祐一は自分の子供が出来た事にまだ実感が沸かなかった。もし由美と
すでに結婚していたら喜ぶところだろうがまだ結婚する予定はない。
いずれは結婚するつもりではあるがどう考えても子供の生まれる方が
先になる、自分が持つ肉食精子もそうだが子供が出来た事に複雑な気持ちだった。そういえばまだ自分の母多恵には子供が出来た事を伝えて
いない。どうしたものかと迷っていた。
「祐一いるかい」
「なんだいかぁさん」
「あのさぁ由美さんの事なんだけどね」
「由美がどうかしたのかい、もしやなんか粗相でもした?」
「粗相なんてとんでもない、大金星じゃないか?」
祐一は母が何を言ってるのか訳がわからなかった」
「はっきり言ってくれよ」
「子供が出来たんだってね」
「どうしてそれを・・・」
母が言うには昨晩電話がありとても嬉しそうに娘の由美が身籠ったと
母に言ったのである。香織としてはすでに孫の事は諦めていたのでそれ
は喜んだ。いつまでも煮え切らない祐一に広治は香織に協力を頼んだ。
「それで結婚はいつするんだい」
「だって俺金持ってないから由美にはもう少し待って貰おうかと」
「馬鹿言ってるんじゃないよ、少し待つ?お腹の子は日々育っていくんだ
10月10日で生まれるんだよ、ぐずぐずしてるんじゃない」
「そんな事言ったって結婚式場は金掛かるんだ」
「だからおまえは馬鹿だっていうんだよ、教会や寺で二人だけでやれば
いいじゃないか、籍だけ入れてあとから式を挙げる人もたくさんいるん
だよ」
「そうは言っても向こうのご両親がそれじゃ納得しないだろう」
「だったらいい、わたしがトラクターなどの機械を売って金作ってやる」
「わかったよ、おれがなんとかするから」
母親の多恵は1月生まれでせっかちだった、祐一がのんびり構えている
と本当にやりかねない人間である。とりあえず由美に連絡することにした
「もしもし由美ちゃん、おれだけど」
「はい?おれ様などと言う方はご存知ありませんが」
「ただ今取り込んでおりますのでしばらくしてからまたお掛けください」
”ツーツーツー”
「あ、本当にきりやがった」
「パソコンのサービスセンターのコール案内かよ」
「もしもし六芒輪祐一ですが由美さんですか」
「あ、はい。祐一さんじゃない、どうしたの変に丁寧で」
「先程電話したらどちらさまって言ったじゃないか」
「いひひ。実は知ってたよ、それで何の様かな」
「あのさ由美、冗談に付き合ってる暇はないんだよ、緊迫してるんだ」
「言いにくいんだけどおまえいくら持ってる?」
「どうしたの、振り込め詐欺にでも騙された」
「いやね結婚式を挙げなければいけなくなった」
由美は先日西尾から貰った小切手のことを思い出した、だがあの500万
を使えば自費出版が出来なくなる。祐一にはどうしても本を作って欲しかった由美は喜びたい気持ちを押さえ式を諦めてもらおうと考えた。
「それは200万くらいあるけどさわたしだって今無職だし、結婚式は無理
じゃない」
「ちょっと足りないな、他あたってみるよ」
由美が何のために貯金しているのか祐一は気になった、そしてその預金は自分が使っていいものじゃないと思った。自室で祐一が悩んでいると
一本の電話が祐一の携帯へ掛かってきた。
「もしもし祐一さんですか、はじめまして西尾と申します」
「西尾さん先日は電話頂きありがとうございました、おかげで由美を救う
事が出来ました」
「聞きましたか、由美さんから」
「それで今日はどういった御用ですか」
「いえ小説をお作りされているそうでどのくらい進んでいるかなって」
「大体9割くらいは出来てるんですよ、できたらお見せしますよ」
「実は西尾さんに頼みたい事があるんですが誰かお金を貸してくれる
人しりませんか」
「わたしにあればお貸ししするところですが生憎最近大きな出費を致しま
して今残ってないんですよ、お二人にはご迷惑かけておりますのに」
「差し出がましい事をいうようですが、もしその気があれば出版社に売り
込んでみては如何かしら」
「わたくしが出版社のご紹介をしても構いませんよ」
そこで祐一は考えた、自費出版になれば大金がかかる。だが出版社か
ら認められれば本を売り出すことが出来る、ここで誰かに借金できたと
しても返す見込みはない。ならばダメ元で売り込んでみるというのも1案
ではないか祐一は考えた。
「ではご紹介お願いできますか」
「わかりました、電話しておきますので頑張ってください」
「どうだ餌は食いついたか」
「ええおっしゃる通り、即答でした」
「そうか後は任せなさい」
暗躍する二つの影。
祐一は西尾から教えて持った雑誌社、名前は知っていたが来たのは
