ここ15年程日本経済の右肩上がりの終焉に伴って、産業界を含む日本のあらゆるシステムが適正化、もっとはっきり言えば合併淘汰の道を歩んできた。最初の大物は銀行業界で、かつては「都銀12行」などと言われていたのが現在は「み」で始まる3メガバンクに集約された。やはり小泉政権の時になされたのが、地方自治体の大合併である。特に秋田県など跡形もなく合併して、延々と野原の続く山野も「市」と呼ばれるほどになった。百貨店や家電量販店、スーパーやコンビニも次々に合併統合している。そして今現在進行形なのが電機業界で、これも近いうちに「3メガ重電」とかに落ち着くことだろう。

 

このように全てが寡占化・大局化・全日本化の道を進む中にあって、なぜかどの地方にもミドルサイズのローカルチェーンがしぶとく残っていて、いま述べた寡占大局化の波に飲まれていない。私の住む神奈川県でもそのような例として家電ではノジマがそしてコンビニではスリーエフが、全国チェーンに肩を並べて残っている。他の県については詳しくないが、例えば大阪には玉出チェーンが、北海道にはセイコーマートがある。これらチェーンが飲まれずまた淘汰されずに残れている理由とは、素朴に何であろうか。

 

そもそも合併の一番大きなモチベーションは企業体力である。分かりやすいのが製薬業界だ。創薬の場合、新規合成物質数千個に1個程度しか薬効がない。大手製薬会社の研究員の3人に2人は、新薬を開発することなく定年退職を迎えるという。その代わり1つ見つかるとその特許が何兆円もの収益をもたらす。勢い体力勝負にならざるを得ない。最近もそもそも大手だった山之内製薬と藤沢薬品工業が合併してアステラス製薬になり、第一製薬と三共製薬が合併して第一三共製薬になった。そしてこの手の体力問題は製薬会社に限らず、開発を軸とする会社には必ず存在する。

 

もう一つの合併のモチベーションが、社内システムの合理化と相互補完だ。いずれも間接部門やシステム開発を効率化・一本化することによって、組織のスリム化が狙える。また体力があるほど、関係業界(仕入れ先等)に対して強い圧力を掛けられる。こちらの例がデパートだったりコンビニだったりする。こうして世の中のあらゆる組織が大型寡占志向にあり理屈でもそうなる中で、どうして「中途半端な」ローカルチェーンが生き延びられているのだろう。

 

例えばノジマの場合店舗数は200店弱の社員は2千人弱で、いずれも業界最王手のヤマダ電機の10分の1である。1店舗当たりの床面積も数分の1だ。にもかかわらずノジマを利用した私の経験からすると、ヤマダ電機やビックカメラに比べて特別に不便を感じない。先ず、値段が高いということはない。機種も主なところは揃っているので、特にマニアでない限り選択の余地がさほど狭いとも思えない。そして何より近くにあって気軽に行きやすい。ただ売り物が家電である以上、地元の特産品で特色を出すということはできない。店舗展開にも特色がある。横浜、新横浜、川崎と言った既に大手が進出している大きなターミナル周りにはあえて出店せずに、私鉄の急行が止まります程度の中規模駅の前を選んで出店している。これらの総合的存在感が仕入れ先のメーカーに対して、一定の力を有しているのであろう。

 

次にコンビニ業界に属するスリーエフだ。店舗数が600で社員数が400名と、最王手のセブンイレブンの10分の1以下である。しかもセブンやローソンもあらゆる街角に店を出しているから、スリーエフも多少地元に強いとはいえ、これらと肩を並べてのかなり平等な競争になっている。この業界は最近PB(プライベートブランド)の重要性がますます増しており、この開発力が勝敗を決している。これは基本的に体力勝負と思われるところ、なぜかスリーエフにもPBもおでんもコーヒーもあって、ないのはドーナツくらいだ。地元横浜の名産品で差別化を図っていることは多少ある。

 

結局これらのローカルチェーンから見える特徴とは、①ニッチに徹し、②地域占有率という存在感で、③スケール上のデメリットを補っているという形のようだ。これらローカルチェーンの経営者は、いずれも創業者一族による同族経営である。今のところココ一番屋と同じくそもそも経営者に才能とやる気があるうえに、有能な社員を引き抜いてきて基盤をしっかりと手堅く固めて生き残っている。ただ今後の戦略の大きな分岐点は、今後もニッチにとどまるのかそれとも全国展開を目指すのかにあるように思う。前者のほうはいずれ飽和するし、後者のほうは基盤こそ安定するが大に食われる危険も増す。

 

たしかに冒頭で上げた製薬業界も、他方で中堅レベルの会社がないわけではない。大田胃酸とかサロンパスとか特定の著名商品で変に色気を出さずに堅実商売をしている会社とか、あるいはジェネリック薬品(特許切れの薬品)専業で開発をせずに生き延びている製薬会社とかもある。これらの会社を見てもわかることは、下手に拡張せずに身の丈に合った経営をしてそれが存在感になって取引先に力を行使できることである。しかもこの身の丈を自分で知ることは、大手がひたすら合併に走るのよりもむしろより繊細な経営判断を要する。

 

①株式は公開しない、②一族経営の要諦は握っておく、③それでもなお優秀な社員を集める、④店舗展開は風見鶏的に機敏に行う等である。意地やつまらない見えを張らないのだ。もう一つの彼らの使命は、いかにして中高年社員を処遇するかであろう。家電老舗の「カメラのさくらや」が倒産したのは、業界のさきがけだったことが裏目に出て、社員が他のチェーンよりも高齢化したのに対応できなかったからだという。そういえばノジマでオジサン社員を見たことがない。どうなっているのだろう。

 

具体的には、①大きくなりすぎない、②地域に根付く、③牛若丸のような身軽な経営、これら3要素を生かすことが、ある意味時代の流れに逆らってローカルチェーンが生き延びているコツだと思われる。大法則の陰に小法則あり。

 

画像は下記のサイトよりお借りしました:

ノジマ - 流山おおたかの森S・C (otakanomori-sc.com)