[短編小説][長篇][創作]  天狗病の少女 next5 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

廃墟の洋館へやってきた祐一郎と由貴の高校生二人はベッドに

腰かけている。廃墟といえば落書きされるのが通常だがまだ人

に知られていないのか落書きはまったくない。荒らされてもいな

いので埃は被っているが住人が住んでいた状態を保っている。

「祐ちゃんはわたしが天狗病というのは知っているよね」

「この腕見てくれる」

由貴は長袖を肘のところまで捲り上げ腕を見せた。その腕は

細いながらも緑色した太い血管が浮き出ている。

「なんだこれ、男の腕みたいじゃないか」

「本当は見せたくなかったんだよ、でも見せないと話を進めない」

「以前身体が痺れ全身が麻痺していると言ったよね」

「天狗病が発病した女子は肉体が崩壊し再構成されるの、強い

 筋肉と共にね」

「再構成ってボディビルダーする女みたいになるってこと」

「違うわ、最終的には性器も変化し男性になる」

由貴から衝撃的な告白を聞き祐一郎は萎れた生け花みたいに

落ち込んでしまった。由貴から別離の相談かと考えた。

「話はもう出来ないってことか」

「そうじゃない、一緒にいるための相談なの」

「男性化は徐々に進行するけどひとつだけ女性のままでいる

 方法がある。それは祐ちゃんの種を撒いてもらうこと」

「種をまくって避妊しないって事だろ・・・」

受精のことである、しかしそれには祐一郎も覚悟しなければな

らない。由貴はその先の事をなかなか言えなく黙り込んでしま

った。

「もしおれが由貴を抱かなかったらどうなる」

「絶縁し男になって妻を貰うことになるわ、強制的でもね」

「結婚して子供を持つってことか、う~ん」

まだ高校生の祐一郎にとって結婚は考えたことがない。まして

子供を持つなど理解できることではなかった。ただ由貴の顔を

みると泣きそうな瞳で辛そうにしているので変に思った。

「なぜそんなに悲しそうな顔をしている」

「実は、実はそれだけじゃ済まないの」

由貴は自分が天狗の継承者であり自分と結婚するとその男性

が天狗となり一旦天狗となったからには山を降りることは許され

ないと話した。そして夫婦は別居しなければならない事も言った

「では友人や家族とも会えなくなるというんだ」

「それでもいい?」

簡単に答えを出せる問題じゃないのは由貴も知っていた。だが

ここで決断できなければ時間が経っても決断できないと思えた。

「ではバイクも乗れなくなるのかな」

「・・・そうなるね」

祐一郎にとって大型バイクに乗るのは夢でもありその為に今ま

で頑張ってきた、それを由貴は諦めろと言っているのだ。

「諦められるの?」

「無理だ、教習所に通ったのも無駄になる。」

「やっぱり、そうよね」

はじめて会ったのに今日が別れる日になる、そう二人が覚悟を

した時だった。窓ガラスの向こうに黒い影を映し出した。窓枠よ

り大きな羽、黒い身体。それが鳴くと窓ガラスが揺れた。

「なんなんだあれは」

「特大のカラスみたいだよ」

カラスは必死に開けろと鳴いたがカラスの言葉などわかる筈も

なくふたりにはただカラスが鳴き喚いているとしか思わなかった

カラスは頬を膨らませ真っ赤な目で見つめている。

「なんか怒ってるみたいだぜ、睨んでるぞ」

「だってカラスの言葉なんか知らないもん」

カラスの額に楓の柄を見つけた祐一郎は窓を開けようとした。

「開けちゃ駄目、襲ってくる」

「だってさっきの現れたカラス天狗の部下みたいに楓の入れ墨

 彫っているよ」

「入れ墨だったらヤクザじゃないの。だったら善きものじゃない」

”だれがヤクザじゃ”カラスは思った。

”ここを開けよ由貴、我は大天狗おまえの父である”

