2023年1月2日

 

(NOTE)

 

各社同時公開となったが、やっぱり石田雄太氏のインタビューに読み応えがある!

 

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 ■ 侍ジャパン栗山英樹監督【各社新春インタービュー】

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webSportiva:石田雄太氏

◆ 侍ジャパン・栗山英樹監督が明かす、大谷翔平WBC参戦までの舞台裏。殺し文句は「日本野球の将来のためだから」

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【日本代表監督の仕事】

 

── 日本代表の監督として動いてきたこの1年、どんなことを感じてきましたか。

栗山 おおよそは野球の監督という動きではなかったですね。秋にオーストラリアとの強化試合を2試合戦いましたが、それ以外、前に進んだことは何かと言われれば、メジャーでプレーする選手たちが日本の野球のために参加すると言ってくれたことだと思っています。つまりはジャパンの監督って、仕事の9割5分はGM(ゼネラルマネージャー)のような仕事だったんだなと......ファイターズの監督の時とはやることも違うし、野球の見方も違うんだということは痛感しています。

 

── GM的な仕事の難しさ、おもしろさのようなものをどんなところに感じたのでしょう。

栗山 おもしろさを感じる余裕はどこにもありませんでしたが(苦笑)、ダル(ダルビッシュ有)や(大谷)翔平、(鈴木)誠也が参加すると言ってくれたことはものすごく大きなことだと思っています。彼らと話をしてきたなかで、物事を決めていく時に自分はどうすべきなのかということを学ぶことができました。今まで仕事というのは明日に残してはいけない、決断は今日下すものだと思ってやってきましたが、決まらないこともある。明日へつないでつないで、最後の最後まであきらめないことも大事なんだと思い知らされました。

 

── 大谷選手については、ファイターズでプレーしていた5年前にWBCへ出るチャンスがありました。残念ながら辞退することになってしまいましたが、その時にファイターズの監督として彼のWBCへの強い想いを間近で感じていたと思います。あれから時を経て栗山監督はジャパンの監督に、大谷選手はメジャーで二刀流のプレーヤーとなった......この夏、アメリカで大谷選手に会った時、どんな殺し文句を発したのでしょう。

栗山 そうですね、それはどこまで話していいものか(笑)。まず翔平がメジャーであれだけの成績を残した昨年、帰国して食事した時、僕がジャパンの監督になったことを知っているのに3時間、彼からはWBCについての話がまったく出てこないんですよ(笑)。まったくもって翔平らしいというか、ねぇ(苦笑)。

 

 ただ、彼が(昨年の)1月にアメリカへ戻る時、きちんと仁義はきっておかなきゃと思ったので、こちらから連絡したんです。そうしたら彼のほうから「アメリカで待ってますよ」って......これはつまり、今はまだ何も言わないでくださいね、という意味なんだろうなと自分なりに空気を読みました。たしかに面と向かって話をしなければこちらの魂は伝わらないと考えていましたし、翔平との間のなんとも言えない独特の距離感はよくわかっているつもりだったので「よし、時期が来たら会いに行こう」と、そんなふうに思っていました。

 

── 実際、8月に渡米して大谷選手に会ったんですよね。

栗山 ほかの選手とは食事をしながら2時間くらいは話ができたんですが、翔平とはホントに一瞬(笑)。「お疲れさまでした」みたいな感じで、そのままフッと行っちゃおうとしましたから......。

 

── 大谷翔平あるあるですね(笑)。

栗山 さすがにその時は翔平を引き留めてひと言、こちらの想いを伝えました。何の反応もなかったし何も答えなかったけど......それも翔平らしいんですよね。こちらが正式に何も伝えておらず、物事だけがどんどん進んでしまっている雰囲気のなか、僕は翔平という人はこちらが考えていることをさらに上回って考えられるとも思っていて、だから野球に関してはすべてお見通しだろうし、信用もしていますしね。だから僕がジャパンの監督に就任して、翔平はメジャーでプレーするなかでもトップの選手で、そこのところのけじめは、いずれはつけなくちゃいけないと思っていました。

 

【大谷翔平からの突然の電話】

 

── けじめをつけるためのひと言とは、どんな言葉だったんでしょう。

栗山 日本野球の将来のためだから、と。

 

── WBCで勝ちきることが?

