最近に横浜市民ギャラリーで、第71回書作展が開かれました。

 

そこでの入選作のうち、漢字かな混じりの短歌の書で、かつ現代語の書き下し文が付いていなかった3作品について、読んでみました。

 

<作品1>

「吉野川 岸の山吹 吹く風に 底の影さえ 移ろいにけり」、紀貫之(きのつらゆき)の短歌で、古今和歌集に所収の歌です。

「吉野川の岸辺に咲く山吹の花は、風に吹かれて川底に映っていた影までも一緒に散ってしまったものだ」という意味になります。

変体仮名で書き下しますと、「よし能可者 きしのやまふ支 不く可世に よこの可介さへ うつろ比尔けり」となります。

 

 

<作品2>

「古(いにしえ)は 散るをや人の 惜しみけむ 花こそ今は 昔恋うらし」、一条摂政とも謙徳公とも呼ばれた、藤原伊尹(これただ、これまさ)の歌で、拾遺集に所収です。

藤原伊尹は、娘が第63代冷泉天皇の女御になった人で、今年の大河ドラマの「光る君へ」にも出てくる、第65代花山天皇及び第67代三条天皇の外祖父になります。道長の父の兼家の兄弟にも当たります。

歌は「昔はあの人(中納言敦忠)が花の散るのを惜しんだだろうに、今では花の方が亡き人を恋しがっているようだ」と言った意味になります。

変体仮名で書き下しますと、「い尔しへは ちるをや比との をしみ介む 伊まはゝなこそ む可しこ不ら志」となります。

 

 

<作品3>

「付け捨てし 野火の烟りの 赤々と 見えゆく頃ぞ 山は悲しき」、この歌は近代(明治~昭和)で、尾上柴舟(おのえさいしゅう)の歌です。

「つけ捨てられたままの野火の煙が、日の暮れるにつれて赤々と空を染め上げていく。その山の野火の赤い煙を眺めていると、実に物悲しい気分になってくる」という意味です。

変体仮名で書き下しますと、「つ介すてし 野火の希ふりの 阿加ゝゝと 見辺ゆくころそ 山ハ可奈し支」となります。