根岸(鶯谷)「蔵」(大人のディズニーランド31)
根岸飲み歩きも3軒目、
「鳥茂」のある柳通りを曲がると
玄人以外は寄せ付けない、
野武士の様な提灯と暖簾が現れます…
「蔵」
「酒!」「蔵!」
普通ならここでたじろぐでしょう…
しかし、一度だけ
入った事があるんです…
入った記憶だけはあるのですが、
どうだったかの記憶が一切無い…
今回はそれを再確認する為にも、
この暖簾をくぐってみることにします。
中に入る…
鄙びた感じの店内に
マスターと先客1名…
酒場と言うよりまるで寿司屋の様な作り…
冷蔵ケースの中には僅かばかりの旬の魚が並ぶ…
おそらくそれ程来客は多く無いであろう…
最低限の魚だけが並べられていると言った感じである。
品書きは特に無さそうです。
ここは主人に「在るもの」で繕ってもらうのが正解でしょう。
まずは八海山、冷やで…
程なくして
お造りが供される…
見事に美しい刺し盛りである。
失礼だが、およそ集客が多いとは思えないお店で、これだけの活きの良い魚が出てくるとは驚きであった…
主人曰く
鰹と鮪はからしで召し上がってくれとのこと…
刺身にからし?
初めて聞く組み合わせだが、
すかさず常連さんからも熱心に勧められる…
聞けば、
わさびはそれ自体が美味い為、
魚の味を邪魔するが、
からしはそれが無い為に
より魚の味を堪能できると言う…
刺身とわさびの味が6:4だとすると、
刺身とからしだと8:2になり、
よりダイレクトに魚本来の味を楽しめると言う…
なるほど、腑に落ちた…
早速試してみる。
まだまだ若干の違和感はあるものの、慣れて来たらハマるかもしれない…
常連さんはこの「からし」での食べ方を流行らせたいと熱く語る…
「もしかしたら2.3年後には流行ってるかもしれませんよ…」と、
率直な感想を述べてみる…
特に「とり貝」が絶品だった…
人生で初めて食べた本物のとり貝かもしれない…
それにしても静かだ…
いつしか常連さんも居なくなり、
店の中はテレビの音と我々の会話のみ…
「一番脂の乗ったものを…」
との事で勧められたのが、
まるで秋刀魚かと思う程の
特大鰯…
魚に弱いと書いてイワシと読むが、とても弱い魚とは思えない大振りで脂の乗った艶のある鰯を一匹そのまま焼いてもらう…
これは見事なイワシでした…
こんなに脂の乗ったイワシを食べた事ありません…
ただただ静かで緩やかな時間が流れます…
もし我々がいなければ、先程の常連さん1名のみ…
その1名の為に、これだけ上質の魚を仕入れているとなると、
これはお会計はかなり覚悟しなくてはいけないかな…
との思いが頭を過る…
結果、勿論安くはありませんでしたが、
諭吉が飛ぶまでは至りませんでした…
店の外もまた無音の世界です…
「鍵屋」「鳥茂」「蔵」
3軒とも
白髪の主人が優しく出迎えてくれた…
そして、どこもゆるやかで
少し枯れた大人の時間が流れていている…
地元客のパワー溢れる
足立区や葛飾区とは
同じ下町でもまるで違います…
昭和以前、
もしかしたら明治、大正、
いや、江戸の粋すら感じる
しっとりと落ち着いた上質な空気が漂っていました…
渋すぎた…