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 ロックスターは死んだ。
 もう、この世界にいる意味なんてない。
 私は知ってしまったんだ、この世界のつまらなさを、それだけ大切なものを私は失った。全てだった。
 音楽とは宗教だ。身を捧げて、彼らの歌詞を馬鹿みたいに本物の言葉として疑わない、無くなったら困るもの。私にとってそれはバンドだった。
「身勝手だな、お前は」
 ここは廃ビルの屋上で、普段誰も出入りがない。私がライブハウスに足繁く通った際に確認済みだった、はずなのに。
 目の前にいる男はあたかもそこが自分の縄張りだと言わんばかりに簡易に引いたゴザの上であぐらをかいていた。
「いつからそこにいたの」
 顔も見ないで私は問いかけた。
「ずっといたよ」
「私がこれから何をするように見える?」
「さぁ?自殺かな」
「そう」
 男は私の体を下から上へと見上げた。
「そのピアス、エイジの?」
 彼が言ったエイジが何のことはファンの私には分かる。『Age Stones』それが私がファンであるバンドの名前である、略してエイジ。
「そうだよ、あんたもファン」
「ありゃ音楽じゃない」
 は?ふざけるな。彼は簡単に私の全てを否定してきた、私はあれだけを信じてきた、彼らだけが心の味方だったのに、それなのに。
「あいつらのやってる音楽ってのはケーサンされてるんだよケーサン」
「計算?」
「心に響くようにできてるんだ」
「響いてるんならいいじゃない」
「わかってないな、小娘」
 彼はゴザからゆっくりと立ち上がって反射的に自分の体をはたくと「時間あるか?」と聞いてきた。時間はあるけど、出来ればすぐにでも死にたかった。
「良いもん見せてやるよ」

「これがあいつらの音楽」
「なんで…?」
 町中、死体であふれていた。その光景は衝撃的で、生々しくて、気持ちの悪い死体の体温が生温く体に纏わり付いてきた。
「こいつらの共通点、お前なら分かるだろ」
 分からないわけがない、ここで転がっているみんな、エイジのファンだった。エイジの公式グッズを身につけたファン達。
「言っただろケーサンって」
 ゆっくりと男の顔を見る。この時初めて私はしっかりと彼の顔を見た。
「計算って、なに?どういうこと?」
「センノウってヤツだな」
「そんなことできるの?音楽で」
「音楽じゃないって言ってるだろう」
 信じてきたものが崩れ落ちてくる感覚。
 それは、彼らが『集団自殺』したことよりも衝撃的だった。
「そう、全部脚本どおりってやつだ。あいつらは元々いじめられっ子で形成されたバンドだった、負の力というのは絶大でそのネガティヴから来る歌詞は同じ気持ちを抱えた若者や、社会の荒波に揉まれた人間に支持された」
 だけど、彼らはいつしかいじめられていた時の記憶が時折自分の頭の中で戦うようになっていった。やつらに復讐を、報復を、我らに報いを。
 その音楽性が変わっていったのは彼らが10周年を迎えた時のLive。最大規模でのLiveは今までとは比べもののならない動員数が予測されていた。
 そして伝説の曲『Belivers』が披露された。
「あの曲は悪魔の囁きそのものだった。歌詞には含まれていないが脳の隙間を縫って『殺したい』『仕返ししたい』『消えろ』そんな想いを思いきり散りばめた。それがたまたま生まれた」
「…洗脳の歌」
「そういうことだ」
「あなたはどこまで知ってるの」
「知らない」
「え?」
「なにも知らないよ、知りたくもない。もう、おれは立ち向かえるから」
 スッと彼は急に真顔になると「じゃ」と手のひらをひたいにあて敬礼をした。
「音楽を信じるのも勝手だし、死ぬのもお前の自由だ。だがな、負けるな」
「…なにに?」

「自分にだ」

彼らは『集団自殺Live』を行なった際『sayonara no hi』という曲を演奏した。それがどうやら私たちにかけた最後で、最期の曲。
「俺たちは永遠に音楽と生きて行く、この新曲は特別で歌詞に『さよならだけど、永遠に』って意味が込められてる。みんなと過ごす時間がこれからももっと、もっと増えるように、この曲が、困った誰かの胸に突き刺さって抜けなくなるような、そんな歌になってほしいな…」
 ボーカルのMCで語られた言葉、あながち嘘ではないという事だ。最期を共にしよう、そして永遠に彼らは生きる。
 誰かの心の中で。

 川原に行って私はオーディオプレイヤーを投げ捨てた。遠くまで、できるだけ遠くまで飛んでいけと祈って。
「負けるな」
 その声がずっと耳の奥で聞こえている。
 
なんだか、不思議と、心地よかった。