。

 シーズン30度目の先発となったヤンキース戦でも、菊池はニューヨークの3万8545人のファンの前で6回途中1失点と好投した。今季に5イニング以上を投げて1失点以下ゲームは14度。最後は左上部僧帽筋のけいれんで降板したものの、ワイルドカード争い真っ只中で負けられないチームの快勝に大きく貢献。自身の仕事を果たしてのマイルストーン(節目の記録)到達に、試合後の笑顔は爽やかだった。

 ここに辿り着くまで、菊池はアップ&ダウンが激しい道のりを歩んできた。シアトル・マリナーズ時代の2021年にはオールスターに選出され、そのオフにブルージェイズと3年3600万ドル(約50億円)で契約。しかし、新天地での1年目となった昨季は防御率5.19と不調に終わった。シーズン中に中継ぎへの配置転換を言い渡され、その直後に訪れたヤンキースタジアムで悔しさを押し殺しながら前を向いていた姿が思い出される。

「先発として求められてこのチームに来ているわけだから、そのポジションで1年間やり通せなかった悔しさもあります。ただ、監督も言っていた通り、中継ぎに回ることで何か気づくこともあるでしょう。それは今年だけじゃなく、来年以降も含めて、ということで」

 

【昨シーズンとは別人】

 あれから1年――。今季ここまでを振り返ると、昨シーズンとは別人のような数字が並んでいる。6月は5度の登板で防御率2.28と波に乗ると、オールスター以降の13登板で防御率3.25、被打率.252と安定。シーズンを通して見ると、与四球率が昨季の5.19から今季は2.55、被本塁打率が同2.06から1.44と大きく向上し、「与四球と被本塁打の多さ」という、これまで指摘されてきた欠点に改善が見られるのが何よりも大きい。

「カーブを上手に使っている。変化球で安定した形でストライクが取れるようになったから打たれなくなったのか、球のキレが増したから思い切ってストライクゾーンに投げ込めるようになったのか。そのどちらかを特定するのは難しいが、菊池の潜在能力が開花し始めた感がある」

 某MLBチームのスカウトは菊池の変化をそう分析してくれたが、実際に今季の菊池は主武器のひとつだったカッターを投げなくなった代わりに、過去3シーズンはほぼ使わなかったカーブを全体の18.9%の割合で投じている。6月中旬、カーブを多投するようになった目的を菊池自身もこう話していた。

「スライダー、チェンジアップは球速88から90(マイル)ぐらいで球速差が小さいため、速球の後に投げても打者に当てられてしまうケースが多かったんです。そこに82、3マイルのカーブが入ってくると、相手打者のミスショットも増えたり、ウィークコンタクト(弱い打球)も増えていく。今はうまく散らせながら、というのをテーマにやってます」

 先ほどのスカウトの言葉通り、90マイル台後半の速球と82~83マイルのカーブで緩急をつけ、打者の的を外せるようになったことで制球面でも余裕が生まれたのか。それともコントロールがよくなったから、このような組み立ても生きているのか。どちらが先だったのかを判断するのは難しいが、いずれにせよ、ついに向上の術を見つけた32歳の左腕が、メジャー5年目にして自己最高のシーズンを過ごしていることは間違いない。

「いろんな経験をしたので、悔しさをオフシーズンに(ぶつけました)。オフはとにかく24時間、野球のことを考えて、やれることはすべてやった。『これでダメだったらダメでしょ』っていう感じで開き直れたんです。それくらいのことはやったから、結果はついてくるでしょっていう感じで、楽しんでやれています」

 

【プレーオフでの登板へ】

 背水の陣で臨んだシーズンで、菊池は自他ともに認める好成績を残している。実際に、最近の投球フォームは躍動感に溢れ、楽しんでいる印象もある。多少の時間はかかったが、こんな成功の仕方もあるのだろう。

 今季、大谷翔平、千賀滉大に次いで二桁勝利を挙げた3人目の日本人投手になった菊池には、プレーオフでの登板のチャンスも見えてきている。ブルージェイズは現在、ワイルドカード圏内に入っており、上位進出の夢は膨らむ。

「(今後の登板機会でも)理想は勝っている状態でバトンを渡すこと。とにかく勝てるチャンスを残して、バトンを渡したい。先を考えずに、1球1球全力で投げていきたい」

 二桁勝利はひとつの到達点だが、大事なのはまだまだこれから。9月25日のタンパベイ・レイズ戦は4回3失点で勝敗がつかなかったが、再び前を見据えた菊池の視界に、さらに楽しみなステージがもうすぐ入ってこようとしている。

杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke

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