天才か気違いか

私の学生時代、ちょっと変わった先輩が居た。仮に中川さんとしておこう。この中川さんの口癖は「私こそ学長にならねばならない、それも今だ」だった。大学の当時のありようを嘆き、しかも彼には革新的な改革案があると言う。

その改革案についてある日尋ねてみた。中川先輩は自分の卒論の審査風景を引き合いに出して語ってくれた。彼の卒論のテーマは「工場における労災低減への提言」であった。それに対し中川さんはただ一行「ヘルメットをかぶれ」と書いて提出したそうだ。

すると教授から、「これでは単なる作文だ。データを取ってきて、数値を根拠にして語りなさい」と指導を受けたそうだ。中川先輩いわく、「あきれてものもいえなかったぜ、全く。数値の根拠がないと理解できないなんて愚の骨頂だ。ヘルメットの重要性は現場を一目見れば明らかじゃないか。これだから日本の学界は腐っている。」中川先輩はこの年卒業できなかった。

中川先輩は「私が行動を起こそうとするといつも双子の弟が邪魔をする」とも言っていた。ところが周りに聞いてみると、その双子の弟を見たことのある人は誰も居なかった。

 

やがて私も大学を卒業して、中川先輩のことも忘却のかなたに行ってしまっていたが、最近ふと思い出して、「あの人は実は天才で、我々凡人の理解を超えたところに居たのではないか」とも思うようになった。でも、念のために検索サイトで彼の名前を調べてみたが、1件もヒットしなかった。良くも悪くも世には出ていないらしい。彼は今頃どこで何をやっているのだろうか。

 

 

(画像は下記のサイトよりお借りしました)

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