■試合データ

米国時間:2021年7月20日

日本時間:2021年7月21日(水曜日)04時37分開始

ロサンゼルス・エンゼルス対オークランド・アスレチックス

@オークランド・コロシアム

 

 

エンゼルスは、4回先発ホセ・スアレスがアスレチックスの4番マット・オルソンにソロ本塁打を浴び先制される。6回には、1死満塁のピンチに4番ジェド・ローリーの犠牲フライで1点を失い、先発スアレスは降板。2死1、3塁のピンチに後を継いだ2番手マイク・メイヤーズは5番ラモン・ラウレアーノにタイムリーを浴びて2点を失い4点ビハインド。7回にも3番手ジュニア・ゲラが2点を追加され6点ビハインド。打線は7安打するがアスレチックス投手陣に完封される。チームは借金2、本当に今季正念場に立たされた。

 

■今日の大谷翔平

【打者】先発2番DH

3打数 0安打 1四球 3三振

通算打率.274

 

第1打席:四球

(状況)1回1死/走者無し

(投手)ジェームス・キャプリーリアン/右

(カウント)3B

(コース)外角真ん中

 

 

第2打席:空振り三振

(状況)3回無死/走者1塁

(投手)ジェームス・キャプリーリアン/右

(カウント)フルカウント

(コース)内角高め

※94マイル(約151キロ)の直球

 

 

第3打席:空振り三振

(状況)5回1死/走者無し

(投手)ジェームス・キャプリーリアン/右

(カウント)フルカウント

(コース)外角高め

※93.5マイル(約150キロ)の直球

 

第4打席:空振り三振

(状況)7回2死/走者2塁

(投手)セルジオ・ロモ/右

(カウント)2B2S

(コース)内角低め

※不可解な判定は0-4の七回2死二塁の得点機。スライダーが武器の右腕ロモに対し、1ボールから自信をもって見送った外角のバックドアスライダーをストライクと判定される。初回の打席ではボールと判定されたコース。打席から黙ってじっとボールの軌道を見つめる大谷の姿にエンゼルスの中継局の解説グビザ氏「(ストライクゾーンに)近くもないですね。ショウヘイは審判に敬意を示してただ見ていますが、彼はストライクでないことをわかっています」。さらにボールを1つ挟んだ後の外角スライダーが再びストライクと判定される。険しい表情で腰に手をあてて首をかしげる大谷。グビザ氏はすかさず「これもストライクではないですね」と指摘した。最後は5球目、内角低めのスライダーを空振りして三振を喫した。

 

 

その他情報:

・メジャー通算555本塁打を記録している伝説の強打者マニー・ラミレス氏が大谷を絶賛。。MLBを取材するヘクター・ゴメス記者は、自身のYouTube番組に登場したラミレスの大谷評を、ツイッター文面でこう紹介している。「この男(大谷)は火星人だ。他の惑星からやってきたんだ。パワーとともに打撃ができるし、時速98マイル(約157.71キロ)で投げられるし、チェンジアップもカーブもスライダーも持っている。我々はこの怪物を目撃していることを神に感謝しなければいけない」

 

・米FOXスポーツの公式ツイッターが20日、ファン投票で選ぶミッドシーズン(シーズン半ばの)MVPを発表し、ア・リーグは大谷が選ばれた。

 

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・後半戦に入り5試合で20打数4安打の打率は2割。三振はメジャーワーストの11となった。 

 

 

■試合情報

ジョー・マドン監督:

(試合後)

・ジョー・マドン監督はこの試合で退場処分を受けた。8回の攻撃終了後に球審ビル・ミラー審判員に猛抗議。その後に退場処分を言い渡された。この試合では大谷が外角ボール球をストライクとコールされるなどストライク・ボールの判定がまちまちだった。マドン監督は通算58度目の退場で歴代単独16位となった。

「ブルペンが登板するまでは、悪い戦い方はしていなかった。今日は無得点だった。相手が本当に素晴らしい投球をした。今日の試合は全く良い試合ではなかった。色々と間違いを犯した(温厚な指揮官は語気を強めた)」「(退場となったのはストライク・ボールの判定が原因か)いや、審判が選手の1人に対して何か言い放ったんだ。私はそれが気に入らなかった」「我々は異なる状況でブルペンを頼りに出来るようにならないといけない。(先発の)スアレスは良かった。昨日のショウヘイも本当に良かったと思う」

 

 

ジェームズ・カプリーリアン投手:

「オオタニが優れた選手であることはみんなが知っている。でも相手を意識せず投げた。1回にストレートの四球を与えたことには、がっかりしている。しかし我々みんな、強気の姿勢で攻めていけたと思う」

 

ボブ・メルビン監督

「カプリーリアンは重要なところで一段ギアを上げていた。いい仕事をした」

 

■メディア

杉山貴宏氏:

大谷翔平所属のエンゼルス、他球団に“劣る”補強戦略 今後は抜本改革も必要か(AERAdot.)

