由美の両親から呼び出しを受け家を訪問した二人は家に案内される
と居間で広治から説教されその後祐一だけ残され父親の広治から感
謝されたのである。二人の話が終わったのを見計らうようにやってきた
母親の香那子は帰ろうとする祐一を引き留めた。
「祐一さん、今晩は泊っていくんでしょ」
「いやママ、まだ二人は結婚前だ。まずいんじゃないか」
「由美と同じ部屋で泊るというのは」
「あらそれはいい考えがえね、では由美の部屋に布団を用意しましょう」
「あ、おい」
香那子はさっそく由美の部屋へ布団を運びに行ってしまった。
祐一と由美は別の部屋で寝るだろうと考えていたが夫の発言を聞き
同じ部屋で寝るのもいい考えだと気づいた。同じ部屋で二人が寝れば
早く孫が生まれる可能性だってある。香那子は孫がとても欲しかった。
深夜夫と二人で由美の部屋へ様子を見に行ってみると室内はやけに
静か、こっそりと覗いてみると由実と祐一は同じベッドで熟睡していた。
「なによ子作りは?」
「ママ、聞こえるからもっと小さな声で話しなさい」
「見てみなさい由美の幸せそうな顔を」
「本当、由美もあんな顔できるのね」
祐一の腕枕で寝る由美、横をむく由美は祐一と顔を見合わせるように
二人は寝ていた。
「行こうママ、二人の邪魔しちゃいけない」
「そうね今日は無理みたいだし」
幸せそうに眠る二人を見て広治と香那子は自分達も穏やかな気持ちに
なることが出来た。今日は静かに二人を見守ろう。
だが翌朝、新聞記事を見て広治は新聞を持つ手が震えていた。
広治の視線の先にあった写真は裸で絡み合う男と女の姿であった。
目隠しされているものの、一目で由美だと広治にはわかってしまった。
「ママ、ちょっとこれ見てみなさい」
「確かに由美に似てるわね」
「似てるなんてもんじゃない、そっくりじゃないか」
「おい!由美起きてこい」
「あなた、そんな大声出さなくても」
父の怒鳴り声を聞いて眠そうな顔をして由美と祐一は部屋から出てきた
「なによ朝から大声だして」
「これを見てみなさい」
広治が差し出した新聞には自分と社長の情事がしっかり写っていた。
由美はその写真を見た瞬間、衝撃を受けた。
「な、なんであの時の写真が・・・」
「おまえ、覚えがあるんだな」
「祐一君と言う人がありながらおまえという奴は」
「それは・・・」
「説明できないのか?」
「何かの間違いよね、由美ちゃん」
由美は娘として両親だけには知られたくなかった事、だが公に晒され
由美は今困っていた。
「僕から説明しましょう、僕の知る範囲ですがそれでも構いませんか」
「祐一君にも知られてしまったのか?由美今回の結婚はもう無理だな
祐一君には申訳ないが諦めてもらう」
「そんな、あなた。」
「祐一君、そういうことだから承知してほしい」
「おとうさん、その判断の前に僕の話を話を聞いてください」
祐一は今回の見合いは最初から自分の叔父であり由美の会社社長
が企てた謀略だと話した、叔父の狙いは自分の兄、祐一の父に対す
る復讐が根元で祐一を不幸の淵に突き落とすのが目的でその為に
由美を秘書室へ移動させ自分の肉奴隷にさせた。その後祐一に電話
をかけ社長と由美が交わる現場を見せた。由美は社長の罠に嵌った
だけで由美もまた犠牲者なのだと熱く祐一は語った。
友人ではないが広治と祐一の叔父は親しい間柄であり今回の見合
いも叔父である清二のおかげで見合いすることができたものだ、だ
が祐一の話を聞き、はじめて二人が叔父と甥の関係だと知った。
そこで広治は理解したすべては清二の描いたシナリオだと。娘を凌
辱された恨みと裏切られた怒りで広治は身震いしていた。
「由美を最初から狙っていたのか、おれの娘を。あいつはおれをも裏
切ったこのまま黙っていることは出来ん。必ず鉄槌を受けさせる」
「由美ちゃん、大変な目にあったのね。可哀想な子」
「パパ、ママ」そういうとその場でへたり込み泣き崩れた。
「すまなかった由美、ひどい目に遭ったんだな」
「祐一君は何もしなかったのかい」
無言の祐一に代弁するかのように涙を拭きながら由美は答えた。
「あのね、祐一君が社長を殴ったの。そしたら1発で気絶したわ」
祐一が由実の心を汲み取り娘の分まで清二にぶつけた事に父親
として広治は安堵できた。
「そうかぁ由美、おまえの彼氏は強いな」
「うん、うん」
この時、広治は社長の清二は由美を取り込みその後何をしようとして
いたのか考えた、答えはすぐに見つかった。広治の会社を乗っ取り自
分の持ち物としていたと考えた。広治は自分の持つ全勢力を持って清
二の会社、六鋒商事を潰すと決意した。
その六鋒商事は臨時役員会を招集されていた。議題は現社長の退陣
要求と秘書課長の舛添解雇である。発案者は秘書室長の西尾室長及
