RUSHを観てきました

昨年から耳に入っていたレース関係の映画「RUSH」をやっと観てきました。

 

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ニキ・ラウダとジェームス・ハント、同時期に活躍した2人のワールド・チャンピオンの人間関係をテーマにして、特に1976年シーズンにスポットを当てた、ほとんど実話です。

 

 

まず僕の感想を先に言いますと、
「レース映画ではもっともよく出来た映画」
「レース映画で、もっともレースシーンが少ないが、もっとも真実に忠実に作られている」

 

おそらく、人気・一般の評価・俳優・・・等々からいえば、
「栄光のルマン」
「グランプリ」
「レーサー」  などの方が評価が高いですね。

 

他に興行的には
「デイズ・オブ・サンダー」 あたりも主演がトム・クルーズだったので、そこそこいったのかも。

 

ですが・・・

 

上記の映画・・・本当にレース経験がある者から観るとかなりダメな映画です。まず・・・

 

1.そのレースシーンは最悪です。
  実はレースって、最速を求めるあまり、とても繊細なことを

  猛烈なスピードの中でしています。
  それが一般のヒトがみてもわからない・見えづらい。
  で、どうするかっていうと、
  うそ臭い、抜いたり抜かれたりを大げさに演出することになります。
  だから、本当にレースのシビアさ。前を走るライバルを走る

  本当の大変さがちっとも伝わってこない。
  だって、そうでしょ。ライバルだって、ほぼ同様のクルマで、

  腕前だって自分とほぼ同じ。
  そんな相手が、結構狭いコースで死ぬ気で速くはしっているのを、

  どうして簡単に抜けますか。

 

2.ストーリーが嘘臭すぎる
  一般ウケするために、人間関係や、レース環境が、

  実態とかけ離れたストーリーに作りこみ過ぎ。
  もちろん、実際のレースシーズン中、僕らの草レースですら

  ドラマはたくさんあります。
  でも、みんなも対して知らない、各ドライバーやチームのドラマなんて、

  関係ない他人からみたら興味わかないですよね。
  だからむしろ実際のレース界では「ないだろ・・・」って背景やキャラが設定される。

 

そしてそうした本来ある弱点を飾り付けるために、有名な俳優を使うのが多い。
スティーブ・マックイーン、ポール・ニューマン、そしてトム・クルーズ・・・・・

 

 

さて一方、このRUSHは、俳優、僕は知りませんでした。主演の2人とも。
でも主演の2人だけでなく、他の登場人物(すべて実在)も、これがかなり雰囲気似ています。
クレイ・レガツォーニとか、ウケます。そのキャラクター設定も、本人にぴったり再現されています!

 

これだけで、この映画の製作者のF1、この実話への、思い入れ・愛情を感じました。

 

 

実はこの映画、まず最初は主役の2人のそれぞれ自己紹介から始まります。それを観た時、「ちょっと演出しすぎじゃないの」「やっぱり数あるレース映画の安っぽさか・・・」と思いました。

 

でもF3時代の逸話に入るあたりから・・・
これって確かに映画なりに脚色もされているんだろうけど、自分が今まで読んだり聞いたりしてきたいわゆる史実からまったく逸脱していない・・・ってことに気付かされました。

 

もうこうなると「記事にはここまで書けるはずがない」「これは当時を知る関係者からもかなりヒアリングして、脚本にまとめあげたに違いない」としか思えなくなりました。

 

そしてどんどんこの映画に引きずり込まれていき・・・・・
舞台はあの1976年シーズンに入ります。
そう、僕が生まれて始めてF1をライブ(テレビ中継)で観たシーズン。

 

幼い頃からクルマが大好きだったせいで、このシーズンのちょっと前からレースの最高峰にF1というのがあるらしいこと・・・そして有名なレーサーの名前、何人か。フェラーリやロータスなど有名なチーム・マシン名も覚えていました。
更に、何人かの天才が、毎年のように誰か事故で死んでしまうほど、過酷な世界だってこと。