 

安岡朋彦氏:

二刀流で主役を奪った大谷翔平 担当記者が見たオールスター戦(時事通信)

 

三尾圭氏:

「ホームランダービーのジンクス」も関係なく、後半戦4試合5発と大爆発するソトが目覚めた理由(スポナビ)

 

■NOTE

相手が悪いな。アスレチックスは派手さは無いが、投打ともにここぞで力を発揮する、堅実に強いチーム。主力を欠いた今のエンゼルスで勝ち抜くのは簡単では無かったな。この戦略差は仕方がない。次に目を転じよう。次戦は中地区4位に低迷中のツインズ4連戦。後半戦は1勝5敗、現在2連敗中。そして次々戦はナショナルリーグ4位に低迷中のロッキーズ3連戦。この7連戦を最低でも5勝2敗の貯金3でクリアして、勝率5割以上で、その次のアスレチックス4連戦に挑んで欲しい。ここには、トラウトやアップトンの復帰も期待できるだろう。ここから今季最後の正念場!もし7連戦に大きく負け越すことがあれば、終戦を迎える。明日は休養日、大谷もゆっくり休んであらためてビッグリベンジをみせて欲しい。頼む!

 

 

エンゼルスが完封負けで3連敗&借金2 大谷翔平は3三振で後半戦の三振率47.8%※MLB.JP

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前日の試合で好投した大谷翔平を援護できず借金生活に突入したエンゼルスは、今日も打線が沈黙。アスレチックス先発のジェームス・キャプリリアンに6回5安打無失点の好投を許すなど、7安打を放ちながらも得点圏で9打数0安打に終わり、0対6で完封負けを喫した。エンゼルスとは対照的に、アスレチックスは8安打で6得点。得点圏でも5打数3安打と要所で打線がつながり、エンゼルス2連戦をスイープした。

 

 エンゼルス先発のホゼ・スアレスに4回裏二死までパーフェクトに抑えられていたアスレチックスは、マット・オルソンが放ったチーム初安打が25号ソロとなって1点を先制。6回裏には一死満塁のチャンスを迎え、ジェッド・ラウリーの犠飛とラモン・ローレアーノのタイムリー二塁打で3点を追加した。7回裏には二死からの連打で1・3塁のチャンスを作り、エルビス・アンドルースとオルソンの連続タイムリーで2点を奪ってダメ押し。キャプリリアン降板後は3人のリリーバーが1イニングずつを無失点に抑え、完封リレーを完成させた。

 

 エンゼルスの大谷翔平は「2番・DH」でスタメン出場し、初回の第1打席で四球を選んだものの、3回表の第2打席、5回表の第3打席、7回表の第4打席はいずれも空振り三振に倒れ、3打数0安打1四球。今季の打率は.274、OPSは1.040となった。これで後半戦は打率.200(20打数4安打)、1二塁打、1本塁打、4打点、出塁率.304、長打率.400、OPS.704。23打席で11三振(三振率47.8%)という三振の多さが気になるところだ。

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大谷翔平所属のエンゼルス、他球団に“劣る”補強戦略 今後は抜本改革も必要か〈dot.〉

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7月末はMLBにとって非常に大きな意味を持つトレード期限。プレーオフ進出、ワールドシリーズ制覇を目指すチームは短い残りシーズンで戦力を底上げしてくれる即戦力を求め、来季以降を見据えるチームは主力と引き換えに若手有望株を集める。前者だけを見れば刹那的な補強に思えるかもしれないが、長期的な視点に立てば重要なのはむしろ後者だ。

 

 どのチームスポーツでもそうだが、「育てながら勝つ」というのは容易なことではない。本当に必要不可欠・代替不可能な選手を可能な限り長くチームに在籍させつつ、一方で世代交代によって新陳代謝をもたらしてチームを活性化させるのはGMら編成担当者にとって永遠の課題だろう。

