妻が帰ってくるまでにやることがたくさんある。まずは洗濯、色が落ちやすいものはネットの中に入れて、くるんとした靴下は全部二つに分ける。妻は洗濯カゴに入れるときには靴下をくるんとしろと言うくせに、いざ洗濯するときには「あーめんどくさい」と言いながら靴下を二つに分ける。
それが終わったら掃除機をかける。これは意外と好きだ、なぜなら掃除している気がするから、綺麗になったかどうか僕にはわからない。とりあえず彼女が文句を言わなければ「可」であり、いちゃもんを付けてくれば「不」ということだ。自分は結構大雑把なくせに人の掃除にはやたらとケチをつける。イライラやっている彼女より、楽しみながらやっている僕の方が家事が向いてる気がするときが度々あるのだ。
妻の帰宅まで2時間。予定より少し時間が押している。
今からスーパーへ買い出しだ。今日の晩御飯はいつもよりかなり豪華にするつもりだ。長い間一緒にいると、記憶力がお粗末な僕でさえ彼女のことが分かってくる。肉は牛より鳥が好き。食後のヨーグルトが至福。おつまみはビーフジャーキーかさきイカ、これは僕も好きな二つだ。明日も仕事だ、お酒は缶一つにしておこう。と、言ったところでお酒に弱い彼女は「足りない」と言って僕の酒を奪うことだろう。それを見越して全部で三つの缶をカゴに入れる。もちろん、消耗品の牛乳、箱ティッシュも忘れない。
抜かりはない、会計だ。
「あらあら、旦那さん、主夫ですか?」
レジのおばさんが優しそうな笑顔で聞いてくる。
「はい、今日は仕事が休みなので。それと今日は…」
「ただいま、あら洗濯干しといてくれたんだ」
「うん、楽勝だったよ。らくしょー」
座ってテレビを見ていた僕は首だけ向けて彼女に喋りかける。
「ん?いい匂い、晩御飯も作ってくれたの?」
「もちろん」と、ドヤ顔をすると彼女は変顔で返してきた。それで僕は笑ってしまう。
「着替えて来なよ、あ、寝室開けてあげる」
「えーなによそれ」
「いいから、お疲れでしょう」とひとこと言った後「いくよ?」と言って引き戸を力強く開けた。
煌びやかに飾られたアルファベット、何日かに分けて作った輪っかのリース、そして考えに考え抜いたプレゼントがいつもは眠るだけの神聖な場所を度外視し色付けしていた。
「おーっ」
あれ、割と反応が薄かった。僕の予想だとあまりの喜びに抱きついてくるはずだったのに
「ははは、片付け大変そう。頼んだぞ」と、後片付けを今頼まれる始末である。
「そんな…せっかく頑張って準備したのに」
「だから」と言った同時に頬に柔らかな温もりを感じた。
「ありがとう」
その後は妻の好きな料理、食後は大好きなヨーグルトで作ったケーキを食べた。プレゼントも喜んでくれていた。
楽しい時間は終わる。でもまた明日、君と一緒に朝を迎えられる。
おはよう、行ってきます、頑張ってね、「休憩中」のメール、「おつかれさま」のメール、ただいま、おかえり、おやすみ。
当たり前に君とできることが幸せだ。
僕と出会ってくれてありがとう。
僕と結婚してくれてありがとう。
今日は君が生まれた日。
生まれてきてくれて、本当にありがとう。
