「GHOSTBOOK おばけずかん」 | MCNP-media cross network premium/RENSA

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「GHOSTBOOK おばけずかん」(2022/東宝)

 

 監督:山崎貴

 原作:斉藤洋 宮本えつよし

 脚本:山崎貴

 

 城桧吏 柴崎楓雅 サニー・マックレンドン 吉村文香

 神木隆之介 新垣結衣

 (声の出演)

 釘宮理恵 杉田智和 下野紘 大塚明夫 田中泯

 

 おすすめ度…★★★★☆ 満足度…★★★★☆

 

 
上映終了して場内の照明が戻った後、客席を見渡すと数組の子連れ客がいて少しホッとした。
 
<デビュー作「ジュブナイル」から20数年、様々なジャンルの映画を撮らせてもらってきましたが、年々自分の原点ともいえる少年処女を主人公ににした作品を、またやりたいという気持ちが高まってきました。そしてついにその夢が叶う時が来ました。>
 
映画「GHOSTBOOK おばけずかん」の公式サイトに山崎貴監督が寄せたメッセージの一部だ。
 
なるほど、と思った。
そんな思いが強かったせいか、監督自身の優しいまなざしが全編に感じられたような気がした。
 
登場人物は同じクラスの仲良し3人組と産休の担任の代わりに着任した新人の女先生。
そこにワケありの同級生のマドンナが加わって、おばけずかんをめぐるひと夏の冒険譚が始まる。
 
オープニングはまるで「スタンド・バイ・ミー」みたいだ。
田舎の道を自転車を駆って小さな祠を目指し、各々の願いを託す3人。
おそらく監督もそのあたりは意識したんだろうな。
 
そんな3人の前に現れるおばけの図鑑坊に導かれて、突如として祠の場所に出現したなぞの古本屋の店内へ、そして偶然3人を見つけた新垣結衣演じる新人先生も後を追うように不思議の世界へ。
 
あえて面倒な考察や理由づけをしないで冒険譚が動き出すのがいい。
文字通り子供が絵本の世界にのめり込んでいくように、当たり前のようにそこに現出せしめた不思議の世界になじんでいく。
 
そしてそこにはワケありのマドンナも登場するのだが、その前の教室の映像などから多くの大人は「ワケ」を察知するだろう。
 
あとはおばけずかんに収録された妖怪(おばけというよりこっちに近い)たちと彼らの奮闘が次々と描かれてテンポよく物語も進む。
 
そのあたりの淡々とした展開は優しすぎると映るかもしれなけれど、普段から安直なホラーや何でもかんでも恐怖感を煽る演出になれてしまった大人たちの邪推に過ぎない。
 
子供たちを突き動かすのは恐怖ではなくそれぞれの胸にある勇気と友情の絆があればいい。
 
子供たちに試練を与える存在の古書店主を演じるのは神木隆之介。
かつて「妖怪大戦争」で自ら冒険譚の主人公となった少年は29歳になっている。
ちなみに当時の神木隆之介少年は今回の作品の少年たちと同世代だった。
そんな神木隆之介がある種のストーリーテラーとして存在する安心感もある。
 
山崎貴監督も久しぶりのジュブナイルの世界を楽しんでいるのが映像からも伝わってくる。
 
お得意のVFXもさらにレベルアップしていながらも、やや窮屈そうに見えた「DESTINY 鎌倉ものがたり」よりも、自由な発想が活かされる作風で自然な仕上がりになっている。
 
そしてこの作品に登場する二人の女性。
 
一人は派遣切りにあって仕事を探す間に実家に戻って代替教員として赴任する新垣結衣演じる葉山瑤子先生。
もう一人は吉村文香演じる3人組の同級生のワケあり少女橘湊。
 

腰掛で代替教員になったことを生徒からも見抜かれてとりま(とりあえずまあ)先生と揶揄される瑤子は、教員免許はあるものの教職に就いたことがないため自信のなさがそのまま言動に出てしまう。

 

一方の湊は自分のワケありな部分に気づかないまま巻き込まれたこともあり、この頃の女生徒にありがちなやや上から目線で、ちょっとだけ大人びた雰囲気をもつまさにマドンナ的な佇まい。

 

こういうところのキャスティングのうまさは山崎貴監督ならでは。

「ジュブナイル」「リターナー」の鈴木杏や「ALWAYS 三丁目の夕日」の堀北真希など、芯の強さのある女性たちが印象深い。

 

そしてこの吉村文香という子役、覚えておいても損はないかもしれない。

 

ここ数年、子役から再ブレークを果たす若手女優が増えている。

子役時代に吉田里琴名義で「映画 ひみつのアッコちゃん」などに出演した吉川愛、新海誠監督の新作でヒロインに抜擢された原菜乃華は研音時代に子役で活躍した、

 

今回の吉村文香はこの作品がデビュー作となる新人らしい。

まだ中学生、この先の進路も含めてしばらくその動向は注視したいところ。

 

新婚の新垣結衣が肩の力を抜いた役どころというのも面白かった。

キャリア的にも年齢的にも次のステップが大事になりそう。

 

おばけたちも楽しかった。

定番の一反木綿からクリーチャー紛いのジズリまで声優陣もよかったと思う。

ちなみにジズリ役はあの田中泯…このキャリアでまた一つ新しい挑戦を続けているのが凄い。

 

上映後のロビーに出るとものすごい混雑。

どうやら次の上映が「ONE PIECE FILM RED」のようで、売店の列はシネコンのエリアから外へと続いていた。

 

あの「鬼滅の刃」の大ヒット以降、シネコンのスクリーンがアニメーション作品に席巻されるようになってずいぶん経つ。

「ドラゴンボール」がひと段落したと思ったら今度は「ワンピース」…他にも「ミニオンズ」に「バズ・ライトイヤ―」…他の作品も含めてシネコンの半分以上のタイムテーブルがアニメーション作品になることも少なくない。

 

映画ファンにとっては辛い夏休みがしばらく続きそうだ。

 

残念だったのは普段あまりスクリーンで映画を観ないであろう一部の観客。

エンドロール終わってから本当のエンディングが待っているのでしばし辛抱を。

 

 ユナイテッド・シネマ前橋 スクリーン8