ロマン・ロラン
  「ジャン・クリストフ」①

 以前、大学時代の友だちから何冊かの本をもらった。その中の一つが今回取り上げた「ジャン・クリストフ」だった。
 偉大なヒューマニスト作家ロマン・ロランが約10年の歳月を費やして書かれた本書。
 私自身、本格的なフランス文学を読んだのは、これが初めてだった。彼女からこの本をもらう前に、
「失われた時を求めて」を読もうとしたのだが、本当に情けないことに、最初のあたり(スワン家のほうへ)で挫折してしまった。
 といったことを彼女に話したら、高校のころに全巻読破したと言う。スゴイ。読書家とは彼女のような人をいうのではなかろうか。
 そんな話しの最中に、これだったら、長いけど読みやすいよと、渡されたのが「ジャン・クリストフ」だった。
 私は安易にも借りるつもりだったのだが、良かったらあげるよ、と言われた。突然のことで驚き、断ろうとしたら、自分は何回も読んだし、むしろ大切なものだから記念にもらって欲しいと言われた。
 では遠慮なく、と有り難く頂戴し、読んだら感想
を話しがてら、また会おうと約束した。お互い仕事で忙しいだけならまだしも、住んでいるところが遠く離れていたので、なかなか会う機会を作るのが大変だった。だからこそ、その時間は貴重で、私にとっては大切な瞬間だった。

 あれから何年がたっただろう。彼女はその後、不慮の事故で亡くなり、私はこうして生きている。
 彼女からもらった本は形見になった。

 そして、読んでみて思ったのは「どこが読みやすいんだよ」だった。
 長い。ひたすら長い。
 読書とは、やはり人それぞれの受け取りかたで全く違った感想を持つのだな、と思った。
 それでも読み進めていくうちに慣れてきたというか、愛着が湧いたのだろうか。気がつくと主人公ジャン・クリストフに親近感を感じるようになっていた。改めて今回この場で模索することに決めたのも、やはり読みやすいというより、自分自身が面白いと思ったからだろう。
 
 「ジャン・クリストフ」は本来全10巻の長編なのだが、新潮文庫版では4巻にまとめて構成されている。
 1巻は『ジャン・クリストフ』の序から始まり、第1巻『暁』、第2巻『朝』、第3巻『青年』が収められ、本巻2巻以降も目次には各巻の巻数と題が表示される。
 この作品によく言われるのが、主人公はベートーヴェンをモデルにしているということだけれど、実際のところどうだろう。
 彼の生誕から始まる物語において、家族構成やその生育状況は確かに参考とされているのだろう。
 飲んだくれの音楽家の父による虐待ではと疑うほどの音楽的な指導、困窮する家庭を経済的に支えるための音楽活動。
 けれど、その苦難はジャン・クリストフが芸術家として自立するためのものであり、彼は天才として家族から隔絶された存在になる。家族、特に父親は彼を誕生させることによって、人としての役割を終えたという記述は、あまりと言えばあまりなのだけれど、そうとしか言いようがない。
 彼の成り立ちは確かにべートーヴェンのようではあるけれど、ジャン・クリストフはこれ以降の生き方で、彼自身の独自性を打ち出していくのである。