-彼は泣いたらしい-


母は、手術が終ってから彼に『無事に手術が終わりました。今はICUで会えないけど、落ち着いたら会ってあげてね』とメールをした。
彼は自分をものすごく責めていた。自分が側にいながら、なんですぐ病院に連れていかなかったんだろう。本当にごめんな。

母に彼から『自分がついていながら、こんな事になってしまってすみませんでした。辛い思いさせて本当にすみませんでした。
チャムコにゆっくり休んで元気になってね。個室に移ったら毎日会いに行くからと伝えて下さい。』とメールがきた。

謝らなきゃいけないのは、私のほうなのにね。普通の彼女だったらこんな心配しなくていいのに、こんな思いにさせてしまった。辛い思いさせてしまった。彼にとてつもなく心配かけてしまった。
ごめんなさい。
病気になっても支えてくれて、嬉しかったなぁ。


彼は、私の母からのメールを見て、自分のお母さんの前で泣いた。

後からその話しを聞いて、私は驚いたなぁ。だって泣くなんてびっくりだよ。
キャラ的に泣かなそうな私の彼。
彼を知ってる人が聞いたら、みんな驚くよ。
そんな、彼を泣かせるなんて貴重だね。むしろ、私のために泣いてるとこ見たかったなぁ。


病気になって、辛かったけど自分の回りにいる大切な人の存在に気づく事が出来た。
私は、いつもこんなにたくさんの人に支えられて生きてるんだ。
いつも当たり前に側にあるから、改めて考えないけど側にいてくれる一人一人に感謝しなくてはいけないね。
当たり前な事が、当たり前でない事。
普通がどんな事より1番大切な事。

私は病気になって大変だったけど、何にもかえられない大きな大切な物を貰った気がする。
-術後-

手術は無事に終了したが、二週間は術後の合併症や脳梗塞などが起こりやすいためICUで管理していかなくてはいけなかった。

手術が終わっても安心は出来ない。


ICUはとても落ち着く環境とは言えず、ずっと機会の音がしていて時間感覚もなくなり一日が終わったのかも今何時なのかもよくわからない環境だった。
夜が長かった。看護師さんに何度も時間を聞いたような気がする。


術後…私の顔は信じられないくらい腫れ上がっていた。眼は内出血していて、誰かに鈍器で殴られたような顔だった。とてもじゃないけど誰にも見せられない。Doctorはすぐに腫れはひくよ。と爽やかに言っていた。でも、こんなに腫れていて元に戻らなかったらどうしようと不安になった。
女の子なのに、彼氏にはみせられないななんて考える冷静な自分もいた。



手術の次の日から、食事が始まったが頭が痛く食欲などわかなかった。

頭は常に痛かった。一時もらくにならず。痛み止めを飲んでもまったく効かなかった。
痛みのせいか何もやる気がおきない。ただ一日一日を淡々と過ごすだけ……あの頃の私は、ただ生きてる。そんな感じであった。


面会時間は1時間家族だけが許された。

でも、私にとって面会時間の15時が一番辛い時間だった。

朝と夜は少し体が楽になる時間があるのに、15時ぐらいがピークに辛かった。
両親に少しでも笑った顔を見せたいのに、辛すぎて笑う事が出来なかった。

それでも、母は毎日会いに来てくれた。
1時間ずっと側で私を励ましてくれた。
きっと、辛かっただろうな。不安だっただろうな。二人は、私の前では明るく振る舞っていたけど、眼が辛そうだった。毎日来る母に安心させてあげたかったけど、体が辛くてちょっとわがままな態度をとってしまったかもしれないな。ごめんなさい。お母さん。お父さん。そして、ありがとう。
―目覚め―

頭が割れるほど痛かった。頭が痛い。
頭にすごく違和感がある。これは何?
頭の痛みで目が覚めた。


ピポ…ピポ…


気づくと、そこは薄暗く単調な機械音がする場所だった。


私は一瞬どこにいるのかわからなかった。

なんだろう?私はどうなったんだろう…。


そうだ、入院したんだ。


私大丈夫なのかな?助かったのかな。


そんな事を考えてると、看護師さんが来た。
『大丈夫?わかる?手術無事終わったよ』


私『手術したの?全然知らなかった。看護師さん頭痛いよ。』


看護師『痛いよね。ごめんね。でもまだ痛み止め使えないんだごめんね。』
そう言いながら、手を握ってくれた。

看護師さんの手あったかい。
状況がうまく把握出来ない不安で押し潰されそうな私にその手の温もりはとても安心出来るものだった。


その夜何度も何度も看護師さんを呼び、『痛いよ。痛いよ。』
何度も訴えた。


何度も看護師さんを呼ぶ私に、看護師さんは文句を言わずいつも優しく手を握ってくれた。


―人の手の温もり―

私は、実習で終末期の患者さんを何人か受け持たせてもらった事がある。

末期のガンで辛そうな患者さんに、私が出来た事は手や足をさする事だけだった。
私には、何が出来るのか…何をして上げたら少しでも楽になってもらえるのかとても悩みながら患者さんと接していた。

悩みながらも毎日、毎日吐き気と嘔吐と戦う患者さんに傍にいる間は足をさすり続けた。


ある日患者さんの家族からお手紙を戴いた。
その手紙には
食事も満足に取れず、吐き気に悩まされる母にとって、あなたの手当ては何よりも安らげる時間だと思います。
と書かれていた。


患者さんにとって、私の手の温もりが少しでも安らげていたのなら、私のやってきた事は間違いではなかったんだ。
その手紙を読んで心が救われた。


患者さんにとって、薬じゃどうしようも出来ない痛みを人の手の温もりで和らげてあげる事が出来るのだと思った。

辛い時に最後に必要なのは、人の温もりなのかもしれない。