 

そして1976年、試験的に日本でもF1を開催しよう、ってことでシリーズ戦に組み入れられていながら、イベント名称は「F1 in Japan」として、富士スピードウェイに初めてF1レースが来ることに。

 

ガキだった僕は大喜び。富士にはとても行けませんでしたが、自宅で6チャンネル(TBSね)を点け、放映時刻のちょっと前からスタンバイ。かぶりつきでした。

 

 

レースの内容などは、まだ観ていないヒト、流れを知らない方のためにここでは書きませんが・・・

 

初めてみたF1のテレビ中継。あの大雨でしたし、最終戦までもつれたポイントの行方・・・レース自体が決行されるのか・・・アナウンサーと開設の間瀬さんが、静かに語る口調で、子供心に厳かながらも、コントロールしきれない大きな威圧感が背後にあるように感じ、ほんとに静かに見入っていました。
そう、フジテレビがだいぶ後になりやらかした、馬鹿騒ぎF1とは大違い。三菱ダイヤモンド・サッカーに通じる、大人な感じといったら、僕世代の方にはわかるでしょうか。

 

話がそれた・・・

 

RUSHで感心したのは、

 

1.レースシーンに嘘が感じられない。
  当時の実映像を最大限うまく使っています。
  そして中継映像・記録映像だけでは足りない部分を新たに撮影し、
  最小限だけうまく合間にカットとして挿入して全体を構成しています。
  だから記録映像、当時の映像よりも、わかりやすく、見やすい。
  でも全部作ったもののような嘘くささがない。

 

2.ストーリーに無理がなく自然。うそ臭くない。
  そりゃそうです。だって実話だから。
  実話なんだけど、世間のファンが知っている記事・記録に、
  多分当時の関係者の取材などを通じて最小限の脚色をつけた。
  
要するに、今までのレース映画で、本物を知る人ほどマイナス評価を付けていたポイントがすべて裏返し、プラスになるように作られています。
これは相当レースに詳しい監督・スタッフがいたんだと思います。
有名な俳優が、自分をかっこ良く見せるために、趣味も兼ねてレーサー気取りする映画とは根本的に違う。

 

そしてこうした美点の反対側、デメリットが・・・

 

一般のオーディエンスには・・・

 

レース映画なのに派手なレースシーンが少ない。
ドラマとしてはなんか地味。新しさが感じられない。
知ってる有名人、俳優がでてこない。

 

と、これまたよい点の裏返しがそのまま一般ウケには難しいかな・・・と。

 

実際、土曜日の15:20上映だったのですが・・・
映画館の中、こうですよ。

 

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僕は空いていて観やすいからウェルカムなんですが・・・
いくら沖縄だからって、土曜でこれはマズイんじゃない?興行的に。
最終的には20人前後にはなったけど・・・

 

僕のように男1人で見に来るのが多い。
平均年齢高い。
女性、子供がほとんどいない。

 

 

今沖縄には常設のサーキットがありません。臨時仮設的な、カート用の小さなコースはかろうじてありますが・・・カート用としてみても小さいです。もちろんJAF公認サーキットではありません。
そして四輪になるともう、サーキット自体が存在しません。経済的にも、全国一貧しいから、モータースポーツどころじゃないのかもしれません・・・・

 

でもね・・・子供の出生率は全国一。実際、子供多いです。
せめてカートコースでもちゃんとしたのがあるといいんですけどね。

 

そうそう、それにライフスタイルとして、お酒にすべてを賭けている感じが蔓延しているので、ただでさえ少ない可処分所得の多くが、酒代として無駄に消えていきます・・・レーサー目指す子供だって、そういうものがあることを知らせたら、レーサーを目指したい子どもたちもけっこう多いと思うんだけどね。

 

 

