昭和40年代のメリークリスマス | けものみち

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A.L.E.N. アニメーションアカデミー漫画科教授。
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昔、クリスマスケーキを売っている店はうちの田舎に1軒しかなかった。

 

クリスマス近くになるとそのパン屋に2000個くらいの、町中の注文が殺到した。

 

そこのデコレーションケーキは店主がたった一人で作っていた。

 

ケーキの台を焼き、掌の上でくるくる回しながら器用に下地を塗り、クリームで薔薇の花びらや模様を描いて出来上がるクリスマスケーキはまるで芸術家の作る絵画や彫刻のように見事だった。

 

パン屋の家族は総出でケーキの箱を組み立てたりしていたが、箱を折るだけでも結構な手間なのにそれにも勝るスピードでオヤジの手からクリスマスケーキがガンガン量産されてゆく。

 

普段は応接間の、がらんと何もない部屋がクリスマスケーキで埋まって行く。

子供たちの身長よりも遥かに高く積まれたケーキの壁をワクワクしながら、そして

崩れたら大変だと不安になりながら眺めていた。

 

そしてケーキで部屋が埋め尽くされた頃に親戚の男たちがパン屋に集まってくる。

 

クリスマス当日になると配達はオヤジの兄弟たちが自家用車に分散して積んで客に届けた。

一年で最後の大仕事。そして配達が終わると皆帰って行き、またいつもの静かなパン屋の日常に戻る。

 

店売りのケーキが残った時はそれを食べ、それが無い場合は冷凍庫で凍らせてあった生クリームを食べて、パン屋一家は慌ただしいクリスマスの時期を終える。

部屋いっぱいに埋め尽くされたケーキが無くなり、がらんとした部屋を眺めながら寂しいと感じると同時に

 

「今年も無事終わった」

 

と安堵する。

そんなクリスマスと父の思い出でした。