私を離さないで | 日々これ口実

私を離さないで

4月に入って、前から興味があったカズオ・イシグロ氏の「私を離さないで」を読了。

「忘れられた巨人」に続いた。今回、ハヤカワ文庫epiでよんだ。

分厚い文庫本だったが、良かった。充実した時間であった。

最も響いたのは、生きることに何が必要かということ。

思い出したのは、身分制度のイギリスでは、親が生活保護を受けていると子供も生活保護を受けている、

が、その人たちは何ら恥じることなく生きているという日本人の英国在住者の言葉。

本当のところはわからないが、(その恥じるという行為自体、日本人らしさなので、それを評価軸に持ってきているのが間違っているのではないかという疑い)生きていくということは、どんな人でもまっとうなことだということを思い出させた言葉、ということ。

それが、この私を離さないでにテーマとしてあるのではないかということ。

もう一つは、「越えていく」ということ。人生のいくつかの場面で、大きく変化する点が必ずあるが、

それを通過していくか、越えていくか、変化点の対処法があると私は思っていて、

変化点を能動的に対応するのが越えていくということだと思っている。

この作品で、主人公たちは、自分たちの境遇を理解し、対応していくとき、順応ではない、世界に働きかけようとするさまが

越えていくということかと思わせられた。

 

「優しさ」「愛」「肉体」など、ロマンチックで感情に訴えかける部分は抒情的で美しい文章になっている。

自分を発見し、感情の動きが些細な表現から伝わってくる。

この小説は、イギリスの伝統的な作風をまといつつ、テーマをSF的なものにしたことで、

読者を驚かし、魅惑させると思う。