栗山 そうですね。もちろんそれを誰よりもわかっているのは翔平で、これからの日本の野球のためにこのWBCがどういう意味を持つのか。メジャーでプレーする選手が出場することがどんな意味を持っているのか。そこを彼はわかっていると思うからこそ、そのひと言だけで十分だと思いました。

 

── そのひと言に大谷選手は応えてくれたということですね。

栗山 すごくビックリしたのは、翔平から僕に直接、電話がかかってきたんですよ。着信を見たら翔平だったから、最初は「うわっ、何かアクシデントがあったのか」と思いました。だから、あまりに怖くてすぐに出られなかったんです。だって僕にとっていい話だったら、翔平は直に連絡しなくてもいいじゃないですか。(通訳の水原)一平を通して、OKです、と伝えれば済む話で、わざわざ僕に電話をかけてくるとしたら、ケガとか事故とか、何かがあったんじゃないかと胸がザワッとしたわけです。

 

 そうしたら、最初、全然違う話をしてきたから、あれっと思っていたら、最後に「あのー」とか言って、「出ます」と......翔平のほうもきちんとけじめをつけて、自分でちゃんと言わなきゃと思ってくれたんでしょうね。もちろん僕も、きちんとお願いしたつもりだったし、その時はきちんとありがとうございますと感謝の気持ちを伝えました。

 

── 内心はガッツポーズをしたいくらいの気持ちだったのでは?

栗山 いやぁ、そうばっかりでもなくて......やっぱりピッチャーを預かるというのは大変なことなんです。翔平もダルも、日本の球団のピッチャーも、こちらが選んで来てもらうピッチャーはみんなそうです。シーズンの開幕前に、契約を交わしているわけでもないジャパンに来てくれるのは「監督、大丈夫ですよね、ちゃんとやってくれますよね」と信頼してもらっているからであって、僕には彼らを絶対に壊しちゃいけないという責任があります。だから調整についても、試合での起用法も、本人たちとしっかり話し込んで、彼らの意向を大事に考えていかなきゃいけない......そういう重たい気持ちのほうが先に立ちました。

 

── ピッチャー? 大谷選手はバッターじゃなくてピッチャーなんですか?

栗山 そこはいろんなパターンを考えておかないと、とくにピッチャーというのは事前に準備しておかなければ何もできないでしょう。今、いろんなことを言っているのは、ファンの人たちに夢を見てもらいたいからということはあります。そこは本音を言えば、どうなるかはまだわかりません。ごめんなさい。ただ、日本が勝つためにみんなができる限りのことをやりますよ、という雰囲気をつくっておきたい気持ちはあるし、ピッチャーとバッター、2人の翔平がいてくれれば、それが一番いいに決まってる。

 

 翔平だけじゃなく、WBCに馳せ参じてくれる選手はみんな、シーズンへ向かう過程の中にこの大会があって、忘れてはならないのは彼らが契約しているのはジャパンではなく、それぞれのチームだということ。だからみんなにこの期間、どう進みたいのかという話はしているし、シーズンのための準備をさせなきゃいけない責任が僕にはあるので、ジャパンが勝つためだからといって好き勝手に使えるものではない。

 

 そのなかで、勝つために最低限、こうはできないものかという形に向かうようには考えたいんです。たとえばピッチャーとして言うなら、先発ができるくらいの準備ができていれば1、2イニングのリリーフはできるわけで、そこは身体の状態やそれぞれの開幕へ向けた調整法、あとは所属するチームとの約束事とか、そういったものをすべて大切に考えながら進めていきます。翔平に関しても、バッターだけかもしれないし、先発だけかもしれない。今はまだ何も決まっていないというのが本当のところです。

 

【大谷翔平が参戦する意義】

 

