アイ,トーニャ 他 | 映画、その支配の虚しい栄光

映画、その支配の虚しい栄光

または、われわれはなぜ映画館にいるのか。

または、雨降りだからミステリーでも読もうかな、と。

または、人にはそれぞれ言い分があるのです…。

仕事でポーランドとドイツに行って来た。

機内で見た映画について、備忘録。面白かった順に。

 

「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」クレイグ・ギレスビー

悪く言えば、アメリカの貧乏白人ってのはこんなに馬鹿っす、についての情報映画。

しかし、頭の悪そうなアメリカンポップスにのせてノリノリ、軽快、テンポよく描かれる貧乏白人の姿が素晴らしい。マーゴット・ロビー扮するトーニャ・ハーディングが次第に愛おしく思え、競技シーンがえらく盛り上がるし、「フィギュアスケートしかない」彼女の人生が身につまされる。彼女を虐待する母親を、単なる悪役として一面的に描いていないのもいい。同軸でのつなぎを多用する風変わりな編集もいいし、スケートシーンのケレン味溢れるカメラワークも気持ちいい。

 

本物のトーニャ・ハーディングってえらく小狡そうな、性格悪そうな、いかにも女性が嫌いそうな顔だった記憶があるのだが、マーゴット・ロビーはそもそもがとても可愛く、だから、今ひとつ「下品なトーニャと上品なナンシー」ってのがピンとこず、これはまぁ映画ってもんの本質なわけですね。

 

 

「モリーズ・ゲーム」アーロン・ソーキン

ソーキン節全開の一作、といえば聞こえがいいが、「ソーシャル・ネットワーク」や「スティーブ・ジョブズ」(これも機内で見た)の人を変えたリメイクのよう。しかもこれら傑作ほど興味を持てる主人公でもないし、演出力(というか絵を作る力)にも欠ける。ソーキンだってんで期待したのだが、機内で観たからなのかどうも面白くなかったす。

 

 

「ゲティ家の身代金」リドリー・スコット

醜悪な老実業家を描きたいのか、誘拐事件をめぐるサスペンスを描きたいのか、まるでわからず。

ヨーロッパの大富豪ってこういう感じっす、ってのを撮りたいだけすか。つまらぬ。

 

 

「The Swindlers」チャン・チャンウォン

悪徳検察官と詐欺師がチームを組み、大物詐欺師を捉えようとする韓国映画。

どこかで見たことのあるような凡庸な画やアイデアが続き、それを糊塗するためなのか、やけに話が複雑。最後まで見るのが辛かった。今年の夏、公開予定らしい。

 

 

と一勝三敗なわけだが、機内上映はこのくらいがちょうどいい。あまりに傑作だと、映画館で見なかったのを後悔するしね。

「The Disaster Artist」というジェームズ・フランコ監督主演の映画も観たのだが、体調悪くて爆睡。映画は面白そうだったが、日本公開は未定らしい。

ちなみに、前に座ってた女性がP.T.アンダーソンの「ファントム・スレッド」(未見。というか観ない)を15分ほど観て「ドリーム」(いい映画だ)に替えてました。さもありなん。

 

と帰国したら、是枝のカンヌ受賞の報が。

嫌な世の中になったものだ。是枝にいい映画が撮れるわけないではないか。