霧の街の裏通りへ、ようこそ🎶
10周年、900件以上の取引実績。……それでも私は、底辺作家。
霧の街の住人である私には、一つだけ、どうしてもうまくいかないことがある。
それは「工作」だ。
霧の街の事務局として、私は日々、がま口を縫い、言葉を紡いでいる。
私の手元には、いつも大切に閉じたがま口と、その口を鳴らす「パチン」という静寂がある。
そんなある日、旅人さんから「ラッピングを箱でお願いできますか?」と相談をいただいた。
大切にしたいというその温かい願いに、どうしても応えたかった。
けれど、その時は形にしてお渡しできる箱を用意することができず、心苦しい思いでお断りをしてしまった。
それから私は、どうすればその願いに応えられるのかを考え続けた。
「自分で箱を用意すればいいのではないか」。
そう思い立ち、工作という不慣れな道に踏み出すことにしたんだ。
動画サイトで作り方を調べ、厚紙と画用紙を買い込んだ。
画面の中の器用な人たちの指先を真似て、夜な夜なカッターを握る。
糊で指を汚しながら、私は何度も同じ角を折った。
そうして完成したのが、この箱だ。
内側は、旅人さんの心を少しでも温められるようにと、淡いピンクを選んだ。
一生懸命に折った折り目。
何度も測り直した厚紙の重なり。
けれど、完成したものを手に取った瞬間、私は溜息をついてしまった。
「……やっぱり、工作は嫌いだ」
完璧な形を目指せば目指すほど、私の手仕事はがま口の凛とした美しさを邪魔しているような気がした。
何より、工作が心底苦手な私が無理をして作る箱よりも、私自身が魂を込めて縫ったがま口に集中することこそが、旅人さんへの本当の誠実さではないか。
結局、この箱は霧の街のどこにも使われないまま、私の棚に眠っている。
でも、この箱を作るために私が費やした時間と、指先に残った糊の跡は、無駄ではなかったと信じたい。
箱作りという「夢」に挫折したけれど、その代わりに、がま口を包むための新しい魔法を探す旅が始まったから。
工作は苦手だ。
けれど、この霧の街で、誰かの大切な時間をしまう「がま口」を作り続けることだけは、誰にも譲れない私の役割なのだと思う。
もし、この不器用な事務局員に、何かいいアイデアを授けてくれる旅人さんがいたら、ときどきこの街を覗きに来てほしい。
今日も、霧の街は静かだ。
今夜も私は、がま口に向き合っている。
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