── でも、ピッチャーでもバッターでも、大谷選手がWBCに出場するというインパクトは計り知れません。

栗山 その喜びというか、うれしさはもちろん僕にもあります。プレッシャーもあるし、出ると聞いてホッとしたのも事実ですが、日本のファンのみなさんも、日本の若い選手たちもきっと喜んでくれるんじゃないかと思っています。野球をやっている、やっていないに関わらず、この国の子どもたちに今の大谷翔平を見せてあげたかったし、翔平がジャパンのユニフォームを着てプレーすることがとてつもなく大きなメッセージになることは間違いない。僕がそのためだけにジャパンの監督になったとは思いたくないけど、でもそれは僕がしなくちゃいけない使命だということくらいは想像がつきましたからね。そういう意味での安堵感はありました。

 

── ただ、ファイターズの時に栗山監督はピッチャーとしての大谷選手をマウンドへ送り出すたびに壊れないだろうかと常に胃の痛い日々を過ごしていました。またそうした日々が始まりますね。

栗山 そうですね......その責任の大きさは忘れずに努めなければいけないと感じています。さらにもうひとつ、この5年間で翔平も肉体的に成長しているだろうし、そこをきちんと把握したうえで、ボールも違う、マウンドも違う、そういう環境の違いが何かを起こすリスクは常にありますから、ジャパンの監督をしている以上、預かった選手を無事にそれぞれのチームへお返しするまではホッとなんかしていられないという気持ちも、もちろんあります。

 

── そういう厳しい環境の大会に、大谷選手は何を求めて出場すると想像していますか。

栗山 そこは正直、わかりません。ただ......これはあくまで僕が感じていることですが、勝ちきりたい想いが強いからなのかな。アメリカの野球を知って、アメリカのいい選手が参加する......そういう選手たちと勝負して、勝ちきりたいんだろうなという想像はできますよね。今、チームで勝ちきれない悔しさ、チームを背負っているあの感じ......打って、投げて、というだけじゃない野球の原点にあるチームが勝つ喜びを感じたい。話したことはないからわからないけど、そんなふうなことじゃないのかなと思っています。

 

【大人になったダルビッシュ】

 

── 逆に、大谷選手がいることで、日本でプレーする選手に与える影響はどんなところに期待していますか。

栗山 それはもう、翔平がミーティングルームに「ちーっす」とか言って入ってきたら、みんな緊張するでしょう。チームがピリッとするのは間違いない。ダルだってこの夏にアメリカで食事をした時、すごく大人になっていて驚きました。いや、想像はしていましたが、僕なんかの想像をはるかに超えて、すべてがすごかった。今回、日本から選ばれる選手のほとんどは、野球をやり始めた頃に第1回、第2回のWBCを見ている世代ですよね。そういう選手が、もはや伝説となっているダルと一緒にプレーして、その凄味を間近で感じながら超えるために必死になる姿を僕も見たい。

 

 ダルだって「今の若い子たちからは学ぶことがたくさんあって、彼らと一緒にやることで自分がもっと進化できるかもしれないと思っているんです」と言ってくれてるんですから......ね、すごいでしょ。たとえば、いつから合流するのかなんて聞いてもいないのに、ダルのほうから「チームがひとつになるのに2月からいないのはまずいでしょう」と言ってくれる。

 

── ダルビッシュ投手が胴上げ投手となった2009年、山本由伸投手は10歳、村上宗隆選手は9歳、佐々木朗希投手は7歳でした。

栗山 そういう伝説の選手を間近で見た時、野球に対して命がけにならない選手はいないと思うんです。彼らにはダルのことをすごいと思って臆するんじゃなく、ガンガン、ぶつかっていってほしい。「どうなんですか」「こうなんですか」「こうやりましょうよ」って......ダルには彼らを受け止めてくれる大きさがあるから、それを若い選手に求めたい。遠慮しないでいってくれ、と。ダルも若い時はそうだったんだ、明日はダルのようになれるんだと考えてほしいと思っています。

 