はじめての業界の中で大手と言われる会社である。受付で名前を書き
案内されたのは5Fの編集部だった。編集部に入るとすぐ名前を呼ばれた。
「六芒輪さんですね、はじめまして小早川と申します」
「よろしくお願いします」
席につくとすぐ原稿を担当編集に渡してみると忠告された。
「売り込みと西尾さんからお聞きしましたが間違いないですね。初対面
でこういう事いうのは失礼かと思いますが無名の作家さんの場合、か
なり良い出来の作品じゃないと採用されませんのであまり期待しない
でお待ち頂ける助かります。」
「わかっています、ではよろしくお願いします」
小早川は早速原稿を見る事にした。西尾や経済界の大物から圧力を
掛けられているがつまらなかったボツにしようと考えていた。
タイトル;僕と由美の物語
僕と彼女はお互い必要とする間柄です。ひとは僕たちの仲を見て羨ましいと言いますが僕たちは特別ではない。愛する人がいるあなた、自分がもし必要ないと思っているならあなたは進む速度もう一歩だけ自分のペースより速く踏み出してください、すると相手が何を考え何を望んでるかきっと理解できる筈です。男女の仲は待っているだけじゃダメなんです
あなたが彼を知ろうと努力すれば相手も彼女を知ろうとするでしょう。
ぼくらはそうしてお互いを知り歩み寄りました。そして今はお互いがなくてはならない存在になりました。こう書くと一年中仲がいいと思われてるかもしれません、でも喧嘩もします、言い合いもしますけれど最後は仲直り
彼女は僕に対し言いたいことをはっきり言うし飾らない、素の自分をさらけ出してくれます。それはいいことでもあり悪くもあります。自分もたまに
思うんですがもっと可愛い女になってくれと。
僕は見合いで彼女と会いました。でもそれは外見だけのことで彼女の
内面とは4年前から交流していました。彼女と僕はブログで知り合いました。それが二人の出会いだと思います。見合いした当初、彼女は会社の受付でしたが秘書室へ移動となりました。ぼくは農業人なので収入は少なくそのため彼女は僕に黙って給料のいい秘書室への移動を願ったのです。だがそれは社長の企てた罠でした、彼女はまんまと社長の罠に
嵌ってしまったのです。社長は以前から彼女を狙っていた訳でその彼女
を得るため僕と彼女の見合いを企てたのです。なぜそんな計画ができた
のかそれは社長が僕の叔父だから見合いのセッティングに誰も疑われないのです。そして彼女を得た社長は僕が邪魔になり彼女と破局させるため自分と部下である彼女の情事をみせるため僕を呼びつけました。
「うむ、いいなこの話」
小早川はこの話を進めることにした。
その後、祐一は自分の小説が出版となるのを聞き由美の両親に融資を
頼んだ。祐一は収入の宛てがなかった為金を借りるのを躊躇っていた。
だが今は違う、たとえ本があまり売れなくても1000円くらいはなるだろ
うと考えたからだ。だが本が発売されてみれば・・・
結婚式を数日後に控えた二人はあるレストランに来ていた。
由美のお腹は目立つようになり結婚式には特注のウェディングドレス
を着る。お腹にあわせて痩せて三角だった顎も今は膨らみ丸顔となった
「なぁ由美、本当に結婚式出れるのか?陣痛あるんじゃないか」
「大丈夫よ、たぶんね」
「ところで小説なんだけど、原稿のまま本になるんだよね」
「なんだ、読んだのか」
由美は祐一に内緒で生原稿を読んでいた、そして気になったのは自分のプライバシーが露呈している場面もあったことだ。
「ああそのつもりだけどなにか問題でもあるのか、やはり淫らな姿を描い
たのはまずかったかな」
「・・・ ・・・」
「あれはまぁ仕方ないかな、そこじゃなくて一緒に鎖場登る場面とかわた
しのマンションに泊った時とかね」
由美は祐一にしか見せない素の自分まで小説に書かれ読んだときは
”プルプル”と原稿を持つ手を震わせてしまった。
「ああそっちか、自分のだらしないところや料理ができないところはやっぱ
り恥ずかしいか」
「当たり前です、恥ずかしくて町歩けなくなるよ」
「おれはね君のすべてを受け入れ愛している、それをわかって貰いたい」
祐一の言葉に由美は赤面して何も言えなくなってしまった。そもそも祐一
が必死で作った小説に意見するのも差し出がましい真似だと思っていた
「でも由美が嫌だというんなら一考してみるよ」
”おいあの人、元秘書の・・・”
”きっとそうよ”
傍で自分たちの事噂している声が聞こえ祐一はいまだに誹謗中傷され
るのかと思ったがそれは杞憂だった。
”じゃ傍の人が彼だろ、あの飛んで助けたという”
”そうじゃない、あなただったら出来る?”
