流浪の神々 | 大池田劇場(小説のブログです)

流浪の神々

           流浪の神々
                1
街が見える荒れ果てた丘の上、野イチゴを採取しに

来た女性がかがみこんだ。
「なんだコイツ、何をしようとしている。
 この光景を見ていたオリンポスの主神、ゼウスは怒

り狂った。
「私の神殿の跡で用を足すとは・・・。」
女性はおしっこがしたくなったようである。
 「なんと無礼な!天罰をくらえ。」
ゼウスはその武器である雷を召還した。
 あたり一面が急に真っ暗になり、ゴロゴロと空が不気

味に鳴り始める。
 次の瞬間、女性の頭頂部に稲妻が直撃した。
 普通ならば即死は免れないであろう。
 しかし何事もないかのように彼女は用を足し、一片の

紙を残して立ち去ってしまった。
 「なぜだ、なぜ私の稲妻が効かない。」
空は晴れ渡っており、現実世界では雲など最初から

生じなかったようである。
 「人に信仰心がなくなったからよ。」
兜を頭にかぶった女神アテナはそう分析した。
神は人間に信仰されないと力が無くなるようである。
 最悪の場合は死に至る。
神々がなぜ神殿に誰も来なくなったのかと訝ってい

たら、町のはずれに一人の聖人が説法してるのが見

えた。
「いや~ん、悪の手先、パウロだわ。」
 その姿を見て愛の女神アフロディテが美しい眉をひ

そめた。
最近、この地方ではキリスト教とかいう邪教が流行っ

てきたようである。
「神が一人だけなんて邪道だ。ここにたくさんいるの

に・・・。」
行き場のなくなったギリシアの神々がこの丘に集ま

ってきている。
 壮観な眺めだが人間には見えないようだった。
「独占禁止法というものを知らないの!」
アテナはそう言って憤りの声を上げた。
 「ひどい・・・、あたしたちのこと、悪魔だとか言い始め

ている・・・。」
耳を澄ましたアフロディテがそう言って悲鳴をあげた。
「人間が私たちのことを書いている書物を手に入れた

ぞ。」
ポセイドンがそう言って羊皮紙にかかれた本を持って

きた。
 悪魔のことが書かれているという。 
「私なんで男に・・・?愛の女神アフロディテなのに。」
 いつの間にかアフロディテは悪魔アスタロトにされて

いる。
キリスト教では、悪魔アスタロトは口から耐え難い悪

臭を放つという。
 近づくと病気になるそうだ。
「失礼ね!いつあたしがそんなことしたのよ。毎日歯

を磨いているのに!」
記述を見た、彼女の本を持つ手が怒りでワナワナと

震える。
 「ううっ、こんなこと初めて言われた。」
アフロディテは神々の中でも最も美しいと言われてい

る女神である。
 「ああっ、ショックだわ。もう立ち直れない。」
その場にうずくまって泣き崩れた。
 「さあ、泣いてないでいきましょう。アフロディテ・・・

。」
 ゼウスの妻のヘラがそう言って彼女の右手を取って

優しく慰めた。
 「行くって、いったいどこへ・・・。」
このままでは神々は死を迎えるのを待つだけである。
「とりあえず東へ行きましょう。」
 アテナはそう言って東を指さした。
 そこはまだ人間どもが、キリスト教に汚染されていな

い地域である。
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「大きな街に出たぞ。」
 神の一行は様々なところで人間どもに布教したが、なか

なか定着することは難しかったようである。
 やがて彼らは大陸の東の端、大きな都市へと行き当っ

た。
 「ここなら我々を信仰する人々がたくさんいそうだ。」
 オリンポスの神々はそう言ってそこに住むことを望んだ

のだが・・・。
「温故知新、孟母三遷。」
いきなり髭を生やした細面の一団が神々の前に立ち上

がった。
 よく解らない呪文を唱えている。
(注:温故知新→古いことにこだわりなさい。

    孟母三遷→よくないことは人のせいにしなさい。

    ・大池田訳)
オリンポスの神々は首を傾げた。
 「何を言っているのかさっぱりわからないわ。」
アフロディテはそういって悲鳴を上げた。コミュニケーシ

ョンはとりにくそうである。 
 髭の一団はその目つきから、オリンポスの神には悪意

を持っているようである。
「ゼウス・サンダー!」
そう言うと機先を制してゼウスは稲妻を落とした。
 喧嘩は、先に手を出したものの勝ちである。
 しかし髭の一団は何もなかったかのように泰然としてい

る。
「コーイー、ヨン、シンヨンカー、マ・五十歩百歩。」
異国の神はわけのわからない呪文を唱えた。
 次の瞬間、オリンポスの神々は七色の光線に包まれる

・・・。
(注:コーイー、ヨン、シンヨンカー、マ → クレジットカ

    ードは使えますか?
    五十歩百歩 → 五十歩、百歩、二百歩と倍々に

    増えていく様子。どらえもんのバイバインとか。)
「ダメだ、ここにも強力な神が・・・。」
ゼウスたちは悲鳴をあげた。体が痺れて動けない。
 「私たちが入り込む余地はないわ。」
アフロディテはそう言って助けてくれるよう許しを乞うた。
 「でていきます、だから命だけは助けて・・・。」
 髭の集団は美しい女神の頼みごとを了解した。
 「ウォージァオ リンムー・鶏口牛後」
(ウォージァオ リンムー → 私は佐藤と言います。
  鶏口牛後 → 鳥の頭の方が牛丼よりマシだよ。)
神たちは船を作り、どこまで続くかわかならい大海へと

漕ぎ出した。
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 神々を乗せた船は途中で嵐に会い、散り散りになって