── そして鈴木誠也選手は、大谷選手と同い年です。彼の参加も大きいですよね。

栗山 誠也の場合、今のカブスが彼を中心に外野を考えているなかで、その責任をすごく感じているはずです。それでも日本のために難しい調整を強いられる覚悟をして駆けつけてくれる。その決断はものすごく重たかったと思います。翔平にしても同い年の誠也がいてくれるのは大きいでしょう。どうしたってメジャーリーガーが野手で翔平だけだと、みんなの輪から離れた感じになってしまう。それが野手に誠也と翔平がいて、ピッチャーにはダルと翔平がいてくれれば、チームの中で真ん中にいるべき選手がギュッ、ボーンといる感じになります。

 

── やっぱり大谷選手は2人なんですね(笑)。

栗山 それはそうですよ。だって10年前、「翔平は2人いる」と最初に言ったのは......。

 

── 監督でした(笑)。

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◆ 栗山英樹監督が語るWBCでの選手起用論。「先発投手は4人で十分。5人目の先発は力があるとわかっていても選ばない可能性もある」

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【今回WBCのテーマは?】

 

── 過去4度のWBCでは、準決勝を勝った第1、2回大会は優勝。優勝できなかった第3、4回大会は準決勝で敗れています。オリンピックも含めてジャパンの鬼門となってきた準決勝ですが、栗山監督は今回、準決勝からの逆算をするお考えはありますか。

栗山 準決勝からの逆算をするつもりはありませんが、準々決勝、準決勝は絶対に勝ち抜かなければ決勝にいけないというふうには思っています。

 

── 大事にするのは準々決勝と準決勝。

栗山 そういうふうには言いたくない(笑)。ただ事実として、そこを抜けなければ決勝には行けないということはあります。最後までいけば、必ず何かを起こせると思っていますから......僕はアメリカをやっつけたいんです。憧れて戦うわけじゃない。あのすごいメンバーに勝ってやると思っていて、それが日本の野球にとって大きな意味を持つと思っています。そのためには(アメリカが勝ち上がってくる前提で)準々決勝を抜けなければアメリカと戦えないし、準決勝を勝てなければアメリカにも勝てていないことになります。

 

── 準々決勝と準決勝というのは負けたら終わる。まして準決勝は、準々決勝で勝った直後に渡米してすぐ、慣れないマイアミの球場で戦わなければならない。その大事で難しい試合を託すのは誰か、というイメージは必要ですよね。

栗山 もちろんです。

 

── それはすでにメジャーで絶対的な力を示しているダルビッシュ投手なのか、あるいはその力をこれから世界に示さなければならない山本由伸投手なのか、どちらでしょう。

栗山 僕はこのWBCにはいくつかのテーマがあると思っていて、そのなかにはメジャーを圧倒できる次代の日本のスターをつくるということもあると考えています。同時に、歴史というものは勝者の歴史なので、勝たなければやったことが伝わらない可能性もあります。もちろん由伸や(佐々木)朗希の状態がよければそこでいくべきだけど、2人を上回るピッチャーがいれば躊躇すべきでないという考え方もあります。野球は勝ちにいかなきゃいけないわけで、日本野球の未来のための舞台ではあるけど、ひとりの選手の未来のための舞台ではない。

 

── ということは、準決勝は山本投手ではなく、ダルビッシュ投手の可能性も......。

栗山 だから、気が早すぎますって(笑)。準々決勝は3月16日の東京ドーム、準決勝はアメリカに移動して19日か20日......少し間が開くので、いろんな幅ができる可能性がありますからね。球数のこともあるし、東京ドームの準々決勝で3人の先発ピッチャーを3イニングずつ突っ込んじゃうかもしれない。

 

 決勝までいけば、投げられるピッチャーを1イニングずついってもらうことだってあるかもしれません。先を計算してその前で負けてしまっては何にもなりませんからね。チームは生きものだし、だからこそ、この選手が今は元気なのか、弱っているのかを間違わずに見極めることが監督としての勝負だと思っています。選手をグラウンドへ送り出せば、あとは僕の周りには野球をよく知っているコーチ、スタッフがたくさんいますから。

 

【先発投手は4人で十分】

 

── 1次ラウンドは3月9日から12日までの4連戦です。中国、韓国、チェコ、オーストラリアの順番で、準々決勝が16日。時差のあるアメリカに渡って準決勝は19日か20日のどちらか、決勝が21日です。となると1次ラウンドで韓国戦に投げたピッチャーを、中5日で準々決勝に起用するのか、あるいは中8、9日で準決勝に回すのか。

