祐一が叔父から電話連絡を受け叔父が社長をする会社の社長室
へ入った。祐一が社長室で見たものは衝撃的な光景であった。
社長である叔父、褐色の肌の上で薄紅色に染まる肌の女性が跨り
身悶えていた。長い黒髪を両手でたくし上げ横を向いた瞬間、それ
が由美だと祐一が理解するには時間が掛からなかった。
「由美ちゃん、どうして」
由美が半開きする瞼で見たものは紛れもない祐一の立ち尽くした
姿であった。由美の意識は急速に戻されていく。
「いやぁあ~、見ないで」
「祐一、遅かったな。この女はもうおれのものだ」
叔父はそう言いながら下から突き上げるように腰を浮かせると由美は
切なそうに”ん、ん、ん”とため息を漏らした。
「おじさんなぜだ?」
だが叔父は嗤っているだけで応えることはない。
祐一は由美の背後にまわりわきの下に両手を入れて二人を引き離す
ように由美の身体を持ちあげ傍で寝かせると由美に自分の上着を脱
ぎ由美の身体が見えないように掛けた。
「社長のものが・・・」
由美が何を言おうとしたのか祐一はすぐに理解できた。
「何もいわなくていいから」
祐一は再び叔父を見つめた、今度は殺意を伴う視線で
「なぜこんなひどい仕打ちをする、おれが何かしたんですか」
「おまえじゃない、お前の父だ。これはお前の父に対する復讐だ」
「教えてやろう、お前のおやじ兄貴はおれの彼女を寝取った」
「だからといて由美に関係はないじゃないですか」
「女はな道具として使うんだよく覚えておけ、今の世も戦乱だった乱世
もな」
「おじさんこのまま済むと思ってないでしょうね」
「祐一よ俺を殺すと言うのか、殺せるのかおまえに。おまえは昔から
くちばっかりだったよな、兄貴もそうだったな」
確かに叔父の言う通り口ばっかりだった、そして叔父を殺すことも出来
い。ただ祐一には今出来る事がひとつあった、右手を力一杯握りしめ
叔父の頬をぶっ叩いた。叔父は強烈な衝撃を受け意識が飛んだ。
「では叔父さん、由美を連れていきます」
祐一が社長室の扉を開けた時、何者かがドアの向こう側で社長室の
光景を見つめていたことに祐一は愚か叔父も気づくことはなかった。
一体何者で何が目的だったのであろうか。
由美に服を着させた後二人はホテルへと向かった。由美の身体を洗
う目的もあるだが由美が先程訴えた”社長のが”と告げた言葉は理
解している。社長は種をまいた、このままでは由美は自ら命を断つ
かもしれないと思っていた。その解決策はといえば祐一はさらに強
い種を撒かなくてはならかった、だが傷ついた由美には望めない
ことでもあった。ホテルへチェックインしてすぐ由美は部屋で服を脱ぎ
だした。
「洗い流して祐一さん」
「今シャワーへ連れて行ってあげるよ」
「そうじゃないわ、ここで祐一さんのでたくさん愛して欲しい」
二人は激しく互いを求め貪りあった。柔らかくしなる白い肌と筋肉質
な浅黒い肌、柔らかな弾力で包み込まれる固い肉。泣き叫ぶ声と歓
喜の雄たけび、どこまでも反り返ようとする指の骨、細い爪が肉に食
い込み吠える。二つの体液、二つの肉が混じり合ってからみ合い
溶けあい一つに融合した時何かが弾け飛んだ。それを何度繰り返し
ただろうか祐一は魂も生気も使い果たしベッドの上で息も絶え絶えに
倒れていた。
無表情な由美は座り込み俯いたその顔でただただ祐一の顔を見つ
め続ける。気持ちが高まったのだろうか瞳からは大粒の涙が祐一
の頬へ落ちた涙の落ちる間隔が速まった時彼の頬は涙で光ってみ
えた。涙を流す由美のその姿はまるで愛する人へ最後の別離をして
いるかのように見えた。祐一にも彼女の心境は理解できたのだろう
突然瞼を開き目を見開く祐一の姿。
今回の事は二人にとっては衝撃的なことだった。由美が叔父の会社
の秘書だったとは知らなかった祐一、自分の会社社長の甥が祐一で
ある事。祐一は由美の事を信じたい、信じたいが事実を目にし信じる
気持ちが薄らいでいくことにも気づいていた。祐一は車で由美のマン
ションへ向かう車中で由美に話しかけることが出来なかった。由美と