 

 有力選手を獲得できれば一時的に戦力は上がるが、その代償として若手有望株を手放すことで傘下のマイナー球団の人的資源は枯渇していく。それはつまり、うまく育てれば低コストで大きな戦力となる生え抜き選手が出る可能性の低下を意味している。トレードでの補強では後者のリスクは避けられないため、見返りに獲得した大物選手たちが期待に応えてくれなかったら丸損。しかも彼らは短期間で退団していくため、翌年以降はさらに戦力が低下していくことになる。

 

 このじり貧状態に陥っているのが、大谷翔平選手の所属するエンゼルスなのだ。エンゼルスが最後にプレーオフに進出したのは2014年で、2016年以降は昨季まで5年連続で勝率5割を切っている。かといってシーズン100敗するほどどん底にいるわけでもなく、二刀流で大活躍中の大谷や現役最高の呼び声もあるマイク・トラウト外野手といった大物も在籍している。

 

 だがこの中途半端な状況が続いていることこそがエンゼルスが長期的展望を欠いている証拠だ。MLBでは主力の高齢化や成績低下などでチームのピークが過ぎたと判断されれば、在籍していたメジャー契約選手の大半を放出して若手有望株をかき集め、文字どおりゼロからチームを作りなおすこともある。そこまでいかずとも、年俸高騰のタイミングで惜しげもなく主力選手を手放すことは珍しくない。抜本的なスクラップ&ビルドが結果的に再建を早めることにつながることがあることは歴史が証明済みだからだ。

 

2013年にワールドシリーズを制覇したレッドソックスは、翌14年に主力の移籍や故障、不振などで一転して低迷した。すると球団はジョン・レスター投手やジョン・ラッキー投手、ジョニー・ゴームズ外野手ら主力を次々と放出。低迷が続いた15年もマイク・ナポリ一塁手らの放出が続き、結果として2年連続で地区最下位に沈んだ。

 

 しかしその間にムーキー・ベッツ外野手やザンダー・ボガーツ内野手ら生え抜きや、トレードで獲得したエドゥアルド・ロドリゲス投手ら若手が台頭。さらにクリス・セール投手ら実績ある選手らの補強も当たり、18年には早くもワールドシリーズ王者に返り咲いた。

 

 逆の例を挙げるならばマーリンズ。長期的な展望など投げ捨てたかのようにとにかく大金を費やして大物選手をかき集めることで、1997年と2003年にワールドシリーズ制覇を果たした。しかしいずれも優勝直後から次々と主力を手放す「ファイアーセール」を敢行し、あっという間にチームは解体。当然の帰結として低迷期に入ったが、ワールドシリーズ優勝という目標はとにもかくにも達成したのだから、その観点で言えば成功として差し支えはないだろう。

 

 話をエンゼルスに戻すと、エンゼルスのここ数年の補強で大物獲得と呼べるのは19年オフに7年総額2億4500万ドルで契約したアンソニー・レンドン三塁手くらい。投手陣はリッキー・ノラスコやバド・ノリス、コディ・アレン、トレバー・ケーヒル、フリオ・テヘラン、ホセ・キンタナ、ディラン・バンディら陰りが見え始めた中堅クラスを獲得しては期待外れに終わることを繰り返している。

 

 その間のドラフト指名もパッとせず、トレードでの有望株放出も重なった結果、エンゼルスの傘下マイナーチームは弱体化。今季開幕前にMLB公式サイトが出したファームシステムランキングでは25位だった。

 

 ちなみに26位以下はアスレチックス、ロッキーズ、ブルワーズ、アストロズ、ナショナルズ。このうちアスレチックスとブルワーズ、アストロズは毎年安定した成績を残し続けており、ナショナルズは19年にワールドシリーズを制覇したばかり。ロッキーズも17年から2年連続でプレーオフに進出している。つまりランキング下位の球団のうち、エンゼルスだけがプレーオフにも届かずファームに有望株も少ないという苦境にあるのだ。この事実は、エンゼルスが大物補強を目論んでも交換相手になり得る魅力的な若手が足りないということを意味している。

 

一方、ランキング上位は1位がレイズで、2位以下はタイガース、マリナーズ、マーリンズ、オリオールズ、パドレス、ブルージェイズと続く。育成と編成がずば抜けてうまく、大物選手抜きでもプレーオフを常に狙える位置につけるレイズは例外としても、近年は低迷して再建期を過ごしている球団は順調に若手有望株を集めていることが分かる。パドレスやブルージェイズなどはすでに低迷期を抜けて上昇モードに入った感もあるほどだ。

