「宝島」(2025/東映=ソニー・ピクチャーズエンターテインメント)
監督:大友啓史
原作:真藤順丈
脚本:高田亮 大友啓史 大浦光大
妻夫木聡 広瀬すず 窪田正孝 中村蒼 瀧内公美 木幡竜
奥野瑛太 デリック・ドーバー 栄莉弥 塚本晋也 永山瑛太
おすすめ度…★★★★☆ 満足度…★★★★☆


この夏に公開された戦後80年を問う様々な作品、そのラストを飾るといってもいい渾身の大作が公開された。
「長崎-閃光の影で」と「遠い山なみの光」は被爆地としての長崎を舞台とし、「雪風 YUKIKAZE」は戦中戦後に人命救助で活躍した駆逐艦を描き、そして「木の上の軍隊」では沖縄の伊江島を舞台に終戦を知らず生き続けた上官と新兵の実話をベースとした。
そして「宝島」は戦後の沖縄の混沌を圧倒的な映像で描くヒューマンミステリだ。
妻夫木聡と窪田正孝そして再びの広瀬すずという実力派俳優が揃った本作は、圧倒的な映像体験とともに今まであまり描かれてこなかった返還前夜の沖縄の戦後史をスクリーンに刻んだ。
しかし…である。
原作は真藤順丈の直木賞受賞作「宝島」。
監督は「るろうに剣心」シリーズなどエンターテインメント作品で名を馳せた大友啓史。
ここが肝だった。
大衆小説が対象である直木賞受賞作を活劇を得意とする監督で映画化、完全にエンタメに特化した映画だということをまず頭に入れておかなくてはいけなかった。
映画では戦後の沖縄を舞台に1952年から1970年代初頭までが描かれる。
米軍基地から食料や生活物資を強奪して市民に供給する義賊のような行動で支持を集める戦果アギヤーと称される一団。
そのリーダーであるオンちゃんと呼ばれる青年のもとに集まった若者たちの中に三人の幼なじみがいた。
オンちゃんの親友グスクと彼の弟レイそしてオンちゃんの恋人ヤマコ。
ある日、いつものように一団は嘉手納基地へ侵入するが米兵に見つかってしまい必死の逃亡の末、グスクたちは難を逃れるがオンちゃんの消息が不明になってしまう。
ここが物語の起点であることをまず忘れてはいけない。
1959年オンちゃんの失踪から7年、グスクは刑事となり、レイはヤクザ、ヤマコは小学校の教師になっていた。
三人には行方不明になったままのオンちゃんを探すという共通の思いがあって、それぞれの立場でずっと情報収集を続けている。
三人が暮らすコザでは駐留軍米兵による女性殺害事件が相次いでいた。
グスクは独自の情報収集活動などで犯人の米兵を追い詰めるが、最後にはMPが駆けつけ捜査権を奪われてしまうのが常だった。
そんな中グスクは米軍の高官アーヴィンと出会い、米軍内の腐敗を一緒に解決したいという彼の思いを受け入れ、通訳の小松を通して協力を約束する。
ある日、米軍機がヤマコの働く小学校に墜落炎上するという大事故が起こる。
占領軍による悲劇に激昂する市民たちは、本土返還運動を過激化しヤマコもその中に身を投じていく。
レイは刑務所仲間だった運動家のタイラと再会し、地元のヤクザ組織を離れ、顔を隠して米兵狩りを続ける彼らと共闘していく。
そんな中でオンちゃんの消息の手がかりをつかむが…。
一方グスクはアーヴィンとの協力関係が拗れ、彼らと連携するCIA要員のダニーに拉致され暴行を受ける。
三人それぞれの運命が急速に変わり始める中、米兵のある事件をきっかけに史上最大のコザ暴動へと発展していく。
ここまでが文字通り息つく間もない展開で一気に描かれていくのだが、3時間超の長尺ゆえにどうしてもトイレの心配があったのも忘れるくらいの熱量で、見ていた感じだとおそらく一人くらいしか中座していなかったのではないか。
このコザ暴動の最中にグスク・レイ・ヤマコが米軍基地敷地内へとなだれ込んでいき三人の物語が突然動き出す。
この辺りの唐突感はまさにエンターテインメント作品ならではというか、正直それまで観る側も忘れていたオンちゃんのその後が一気に描かれていく。
ドラマチックといえばそうなのだろうけれど、コザ暴動に至るまでのスケール感が萎んでいったのも事実。
あの夜オンちゃんが消えた理由がここでズームアップされ、そのドラマがスクリーンに再現されていき、同時に少年時代からヤマコが関わってきた孤児のウタの人生が浮き彫りにされていく。
ここで一気に伏線回収というのはちょっとズルくないかい?そう思ったけれど、改めてこの作品が「宝島」というエンタメ小説の映画化だったことを思い出す。
結局、戦後の沖縄の混沌の中でその青春時代を翻弄された若者たちの群像劇と割り切った方がいいだろう。
それでも最後の浜辺での葬儀のシーンでは自然と一緒に手を合わせてしまった。
間違いなくあの戦争で運命を狂わされた若者たちがいて、沖縄では今もなお地位協定によって人生を左右される人たちがいる。
今なお禍根を残す普天間の問題なども島民の思いを置き去りにされたまま政治主導で粛々と事態が進行している。
戦後80年経っても沖縄だけにすべてを背負わせている本土の人間としては少しでもその思いに寄り添えたらと思うけれど、それは言葉でいうほど簡単なことではないということもこうした映画を通して痛切に実感する。
そういうことを考えるきっかけにもなるだけでもこの映画を観た意義はあるだろう。
若手から中堅俳優へとキャリアを重ねてきた妻夫木聡と永山瑛太が、グスクとオンちゃんというそれぞれ対照的なキャラクターを演じてあの時代の沖縄の混沌を見事に描出している。
さらに作品の時代背景は同じとしても「遠い山なみの光」とは別の意味で等身大の女性ヤマコを演じた広瀬すずが本作でも圧倒的な存在感でスクリーンに引きつける。
そしてなんといっても窪田正孝のあの狂気を孕んだ視線は、観る者を何度もスクリーンに釘付けにして、すべてから目をそらすな!と訴え続ける。
脇を固める中村蒼に瀧内公美に木幡竜といった面々も、あの時代の沖縄のムードを十分に感じさせる演技で圧倒する。
大友啓史が目指すエンターテインメントとしての映画作りと「宝島」という作品のもつメッセージ性が必ずしも融合していたかというとコザ暴動以降の安直な展開にやはり不満は残る。
もちろん190分の長尺でも観て損はないが、ここはあくまでもエンターテインメント作品としての「宝島」を楽しむという視点でいいのかもしれない。
今後の興行展開では大ヒット中の「国宝」と比較されるかもしれないけれど、あちらは最初からエンターテインメントに徹した作品であり、カルチャーとしての歌舞伎という別のアプローチも出来るわけで、まず戦後という歴史ありきの本作と比較するのは無理があるかもしれない。
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