しまったようだ。
 そのうちの何人かは極東の大きな島に流れ着いた。
「ふう、ここは悪い神も居ないし、極楽極楽。」
ポセイドンはそう言って胸をなでおろした。
 もう苛められることはない。
この島の住人は、自然の岩とか山とか滝、大きな樹木

を崇拝しているようである。
「うふふっ、そんな石とか岩とかの無機物、何の力もな

いわよ。」
アフロディテはそう言って素朴な人たちにウインクした。
「この地の風俗に合わせて変装して・・・。」
ゼウスはそう言って土地の人の服装に化けた。
 「くすくす、この国の人、鼻が低くて平べったい顔をして

いるのね。」
アフロディテも村の人に合わせて彫の深い顔を修正し

た。
 「背も低くて足が短いのね。」
ヘラは残念そうに自分の足を短くした・・・。
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それから長い年月が立ち、人間たちは神々を信じて繁

栄し始めた。 
 しかし、人口が増えていき、国らしきものができ始めた

時に事件が起こる。
「ちょっと何を・・・、新しい神なんて聞いてないわよ。」
人間どもが新しい神々を招こうとしているようだ。
「私たちにも生存権がある。」
 ポセイドンは悲痛な叫びをあげた。
 「あとからノコノコ出てこないで!私達、もう行くとこない

んだから・・・!」
アフロディテの抗議の声もむなしく、新しい神は首都の

近くに居座り始めた。
 「人間に憑依して戦いましょう!」
 戦いの神、アテナがみんなにそう呼びかけた。 
「ほら、あたしたちを崇拝したら金持ちになれるし、立派

なお婿さんももらえるわよ。」
アフロディテは人間の姿になると、人間たちにそう言っ

て回った。
「こいつらに頼ってそんなこと起きるか!自分で精進

せよ。色即是空、空即是色(しきそくぜくう・くうそくぜしき)

。」
新しく来た神々はそう言って説教くさいことを言って回

った。
 口がうまいらしく説得力がある。
「もう怒ったぞ!食らえ、ゼウス・サンダー!」
ゼウスは堪忍袋の緒が切れて遂に先端を開いた。
 「その程度か?お前達の力は。」
新しい神々は坊主刈りした頭に稲妻を受けながら、ポ

リポリと頭を掻いた。
「見よ!私の力を・・・!摩訶般若、波羅蜜多(まかは

んにゃ・はらみった)!」
 (摩訶般若、波羅蜜多 → 意味のない言葉。ヤーレ

ン・ソーランみたいなもの。)
神の右手からは五色の光が飛び出した。
 オリンポスの神々はその場で目がくらんでひれ伏した。
「すごく強いわ。」
アフロディテ達はそう言って降参した。
 「ふん、家来になるなら許してあげよう。」
新しい神々は寛大だったので、オリンポスの神々を許

してくれたようである。
「えへへっ、生き残るためならなんでもしますだ。お代

官様。」
こうしてゼウスたちは新しい神々の体制(パシリ)に組

み込まれてしまったようだ。
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・・・それから、千年を超える時が流れた。
「明治維新とかいうのが始まったらしいぞ。」
ポセイドンはそういって瓦版を持ってきた。
 巷では「宮さん、宮さん・・・。」とかいう流行歌がはやっ

ているようである。
 「我々の神主(天皇)が勝っているようだ。」
情勢は神々の側に有利になってきたようである。
 「この機会に我々も支配者を追い出しましょう。」
アテナはそう言って神々に立ち上がるよう呼びかけた。
 「また、来たか。五陰盛苦、愛別離苦。」
(五陰盛苦 → ウジは汚い所から自然発生する。 

  愛別離苦 → ストーカーすんなよ。)
 髪の短い神はそう言って笑った。
 「今度は負けるか!ゼウスサンダー!」
 ゼウスの稲妻が走ると、侵略者たちはいっせいに黒こ

げになってその場に倒れた。
 「なんだこいつら、すごく弱くなっているぞ。」
ポセイドンは呆れ顔で仏(如来や菩薩)達を見た。
 「権力にすり寄ってきたので堕落したのね。」
江戸時代の僧侶は自分の利得を稼ぐのに一生懸命だ

ったので、かなり民衆に嫌われていたようである。
「はじめて神主(天皇)の側が勝ったわ。」
アフロディテは喜びの声を上げた。
「これからは私たちの天下!」
美しい彼女はそう言って踊り狂った。
 「ふふっ、日本には昔からオリエントの神々が居るのだ

から当然の勝利だよ。」
ゼウスはそう言って勝ち誇る。
 「しぃ~、高天原と言っておかないとまずいわよ。」
妻のヘラがそう言って夫をたしなめた。
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実は日本神話のほとんどは、外国から輸入されたもの

なのである。
 (古事記を編纂した作者が、オリジナルの話を考えな

かったようだ。)
読み比べれば、ギリシア神話などにかなりの共通点を

見出すことができるであろう。
              *
 神々が勝利してしばらくのちの話・・・。
 「なんだ?また戦争が始まったようだぞ。」
ゼウスが人間たちの動きを見てそうつぶやいた。
 「我々を信じて戦うのだ。吹けよ、神風!」
 ポセイドンがそう人間共をあおりたてた。
「たくさんお布施してよね。きっと戦争に勝てるわよ。」
アフロディテが寄付を募る。
 「神主(天皇)を敬うのよ!」
アテナがそういって服従を説いた。

 ・・・結果についてはみなさん御承知のとおりでし

た。
 人が信じなくなった神々を信仰しても、あまり良いこと

はなかったようである。



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(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法

をとっておらず、いくつかのシリーズを並行して書い

ていますので、目次をご覧になった方がわかりやす

いかと思います。きまぐれで他のシリーズへ飛びま

す。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

 http://ameblo.jp/m8511033/

(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている

話を載せています。掲載は不定期です。)