今日の絵ハガキ。
外輪山の中を行く。
豊肥本線。
漫画家、げ忠男。
つげ義春の弟。
貸本漫画時代の義春の漫画を手伝ったことがあるから、絵は義春に似ているところがある。
しかし、お兄さんに比べて絵は下手だ。
義父と祖父に虐待されて育った。
義春の方は、義父にはひどい目にあっていたが、祖父に溺愛されていたらしいから、この差は何だろう。
義春も忠男も、暗い子供時代だ。
ただし、中学に行けないでメッキ工場で働いた兄と違って、忠男は義務教育は受けて、立石にあった血液銀行に就職している。
血液銀行には平均1日600-800人、多い日は1000人ほどの売血者があり、仕事にあぶれた日雇い労働者、身障者、与太、無頼漢など様々な人種にあふれていた。
作品は自分が育った葛飾の立石界隈や、血液銀行での経験を描いたたものが多い。
時代はずれるか、私が勤務した会計事務所の顧問先には、立石の飲食店屋、奥戸の町工場が多かったので、漫画の背景がなんとなくわかる。
つげ忠男の漫画は暗い。
絵も内容も暗い。
立石は赤線があった。
戦後まもなく、立石駅をはさんで、一方は赤線地帯、もう一方は焼け跡に建ったバラックだらけの飲み屋街であり、忠男の遊び場だった。
飲み屋街には、そこをなわばりにするならず者がいた。
戦後間もなくの頃、そこではならず者同士の喧嘩はしゅっちゅうだった。
幼い忠男も、その喧嘩の場面を見ていた。
忠男は強いならず者に、憧れたのだろう。
忠男の漫画には、そういうアウトローを描いた物が多い。
しかし、兄、義春の日記を読むと、忠男は対人恐怖症の義春以上に内気な性格のようだ。
作品はすべて暗いイメージがある。
義春のような幻想的漫画は少なくて、本の帯を見ると―全体に漂う重く、しかし静謐な空気感が心に深く沁みるーと書いてある。
暗い作品だが、それに惹かれる、コアなフアンがいそうだ。
私は「ガロ」で読んだ「河童の居る川」という作品が印象に残っている。
ただし、つげ忠男の作品はそれほど多くは読んでいないので、ほかに気に入る作品があるかもしれない。