てなぜ社長室に祐一が現れたのか不可解に思っていた。
ただ祐一がもっと若かったら由美とは2度と会わなかったかもしれない
祐一はすでに50代半ばで若い由美には何もしてあげることは出来な
い思っていた。そこで自分が何ができるかと考えた時、彼女を止めよう
と考えた。祐一は気づいていたのだ彼女が死を選ぶことを。
見合いしてからまだ数日しか経過してないが祐一と由美には4年という
ブログ友の歳月があり彼女が何を考えているか、何を大切に思ってい
るのか理解しており彼女が人生を終えるのであれば人に迷惑が掛からないようにすると考えられる、それは自室を死に場所を選ばない事。
由美が行動を起こすのはここ2,3日の事だと判断した祐一は彼女の
マンションを見張ることにした。
1日目はマンションから出かけることもなく郵便物もポストに挟まったま
ま、日が暮れても電気さえ点くことがない真っ暗な部屋。出かけるなら
夜だと考え夜通し起きて見張っていたが出かけるそぶりはなかった。
2日目の朝、由美はカジュアルな服装で部屋から出てきた。だが祐一
は睡眠不足もあり車の中で寝てしまっていた。由美が祐一の車の前
を素通りして歩いたが祐一は熟睡しておりまったく気づかなかった。
由美は上野駅から新幹線に乗り切符は高崎まで購入した。
由美が家を出てから1時間経過した頃、祐一は携帯電話の着信音で
目覚めた。発信先は非通知だった。
「あなた、何してるんですか。彼女は妙義山へ向かっていますよ」
相手の声は透き通るような女性の声だった。
「あなたはだれ?」
そこで電話は切れてしまった。
由美は高崎に着き信越本線に乗り換えた、切符は松井田駅だった。
松井田駅につくとタクシーに乗った。
「運転手さん、妙義神社までお願いします」
「妙義神社ですね、わかりました」
運転手はルームミラーで由美の青白い顔を見て心配になったが服装
が登山者のものなので体調が悪いだけだと思い取り越し苦労と考えた
妙義神社への長い階段を登り本殿にて祈願する。
”どうか祐一さんが幸せになれますように”と両手を合わせ祈願する
賽銭箱に1万円札を入れると由美の瞳からは涙が流れた。
2段15メートルの鎖場に取りつく由美の脳内では”どこで飛ぼうか”
それだけだった。由美の今歩くコースは妙義山表縦走路である、初心
者には難易度が高く危険な箇所はいくらでもあるコースだ。
4段30メートルの崖は上から見ると直滑降しそうに見える場所だった。
ただし死に場所を選んでいる由美に恐れはない。ここで落ちたら死ね
るかもしれないと由美の脳裏を過ったがここで死ぬのは不本意に感じ
た。なぜなら由美は自分の死体を誰かに見つけられることを望まなか
ったのである。しばらく登って行くと右下へ傾く大岩をみつけた。
ここは右下へ落ちそうな恐怖を堪えななめに登る”大のぞき”という岩
”ここなら・・・”
岩の右下最下部まで降りて下を見ると足下には何もなく遥か下まで見
通せる危険な場所であった。
「さようなら、祐一さん」瞼を閉じると先日畑で作業した光景が浮んだ。
そのまま由美は一気に飛んだ。
”バシッ”という音が聞こえたと思ったら落下加速を止め揺れている。
背後から力強く抱きしめられていることに由美は気づき首を少し降っ
てみると温かい眼差しで見つめる懐かしい顔がそこにはあった。
「ふー、危なかった」
祐一である、祐一はなんとか間に合ったのだ。
「なんで祐一さん、なんでここにいるのよ」
「離してよ、なぜ離してくれないの」
「生きてちゃ駄目なの、死なせてよ・お願いだか・ら」
由美は泣き続け半狂乱だが、祐一はその手を緩めはしない。
「生きるんだ由美、苦しくても辛くてもさ、いつか一緒に笑いあえる日
まで生きよう」
「無理よ、わたしはあなたの目の前であなたを傷つけた。わたしは自
分が許せないの」
「死ねば自分が許せるのか?君は自分勝手だよ残された俺はどうす
ればいい、君の両親は、おれのかぁさんだって生きてる間哀しみ続
けるんだ。それでもいいときみはいうのか」
「それは・・・」