栗山 球数が60球なら、中5日で準々決勝の可能性はあります。1次ラウンドでは韓国戦が大事になってくるのは間違いないので、そこの流れをどう考えるか。中国戦に投げて準々決勝に向かう考え方もありますが、いずれにしても先発ピッチャーはそんなにたくさんは必要ないでしょう。

 

── 4人、ですかね。

栗山 4人で十分でしょう。問題は球数制限があるなか、先発はイニング頭からいけますが、セカンド先発(2番手)はイニング途中からいく。それがあまりうまくないピッチャーもいますからね。決まった時間に向けて準備をしていかないと力を発揮できないタイプにセカンド先発は務まりません。

 

 この前の秋の強化試合でも、ブルペンからはそれが難しいピッチャーはいると報告を受けています。だからピッチャー陣は先発を4人選んだら、5人目の先発は力があるとわかっていても選ばない可能性もある。セカンド先発のできるタイプを優先させて、先発は4人で勝負するとハラを括るのは難しい決断ではありますが、たくさんいる代表候補の先発ピッチャーたちには、その4枠を自力でもぎ取るんだという気持ちでいてもらいたいと思っています。

 

── 先発4人、あとは......。

栗山 セカンド先発としてブルペンに入るグループは3つにわかれていて、セカンド先発、1イニングを投げるショートリリーフ、その両方ができる人......ピッチャーは最低14人を選ばなければならないレギュレーションですから、先発の4人以外には10人。抑えについてはまだ決めなくてもいいと思っています。

 

 抑えができるピッチャーはたくさんいますからね。湯浅(京己)もそうだし、ダルもWBCで経験があるし、由伸もリリーフをやっていた。翔平だって......先発もキツいけど、最後を託されるのも相当キツい。もちろん、そういう起用法を考えるピッチャーについては、事前にそれぞれのチームと相談してからになりますが。

 

【日本のプロ野球は過渡期】

 

── 野手についてはいかがでしょう。監督は1年前、センターラインが絶対的に大事だとおっしゃっていました。今、じつはそこが一番見えにくいんですが......。

栗山 ここまで来て、誰が見てもセンターラインのこのポジションはこの人に任せようというふうになってないことが、僕にとっても驚きです。それは今の日本のプロ野球が過渡期であることを象徴しているというふうにも考えられる。きっと本当のスーパースターが生まれる前夜なんです。キャッチャーなら城島(健司)や阿部(慎之助)、二遊間なら(宮本)慎也とか、(坂本)勇人もそうだし、センターなら柳田(悠岐)が歳を重ねてどうなのか。今は誰が選んでも満票入るセンターラインではない、ということは事実だと思っています。

 

── ならば監督は何を重視してセンターラインを組みますか。

栗山 そこはピッチャーが2点に抑えることを優先して考えるなら、守りだけでセンターラインを固める手もあると思います。3点はセンターライン以外の選手で取りにいくということですよね。ただ、ビハインドの展開になった時、攻撃的なメンバーが揃っていないと一気呵成に反撃できませんから、そこも難しい。

 

 しかも守りというのは100パーセントではないし、本当に守りだけという選手は限られた数のなかでは選びにくくなります。一発勝負の代走でスタートを切れるとか、確実にバントを決められるとか、絶対に1点が欲しい時に代打で仕事ができるとか、いくつものポジションを守れるとか、何かしらのプラスアルファがないと、メンバーが30人だとしても、入れるのは難しい。

 

── なるほど......では今までジャパンを背負ってきた、経験値の高い選手についてはどうお考えですか。

栗山 菊池(涼介)、勇人、柳田、菅野(智之)もそうだし、マー君(田中将大)もそうかもしれない。ジャパンの中心を担ってくれた選手の年齢が上がってきて、それに若い選手が追随する形でその差は縮まっていても、まだ追い抜くところまではいっていない。だから勢いを優先して若い選手を選ぶのか、実績を大事にして経験値の高い選手を選ぶのか、そこについての正解はありません。だからこそ、最後は魂なんです。誰よりも勝ちたくて誰よりもアメリカをやっつけるんだという魂。こういう野球人生を送るんだという熱さのあるなしは年齢とかは関係ない。ただ、そこについてはこの1年、まったく見極められなかった......。

 

── えっ、見極められなかった?

