ずいぶん昔の話・・・
タクシーに乗り込むと、中はやけに大音量のラジオが流れていた。
「お客さんどちらまで?」
「〇〇まで、お願いします。」
ドライバーの手元にあるハンドルをみると、そこには自分が設計担当をしたステアリングスイッチが装着されていた。
スイッチの開発時には何のクルマに装着されるのかが、
何となく分かっているのでタクシーに乗り込むときに
もしかしたら、自分が設計したスイッチが装着されているのではないかと思っていた。
この当時、ハンドルにスイッチを装着することはオプションだったため、
スイッチがハンドルに付いていることはめずらしく、
「お〜付いてるね〜」と心の中でつぶやいた。
「あっ、お客さんすみませんね、ちょっとラジオのボリューム大きいですよね。」
とタクシードライバーが。
ステアリングスイッチは運転中でも視線を外さず、
ハンドルを握りながら操作ができ、ラジオの選局をしたり、
オーディオの音量を大きくしたり小さくしたりできる大変便利なスイッチ。
またこのスイッチは、ドライバーがクルマに乗り込んだときに
最初に触るハンドルに付いているということもあり
試乗などでは、ドライバーがまず最初に触れるスイッチだ。
クルマのカタログにもハンドルとともに必ず写真におさめられ、
スイッチの特等席ともいえるポジションを与えられている
このスイッチを設計することに誇りを感じていた。
いまタクシードライバーは、ラジオのボリュームを下げようとしている。
ステアリングスイッチのボリュームダウンスイッチを押すはずだ。
押したら聞いてみよう。
「スイッチを押したときのフィーリングはどうですか?」と。
フィーリングには自信があった。
ドライバーの左手がゆっくり動いた。
しかし、その手はステアリングスイッチには向かわず、
インストパネルにある、オーディオ本体に装着されている
ボリュームダウンスイッチを操作した。
そして大音量だったラジオの音は小さくなっていった。