トラウマ・PTSD 〜桑山紀彦先生との対談〜 | 池袋暴走事故 遺族のブログ

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平成31年4月19日、池袋において発生した交通事故。10人が重軽傷を負い、私の最愛の妻と娘の尊い命が奪われました。
再発防止について活動して行きます。
何卒よろしくお願いいたします。


こんにちは。松永です。


妻と娘を亡くした後、交通事故の遺族として様々な活動を続けていますが、ずっと自分を含めた、「人間の心」に興味がありました。

この度、心療内科・精神科医であり、NPO法人「地球のステージ」の代表理事である桑山紀彦先生と対談する機会がありました。

今回は、その対談の内容を皆さんにご紹介したいと思います。

  桑山紀彦先生のご紹介


桑山紀彦先生は、心療内科・精神科医として、神奈川県海老名市にある「海老名こころのクリニック」の院長を務めておられます。
また、1996年には「地球のステージ」というNPO法人を設立し、音楽と映像を使った独自のコンサートを通じて、世界中で起きている出来事や心のケアの重要性を伝えています。

桑山先生は、旧ユーゴスラビアやパレスチナなど、紛争地での心理社会的支援にも積極的に関わり、戦争や災害で傷ついた心のケアを長年にわたって行ってきました。さらに、2011年3月11日に発生した東日本大震災の際には、宮城県名取市にある「東北国際クリニック」で被災しながらも、震災翌日から24時間体制で被災者の診療に当たるなど、多大な貢献をされています 

  PTSDとトラウマについての対談


対談では、主にPTSD(心的外傷後ストレス障害)やトラウマについて議論しました。
私自身、トラウマがあるという自覚をあまりしていなかったのですが、事故から何年かの間、事故の時刻になると手の震えが止まらなかったり、妻と娘の遺体の映像や車と衝突する映像がフラッシュバックする経験がありました。これはどうやらトラウマの症状のようです。

桑山先生は、心のケアにおいて重要なのは「語ること」と「支えること」であると強調されました。

印象的だったのは、桑山先生が「多くの人がトラウマを抱え生きている。私たち医師だけでは足りないほどに。多くの人にトラウマやPTSDについての理解が広まることが、その人々の回復に繋がる」と仰っていたことです。
この言葉には、私たち一人一人が持つ役割の大きさと、コミュニティ全体で支え合うことの重要性が込められていると感じました。

また、対談の中でハーマンのトラウマからの回復のプロセスについても話しました。ハーマンの理論によると、トラウマからの回復は以下の三段階から成り立っています。

1. 安全の確立
自身や周囲の環境を安全に保つこと。
   
2. 想起と服喪追悼
トラウマ体験を思い出し、語り、整理する段階。
   
3. 通常生活との再結合
新たな人間関係を築き、社会生活に再び適応すること。

私自身、意識していなかったものの、振り返ってみると、家族や友人、あいの会の仲間に支えられながら、無意識にこの三段階を経ていたことに気付きました。
トラウマが完全にゼロになることは無いです。様々なトラウマ症状もありましたが、多くの人の支えの中で少しずつ症状が出なくなりました。
適切な支援と環境が整っていれば、人は少しずつ前に進むことができるのではないでしょうか。

  最後に


対談を通じて、私たちができること、すべきことについて多くのヒントを得ることができました。
交通事故遺族となった体験者として。そして一人の人間として、心のケアの重要性について多くの人に伝わって欲しいと感じました。

人それぞれトラウマ体験は違います。
もし心に傷を抱えている方がいらっしゃるならば、誰かに話をすることで少しでもその重さを軽くしてほしいと思います。また、近くにトラウマを抱えている方がいる場合は、その人の話に耳を傾け、寄り添うことで支えになってあげて欲しいです。寄り添うとは、「傾聴と共感」が大事だと私は思います。桑山先生は、「愛と想像力」とも仰っていました。

たくさんの学びをいただき心から感謝しています。
最後までご覧いただきありがとうございました。今後も引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。