 

 今や現役屈指の若手スラッガーとして注目されるパドレスのフェルナンド・タティス内野手は、メジャーデビュー前のトレードでホワイトソックスから移籍した選手。その際にパドレスが手放した交換相手はメジャー通算100勝以上を挙げていたジェームズ・シールズ投手だったが、そのシールズは18年にア・リーグ最多の16敗を喫したのを最後にメジャーの舞台から姿を消している。パドレスにしてみれば会心のトレードだった。

 

 ブルージェイズも今季にオールスター初選出を果たすまでになった強打者テオスカー・ヘルナンデス外野手を17年途中のトレードでアストロズから獲得。このトレードでは青木宣親外野手もブルージェイズへ移籍し、交換相手も元オールスター左腕フランシスコ・リリアーノ投手だったことから日本ではヘルナンデスへの注目度は低かったが、当時からブルージェイズの本命がヘルナンデスであることは現地報道では周知の事実だった。

 

 現地19日終了時点で、エンゼルスは46勝47敗でア・リーグ西地区4位。首位アストロズからは10ゲーム差をつけられているが、ワイルドカード争いでは2位アスレチックスまで6.5ゲーム差となっている。

 

 地区優勝には届かずとも、故障離脱中のトラウトやレンドンが復帰して大谷が無双を続ければワイルドカードならあるいは……という希望を抱くかもしれないが、同地区のマリナーズならともかく、直接対決が少ない他地区のライバルたち(ブルージェイズ、インディアンス、ヤンキース)をごぼう抜きするのは容易ではない。

 

だが現時点でエンゼルスが今季を諦めて移籍市場で売り手に回るという話は出ていない。それとは対照的に、46勝48敗でナ・リーグ中地区4位のカブスはすでに主力放出に動くことを明言した。同地区首位のブルワーズから9.5ゲーム差、ワイルドカードでは圏内から8.0ゲーム差という状況はエンゼルスと大差なく、主力の多くが今季終了後にフリーエージェントとなる条件も同様だが、決断の早さには明確な違いがある。

 

 実際にカブスは昨オフにドジャースから移籍したばかりだったジョク・ピーダーソン外野手を15日にブレーブスへトレード。ブレーブスの若手有望株ランキング12位だった長距離打者ブライス・ボール一塁手を獲得した。今後も元リーグMVPのクリス・ブライアント三塁手やアンソニー・リゾ内野手、ハビエル・バエズ内野手らの放出が有力視されている。

 

 もちろん、カブスのこの決断が必ずしも成功を約束されているわけではない。ボールら若手有望株が大成せずに低迷が長引く可能性もある。しかし中途半端に主力を残してもプレーオフに届かない可能性が高い以上、やるなら徹底的にというのも理にかなっている。エンゼルスに足りないのはこの断固たる決意、英語で言うところの「determination」なのだろう。

 

 とはいえ、エンゼルスも昨オフにGMがペリー・ミナシアンに替わっている。ミナシアン新GMはブルージェイズやブレーブスでキャリアを重ね、特にブレーブスではGM補佐として低迷していたチームの再建に成功。若手選手の発掘や育成に定評があるとされている。果たしてエンゼルスはミナシアンGMの下でトレード期限で買い手に回ってプレーオフを目指すのか、それとも売り手として動いて再建への一歩を踏み出すのか。いずれにしても、ここ数年の煮え切らない状況から脱却できるドラスティックな改革を期待したい。(文・杉山貴宏)

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二刀流で主役を奪った大谷翔平 担当記者が見たオールスター戦​​​​​​​※時事通信

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「2人の翔平」が躍動した―。7月13日夜、米大リーグの第91回オールスター戦。コロラド州デンバーのクアーズ・フィールドを埋めた大観衆は、大谷翔平選手(27)=エンゼルス=の「二刀流」に酔いしれた。長い歴史を持つ球宴で、史上初めて投手と打者の両方でメンバーに選出され、特別ルールによって先発投手と1番指名打者(DH)で出場。打者では2打数無安打だったものの、投手では1回を打者3人で抑え、球速160キロ超の剛速球も。味方打線が二回に先制し、そのままア・リーグが勝ったため、野球規則で定められているオールスター戦の規定によって勝利投手となった。