び秘書室全社員。ここで西尾は社長の乱行として数枚の写真を提示し
た勿論由美の写真もある。新聞社へ投降したのは西尾だった。議題は
社長退陣要求だがそれは建前、西尾は以前から秘書達女性へ各役員
の調査をさせていた。この役員会は株主達も招集され今役員たちの写
真も公表していた。西尾の目的は他の役員達の退陣も視野に入れている。最終目標は会社解体と全国秘書組合連合の設立。
「役員みなさまには自主的に退陣なさって欲しく思います」
「もし自ら去らないとおっしゃるのであれば吝か(やぶさか)ではござい
ますが警察の手に委ねることになります」
「ふざけるな!そんな事して只で済むと思うなよ」
「今朝。伊藤産業の伊藤社長が娘である由美さんの写真を見られ憤慨
されてるとのこと、無事で済まないのはどちらでしょうか社長」
「くっ!そこまでやるか」
「伊藤社長が本気になったらどうなるか?役員皆様もご存知でしょう」
六鋒商事社長、清二がやりたい放題してるのはバック、協力者がいた
からである。清二は組織暴力と繋がりが有った、それは契約という名
の信頼関係ではあった。秘書の女性達が一定期間で行方不明となっ
たのもこの勢力が行っていた。しかしこの組織暴力と会社の仲介役と
なった人物が存在した、それが伊藤広治である。
もし由美がこのまま社長の肉奴隷となっていたら組織暴力団により由
美はどうなっていただろう・・・。
会議の最中清二は誰かにこっそり電話しているようだ。
「もしもしおれだが始末してほしい女がいるんだが」
「あんたとはもう仕事できない、わかっているだろう」
相手の男は今朝の新聞を見たのだ。
「いままでおれから散々うまい汁を吸ってきたじゃないか、最後だ」
「あんたに義理はないんだよ」
「それよりあんたは今やばい状況だぜ、気を付けるんだな」
男はそれだけ言うと清二との通話を切った。
その1週間後、新潟県の沖80キロ海上で漁船が一隻真っ暗な夜の
海で漂っていた、数人の男たちがドラム缶を海へ投げ捨てたようで
海水が跳ねて静かな夜の海で音を発する。翌朝の新聞で昨夜北朝鮮
の不審船と海上保安庁で打ち合いがあったと報じられた。
さて広治の家では新聞に由美の写真が掲載されたことに危機感を抱
いていた。報道は甘くない、いずれこの家にも記者たちが押し寄せる
と広治は危惧していた。自分たちはいいが娘と祐一には会わせたく
ない。
「なぁ由美、おまえ祐一君とどこかへ行ってきなさい」
「パパ、急にどうしたの」
「戸隠山へでも行こうか」
祐一は広治の心情を理解し提案してみると由美は反論した
「ダメだよ、祐ちゃんには畑仕事あるじゃない」
「いやね、以前から母に戸隠の延命茶が飲みたいと言われていたんだ」
「でも戸隠って遠いんじゃない?」
「うん長野県なんだけど新潟県の近くの方だからな」
「由美ちゃんママもお蕎麦食べたいんだけどな」
「パパは戸隠の地酒頼むよ」
「わかった、わかりましたよ」
「じゃぁすぐ行きなさい」
「だって服はマンションなのよ、一旦帰らないと」
「このカードを使いなさい、なんたら山荘とかいう登山用品専門店が
近くにあるからそこで祐一君のも一緒に買いなさい」
「え、いいのパパ」
「じゃぁ祐ちゃんの服は見立ててあげるね」
「じゃ行ってきます」
祐一は適当に戸隠山と言ってしまったが山の冬は早いのである。
東京はもちろんだが祐一が住む大井町でさえまだ初雪は観測され
ていない、事前に計画していればスタッドレスにタイヤを履き替えて
いただろうが急な思い付きであるため、車のタイヤは夏タイヤである
祐一の車は4WDであるがタイヤが夏タイヤである為雪道には不適
なのだ。戸隠は初夏でも万年雪をみることが出来る、そんな山は思
う以上に積雪量が多い。
登山用品専門店へ着いた二人は。
「戸隠へ行こうと思っていますが今どうでしょうか」
「もう積雪してると思いますよ」
「靴はどうしますか?」
「靴も買わないとだめですか」
「最低アイゼンは必要ですよ、6本爪がいいですね」
「由美、どうしよう結構な金額になるぞ」
「この際だから一式揃えちゃおうよ」
ザックから衣類、縦走用のトレッキングシューズまで購入する二人。
その二人を指し話している女性客がいた。
「ねぇねぇあの女のひと見たことない?」
「わかんないよ、でもどこかで見たような・・・」
祐一の運転する車は東名高速に乗り海老名ジャンクションから圏央道
へ、そして今は関越道を走っていた。
「会社、クビになっちゃった」
「これからどうする、一緒に農業するか」
「それもいいけど何か仕事を見つけないと祐ちゃんを食べさせてあげ
れないじゃない」
「食べるだけならなんとかなるが生活費がないもんな」
「でも秘書だけは絶対だめだぞ、あとAV女優もな」
「あい、この命は祐ちゃんから貰ったもの、言う通りするわ」
