一般消費者の皆さんは畜産場に行かれる機会は少ないと思います。観光牧場などを見ることはあっても、あまり裏側の事情まではご存知ないですよね。また見学できてもマズいことは説明してもらえないですしw
ここでは、聞いた話ではなくあちこち見て廻って知った事実を記していますが、生産者によっては異なるケースもあるでしょうから、こういう実例があるんだと思って読んで下さい。
資源還元化モデルを作る仕事をしていると、あちこちの畜産場にお邪魔します。日本だけでなく、海外もです。みなさんは「遺伝子組み換え飼料は使って欲しくない!」とか「抗生物質は嫌っ!」なんて視点で見ていると思いますが、実際に現場では”生産コストを下げながら疾病率・死亡率を下げ、製品化率をどうやって上げていくか”ということが一番の焦点になっています。製造・生産に関してはどこも似た様な考えでしょうね。特に飼料に関しては、輸入に頼っているケースが多く、為替変動リスクを回避することもできず、生産者は喘いでいます。
困っているのはそれだけはありません。生きていく上で食べれば必ず出します。そう、糞尿の処理に困ってます。
『堆肥にしてるんじゃないの?』そう思う人が多いでしょうね。実際には活用されている糞尿は多くはなく、畑に還元されていたとしても、化学肥料よりも環境問題に影響を与えているケースが多いです。中国では、水系の上流部から畜産場を排除するほど影響が出ています。
ここでは養豚を例に糞尿のことを記していきます。
豚は通常110kgくらいで出荷されます。中国では120kgまで太らせるケースが多いです。枝肉にすると約70kgくらいです。豚は出荷までに離乳期以降で約400kgの餌を食べます。生後30~60日くらいで離乳食が始まり、61日以降出荷までの約180日までで400kgの餌を食べるということになります。

【ここはまだ糞尿が集められていて綺麗な方です。下が糞尿の海になっている養豚場もあります。そういう養豚場はアンモニアで目を開けていられないですよ…】
離乳期以降の豚が平均値として、
尿→4~4.5L/日
糞→3.5~4kg/日
合計で約8kg(平均値)くらいの糞尿を排出します。豚の場合、これらが混ざった状態で糞尿がかき集められます。
豚の一般的な肥育期間は180日です。61~180日目までで120日間で排泄する糞尿は8kg/日×120日=960kgです。当然子豚の時にも排泄しますから、1頭が出荷までに約1tの糞尿を排泄している計算になりますね。年間1万頭出荷する養豚場では1万tの糞尿処理が必要になるということです。
これは大変な量です。正味70kg×1万頭=700tの豚肉を確保するのに、1万トンの糞尿が出るんです。
現に私が出入りしていた国内の養豚場では日量約50tの糞尿処理をしなければならず、ヤードは常に天井近くまで堆肥が積み上がっていましたし、発酵槽を通り終え発酵が終わったはずの堆肥からメタンガスが発生し、火災が発生したことも一度や二度ではありません。完熟堆肥を作りたいなんてことよりも「火事が起こらないようにしてくれ!」って依頼の方が多かったりもします。

【糞尿は固液分離され、固体(糞)は堆肥化していきます。ただ日々排出される為、肥育に手間を取られ、適正な堆肥化などされていないことが多いです。】
BOD=Biochemical oxygen demand[生物化学的酸素要求量]という数値があります。この数値が高ければ高いほど、水は汚れているという数値です。このBOD換算値で豚1頭が出す汚染は"人間15人分"くらいです。
一般的には、集められた糞尿は固液分離され、尿は「これでちゃんとした液肥になるの?」みたいな肥料化プラントへ、糞は「これ水分飛ばしてるだけでしょ?」みたいな堆肥化プラントへ投入されます。出てくる汚水は浄化槽へ。まぁこれがまた…硫化水素が出てコンクリートがボロボロじゃないの…みたいな状態です。本当に綺麗になってます?みたいな状態で河川に放流されていたりします。
乾燥した糞は行き場所がなく、新たに排出された糞尿に水分調整材として混ぜられるケースが多いです。戻し堆肥なんて呼ばれたりもします。水分率の調整を巧く行うと発酵温度が上がりやすかったりしますから。一見うまく循環しているように感じますが、窒素分はどんどん濃縮されます。こんなものを畑に撒いたら土壌物理性が良くなるはずもなく、数年使えない畑になってしまいます。一部は微生物によって処理されますが、大半が地下水へと流出して時間の経過とともに畑がかろうじて使えるようになります。
こんな汚染を出しながら、人間は豚肉を育て食べています。

