論理的思考が出来なくなった
なんて そんなこともともと出来ないのだけど
客観的に捉えて考えてみることが出来ない
そうすると自分の首を絞めることになるからだろう
直子は 穴の中で
キズキくんと共にいる
その穴の中には 穴の外にある
時間軸とか 決まり事とか 原因と結果とか
そういうものが無い 意味をなさない
キズキくんは17歳のままなのに
自分だけが20歳の誕生日を迎える
その苦しさも 穴の中にいれば感じずに済む
自分も17歳のままでいられるからだ
他には何も要らない
たくさんのお金も 高価な服も 贅沢な食べ物も
キズキくんさえ そこにいてくれれば
穴の中では
キズキくんとの対話だけですべてが成立し完結し
他には何も要らない ように思えてしまう
そうはいっても
お金も服も食べ物も 要ることは要る
そのためには
時間軸と 決まり事に したがわなければならず
そのためには
穴の外のことも 多少は認めなければならない
穴の中から穴の外を垣間見た時の苦しみが 今はよくわかる
穴の中にいる人をひっぱり上げようとするのは
第三者の言葉だ
ワタナベくんの 直子への働きかけは
穴の底が完全に抜けてしまうことを どうにか防ぎ続けていた
第三者たるワタナベくんの言葉
キズキくんの言葉ではない言葉
つまり 直子の中には無い言葉
自分の中には無い 思いもよらない言葉に 動揺し
どういう言葉をどう返そうか 考え 返し
また 思いもよらない言葉を返され 動揺し
また どういう言葉をどう返そうか 考え 返し
その繰り返しだけが 人と人とを結び付ける
穴に落ちている人を ひっぱり上げようとする
相手の言葉を
自分の中から産み出すことは
ある地点までは楽しい行為だが
その先には 絶望しかない
そう気付くと同時に
私が産まれた辺りの海とは反対側の海の辺りに
このような想いをしている人が
たくさんたくさんいるかもしれない
そう気付いた私にとっての震災は
終わらない
この人を失ったら生きていけない
なんてどうなんかな と思ってたけど
せっかく海から助かった命を
どうしてまた海に捨ててしまったのか
と周りの方々が嘆いた死があったらしい
それを知った時 私も同じことを思った けど
私もそうするだろう
そこに彼がいるなら
私もそこへ行くだろう
キズキくんがいないところでは生きられない だから
キズキくんがいるところへ行ったまでの話で
直子にしてみれば
なにがいけないの? というようなところだろう
ワタナベくんの働きかけは
もっともっと強引で良かったんじゃないかと思う
無理矢理にでも
首に縄をつけてでも
僕が生きるためには
君が必要なのだと
強く訴えかけ続けるべきだったんじゃないかと思う
でも実際は
ワタナベくんも
緑にひっぱり上げられていて
直子は
ワタナベくんが自分に結わえた縄を切った
ワタナベくんの未来と幸せのために
私は彼に強くひっぱり上げられる
でも 独りになった時
穴の中に入り込むことを どうしても止められない
あの私は
「生」きていた
でも
その人を
キズキくんではなく
ワタナベくんの位置にスライドさせてみて
気付いた
私は 縄を切るべきなのかもしれない
その人の未来と幸せのために
本当は違う方法を考えていた
「愛」とはいくらでも増やせるものだと でも
『沈黙』に書かれていた「愛」に納得した私を
私自身が無視していいはずがない
この1年
なにもなかった
大きなことがあり過ぎて
その中で確められた宝石もいくつかあったのだけど
日付も曜日も飛んで消えて
なにも残っていない気がする
「傷ついた」という表現はNGという刷り込みがあって
「傷つけられた」ことも実際一度もなかったのだけど
ひとつだけ
私に働きかける言葉の体裁が
その始まりと終わりのカタチが
大きく変わってしまったことには
「傷ついた」と言っていいのかもしれない
あの時から
メールが書けなくなった
どんなに大切な宛先でも
1日 2日 と間が開くようになった
相手の立場に立って考える という当たり前の行為も
少しは体得したように思うけど
相手の言葉を
自分の中から産み出すことの
その先には 絶望しかなかった
あの時から
縄は切れているのかもしれない
私は今「メサイヤ」を聴いているはずだ
何をどうすることも出来ないことは最初からわかっていた
何も壊さないように
誰も本当のことを言わないことで
私は守られているのかもしれない
ひとつだけ
誰も何も出来ない状況を一瞬で打破する救世主の出現を
私はなんとなく望んでいる
そのような我欲が一番いけないとわかっている
だからきっとこの望みは叶えられないだろうけど
そのような我欲も もうどうでもよくて
ただ もし来てくれるなら嬉しいかも というとこかな
明日の私は どんな顔をしているだろう