カラスは思念を送ると由貴は受信したのか、

「あのカラスはわたしのお父さんだって」

「おまえの父さんてカラスだったの?」

「いや会ったことないからね、そうだったのか」

カラスは部屋に入ってきて愚かな娘に涙した。不動明王に守られ

山の守護者として敬われている大天狗、その自分の娘が大馬鹿

だったと思うと悔しい思いもあった。

「我は大天狗の分身、愚かな娘よお前の父はカラスではない」

いきなり父だと言われても簡単に納得できる由貴ではなかった

父がいるといや生きていると母から聞いたのは最近の事。

「今頃何か用ですか?」

由貴は父大天狗を突き放すように言い放った。

「特にあなたの力は必要ないので帰っていただけませんか。彼

 と別れるしか道がありませんので」

「そんなに早く決断を求めてはそこの男もやり切れないのでは

 ないか?もっと気持ちを考えてやれ」

「そこの男ですって?祐一郎さんです、祐一郎さんと呼んで頂け

 ませんか」

「では祐一郎」

「祐・一・郎・さんです」

祐一郎は呼び捨てでも構わないと思っていた、親子喧嘩の巻き

添えになってるとしか思えず苦笑してしまう。

「ゆういちくん、鼻っ柱の強い娘ですまぬ」

「あら大天狗様は見事な鼻をお持ちでしょうね、その大天狗様

 から鼻っ柱が強いだなんて言われたくないですね」

大天狗は今分身で会話をしているが本体は戸隠の奥深い所で

赤い顔がさらに紅くなっていた。”なんて娘だ”

そしてこれは直接説教しなければいけないと思った大天狗は

「お前たち二人一度、戸隠へ来なさい」

「祐一郎さんは田舎へ行くのが嫌いです、ですからお断り致し

 ます」

「いや僕は別に」

ここで何故行かねばならないと答えたならばまだ戸隠まで来る

可能性が残っていただろうが由貴はきっぱりと拒絶した、これは

来る可能性がまったくない事を意味する。

「ゆういちくんはバイクが好きであろう?だったら戸隠へ来れば

 いいものが見れる」

「バイクがあるというのですか」

「来ればわかる」

「ダメですよ祐ちゃん、わたしは許しません」

「ああそれと彼はゆ・う・い・ち・ろう~さんですから」

”なんて腹のたつ、おまえは祐ちゃんと言っているではないか”

戸隠にいるのは大天狗ひとりだけではない、小天狗も数人いる

その子天狗達は必死で笑いを抑えていた。普段大天狗は毅然

と指示をするが怒った姿をみたものはいない、小天狗達にとっ

て大天狗の怒る姿というかねじ込まれる姿は愉快に尽きない。

「由貴ちゃん、僕は戸隠に行ってみたいよ、おとうさんにも会っ

 てみたい」

「失礼ですよ祐ちゃん、あの方は大天狗でお父さんではありま

 せん、間違えてはいけませんよ」

「岩石のような頑固さであるな、その意固地なところは直したほ

 うが良い。」

「頑固ですと?岩石ならいいじゃありませんかいずれは崩れる

 でも大天狗様は解けない氷山じゃありませんか」

「どういうことだ」

「硬くなって固まったまま、どうにもできないという比喩です」

「由貴!いい加減にしろよ、おまえはそんな女だったのか?

