[創作][短編小説]ブログと言う名の証明書完結編序7段 | 妄想小説日記 わしの作文

妄想小説日記 わしの作文

わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

祐一と由美そして娘のナナは大雪の中渋谷から帰宅した。帰宅

したのは午後8時、照明が点いている筈なのに家は真っ暗それ

はいまだ母の香織が帰宅していないことを物語っていた。家の

庭は一面が白一色、庭木も雪に覆われ時折枝から雪が落ちる。

車から降りると冷たい雪が靴の中へ入ってくる、雪は膝下くらい

まで積もっていた。頬を冷たい雪が叩く、手も寒さで思うように動

きはしないが今は考えることが他にある、母香織のことだ。

 

「まだ帰ってきてないな」

「何かあったのかな、事故じゃないよね」

この時点で警察署に届け出をだしておれば良かっただろうが祐一

はまず自分達の出来る事をした後届けるのが筋、今出すのは時期

尚早だと考えた。

「お前秦野のおばさん、電話番号知ってるか」

「わからないわ、でも探してみる」

二人は手分けして住所録、手帳それと電話機本体のメモリーを探し

てみたがどこにも書かれていなかった。

由美は電話帳(ハローページ)で調べようと手にした。

「秦野のおばさんの氏名は知ってるんでしょ」

「それが名前知らないんだ」

「なんで知らないの、実の叔母さんでしょ」

「名前は知らないけど家の場所はわかる」

「家まで知ってるのになぜ苗字も知らないの、表札あるでしょ」

「そんな事言ったって門にも玄関にも表札はなかったと思う」
近頃は会社、会社の現場や駐車場、個人宅にも表示のない建築物

が意外と多い。

「秦野のおばさん家へ行くしかないね」

「では明日の朝一番で行くとしよう」

祐一の危機感がない発言に由美は苛ついた。

「何悠長なことを言ってるの、今から行くのよ」

祐一は疲労困憊だった、由美を迎えへ大手町まで行くのに2時間か

け大手町から渋谷へ寄り大井の家まで戻ってくるまで計5時間通し

て運転した。渋谷から国道246号線を通り途中渋滞を避けうら通り

を通り帰宅したが秦野へは再び246号線を走らなければならない。

タフな祐一でもさすがに眩暈を覚えていた。

「嫌ならわたしが行ってくるよ」

「・・・俺が行ってくるよ」

簡易に熱いシャワーを浴び着替えをした祐一はまた寒い外へ出て

雪に濡れるのは嫌だった、だが方向音痴の由美に任せるのは危う

い。由美は雪道に不慣れ、自分で運転すればわかるが積雪は道路

のセンターラインを消し路肩や用水路も白一色に変え田畑の場所

さえわからなくしてしまうのだ。ただでさえ見知らぬ土地なのに積雪

で方向さえ失うそれが雪の怖さなのだ。たとえナビに場所の設定を

したとしても由美がどこへいくかわからないのだ。

 

祐一は由美を家へ残し秦野に住む叔母の家まで来ていた。だが叔

母に会うと午前中に帰ったと言われた。叔母が言うには行くところが

あるからと何も貰わず帰っていったので用意していた野菜がそのまま

残ってしまったと残念そうに言う。ただ母の香織は叔母に対し気にな

る発言を残していた。

「しばらく会えないと思うから身体には気をつけて、姉さん」

「そう云うからねどこかへ行くのかい?と聞いたらただ寂しそうに嗤っ

 てただけなんだよ」

「そうなのですか、心配させてすいません」

「祐ちゃん、あの子どうかしたのかい」

叔母からの問いかけにどう答えたら祐一にはわからずただ黙ってい

る。まさか母が行方不明になったとは言えないのだ。

「まぁ香織にも至らぬ点があるだろうけど年寄りなんだからそこは我慢

 してあげておくれ」

「心配かけてすいません、おばさんの言われるようにもうちょっと堪え

 るように心がけます」

叔母にまた遊びにおいでと言われ家を後にした。

「もしもし由美、叔母の家はとっくに帰ったと言われたよ」

「やっぱり捜索願い出すしかないわね」

「ああそれなら秦野署で出してきたよ、これから帰るから」

「うん、気をつけてね」

 

