音速を超える、一本のコピー -28ページ目

音速を超える、一本のコピー

33歳芸大生(職歴なし)が、文化放送のラジオCMコンテスト&宣伝会議賞を通して、電通へと駆け抜ける。コピーライター。現在は宣伝会議コピーライター養成講座上級コースに在籍。宣伝会議賞は、学生企画にも挑戦中。

僕は、31歳で芸大に入った。職歴も何もない。もともとは医学部受験をしていて、それで病気をきっかけに諦めたクチだ。そのときは、こう思った。「自分のできることをしたらいい」と。医者は、身体の強いひとがなればいい。そうしてうまく世の中は回っていく。だから、きっと自分がいなくても大丈夫、と。
しかし、それで物語は終わらない。小説家として食べていこうにも、僕は、自分の「コレだ!」という話がなくて悩んでいた。今から考えれば、合っていなかったのかもしれない。
立ち寄った場所は、梅田のMARUZEN&ジュンク堂。8月20日。蝉の鳴き声が忙しなく降り注いでいた。僕は夏休みの課題作成のため、コピーライターのコーナーに来ていたが、特に興味はなかった。しかし、様々な有名なコピーライターの本(眞木準、仲畑貴志、谷山雅計、etc)を手に取るうち、妙な本の存在に気づいた。
SKAT。「エスケーエーティー」そう口に出しても、全くイメージは浮かばない。著者名を見ると、宣伝会議とある。宣伝の会議を開いているのだろうか、それとも会議を宣伝するのだろうか。SKATに対してのヒントは何もない。もう、言ってみたら、わけのわからない変な雑誌だとしか僕は思わなかった。けれど、それが無性に気になって気になって仕方がなかった。なぜだかはわからないが、それを開かなければ帰れないような気がした。
ついに手に取ってしまう。パラパラとめくる。その瞬間、背中を熱いものが駆けた。「面白い!」そう僕は叫んでしまいそうになった。面白いことばかりが、所狭しと並んでいるではないか。要は、公募の賞で、一言でピシッと決めれば勝ちというものだった。いや、でもこういうのって、大概時期がもうとっくに過ぎていたりするんだよな、と思いながら、スマートフォンで「宣伝会議賞」を調べる。
9/1~10/31、まだ始まってはいない。しかもあと十日、準備期間がある。こんな偶然、あるだろうか。僕が生きてきて、はじめて出くわした偶然、それが誇張でも何もなく、事実だった。
「よし、きっと俺は運を味方につけるほど、この職業が向いてる。コピーライター、なるぞ!」と、その瞬間コピーライターとして生きていくことを決めた。向いていないことはわからないが、向いてることは、絶対にわかるのだと。気のせいか、目に映る景色全てが、華やいで見えた。
僕はいても立ってもいられず、店を出て宣伝会議賞の準備をはじめた。結局、手に持っていたSKATはボロボロだったため買うのはAmazonにして、それとヤフオクを駆使し、その日から五日もしないうちに、過去のSKATは全て揃ったのだ。
さあ、これで僕の人生がはじめられる。
目を閉じると、蝉しぐれがまぶたの裏に、照りつけるようであった。そして見上げれば入道雲。嵐が、来る。