栗山 そこは正直に言います。何しろ接点を持てませんでしたからね。新型コロナウイルス対策でグラウンドへ下りられないし、選手と話ができない。何しろこの11月の強化試合で初めてゆっくり話をした選手がたくさんいたんですから......僕が一番知りたかったこと、ほしかったものはこの1年、得られないままでした。

 

── となると、魂のあるなしの見極め、どうしましょう。

栗山 どうしようか(笑)。もちろん集められるだけの情報は集めました。この選手はどう言ってるのとか......だけど僕はいろんな人から「彼には魂を感じない」と聞かされていた何人もの選手と話をしましたが、そう言われている選手たちもこちらの想いを真正面からぶつけると、ちゃんと返してくれるんですよね。だから僕は先入観を捨てるところから始めないといけないと思っています。

 

【大谷翔平をレフトで起用?】

 

── 絶対的にここは動かさない、何があっても心中しようと思えるのはDHの大谷選手、サードの村上宗隆選手、ライトの鈴木誠也選手ですか。

栗山 外野手はセンターが決まらない難しさがあるなかで、右バッターの誠也がライトに入ってくれたことはよかったと思っています。あとは村上も動かさないでしょう。翔平は普通に考えればDHかもしれないけど......。

 

── かもしれない?

栗山 レフトとか......。

 

── また、そんなことを(笑)。

栗山 それって普通はできないんだけど、でも、僕だったらやりそうでしょ(笑)。いや、やらないですよ。やらないけど、その発想は持っておかないといけないんです。みんなが一流選手だからこそ、全員にあらゆる可能性があることをイメージしておく。僕がそれはないと思ってしまったら、選手もそれはないと思ってしまう。そうならないために、僕はあらゆるケースを事前に想定しておく必要があるんです。

 

── キャッチャーについては、秋の強化試合で甲斐拓也選手、中村悠平選手、森友哉選手の3人を選びました。それが基本になるのでしょうか。

栗山 友哉がチームを変わりましたから、そこがどうかですよね。ただ、あの3人のバランスはすごくよかったと思っています。打てる友哉、守れる甲斐、両方できる悠平。友哉は左だし、そこもいい。キャッチャーは3人にしておいたほうがいいので、優勝経験があって修羅場をくぐってきた甲斐と悠平は軸になるとは思っています。あとは友哉次第ですね。僕は、友哉は欠かせないと思っているんだけど......。

 

【ヌートバーの代表入りは?】

 

── (ラーズ・)ヌートバー(カージナルスの外野手、母が日本人でWBCには日本代表として出場資格がある)選手についてはいかがですか。

栗山 この前もクリスチャン・イエリッチ(ブリュワーズ、母方の祖母が日本人)の代理人から「どうなってるんだ」と問い合わせがありました。あとはスティーブン・クワン(ガーディアンズ)、ケストン・ヒウラ(ブリュワーズ)、アイザイア・カイナーファレファ(ヤンキース)......カイル・ヒガシオカ(ヤンキース)は未確認だけど、そのほかのみんなは「喜んで出ます」と言ってくれた。すごいですよね、これって。

 

── イエリッチ選手も?

栗山 ただルール上、どうなっているのかの最終確認が思うように進まなかったんです。今までは祖父母が日本人ならオッケーだったのに、今年のルールでは両親だけになるらしい。そうなるとオッケーなのはヌートバーだけなんですよね。

 

── 戦力という観点から見ても、彼は右投げ左打ちの外野手で強肩、選球眼もよく、一発もあります。カージナルスではムードメーカーだし、ヌートバーの加入はジャパンにとってはいろんな方向から足りないピースを埋められる存在です。

栗山 日本の選手を育てるために機会を与えることも考えたうえで、本気で勝つつもりならそういう選手を3人入れてもいいとさえ思っています。

 

── 3人?