帰路につく祐一は車の中で考えていた。母は今どこで何をしているの

だろうか、寒い雪の中一人で寒さを堪えているのではないだろうか。

父を早くなくし祐一は母香織に女でひとつで育てられた。母が苦労して

きたのを幼かった祐一も理解していた。だから由美と結婚しナナが生

まれやっと楽してもらえると思っていた、だから今母親が困っていると

思ったらただ待つことなど出来ない。そうは想っていても今どこを探せ

ばいいのか皆目見当がつかないのも事実。

雪の中母との思い出を回想しながら車を走らせる祐一。小学校の授業

参観の知らせを母に見せた時に祐一は”こなくていい”と言った。母が

多忙であるからとの思いもあったが同級生の母達にくらべみすぼらし

い母の服装が恥ずかしかった。だが母は授業参観へやってきた、モン

ペ姿の農作業スタイル、勿論着飾った母親達から視線が集まり祐一は

恥ずかしく赤面してしまったがそんな母親の姿でも祐一は嬉しかった。

普段授業で手をあげた事はなかったがこの日は大きな声で手をあげた

また祐一の誕生日にはいつもいちごのショートケーキは必ず用意して

くれた、子供だった祐一はホールケーキが食べたく文句も言った。

貧乏だったのに母は悲しそうに「次は買うから」と謝ってくれた。

いま思えば金がないのにありがとうと感謝の気持ちで一杯になる。

「かあさん、ありがとう」

そう呟いた祐一の瞳からは涙の滴が流れ落ちる。

 

母親の香織は今、秦野署の取り調べ室にいた。数年前突然行方不明

になった六芒輪商事代表取締役の社長六芒輪清二、香織は自分が

あやめたと自首してきたのだ。香織の相手をしたのは刑事課の仲条

巡査部長である。ただ仲条としてはあまり捜査に乗り気ではなかった

なぜなら六芒輪清二と言う男の悪い噂を聞いていたからだ。それは単

に世間の噂ではなく同社の女性秘書が7年間で5人も行方不明になり

原因はすべて同社社長の清二が関わっていると情報を得ていた。現

に警視庁には捜索願いが提出され家族からも会社の捜査を懇願され

ていたのである。中条は調書を取り、殺害現場を聞くとすぐに鑑識を

現場に向かわせたが証拠は何一つ出なかった。ここで証拠がひとつ

でもあればたとえ被疑者が高齢の老人だとしても捜査を続けねばな

らない、被害者がどんなに悪行をしていたとしても捜査をしなければ

ならないのが刑事の仕事なのだ。現場には遺体どころか凶器もない

そして血液が流れた痕跡さえもなく中条は目前の女性が一人で隠滅

出来たとは思えなかった。

「六芒輪香織さん、どうやって殺害したのか教えてください」

「白菜をとる包丁で身体ごとあの男にぶつかるとあいつは血を流して

 倒れました」

「わたしは血が一杯流れたのを見て気が動転しその場から立ち去っ

 たのです」

「では刺したのは一度きりですね」

腰が曲がった老婆が直立した男性を一度で殺害するとは思えない

そして凶器である包丁も置きっぱなし、どう考えてみても協力者或い

は他に犯人がいると考えるのが妥当、そう考えたが他に容疑者はい

ない。だが香織の供述で清二は行方不明ではなく殺害されたとみる

べきなのだ。中条にはひとつだけわかった事がある、犯人がただ清

二を殺害するのが目的ならば遺棄する必要はない、現場には凶器

があったからだ。犯人は香織を守る必要があった、それは犯人が香

織の関係者のひとり若しくは指示され実行した者の存在がいた。

そのように刑事の仲条は考えた、当然香織を長期拘留する考えなど

なくとりあえず一晩だけ泊って貰おう、今日は大雪だから帰宅しても

大変だろうと考えたのではあるが・・・。

 

