憑神 | 半醒半睡。

半醒半睡。

夢か現か・・・日々この連続

 

 


時は幕末。

徳川家康より直々に賜った紅葉山御影鎧番、
七十俵五人扶持の御徒士の次男として生まれた別所彦四郎。

紅葉山御影鎧番は、影武者となるための三十領の鎧を
いざ出陣という時に備えて常に手入れ保存に努める仕事である。

武士の次男(以下)はいずれ養子に出される運命であった。
彦四郎の婿入り先は小十人組組頭の井上軍兵衛家。
配下のつまらない口争いで『お勤め不行届』ということで叱られ
それによって井上家の名誉を傷つけたと軍平衛の怒りを買い
婿入り先から出され、兄左兵衛の元に居候することとなった。
が・・・これは軍兵衛の罠だった。


ある夜、母から小遣いを貰い、夜鳴き蕎麦屋に足を向けた。
夜鳴き蕎麦屋の親父から、霊験あらたかな三囲(みめぐり)稲荷で
願掛けをすると出世間違いなしなのだそうだ。
子供の頃、共に水練に励んだ榎本釜次郎も願掛けをしたらしい。
彼は、長崎海軍伝習所からオランダ留学を果たし、
いずれは軍艦の艦長か千石取りの御旗元・・・
と、出世の道を歩いていることを思い出した。


夜鳴き蕎麦屋で飲んだ帰り道
もよおした尿意を我慢できず、土手から川面に向かって用を足したが
足を滑らせて転げ落ちた。
足下には、三巡稲荷と書かれた破れ傾いた祠が現れた。


さて話はここから・・・
『みめぐり』は『みめぐり』でも三囲と三巡では月とスッポン、天と地。
いやいや極楽と地獄ほどに違っていた訳で・・・


最初に現れたのは、伊勢屋と称する貧乏神
取り憑いた相手から全てを奪い去る貧乏である。
小十人組番士で修験道に励んだ神力をもつ小文吾に助けられ
伊勢屋が彦四郎の人柄に絆されたのか軍平衛への宿替を勧めたために
彦四郎は難を逃れた。


次に現れたのが、力士九頭龍為五郎称する疫病神。
これも、祖父から代々受け継いできた紅葉山御影鎧番という職務ばかりか
母親をも蔑ろにする兄に宿替を勧められ難を逃れた彦四郎だったが・・・

とうとう現れてしまった・・・
愛らしい少女おつや。・・・名前からして身も凍るような死神である。


もう宿替はしない。
武士として自分の死に場所を見つけた彦四郎は
徳川慶喜の影武者となるべく鎧を纏い
小文吾と共に上野の山へ駆けていった。