「憑き物が落ちた」と思った出来事があった。
シオちゃん4歳半。
16時ごろうっかり昼寝をしてしまい、なんとか朝まで眠っておくれよとわたしが神様仏様に祈っていた18時ごろ、
シオちゃんは起きた。
お手洗いに入っていたわたしの耳に「ギャーーーーー!!!」と大騒ぎしている声が聞こえる。
買ってきたばかりの水着を着たまま寝てしまったシオちゃん。
寝室に行くと真っ赤になって大暴れしている。
始めは
「おかあさん何故いないの!」
いますよ、どこにも行きませんよ、と言うと
「帽子(水泳帽)がない!」
被せてやると
「なんで水着を着ているの!」
水着を着ている経緯について説明すると
「なんでおかあさんいなかったの!」
おかあさん、おトイレに入っていたんだよと説明すると
「マトちゃんはあっちいってよ!」(とばっちり)
マトちゃんを移動すると
「帽子はいらない!」(さっきいるっていっただろうが)
帽子を取ってやると
「おしっこ!」
連れて行こうとすると
「おんぶ!」
負ぶおうとすると
「違う!違う!!抱っこ!抱っこ!」
抱こうとすると
「おしっこじゃない!」
おしっこ出ないの?と聞くと
「違う!ちがーーーーーーう!」
おいで、抱っこしましょと言うと
「おしっこ!もれる!!」
じゃあトイレに、と言うと
「でない!でるわけがないでしょうが!!!」
いやだったの?大丈夫だよ
「ヤダーーーーー!!ぜったいにヤダーーー!!!」
パイパイ飲む?
「ヤダーーー!!!やめてーー!」
文章ではうまく伝わらないが、
この一言一言の間に
「ンーーーーーーーー!!!」
「キーーーーーーーー!!!」
とシュンシュン蒸気が見えそうなほど怒り狂っている。
ここまで書いて思ったけれど、こりゃ…酒癖の悪い酔っ払いだな…。
この終わりのない、実のないやりとりに
「そうなのね、わかったよ」
と優しく接すること1時間半。
この時間じゅう、シオちゃんは顔を真っ赤にして泣き喚いていた。
気が狂ったようだ。
眼はきちんとこちらを見ているが、まだまだ半分は夢と現実の区別がついていない様子であった。
わたしの言っていることを半分は理解しているように見えたが、シオちゃんの訴えは叫び声に紛れてこちらも半分しか理解できない。
結局おしっこに連れて行き、怒り狂いながらもすっきりして落ち着いたのか、わたしが腕を広げるとやっと抱けるようになった。
「寝ちゃってびっくりしたね」
「おかあさんがいなくて嫌だったね」
「起きたら悲しかったね」
「おしっこもれなくてよかったね」
「シオちゃんは悲しかったんだね」
「いやだったね、でも大丈夫だからね」
「お母さんの抱っこでいっぱい甘えなね」
わたしの声掛けに
「…ウン」
と頷いてくれるようになり、そのまま15分ほど黙って抱いていると、
今までわたしの胸に顔をうずめていたシオちゃんが、唐突にパッと顔を上げてわたしと目を合わせ、ニコッと笑った。
「エヘヘ♪」
それは、今までの1時間半にわたる大騒ぎを全く知らない子どもの顔であった。
本当に、ついさっきまで狂ったように泣き喚いていた子どもなのかと疑いたくなるくらい、別人の表情だった。
「おかあさん、テレビでドラえもん観た~い、あとおなかすいちゃった」
言っていることもさっきまでと別人のよう。
覚えていないのだ!
あんなに叫びながら暴れていたのに。
一生懸命に訴えていたのに。
この時ほど「憑き物が落ちたよう」という言葉を実感した瞬間はない。
時代によっては「狐憑き」だの「悪魔憑き」だの言われていたのかもしれないなあ。
この日の夜驚(夜ではないけれど夜驚だったのだろうな)は、今までで一番激しかったように思う。
そうしてこの日を境に、シオちゃんは変わったのだった。
「眠くなったら目を瞑って眠る」
ことができるようになった。
言葉にすればこんなにも簡単なのに、「眠くなったらすんなり眠る」ことが普通にできるようになるまでに四年半もかかってしまった。
自動車に乗っている時も、眠ければ目を瞑って眠るようになった。
「物音や光に鈍感」になった。
寝ているそばで夫と話してもゲームしても、起きない。
車から布団に移動しても、起きない。
「睡眠中に起きてもギャアギャア泣かない、暴れない」
ようにもなった。
夜中に目が覚めても目を瞑ってまた夢の世界に入っていけるようになった。
ほんとうに人が変わってしまったよう。
今のわたしはもう昼寝が怖くない。
少し眠らせたら起こせば良いのだ。
起こしたが最後30分も泣き喚く娘はもういない。
改めて書いてみると、あれだなあ、本当に何かが憑いていたのだったりして…?
オカルト不信論者だけれど。
すべての子どもたちが良い夢を見ますように!