 

 日本選手の先発登板は1995年の野茂英雄(ドジャース)以来の2人目、勝利投手は2019年の田中将大(ヤンキース、現楽天)に次ぐ2人目。先発出場は10年に1番右翼で出たイチロー(マリナーズ)以来。今年の球宴でMVPを獲得したブラディミール・ゲレロ(ブルージェイズ)は受賞の記者会見で、こう言った。「僕だったらMVPに大谷を選ぶよ」。スター選手が居並ぶ中で大谷が主役を張っていた。(時事通信ロサンゼルス特派員 安岡朋彦)

 

 オールスター戦の前日、正午すぎ。強い日差しが照りつける球場近くの屋外広場に設けられたステージ上に、両軍の監督、ナ・リーグのマックス・シャーザー(ナショナルズ)、そして白いワイシャツ姿の大谷が姿を見せた。大谷はスターティングメンバーを決めるファン投票(投手は対象外)のDH部門で、2位を大きく引き離してトップで「当選」。さらに選手間投票では、先発投手部門の5位に入ってメンバーに選出されていた。

 

 大リーグのオールスター戦では、ベンチ入りした投手が登板せずに試合を終えるケースは多々あるが、エンゼルスのマドン監督は、ア・リーグの指揮を執るレイズのキャッシュ監督と話し合った末に大谷の登板が内定したことを明らかにしていた。さらに球宴の3日前には、起用法について「知っているけど、言えない」とも。DHでの先発出場が決まっている大谷が、どのような形でマウンドに上がるのか。それが注目の一つだった。

 

◇記者会見での「サプライズ」

 

 オールスター前日の記者会見には、両軍の監督と先発投手が出席するのが慣例だ。大谷が姿を見せたことは、先発登板の発表を意味していた。マイクの前に立った司会者が口を開いた。

 

 「ご覧の通り、先発投手の発表にはサプライズがあります。歴史に残る選手が登場します。リーグ最高のスラッガーがオールスター戦に先発登板することは、今までありませんでした。これは確実に言えることです。ベーブ・ルースがそれ(二刀流)を成し遂げたのは短期間で、オールスター戦そのものが始まる前でした」

 

 発表されたスターティングメンバーに、大谷は先発投手、そして1番DHの両方で名を連ねていた。野球規則では認められていない起用法で、キャッシュ監督によれば「大リーグ機構にルールの調整をお願いして、この試合では翔平を2人の選手として使うことが許された」。特別ルールによって、異例の形での投打同時出場が可能となった。

 

 キャッシュ監督はこうも語っていた。「これはファンが見たいもので、個人的にも見たかった」。当の大谷は「ピッチャーとして選ばれるとは思っていなかった。そういう意味でも期待に応えられたら、と思っている。期待はしてもらっているので、応えられるように精いっぱい頑張りたいなと思います」と抱負を口にした。

 

大谷はブルペンでの投球練習を終えてベンチに引き揚げると、慌ただしくバッターボックスへ向かいプレーボールの瞬間を迎えた。

 

 マウンド上には、サイ・ヤング賞(最優秀投手賞)3度を誇るシャーザー。いきなり訪れた注目の対戦を、スタンドのファンは固唾をのむように見守った。大谷は初球の真ん中付近への95.5マイル(約154キロ)直球をファウル。続く91.9マイル(約148キロ)の高めへのカットボールに詰まらされ、二ゴロに倒れた

 

 「打席に立ったことがなかったので、ずっとテレビで見ていた投手ですし、どういう軌道なのかなとか、どういう球なのかなとか、見てみたかった。実際にいいボールだったし、どの球種も分かっていても打てない球だった。(カットボールには)押されたような感じだった。フォーム自体も独特で、なかなか距離が取りにくかった」

 

 大谷はシャーザーと初めて対戦した印象を、そう語った。球場のあるデンバーは標高約1600メートルの高地にある。一塁を駆け抜け、ベンチに戻った大谷は息を切らせていたという。一回のア・リーグの攻撃は三者凡退。大谷に息を整える時間があったのかは定かではないが、今度はマウンドへと向かった。

 

◇「抑える以外ない。打たせない」

 