 失礼が過ぎる。」

「はい、」

はじめて好きな人から呼び捨てにされ由貴は嬉しさと調子に

のって言いすぎた申訳なさから背筋を伸ばし緊張した。

「お父さんと言えとは言わないけど一度くらい会ってあげても

 いいだろう、おれは何もしない前から諦めるのは嫌いだ」

「そうでしたね、祐ちゃんはそう言う人だから」

「だったら一度戸隠へ行ってこようよ」

「そうね、そうする」

父親たる大天狗たる自分の言う事は聞かない癖に好きな彼氏

から言われた事は聞く娘に理不尽ではないかと大天狗は考え

ていた。また世の父親は同様の苦悩を持つものなのかと。

「では戸隠で待っている、ふたりで来いよ」

「ありがとうございます」

大カラスが去って行くと祐一郎はあることに気づいた。心霊スポ

ットで多くの人がやることを由貴はやっていないのだ。由貴がこ

の場所でやった事といえば服の入ったクローゼットを探して気に

入った服に着替えただけなのだ。

「由貴ちゃんはここで写真や動画は撮らないの?」

「特に必要ではないよ」

由貴が言うと祐一郎は納得いかないようで心霊スポットで写真

撮るのは一般常識、やらなければいけないと諭すと由貴は仕方

なくスマホで撮影しようと画面を覗きこんだ。

「祐ちゃん大変だ、君の周りに一杯いるよ」

祐一郎が周囲を見回しても誰も確認できない。

「誰もいないぞ」

「デジタル機器を通さないと見えないんかな」

祐一朗も試しに自分の携帯を撮影モードにして覗くと驚愕した。

由貴のすぐ横には頭から血を流す女が目を見開き見ている。

「うわっ」

「どうしたの、いるの」

「そこに立っているよ」

祐一郎は駆けだして部屋から逃げた。

「ちょっと待ってよ、写真は?」

「おれは外で待っているから撮っておいで」

祐一郎は心霊ドキュメント番組を見て若い女性アシスタント一人

に撮影させて他の場所で連絡を待つ男性スタッフを見て軽蔑し

ていたが今の自分が同じことをしている。それはいけない事だ

と理解はしているが身体が震えて自由にならない。

「撮れた?」

「撮れたじゃないわよ、一人で逃げて」

二人は洋館を後にした。

 

1週間後、免許を交付された祐一と由貴は戸隠神社にいた。

戸隠山山頂まで登るには登山を通り3時間ほど所要する。

しかし神社の巨木が立ち並ぶ参道を抜けたところで小天狗が

出迎えに来ていた為に瞬間移動が可能となり大天狗の待つ

本殿には労せずに着いた。

「よく来たな、二人とも」

「ここまで遠いですね」

戸隠とは長野県ではあるがほとんど新潟県といっても過言では

ない。関東からは上越新幹線で来たほうが早いが高校生のふ

たりは北陸本線に乗ってやってきたのである。

「さっそくだが見てくれ、ゆういちくん」

本殿脇の小道を大天狗の後について歩くと山小屋のような倉庫

があり木製の扉をあけるとシートがかかる機械らしきものがある

無造作に大天狗はシートを剥ぐとそこには1台のバイクがあった

「これってもしかして」

「そうマッハだよ」

マッハシリーズは250に始まり750まで続くシリーズだ。名車と

言われるのは500のマッハⅢではあるがここにあるのは750

SS通称H2と呼ばれるバイク。空冷2サイクル3気筒のエンジンは

最新バイクの4気筒4サイクルのようにシリンダーが大きくなく

シリンダー上部のシリンダーヘッドには冷却の為フィンがつく。

標準のマフラーはメッキ処理が施されたスチール製である。

「スガヤの3本チャンバーではないですか」

「若いのによく知っているな」

ステンレスで作られいくつも溶接でつけられたエキパイは光輝き

2サイクル独特の形状をしたエキゾースト、端末にはアルミの鈍

く光るサイレンサーには自己主張するスガヤのメタルプレート。

「渋い!今の時代、つけたくても売っていないんですよ」

「え~どうみても尺取虫にしか見えないよ」

フロントフォークのボトムは金色、正立式のオーリンズを意味する

アルミステップのバックステップは長いロッドを介しギアチェンジ。

補強された真っ赤なフレームとアルミ製の箱型スウィングアーム

低いコンチネンタルハンドルにはスタビライザーがつきその向こ

うには黒い砲弾型のメーターが2個並ぶ。

「倒立フォークじゃないところが泣かせますね」

「よくわかっているじゃないか、丸フレームに倒立は強すぎる」

ゴールドのアルミリムはスポークを組み穴あきディスクローター

センターハウジングはブルーアルマイト仕上げのアルミハブ。

ガンメタリックのディスクキャリパーはロッキード製を組む。

「さっきから何いってるかさっぱりわからないわ」

「そりゃそうだろう、これがバイクってものだよ」

「わからないけどカラフルで可愛いバイク」

「一度乗ってみるか?」

「いいんですか」

大天狗としてはバイク好きな祐一郎に見せたかっただけだった。

「これ天狗を継いだらくれるんでしょ」

「それは・・・」

大天狗は由貴の母に頼み部品をちょとずつ買ってここまでにし

たのはバイクを買ってから5年もかかったのである。その苦労

を知らない由貴は予想外なことを言った。

「祐ちゃんにくれるんだものね、そうよねお父さん」

「うっ、それは・・・」

「お嬢様、ご無体な」

小天狗は”触るな”と言われこのバイクを大天狗がどれだけ大事

にしているか知っていた。

「決断はやるべきときにしないと誰もついてこないと思いますよ」

「・・・いいだろ、くれてやるわ」

大天狗の大きな瞳は涙で潤っていたのを小天狗は見た。

「これで思い残すことはないわね、祐ちゃん」

「でもいいのかな、お父さん哀しそうな顔しているぞ」

”しかし、思い残すって”祐一郎は不可解だと思った。

 

つづく

 

この物語はフィクションであり実在の

人物団体には一切関係ありません