栗山 野球はグローバル化していかなければならないし、このWBCで日本と縁のある選手を巻き込むことで野球を日本から世界へ広げていくことも僕の使命なのかなと思っていています。

 

── 縁が大切だということで考えればイエリッチ選手はイチロー選手と、ヒガシオカ選手は田中将大選手と一緒にプレーしたこともあります。

栗山 いずれはアメリカの野球が普通にならないと日本の野球のレベルは上がりません。アメリカの野球が特別なものになってはいけない。僕らは追いつけ追い越せでやってきて、最近は追い越せないとどこかで思ってしまっている。それを野茂(英雄)やイチロー、松井(秀喜)や(松坂)大輔......ほかにもたくさんの日本人選手が覆してくれて、今はダル、翔平、誠也が頑張ってくれています。マエケン(前田健太)も(菊池)雄星も、筒香(嘉智)も澤村(拓一)も、有原(航平)だって今、アメリカで戦っている。

 

 そういう選手たちの姿を見てもらうことで、子どもたちに「僕もこういうふうになりたい」という夢を持ってもらいたいんです。それが彼らの生きる力にならなきゃいけない......WBCはそういう戦いだと思っています。10年後、「あのWBCを見て僕もそうなりたいと思ったんです」という子どもが出てきてくれるよう、そういう姿を見せてくれって選手にはお願いしたい。それこそが日本野球の"魂"だと思いますから──。

 

おわり

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スポニチ:秋村誠人氏&鈴木勝巳氏

◆ 【新春特別対談】侍・栗山監督「絶対に勝つ」繰り返すだけ 松坂氏、大谷は投打「両方で出てほしい」

 

日刊スポーツ:古川真弥氏

◆ 【新春インタビュー】侍栗山監督「アマにも可能性」先入観捨てて世界一奪還

 

スポーツ報知:岸慎也氏

◆ 侍ジャパン・栗山英樹監督、まな弟子・大谷翔平とWBC3大会ぶり制覇へ「絶対に諦めない」

 

サンスポ:横山尚杜氏&鈴木智紘氏

◆ 新春インタビュー 侍ジャパン・栗山監督、3月WBC世界一へ 今年の一文字「尽」に込めた思い「とにかくやり尽くす」

 

デイリースポーツ:中田康博氏

◆ 真の国際化へ-栗山監督が目指す日系人MLB選手の招集 「状況を作っておくことが使命」

◆ 侍・栗山監督「世界一になります」 湯浅「力つけた」近本「すてき」メジャー組に「感謝」

 

中日スポーツ:※署名なし

◆ 栗山英樹監督「世界一になります」 長嶋茂雄さんから伝授された国際大会の『必勝戦法』【WBC】

 

東京スポーツ:

※記事なし

 

夕刊フジ:片岡将氏

◆ 栗山英樹監督インタビュー (上)侍ジャパン世界一へ 大谷翔平、ダルビッシュ有…メジャー組出場で史上最強の布陣 村上宗隆は4番以外も

栗山英樹監督インタビュー (下)侍ジャパン率いる大きな重圧、サッカーW杯見て「吐きそうに」 格下日本に敗れたドイツ、スペインの指揮官に自ら重ね「怖くなって」

 

道新スポーツ:中田愛沙美氏

◆ 【新春特別企画】侍ジャパン栗山英樹監督インタビュー「教えて栗山監督」!

 

野球日本代表侍ジャパンオフィシャル:※署名なし

◆ 栗山英樹監督新春特別インタビュー【第1回】代表初指揮で感じた選手たちのひたむきな思い

◆ 栗山英樹監督新春特別インタビュー【第2回】悩める選手選考とMLB組・新鋭への期待

◆ 栗山英樹監督新春特別インタビュー【第3回】「世界一になりたいじゃない。世界一になります」

 

時事通信:※署名なし

◆ 栗山監督「やり尽くす」 WBC優勝へ意気込み―野球日本代表

 

東洋経済オンライン:堀川美行氏

◆ 「野球の歴史は勝者の歴史、優勝以外は大失敗だ」※有料記事