「祐一さんはこんな汚れた女でも愛してくれるの?」
「由美の一体どこが汚れているんだ?きみがそう思うのならおれが
由美の身体を汚してあげる」
「やさしく汚してくれる?」
「ああ、勿論だよ」
「では帰って風呂に入ろう」
「はい、祐ちゃん」由美は敢えて汚すと言った祐一が嬉しかった。
そう言ってはみたがザイルに吊るされた今の状況で二人に出来る
事はなかった。両手が塞がった状況で出来ることは救助のために
笛を吹くことだけだった。由美は軽装備だったが祐一は登山経験
があるためフル装備できていた。登山者に見つけて貰うまで二人は
会話していた。
「おれさぁ由美をひとり先に登らせ後で由美に引っ張り上げてもらう
妄想したんだ」
「そうして二人は助かったの?」
「いやそうじゃなくてね、登り終えた由美がナイフでザイルを切るん
だ、おれは落ちそして横には女がいて二人抱き合う」
「なによそれ、サスペンスドラマの見過ぎでしょ」
「実はねここに来る直前に知らない女から電話があって由美は妙義山
へ向かったと言われたんだよ」
「誰だろう、わたしは誰にもここに来ること言ってないよ」
「祐ちゃんの携帯番号をなぜ知っていたのかな」
「非通知だったから電話したのが知られては困る人間だな」
「こわいよ」
今暗室で一人の女が写真を現像していた。今の時代になぜデジタル
写真ではないのか、写真を証拠物件とする場合デジタル写真だと写
真の編集や加工が可能なため畏れたのではあるまいか。現像液から
取り出した写真は数枚あり乾燥させるために女は吊るしていた。
女は部屋の照明をつけると写真には男と女が絡み合う光景が現れた
女は由美、そして男は社長である。女の顔が照明に照らし出された。
女は秘書室の西尾良子主任だった。傍には携帯電話が置かれていた
「由美さん助かったかしら」
電話を祐一にかけたのは西尾主任だったのかもしれない。
「このネタを元にあの男を必ず突き落として見せる」
写真を見つめる西尾の瞳は赤い炎で燃え怒りに満ちていた。
西尾はパスケースを取り出し写真を見つめ涙を流した。その写真に
は西尾と笑いあう男が映っていた、恋人なのか。「雅之さん・・・」
祐一と由美は山岳救助に助けられ今は両親の家へ呼ばれていた。
「由美、今まで何をしていたんだ」
「電話もしないしマンションに行ってもでないし」
「ごめんなさい」
「すみませんでした」
「何も祐一君が謝る必要ない、それとも君が連れまわしていたのか」
「あの実は・・・」
由美が真実を語ろうとした時、祐一が言葉を遮った」
「おとうさん、本当に申し訳ありませんでした」
「祐ちゃん、」
「何もいわなくていい由美、すべてはおれが悪い」
二人の会話を聞き広治と香那子は二人に心境の変化があった事に
気づいた。どういう理由で山岳救助に御世話になったのかはわから
ないが無事に帰ってきた二人に安心した。
広治は由美には部屋に行けと言ったが祐一とはもう少し話があり
「祐一君、君はここに残ってくれ」
「なんでおとうさん、残るならわたしも残るわ」
「おまえは黙ってなさい、香那子連れていけ」
てっきり祐一は父広治からさらに怒られると思っていたのだがそれは
祐一の思い違いであった。
「すまない祐一君」
両手をついて謝る広治に祐一は驚いてしまう。
「手を上げてくださいお父さん、感謝される云われはありませんよ」
「知ってるんだよ由美が死のうとしていたことを」
広治は両目いっぱいに溜まった涙を流し男泣きで感謝した。
「ありがとう、本当にありがとう」
「君に出会えて由美は本当に良かった」
広治は娘の由美が死を決意した原因を明確には知らない。祐一も
伝えることではないと考えていた。広治は社長なので滅多な事はし
ないだろうと考えるがそれでも知ったら怒りでどうなるかわからない
そして母である香那子も。だがそんな祐一の想いもいずれ無駄とな
る、着々と計画を練ってきた西尾主任は決起する時期を待っていた。
しかし今西尾は動く。
つづく
この物語はフィクションであり実在の
人物団体には一切関係ありません