 球宴は「お祭り」の要素もあるが、マウンドに上がった大谷は「抑える以外ない。打たせない」。持ち味の直球に変化球もうまく交え、勝負に徹した投球を見せた。ナ・リーグの1番は、前半戦でリーグトップの28本塁打を放った若きスター選手のフェルナンド・タティス(パドレス)。マウンド上でも、いきなりファンが待ち望んでいた対戦が実現した。

 

 初球の96.1マイル(約155キロ)はファウル。2球目の97.1マイル(約156キロ)は外角に外れてボール。変化球を振らせて追い込むと、スプリットはファウル。そして5球目。サインに首を振ってスライダーを投げ、左飛に打ち取った。

 

 続くマックス・マンシー(ドジャース)は96.6マイル(約155キロ)で二ゴロ。そして打席に、本塁打王3度を誇るノーラン・アレナード(カージナルス)を迎えた。予定は1イニングとあって、おのずと投じる球に力がこもる。

 

エンジン全開。初球で99.5マイル(約160キロ)を計測した。1ボール2ストライクと追い込んでからの高めはこの日最速の100.2マイル(約161キロ)。これはバットに当てられてファウルに。続く99.7マイル(約160キロ)が外角に外れると、6球目にはスプリットを選択。外角低めのボールゾーンに落とし、遊ゴロに仕留めた。

 

 「普段は初回からそんなに三振ばかりを狙うことはないんですけど、きょうは全部取りにいった。結果的に取れなかったんですけど、いいところに投げても、しっかりコンタクトする率も高いし、さすがだなと思うバッターが多い」

 

 思い描いたような理想の投球ではなかったとしても、3人のスターをぴしゃり。「打たせない」との言葉通り、隙がなかった。

  

◇ボー・ジャクソンのように

 

 米メディアの間では、投手と打者でメンバーに選ばれた大谷を、かつて大リーグと米ナショナル・フットボールリーグ(NFL)の両方でオールスター戦に出たボー・ジャクソンと比較する意見もあった。ジャクソンは、大リーグでは1989年、NFLでは90年のオールスター戦に出場している。

 

 89年にエンゼルスの本拠地アナハイムで開催された大リーグの球宴には、ノーラン・ライアンやカル・リプケン、マーク・マグワイア、オジー・スミス、トニー・グウィン、カービー・パケットら、そうそうたる面々がそろっていた。そんな中でも一番の注目を浴びていたのが、野球とアメフットの二足のわらじを履くジャクソンだった。

 

現在はエンゼルスの専属解説者を務める往年の好投手で、89年のオールスター戦に出場したマーク・グビザ氏が、こんなことを語った。

 

 「みんなボーがやること全てを見ていた。その中には殿堂入りを果たした選手がたくさんいたけど、みんながボーの打撃、守備、走塁、全てに注目していた。今回も同じように、ア・リーグとナ・リーグの選手みんなが立ち止まって、翔平のプレーを見ていたね」

 

 今夏の球宴には、MVPに選ばれたゲレロの他、タティス、フアン・ソト(ナショナルズ)ら将来球界を背負って立つことが期待される若きスターたちが名を連ねた。シャーザーやアーロン・ジャッジ(ヤンキース)ら大リーグの顔といえる選手もいた。そうした顔触れを差し置くかのように、観戦したファンから、さらには出場選手からも熱い視線を一身に浴びたのは、二刀流の大谷だった。

 

 大リーグ機構は、大谷一人だけを扱ったオールスター戦では異例の宣伝動画を作成。当然ながらファンからの注目度も随一で、球場内などにある売店で大谷関連の商品はオールスター当日を迎える前に軒並み売り切れ。。大リーグ機構によれば、グッズ売り上げは大谷関連のものが最多の28%を占めた。

 

◇「感謝の言葉」で締めくくり

 

 大谷は投手としては1イニングで降板し、三回の第2打席は一ゴロでお役御免となった。投手と打者の両方で大活躍、とはいかなかったものの、メジャートップの選手たちと投打で対戦した後とあって、珍しく興奮した様子で取材に応じていた。

 

 「また(オールスター戦に)来られるように、と思わせてくれる素晴らしい経験だった。全体的に球場入りから試合から、ホームランダービーもそうですし、こういう雰囲気はなかなかシーズン中はない。本当に野球が好きな人たちがこれだけ集まって、すごくいい雰囲気だった」

 

 スターの中でも別格の注目を集め、異例の「先発投手兼1番DH」で出場した球宴。囲み取材の終わりに、感謝の言葉を並べた。

 