【生産量は増え、水処理プラントのキャパを超えた尿が流れ込むケースが多く、多くの場合、水は浄化されないまま河川に流れ込みます。】
日本国内では平成14年に畜産糞尿の野積みが禁止され、多くの堆肥化施設が補助金にて建設されました。それまでは野積みで放置されるのが当たり前で、周辺に悪臭を放ち、そのまま地下水に流出して影響を与えていました。
堆肥化施設建設に用意された国の予算は500億円。多くの堆肥化施設を見てきましたが、まともに運用されている施設を見たことがありません。家族経営している生産者などは豚の世話を優先しなければならず、糞尿処理はプラントに放り込んで置くだけというのが現実です。結局は儲かったのはプラント屋さんだけ。稼働させていても農業で使用できる堆肥にならず、堆肥場に置く場所がなくなると「お前の畑に堆肥撒いてやるよ」なんて友人に声を掛けて畑に捨てに行くなんてのは日常だったりします。未熟な堆肥を投入された畑は、半年~一年使えません。自分で飼料を作っている生産者はその畑に信じられないくらいの糞尿を撒いたりすることもあります。まぁ、畑を捨て場にしてるんですね。

【一般的な家畜糞尿処理プラント:下に見える糞尿を撹拌しながら上の機械が行ったり来たりします。】
『糞溜まってきちゃったから田んぼに撒いてきたいんだけど、これ以上撒くと硝酸態窒素が増えすぎてヤバい』なんて会話をよく耳にします。
発酵にはプロセスがあって、きちんと管理しなければ完熟堆肥にはなりません。人間が考えた自動発酵施設に糞尿を放り込んでおいて、まともな堆肥が出来上がったのをほとんど見たことがありません。ほとんどが乾燥糞という状態です。その証拠に水を掛ければ、また糞に逆戻りしてしまうのです。完熟堆肥になると糞尿の臭いではなく"土の匂い"しかしませんし、大腸菌などの細菌数は一般土壌と変わらないです。
『きちんと堆肥化をして農業に利用すればいいだろ!』と言う方もいらしゃるかと思います。まず毎日出てくる糞尿を適切に処理する手間が大変なのです。コストを手間を掛けて作った完熟堆肥を農家に売りたくても、コストが合わなかったり、費用対効果を提示できるような品質ではなかったりしますから、積極的に完熟堆肥を作ろうという気持ちにはならないんです。また輸入飼料に頼っている日本では糞尿を還元できる農地面積が小さいこと、そして、日本の気候だと一年に一度しか堆肥を投入できるタイミングがないことなども堆肥は活用されない理由だと思います。「堆肥を畑に撒くことが高齢者が多い生産者にとって大変な労力であること」も積極的に堆肥を使わない理由になっています。
農林水産省は、単位面積あたりの堆肥投入量目安を発表したことがありますが、それは、畜産糞尿全排出量÷日本の耕地面積をただ提示しただけであり、豚、牛、鶏などの糞尿の成分はバラバラなのにその投入目安量が神話の様に今だに農家の間で語り継がれていたりします。
適切な処理がされていない堆肥は、畑に入れても硝酸態窒素が地下水や河川に流出するだけでなく、そのまま農産物が吸い上げ、人間の体に悪影響を与える原因にもなっています。硝酸態窒素の影響に関しては様々な意見がありますので、以下のサイトをご参照下さい。色々検索してみるのも良いかと思います。
http://www.sansui-co.com/informations/topics_index/topics/nitrate.html
http://www.foocom.net/fs/aguri/521/
糞尿処理コストに関しては、全部生産者が負担しているということにお気付きかと思います。法整備され、やるべきことが増えているのにそれを消費者は負担していないということ。
この糞尿処理の呪縛から生産者を開放してあげると同時に、地下水汚染などの環境負荷を一気に減らしていきたいと願い、資源循環モデルの構築に取り組んでいます。究極は、糞尿がほぼ場内から排出されない循環モデルです。低コストで実現できる画期的な方法です。実施例がありますので、この記事とは別の記事で紹介したいと思います。
最近では一部の消費者にジビエ料理が流行っていますね。
多くの人々が野生の動物を獲り始めれば、生態系が崩れます。
だから養殖します。でも、自然環境と異なる環境で動物を大量に飼えば、様々な問題が起こります。ただ美味しいとか不味いとか、高いとか安いなどの議論をする前に、これらの問題を把握するべきだと思います。