翌朝、世間を賑わすニュースが流れた。新聞の小さい見出しではあ

るが六芒輪香織が今は無き六芒輪商事の行方不明となった社長を

殺害したと自首したと載ったのである。もし祐一が普通の人であった

なら未だ容疑が確定してない母は記事にはならない、だが祐一は小

説家として世間に認められる著名人そして妻の由美も美人秘書とし

て写真集を出した有名人となっておりそのせいで記事になった。

河北良子は出勤前の自宅で、由美の父伊藤広治は会社の会長室で

そして中条刑事も新聞を読み驚いていた。ただ祐一と由美は一般新

聞を解約し現在は農業新聞しかとっていないので記事は見ていない。

祐一と由美が母香織の所在を知ったのは河北良子からの電話であ

る。

「もしもし祐一さん、大変なことになったわね」

「おはようございます、良子さん」

「大変な事ってなんです」

祐一と由美も母親が行方不明となって大変ではあったが河北に知ら

せていないので彼女が知る筈もないと祐一は思った。

「あなた達新聞見てないの、香織おかあさんが警察へ自首したのよ」

「なんだって」

電話から顔を話し祐一は妻を読んだ。

「由美大変だ、ちょっとこっちへこい」

「今おかあさんを探す為知人へ連絡して忙しいのに、なによ」

「良子さんからの電話でかあさんが警察へ自首したそうだ」

「うそ」

祐一から携帯電話をもぎ取ると由美は河北と話す。

「もしもし良子さん、そんなの信じられないわ」

「嘘じゃないわ今朝の新聞に記事が出ていたもの」

由美は母の香織があの憎い男を包丁で刺したのを香織から聞いて

いた、以前香織が自殺をはかったのもそれが原因だと知っている。

ただ香織は2番目の孫を楽しみにしていたので生まれるまでは何事

もないと安心していたのだが。由美は妊娠しておりあと半月で生まれ

るのだ。

「それでどこの警察署へ自首したのかわかる」

「新聞記事ではそこまでは書いていなかったわ」

すると由美は祐一から肩を叩かれた。祐一は小声で言った。

「たぶん秦野署じゃないか」

午前中秦野の叔母の家を出て都内の警察まで出頭するのは不可能

なぜなら大雪の影響で電車は止まっていたからだ。祐一は今、ストレ

スを感じている、同じ警察署へ行ったにも関わらず母がいることにま

ったく気づけなかった。祐一が捜索願を出したのを知る由美は夫の

悲痛な想いを汲み取り手を優しく握ってみた。握り始めには力強かっ

たが徐々に力は抜けて行き優しく握られる、それは祐一が自分自身

に対する怒りを鎮火するのを由美は感じることが出来て安堵した。

 

広治は東京本社ビルの1室、会長室で娘である由美になんて言えば

いいのか悩んでいる。殺害を実行したのは桜庭であるが指示したの

は広治本人である。広治自身、桜庭から詳細なる報告を受け祐一の

母が事実上殺害していないのを知っていたのだ。広治が警察へ出頭

さえすれば母の香織は釈放されるだろう、だが桜庭と西尾部長(河北

)からの説得によりそれは許されない。祐一と由美は広治が清二社

長殺害を発案したのを知らない、知らなければ娘夫婦が苦悩する事

はないし証言することもない。広治は胸の中で謝った。

”すまない由美”

 

河北良子は現在も祐一と通話中である。

「良子さん、二人で警察署へ面会に行ってこようと思います」

「それはどこの署かしら」

「いや今の段階では言えません、あくまでおれの予測でしかないので

 間違っているかもしれないし。」

「そうですか。でも多分面会は不可能かと思いますよ」

「なぜです?」

「まだ取り調べの最中でしょうから拘置所へ送られるまでは」

「そうなんですか、でも一応行ってみます」

河北は祐一が電話越しで衝撃を受けていると感じていた。河北が拘

置所という単語を出してから祐一の滑舌が悪化したからだ。河北とし

ても由美の父広治が関わってると知ってはいるがここでは役者を演

じて見せる。シナリオを作った当人が筋書きを教えるわけにはいかな

いのだ。ただ香織が予定よりも早く出頭したのが河北には予想外の

出来事ではあったが想定内だと自分を納得させる。河北は気づくこ

とが出来なかった、運命の歯車はズレを生じ噛みあい回りはじめた

ことに。

ドラマや映画は脚本に従って進行する、当然個々の役者が登場する

シーンは前もって知らされ準備ができる。だが突然配役の変更があっ

たとしたら?シーンに使う施設あるいは建築物が予定より早く撮影す

ることになったとしたら脚本は書き換える必要になる。果たして河北は

シナリオの変更をすることができるのだろうか。

 

つづく

 

この物語はフィクションであり実在の

人物、団体には一切関係ありません