個人撮影を終え楽屋に戻り自分の席に近づいたときに
違和感を感じた

「ゆうかりん、私のパーカー知らない?」

確か楽屋を出る前に自分の椅子に掛けたはずで床や机にも
姿は見えない。あれ、どこやったっけな

「あー理佐のパーカーならあそこだよ」

私の問いかけにいつもと変わらない声のトーンで返す友香が
指をさした方向を見るとソファで寝ているこばに私が探して
いたパーカーが掛けてあった

「え、なんで?」

なんで以外の言葉なんて出て来ないけどたぶんこれがいちばん
適切な言葉だと思う

「寒いって言って取ってったで」

と通りすがりのみいに言われたがますますなんでが頭を占める
寒いならブランケットの方が暖かいのに。そもそも彼女は今日
アウターを着てきていたはずでそこでなぜ私のパーカーを手に
取ったんだ

一向に真相にたどりつけそうにないがとりあえず、寒いなら
ブランケットをと思い楽屋の端に置いてあったのを取りこば
のソファまで移動する

ソファに近づくとそこには間違いなく私のパーカーがあって
ブランケットをこばにかけてあげようとパーカーを取った時
腕をグッと掴まれた

「ごめん、こば。起こしちゃった?」

「だめ」

「ん?」

「パーカー待っていっちゃだめ」

「え、あ、うん。ブランケットの上から掛けとくよ」

そんなにこのパーカーは暖かいのかそれとも気に入ったのか
未だ真相は謎のままだがとりあえずこばの言う通りにパーカー
を取らずにブランケットの上に掛けてあげソファから離れよ
とするとまた腕を掴まれる

「だめ」

「今度はどうしましたか、小林さん」

「理佐が悪い」

「えっ?なんで?」

本日何度目かのなんでは先程よりも驚きと戸惑いを含んでいる

「ここ、いて」

理由はどうあれ可愛いお願いにNoと答えるはずもなくわかった
と伝えるとこばは私のパーカーを鼻まで被せまたすやすやと
眠りについた

全体撮影の合図が出されこばを起こした時このままパーカー
借りていい?と言われ断る理由もないからいいよと伝えた
撮影以外の時は肩にかけたり抱き抱えたりとずっと持ったまま

そういえばなんでそんなにパーカーにこだわるのか理由聞き
びたままだなと考えていたがいつの間にかそんなことも忘れ
撮影が進み帰りの時間になっていた

「理佐、これ」

「あ、忘れてた」

「ずっと使っててごめんね」

「全然いいよ」

「洗って返した方がいい?」

「大丈夫だよ。っていうかそのままあげようか?」

「え?」

「いや、気に入ってくれたみたいだし」

「それじゃあ意味ないからいい」

「意味?

「いや、あの、なにもない」

「由依」

「っ急に名前」

「気になってたんだけど、私のパーカー持っていった理由」

「言わなきゃだめ?」

「そんな、言えないようなことなの?」

「……におい」

「匂い?」

「理佐の匂い落ち着くの。パーカーだからじゃなくて理佐の
匂いがするなら何でも良かった。でも勝手に借りてごめん。
理佐がブランケット掛けてくれた時、服についてるのよりも
やっぱり本人が1番良くて収録の合間はさすがに隣にいれない
からパーカー借りてたけど」

「だから「ちょっと待った。」」

「?」

え?なに私の匂いが落ち着く?本人が1番良い?まってまって
じゃあパーカーどうのでは無くて私の匂いって事?

「寝てる時、理佐が悪いって言ったのは?」

「パーカーで我慢しようと思ったのに近くに来たから」

「パーカーあげたら意味ないって言ったのは?」

「匂い無くなっちゃうじゃん」

「なんで、私?もっといい匂いの子いっぱいいるじゃん」

「そ、れは…」

はぁぁ可愛すぎるな
さっきのやり取りでもう分かってしまった
私の匂いでなくては行けない理由

「好きだからだよね」

「なっ…ちょ」

私の言葉に驚いて顔を上げたと同時に由依を抱きしめる

「どうですか?本人ですよ」

「面白がってるでしょ」

「そんなことないよー」

「離して」

「離れていいの?」

「ほんとにそういうとこずるいと思います」

離してと言いながら背中にまわっている由依の手が私の服をぎゅっと掴むのが愛おしくて

「由依、好きだよ。」

いままでひた隠しにしていた気持ちがいとも簡単に言葉として出てきたことに少々自分自身驚きながら私以上に驚いて体を勢いよく後ろに引いた由依を見てなんかストンと力が抜けた気がした

「うそだ」

「この流れで嘘言わない」

「だって、いままでそんな素振り1度もなかったのに」

「由依だってそうじゃん今日突然だった」

距離を置いてた訳じゃない
ただ、何となく由依の傍にいるのが減って、いつのまにかすごく遠くなっていた

私の由依に対する気持ちは表に出しては行けないと無理やり心の奥の奥にしまい込んだらそれが当たり前になってそれがいつしか物理的な距離になって由依本人からも何も言われなかったしグループ加入時には無かった距離という溝が日常化していた

なのに、今日はほんとに突然だったんだ
いつもは詰めてこない溝を一気に飛び越えてきてなんでしか言えないほど頭はパニックだった

「私は、魔が差したというか、なんというか」

由依の行動で簡単に私の心の気持ちを引っ張り上げたくせにそんな曖昧な理由はないだろう
それで許してあげるほど今の私は優しくない

「本当は?」

「わかんない」

「え?」

「わかんないけど、限界だったの。今の理佐との距離をどうにかして縮めたいって毎日考えるようになるほど理佐が傍にいない事が嫌で限界だった」

それはつまり私の事が好きで好きで仕方なかったということかな由依ちゃん?なんて言ったら怒られそうだな

「ふふ、そっか。ねぇ由依」

「な、に」

「まだ言われてない由依の気持ち」

「なっ、さっき自分で言ってたじゃん」

「由依の口から言われてない」

「ほんっとに、ずるい。……理佐」

「ん?」

「すき。」

「うん。私も大好きだよ」

腕の中に由依を閉じ込めると私の肩に顔を沈め抱きしめ返す彼女の手にはまだパーカーが握られていた











ここが楽屋の中でほとんどのメンバーがいるということに私らが気づくのは何秒後だろうか
































おわり。