 「選んでいただいたファンの皆さんもそうですし、こうやって起用してくれた監督、コーチの皆さんもそうですし、本当に、すごくいい経験をさせてもらってありがたいなと思っています」

 

 「ルール自体を変えてもらって、2打席立たせてもらった。伝統あるこういう場では難しかったと思うが、そういう風にしてもらってすごく感謝しています」

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「ホームランダービーのジンクス」も関係なく、後半戦4試合5発と大爆発するソトが目覚めた理由​​​​​​​※三尾圭氏

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メジャーリーグには「ホームランダービーに出場したスラッガーは、後半戦に大きく調子を落とす」というジンクスが存在する。

 今年のホームランダービーの目玉だった大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)は、後半戦最初の2試合で10打数1安打、6三振を喫して、ジョー・マドン監督も「ダービーに出場した影響は、疲れの問題ではなく技術面の問題。打撃フォームがいつもよりも引っ張り気味になっていた」とダービーに出場したことで、大谷が本来の打撃フォームを見失ったと指摘した。

 そんな中、大谷とダービー1回戦で対決して、2度の延長の末に大谷を撃破したホアン・ソト(ワシントン・ナショナルズ)は、球宴後の4試合で17打数10安打(打率.588)、5本塁打とジンクスを吹き飛ばす大活躍をみせている。

 昨季は打率.351をマークして、ナショナル・リーグ史上最年少となる21歳で首位打者のタイトルを手にしたソトは確実性ある打撃とパワーを兼ね備えたスラッガー。昨季もリーグ・トップの長打率.695、OPS1.185を記録して、長打力も見せつけた。

 今季前半は打率.283、11本塁打、長打率.445と本調子ではなかったが、「後半戦に向けてスイングの調子を取り戻す」と口にして臨んだホームランダービーで、宣言通りに調子を取り戻し、後半戦4試合での固め打ちでシーズン打率を3割台に乗せた。

 「今は調子がかなり良くなってきている」と言うソトは、「前半戦はボールを打ってもゴロになってしまったが、ダービーでボールを打ち上げる感覚を取り戻せた」とホームランダービーに出場したことが後半戦のロケット・ダッシュに繋がっていると語る。

 ホームランダービーでは球を打ち上げるために、ソトは同じ軌道のスイングを繰り返し、低めの球には手を出さなかった。

 ナショナルズのデーブ・マルチネス監督も「ホームランダービーを経験したことで、彼本来の姿を取り戻した。ダービーでは無理に引っ張ることはせず、センターからレフト方向へのホームランも多かった。それが彼本来の姿なんだ」とダービー出場が復調に役立ったというソトに同意する。

反対方向へ本塁打を打てるソトの高い打撃技術

 大谷もセンターからレフト方向へのホームランは多いが、高い打撃技術を持つソトも反対方向へもホームランを打てる才能の持ち主。

 

ソトは16本塁打中、センターからレフト方向へのホームランが10本(62.5%)で、34本中11本(32%)の大谷の倍近い割合で反対方向へ本塁打を打っている。

 新人だった2018年の日米野球で来日したときには、1度ならず2度も東京ドームの天井に打球を直撃させて、日本のファンを驚かせた。

 今年のホームランダービーでも、スタットキャスト導入以降最長となる520フィート(約159メートル)の特大弾を放ったように、確実性だけでなく、パワーもメジャー・トップクラスだ。

 鋭い打球を放つことに定評があり、今季もスイングに対するハードヒット(打球速度95マイル以上)の割合は24.3%でメジャー1位にランクする。

 ナショナル・リーグのホームラン王争いは、28本塁打のフェルナンド・タティースJr.が独走状態に入っているが、エンジンがかかってきた16本のソトがどこまで追い上げられるかにも注目だ。

 ソトはキャリアで10度の複数本塁打試合を記録しているが、23歳の誕生日を迎える前に10回は、メジャー歴代2位にランクする。固め打ちが得意なソトなので、ファンが予想する以上のスピードで、タティースJr.との差を詰めるかもしれない。

 「絶好調のときのソトは、全てを変える力を持つ。一人でチームを引っ張る力があり、多くの手段で試合の流れを変えてみせる」とエースのマックス・シャーザーが言うように、ナショナル・リーグ東地区で首位のニューヨークに6.0ゲーム差の地区4位のナショナルズが浮上するためには、ソトの活躍は必要不可欠だ。

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