僕が行っていたレーシングスクールは、一般向けから、フォーミュラでプロを目指すシリアス向けまで様々なカリキュラムがあり、卒業後にはパッケージレンタルシステムも充実していて、そこそこの負担でなんとかレースをしていける環境が多数ありました。

 

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だからたとえ限られた時間内の参戦だけだとしても、本気で、才能もあるドライバーなら結果を出せるチャンスはある。そしてきちんと結果をだせば、スカラーシップ(奨学金制度)もあるので、ある程度のレベルまでいける道が考えられているんですね。

 

沖縄も、観光資源としてのレース・イベントは今、関係者が集まり、公道レース開催を目指して協会設立もされたようです。
今後、大勢いる子どもたちへの支援プログラムや、実際に県外のコースへ出て行っても戦いやすいよう、県内にもある程度の規模の常設コースを創るなど、いろいろできたらいいなと思います。

 

 

 

また話がそれた・・・

 

RUSHに戻ります。

 

冒頭で、2人のF3時代の馴れ初めから始まりますが・・・早々にF1へシーンは移り・・・
1973年シーズン初戦のアメリカ東グランプリ・ワトキンスグレンでいきなりドライバーの死亡事故に遭遇。
これがタイレルのフランソワ・セベールの死亡事故なんだけど(映画中では触れられていない)・・・
この事故は壮絶でした・・・

 

若く、明るく、まさにジェームス・ハントのフランス版のようだったセベール、宙に舞い、裏返った状態でコース脇のガードレールの上にたたきつけられ、マシンカウルはほぼ真っ二つ。
ドライバーのカラダも左右に真っ二つ状態で、そこに散らばったモノがセベールだとわかるのは、かろうじて外れ飛んでいたヘルメットだけ、彼の肉の破片がマシン内にも被着して・・・エースドライバーであり、師匠であり、すでにこのシーズンをもって引退し、このセベールにエースドライバーの座を託すことを決めていたチャンピオン、ジャッキー・ステュアートはあまりの凄惨さに日曜日の決勝を棄権、そのまま引退しました。

 

と、こんなところも、あまりに凄惨なものは控えつつ、当時のF1の粋(ロマンも富も、名声も、危険も・・・)を懐かしむ者へのオマージュも心憎く散らしてくれている・・・

 

1976年の富士のレース後、ピットに戻ってきたハントがなにげに言葉を発した相手(テディ・メイヤー)がまた、本人に雰囲気が似てる。そしてこのハントの言葉も知っているヒトは多くないのでは・・・ で、この言葉がまたいいんですわ・・・ハントを知るヒトには。

 

こういう脚本をかけるのはぜったいレースを愛し、この時代のF1を愛しているマニアだけだと思う。
この点でも、RUSHは稀有なレース映画だといえますね。

 

 

 

 

さて、この映画は、ニキとジェームスがメインテーマでした。
他にこういうストーリーが作れるドライバーってどのへんかなぁ・・・と見渡すと・・・

 

新しい方からいきます。

 

アラン・プロスト+ニキ・ラウダ
マクラーレン時代のこの新旧2人の0.5ポイント差の優勝争いは、F1史上でも他にありません。ストーリーとしても良質ですし、最後に、引退後に再びワールド・チャンピオンになったニキがアラんに表彰台でかけた言葉も、映画的に素敵すぎるので・・・

 

それにしてもニキ・ラウダ。RUSHの中でも冷静で論理的でしたが、引退後に復活。さまざまなタイプの異なるF1マシンをどれも乗りこなし、若い天才アラン・プロストを抑えてチャンピオンになるなど、やはり只者ではないです。
ラウダに関しては、RUSH2として、この後のラウダをやってほしいですね。プロストとの師弟関係~ライバル死闘関係まで。

 

 

ジル・ビルヌーブ:
何もいうことないですね。悲劇の死と、そのきっかけ。それを引き立てるそれまでの変わったキャリアや愛すべき性格なども対比に使い、映画の題材になるでしょう。というか、してほしい!記録映画は何本かあるんですがね。

