あれから、10年くらいの歳月が流れたでしょう。

私が本社の総務課にいた時の出来事です。

毎年、新入社員の歓迎会と花見会を一緒にするのが本社の恒例行事です。

毎年、総務課が企画立案しています。

私は、係長でしたが、他の案件で手が一杯だったから、私より年次が1年下の係長が幹事になりました。

東京都内には、いろいろな桜のスポットが有ります。

その中には、禁断のエリアがあるのです。

いやに桜が綺麗だけど、人がいない場所が有ります。

そこは、事故スポットです。

幹事をした係長は、九州から転勤して来たばかりで東京都内は不案内です。

新入社員の歓迎会を兼ねているから、予算はそれなりに出しているし、当時専務だった社長も寸志を出してくれたから、飲食物は豪華でした。

金曜日の夜7時から、会を始めました。

私は、別の接待が銀座であったから行けなかったです。

役員は、社長以下専務、常務、各部長など7人で新入社員が5人だから、12人のはずでした。

紙コップに飲み物を入れて乾杯しました。

おい、乾、コップが一個足りないぞ。

誰かが言いました。

あれ、12個配ったはずなのに、不思議だな?

乾は、そう思っていました。

実際に数えたら、13個紙コップは使用されていました。

隣にも違うグループがいましたから、混じったのかな?

そう考えていました。

役員達も、新入社員の顔を全部覚えている訳では有りませんでした。

新入社員に、自己紹介をさせました。

一人づつ6人が自己PRした紹介が終わりましたが、もう一人、顔色の悪い女性がいました。

私は、そこにいる落合常務の愛人でした。

妊娠したと告げたら、殺されて、この桜の樹の下に埋められましたよ。

落合さん、迎えに来たわよ。

そう言って、女は落合常務に抱き付きました。

落合常務は、泡を吹いて倒れました。

そして、胸を抑えて苦しみ出しました。

救急車を呼ぶ騒ぎになりました。

結局、落合常務は心筋梗塞で亡くなりました。

桜の樹の下を翌日警察が掘ったら遺体が出て来ました。

行方不明になっていた、秘書課の川野の遺体でした。

そして、遺体は妊娠4ヶ月でした。

こんな事件があっても、新入社員歓迎会は、続けています。

花見は、場所を替えて、ある特定の場所になりました。

会社の保養所の桜の樹の下でやるようになりました。

毎年、山中湖までバスで行くようになりました。

そこまでして、花見をしたい社長の執念を感じますね。


桜の樹の封印を突破した女性の怨みの深さは尋常ではなかった。

落合常務の死後、家族にも不幸は続きました。

奥さんは、スキルス胃がんになり、2ヶ月後に亡くなりました。

息子夫婦の家は火事になり、家族全員が焼死しました。

その現場を撮影した画像の隅に、落合常務に殺された川野が写っていました。

川野は、不気味に笑っていました。