肝心の、黄疸について。


ICU滞在中、飲食していなくても毎日浣腸をしていると聞き、

ナースさんに「うんちは何色ですか?」と尋ねた。

ナースさんは「さくらはうんちの色に要注意」ということを

失念していたのか
「え?普通に、茶色でしたよ?」
と返されたときは
「やったー!!!」と騒ぎまわりたい高揚感と、
その「普通に茶色」までたどり着くのにどれほどの思いや

苦労があったか…と感慨深くもあった。


術中所見では胆汁あまり出てないと言われショックだったけど、
さくらの肝臓は頑張ってくれている!
このまま何もかもが順調に進むと思われた。


ところが、術後のビリルビン値(黄疸の目安)が

怪しい動きを見せ始める。
オペで肝臓をいじっているので、いったん値が上がることは

承知していた。
ところが…総ビリルビン(T-Bil)が数日経ってもなかなか

ピークアウトしない。


胸騒ぎがする…。

術後の回復に対する喜びで、なるべく悪いことを

考えないように仕向けていた心。
ざわつきが抑えきれなくなりつつある。

悪いことに、このあたりはちょうど世間的には

ゴールデンウイーク期間中。
平日ではないため、担当医と会うチャンスがほぼなかった。
(本当は折に触れてチェックしてくださっているのだろうが、
 直接お会いできることはなかなかなかった。)
状況がいまひとつクリアに把握できず、

モヤモヤだけが積み重なっていく。


外科Dr.の一団が回診に来られた際(その時主治医は不在)、
おむつを見た医師の表情が微妙だったことが引っ掛かった。
私はつとめてあっけらかんと「胆汁、出てますよね?」

と話しかけてみたのだが、
「まあ…担当医から改めてお話しします。」と濁されてしまう。


いやでも、昨日の担当看護師さんは普通に

茶色の便って言ってたし…。
大丈夫大丈夫。
希望に目を向け、きりがない嫌な予感には背を向けた。


その翌日、一般病棟へ引っ越した後。
悪いニュースです、と題した私から夫へのメール。
「先ほど自然に排便があったのですが、

 色がすごく白っぽかったです。
 術前の、一番薄い色と同程度くらい…。

 非常にショックを受けています。
 身体は、手術で受けた傷のダメージからは確実に

 回復しつつあるけれど、
 そもそも目的の胆汁は流れていないんですね…。
 

 葛西術で経過がいい子は、体験談を読むと術後すぐから

 継続的に便色が濃いと聞いています。
 明日、連休入る前にDr.とお話してきますね。」


さくらちゃんの肝臓、頑張って!
このままじゃ移植になっちゃうよ!

夕方、焦る気持ちを振り払うように私は病室を飛び出して

帰途についた。
不安はヒタヒタと静かな足音で、すぐ後ろまで迫っていた。



翌日5月2日、朝来るなり、看護師経由で今日どうしても

主治医と話したいと依頼。
午後、無事話ができた。
問題は内容。


採血結果、総ビリルビン値12.5で現在のところ上昇一途、

相変わらず色の薄い便。
結論から言うと胆汁の観点では経過が良くない。

今日からステロイドの内服を始めるが、

それで効果があればいいものの、
黄疸が引かなければ移植ということになる。

最終判断は術後1ヶ月。但し術後2週間で傾向は見える。

来週また話しましょうと。


私は食い下がった。
「でもICUでは茶色い便が出たと伺いました。
つまりその時点では胆汁が出ていたということですよね?」
担当医は相変わらずのあっさりした明るいトーンで返す。

「それは、血の色かも知れないです。
オペで肝臓や腸に傷をつけるので、多少出血します。
さくらちゃんの場合は、

混ざった血で術直後の便に色がついたのではないかと。」


……………
どうしてこう…
期待すればするだけ裏切られるんだろう。
最初から何も期待しないなんてできっこない。

子どもの健康なんて一番大切なことなのに。



ずっと逃げ続けた「移植」という文字の影。
もうこれ以上はごまかしごまかし進めないかも知れない。

帰宅後、インターネットで一冊の本を買った。
「こどもの肝移植~いのちを救うタイミング~」
成育の臓器移植センター長、笠原群生先生が

医学生や小児科医向けに書かれた本である。