 

 

フランソワ・セベール
ビルヌーブ同様、チャンピオンになる前に死んでしまいましたが、その愛されたキャラクターや、死へ至るストーリーも映画化できるかな・・・

 

 

これ以外にも、
ヨッヘン・リント(死亡後に誰も彼のポイントを上回ることができず、死後チャンピオン確定した唯一のドライバー)
などもアリかな・・・

 

 

ただこのへんまで遡るとちょっと時代が古くなりすぎるかもしれません。
F1創成期に5回ワールド・チャンピオンとなったファンジオあたりも、あの頃はチーム内ではレース中のクルマの交換もできたので、自分がリタイヤしてもチームメイトをピットへ呼び戻し、そのクルマを譲り受けて残りを走ってポイント獲得・・・なんてのがあったから、こういうのも悲喜交交、映画のネタがあるかも。

 

 

逆に、セナやマンセルがいないじゃないか!
と、現代F1世代からは怒られそうです・・・

 

が、この2人にはロマンが感じられないんです。
セナは天才です。本当に速いドライバーだったし。嫌いじゃありません。
ただ、ドラマという点では、その人間味も含めてちょっと違うんです。
昔のF1の、危険すぎる世界観とは・・・なんか、1人速いけど、彼独自の世界の中にいたように感じます。

 

 

マンセル・・・あのキャラ、あのレース結果だったので、ファンも多いし、実際楽しませてくれました。
ただ僕的には、運が良かったドライバーだと思っています。F3まであまりパッとした成績を残せず・・・ただ反射神経がよかったそうです。ネコ足と呼ばれていたとか。
F3のラルト時代からホンダF1の開発テストなどでホンダと縁ができ、ホンダ絡みでF1に上がり、それから速さを発揮するようになりました。
セナ、プロスト、ピケットとキラ星ドライバーたちとの対比で荒法師とフジテレビが吹きまくったので、荒くて速いという印象を持たれていますが・・・実は案外丁寧というか、普通だったようです。ケケ・ロズベルグに慣れていたホンダのエンジニアたちが、後年加入してきたマンセルを「スムーズな運転をするドライバー」と評していましたから。
ただ、運がなかったりで、ドラマティックなレース展開が多かったのは事実。そこもファンを増やすことになったのでしょう。

 

 

この2人は素晴らしいドライバーだし速かったけど・・・そういう意味では僕が大好きなネルソン・ピケットだって候補に入れていません。それはやはりロマンやドラマという点で、セナやマンセルとは別のタイプだけど、ちょっと映画ネタには・・・という理由から。

 

 

逆に、昔のF1ロマンの香りを持っていた最後のドライバーは、僕と同い年のエリオ・デ・アンジェリスでしょう。彼は貴族でしたし、タバコも吸うし酒もよく飲む。ピアノはプロ級の腕前。なにより練習嫌いで何に乗っても乗りこなす。貴族(金持ち)喧嘩せず、で性格もよく、実はロータスのエースドライバーとしては一番出走レース数が多い(それだけ評価もされ、問題も起こさなかった)。そしてマンセルからも「数少ないレーサーの友人だ」と言われるほどの性格のよさ。
ただ、彼が乗っていた時期のロータスがあまりにも停滞期だったので、映画ネタにはやはり不足かと。
テスト走行中に高速コーナーでいきなりリアウィングが外れてコースアウト、死んでしまいました。悲しかった。

 

 

などなど・・・
久しぶりに映画館へ行ってまで観た映画RUSH・・・
いろいろなことを思い出させてくれました。
レース好き、昔のF1好きには、本当に素敵な映画です。

 

今のセバスチャン・ベッテル世代にはどう映るのか、興味ありますが・・・
この素晴らしさが伝わらないんだとしたら寂しいから、聞かなくてもいいや(^_^;)

 

 

僕はほんとに、レース好きです。
そしてまだまだ、レースしたいです!!