”きみはあの場所へ言ってないだろう、おれは行ったんだぜ”
”冗談じゃない立っているだけで震えるんだ”
”じゃそんなところから飛び降りたの、すっごい”
悪口ではなかった、特に祐一は今世間で高い評価をされている。
世間は変わった、それは西尾のおかげかもしれない。由美は嬉しそう
に笑っていた、自分の夫となる男が人から褒められるのは自慢だ。
ふたりが楽しそうに談話してると声をかけられた。
「あの、もしかして由美さんですよね」
「ええそうですが」知らない人に呼び掛けられ由美は不安になった。
「ごめんなさい、ネットの掲示板で良く知らないのにいい加減なことを
書いて申訳ありませんでした」
「ああ、あれですか。もう過ぎた事ですからいいですよ。でもお詫びする
というなら今度この人が本を売り出すんですけど買って貰えませんか」
「お、おい由美」
「こいつ、悪いやつじゃないんですけどお調子者でして。言ったんですよ
もし愛人じゃなかったらどうするんだって!それで謝りに伺いました」
この二人はネット掲示板で誹謗中傷してたものと養護していたものだっ
た、二人は友人だったのだ。
「あらそうですか、誤りに来てくれてありがとう」
「本は買わさせて貰います、いや絶対買います」
「僕も買っていいですか、それと結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます」
この日二人の座るテーブルに現れたのは30人にも上った。謝罪に
くる人と由美を見に来る人、そして苦難を乗り越えながらそれでも生き
続け今回めでたくゴールを決めた二人を一目みたいと現れた人達。
今や二人はネット上で理想のカップルとして崇められていた。
結婚式を終え一か月が過ぎ祐一の本が書店に並ぶ日がきた。初版1
万部、無名作家としては類を見ない多さである。それでも本はあっと
言う間に売り切れ増版することは決定した。祐一は時の人となる。
ただ本がここまで売れたのには由美のおかげという声も聞こえた。
TVではニュースで話題となっている祐一の小説に関し街角インタビュ
ーを放送している。
「この小説、どう思いますか」
「読んで感動し泣いちゃいました、家へ帰ってからまた読み返します」
「そちらの男性は?」
「美人なんだけど欠点だらけの奥さんがカワイイ、そして祐一さん格好い
いよ、ぼくも買いました。」
「ではそこの奥さんを最後にします」
「私はこんなに感動したのは久しぶりでした、もう1冊買って蔵書にします
そして奧さまの勇気に完敗ですよ」
「はい?それはどういうことですか」
「女性って人前では着飾ってますけど一人になると人に言えない姿に
なるもんです、だって人間ですもん。全て曝け出すなんてわたしに無
理」 「ありがとうございました」
祐一の小説が出版するにあたり広治も実は動いていた。
西尾に電話をかけさせ出版社に圧力かけ販売店にも圧力かけていた
その後由美は無事出産、農業に従事するようになると勉強し研究に
研究で甘いトマトを売り出した”ゆみちゃんのトマト”これは大当たり
祐一は小説家となるがそれは農業の片手間に過ぎない。ではあの
西尾から貰った小切手はどうなったのだろう、自費出版に使うと言っ
た500万そして由美の預金200万は?それは由美のみぞ知る。
祐一は今妻の由美とビニールハウスのビニール変えをしている。
仕事をしながら父に苦情を告げた時の回想をしていた。
父広治が雑誌社に圧力をかけたと聞き祐一は我慢ならなかった。
「おとうさん、なぜあんな手回しをしたんですか」
「出版したのもお父さんの力なんですね、だったら僕は手を引きます」
「祐一君、わたしはね君が借金に来るのを待っていたんだ、だが君も
男だ、返せる見込みがないのに借りに来ないだろ、だからわたしは
権力を使った。それは娘の為にね」
「君はつまらんプライドを持っている、今まではそれで良かっただろう
だが今君には娘がいるんだ。娘の為にプライドを捨てなさい」
「・・・」祐一は返す言葉がなかった。
「それから本が売れたのは君の実力だよ、編集者が言っておった。」
「わたしはつまらない本を売る気はありません、舐めないで頂きたい
あの話は本当に良かった、読んで自分は泣きましたとね」
「ちょっとあなた!ボヤっとしないの。ビニール飛んでるじゃない」
「ごめんごめん、好きだよ由美」
「ちょっと何いってるのよ・・・」
「お父さんにさ娘の為にはつまらないプライドなど捨てなさいって言わ
れた事があってさ、今ならわかるよ」
「おいでナナ~」
「パパがね、抱っこしたいんだって」
「パパだぁ~いしゅき」
初夏の暖かな風に四つ葉のクローバーが舞っていた。
おわり
この物語はフィクションであり実在の
人物団体には一切関係ありません