原題は「THE ZONE OF INTEREST 」


期待どおりの作品でした~
カンヌで賞獲りそうなヤツ


お話は

1945年。アウシュビッツ収容所の隣で暮らす所長の家族。2階建て一軒家。四季折々の花が咲き、温室やプールもある広い庭。住み込みの若いお手伝いさん。休日には近所の川へ家族で出掛け水浴び&ピクニック。一見幸せそうに見えるが、隣の施設からは常に不穏な音や声か聞こえていた…




恐怖とか怒りとか、そういう感情は一切湧きませんけど…


なんちゅうか。


色々考えさせられる映画でした。


ある意味共感できるというか…こんなことに共感できてしまう自分が人としてどうなのかとか…


ここからネタバレもあるのでご注意!!


所長さんの家族は、元々裕福だったわけでなく、アウシュビッツの所長になったことで、やっと手に入れたこの生活。


ヒトラーが勤勉で真面目なドイツ人労働者たちに約束した夢の暮らし。それをひと足先に手に入れたって感じでしょうか。所長さんと共に働く部下たちも所長さんのおうちと暮らしぶりを見て、さぞ、モチベーションが上がったことでしょう。


ただ実際は、ユダヤ人から押収したモノに囲まれた暮らし。


所長の奥さんがユダヤ人から押収した毛皮のコートを着て鏡の前に立つシーンがあるんですけど。


うーん。


当時の労働者階級のドイツ人にとって、裕福なユダヤ人は


真面目で正直で貧しいドイツ人を食いものにして私腹を肥やすエイリアン


だったんだと思うの。


シェイクスピアのベニスの商人でも悪徳商人=ユダヤ人っていうくらいだから、ヨーロッパにおいてはそのイメージは相当根深いのかも。


私もそうだけど、ユダヤ人といえば「アンネの日記」って思ってる人たちとは、捉え方がかなり違うと思う。


で。


所長さんが、娘に毎晩お話を読んであげているんだけど、それが、ヘンゼルとグレーテルなのね。


貧しくて口減らしにあった子どもをお菓子の家でおびき寄せ、信用させて、肥らせて、食ってしまう悪い魔女。


悪い魔女なんだから、かまどの火で焼け死んで当然。


魔女の持っていた金銀宝石は、ヘンゼルとグレーテルが家に持って帰って当然。だって悪い魔女のモノだから。貧しいキコリの一家が幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。というエンディングのために。


よく考えるとおかしなことなのに、ヘンゼルとグレーテルの行動が正当化される。


彼らにとってユダヤ人は悪い魔女。


悪い魔女から奪って自分たちが幸せになるのは当然。


所長の奥さんは自分たちがこれまで貧しかったのはユダヤ人のせいだ!くらい思ってたかも。


自分がパンを食べるので精一杯だった頃、ユダヤ人たちは毛皮着てダイヤモンドを溜め込んでいた。


そして、やっと理想の生活を手に入れたと思ったら旦那はユダヤ人の若いメイドと男女の仲…


個人的なそういう恨みもある。


ってなったら、全員灰になって当然くらいのこと思っただろうね。


奥さんは、所長さんが昇進して別の場所に移るってなったとき、めっちゃ嫌がって、「私はこの家に居たい!」って言うのね。毎日隣の施設から怒号や悲鳴や銃声が聞こえて、子どもの情操にも悪影響、近所の川は黒い灰が流れてるのに。


奥さんにとっては、夢の叶った場所なんだろう…


私も専業主婦になりたかったから、子ども産んだあと仕事せずに子育てしてたときはめちゃくちゃ幸せで。また仕事を始めるのが、せっかくつかんだ幸せを手放すことにしか思えなくて…家計がどんなに大変でも頑なに仕事をするのを拒んでいたのね。だって結婚して12年、やっとやっと念願かなっての専業主婦だったんだよ。けど、旦那からの「金がない、働け、稼げ」のプレッシャーがすごくてえーん今、思い出しても超不愉快。お前がもっと働けよってね(笑)結局相変わらず働いてるわけだけど…働いている限り私は1ミリも幸せではないっていう呪縛(笑)


所長さんの奥さんにもこの家でなければ幸せではないっていう呪縛があったんだろうな~


それと対照的なのが、奥さんのお母さん。


お母さんは以前ユダヤ人のお屋敷でお手伝いさんをしていて。アウシュビッツに収容されたご主人様を心配してる。


所長さんの家に一緒に住むことになって、はじめは暮らしぶりを「いいわね~、素敵ね~、すごいじゃない!」って言って、邸宅暮しを満喫するんだけど、昼も夜も収容所から聞こえる音と声、煙突から吐き出される黒い煙を見て、ある日、荷物をまとめて出ていっちゃう。


お母さんはユダヤ人のご主人様にきっと良くしてもらっていたんですね…



私はこの映画に出てくる人たちの誰も否定的には見れなかったなぁ~


所長さんもね…お偉方の集まるパーティーでも居場所なさげだったし。


いつだったか、心理学の講座でこの所長さんが例にあがってたの思い出しました。人間は元々の性格や道徳心に関係なく環境状況立場役割によって非人道的な行動を平気で起こす。ルシファー効果ってヤツ。


映画は、アウシュビッツに第2焼却炉を入れる前で終わるんだけど、戦後所長さんは絞首刑。息子さんは所長さんの居場所を吐かなかったためかなりの拷問を受けた、らしい。


そういう背景も考えながら、じゃぁこの家族の幸せは奪われていいのか?なんてことも思いつつつつ。




まー。リンゴ埋めてる近所のポーランド人の女の子が謎のサーモグラフィなのは意味がわかんなかったけどね(笑)


監督の解説によると、全場面を自然光で撮りたかったから、夜の場面はサーモグラフィになったとか。かえって、人のあたたかみを表現できたって。


いや、意味不明❗


急にサーモグラフィなので、違和感しかないし、所長さんがヘンゼルとグレーテルを読んでいる時に急に現れるので、架空の少女なのかと思ったら、こちらも実在の人物。ドイツ軍の目を掻い潜って、収容所の飢えている人々のためにリンゴを埋めてたんだそうです。


監督さん曰く、彼女がこの映画の中で唯一の希望だとか。


のわりに、そのリンゴの取り合いで騒ぎを起こした中の人たちは、銃殺されたようだったけど。


その人の経験とか知識とか正義感とか人生観で、かなり、感じることは違うんだろうな~