「あ、また西尾先輩からメールがきた」
「どうして出ないんだよ」
由美は社長に調教されたのだが西尾は嫌がる由美の自由を奪い
社長に協力した、今も由美は西尾が許せなかった。
「先輩は最初からわたしが社長に弄ばれるのをわかっていたのよ
わたしが自殺しようとしたのはすべて先輩のせいなんだよ」
「だからって無視するのはダメだ、きちんと正面向いてぶつかれよ
先輩の頬を叩いてやれば少しは気が晴れるんじゃないか」
「代わりに祐ちゃんが対談してよ」
「俺が西尾さんに会ったら切れて殴っちゃうよ」
「ああ、そりゃだめだ。祐ちゃんが殴ったら病院送りになるから」
「試しに由美を叩いてみよう」
「いやぁ、ダメ。変な趣味に目覚めたらどうするの」
「それはそれで楽しいかも・・・」
「なんか言った?」
「いえ、何も」
「ぷっ」「わっはは」二人は高速を走りながら笑いあった。
楽しく談笑する二人とは対照的に事態は悪化していった。ネット上
掲示板では由美の顔写真が晒され批判派と養護派で対立。
”顔写真あげるなんてプライバシーの侵害じゃないか、被害者だそ”
”社長の愛人だったんだろ、今までうまい汁吸ったんじゃないのか”
”汁すすったのは社長のほうだぞ”
”そりゃそうか”
”心傷ついた被害者だったらどう責任取るんだおまえら”
大雑把な新聞報道のおかげで勝手に想像し当事者の気持ちなど考え
ない身勝手な者たち、だがそれはTVの番組でも同じだった。
知識人と敬まれ自分の知識や一部の状況だけで判断し自分の発言の
せいで当事者がどうなるかまったく考えない報道番組のゲスト達。
広治と香那子の二人は取材にきた報道陣に対し取材を拒否していた
当事者が取材に対し正しい応対を怠ったのは間違いであるがだから
と言って想像で広域に電波を発するのは大きな誤りといえる。
由美も報道被害者になりつつあった。本来被害者が自己の正当性を
わざわざ公表する必要はない、もし必要性があるというならその人間
社会は奇異である。
祐一と由美は戸隠に到着しTVで何度も取材された有名そば店にきて
いた。だが地元に住む住人からは味が落ちたと評判が下がっていた
店だった。
テーブルに二人は座りメニューを読んでいると声が聞こえた。
「おい、あの女じゃないか」
「ああ例の社長秘書だろ」
話していたのは40代半ばの男達だった。男の一人が祐一達の傍ま
で歩み寄ってくると由美に向かって話しかけた。
「あんた社長と付き合ってたくせにもう新しい男つくったのか」
「何ですか、あんた」
初対面で失礼な話し方をする男に祐一は腹を立て威嚇するような低
い声で男に向かって言った。
「テレビでやってたぜ、随分社長からむしり取ったらしいなその体でよ」
「おい、いい加減な事言うんじゃない。お前ら何を知ってるんだ」
「待って祐一さんわたしが言うから」
「わたしは社長から何一つ頂いていません、あの男は口ばかりで
わたしを言いくるめ罠にかけました。」
「何言ってるんだ、この性悪女が」
由美は自殺を決意し祐一により生還してから精神的に強くなっていた
以前なら他人に意見を述べることは出来なかったが今は反論した。
だが知らない他人に突然失礼なことを言われ悲しくなってしまう。
「なんで心に深い傷を負ったわたしが責められなければいけないの」
由美は泣き叫び手で顔を覆った。
この店にいるすべてのひとが自分を責めると由美には思えた、だが
それは違った。由美を慰めるのは祐一だけではなく由美は女性の店
員からも優しい声をかけられた。
「泣かないでおねえさん、きれいな顔が勿体ないですよ」
「ありがとう店員さん、でも由美は大丈夫」
そして厨房から体格のいい中年男性が出てくると声を張り上げた。
「お客さん達さ、勘定いらねぇから出て行ってくれ。他のお客さんに
迷惑なんだよ」
「ふん!2度と来るもんか、なんて店だ」
「SNSにアップしてやるからな、覚えておけよ」
男の連れがそう言った時、奥に座る若女性ふたりが叫んだ。
「あんたらが女性にひどい事を言った時から動画撮影したのよ、さて
覚えておくのはどちらかしら。おじさん達の方じゃないかしら」
由美は自分の味方をする女性がここに居てくれて嬉しかった。
嬉しくて涙が枯れることなくつまでも泣き続けた。祐一はそんな由美の
背中を優しくさすり宥めるように声をかける。
「良かったな由美、理解してくれる人がいてさ。だからもう泣くなよ」
「うん、うん」
この時、祐一は事実を公にする必要があると感じた、由美の両親も含
めすべてを白日のもとに晒さなければならない。自分達は著名人では
ない、ではその方法はと考えたとき浮かんだのが創作である。
祐一が小説を作ろうと決断した刻だった。
つづく
この物語はフィクションであり実在の
人物団体には一切関係ありません