「あなたなら育ててくれる」
子どもは、あなたに会いたくてやってきました。
あなたは選ばれたのです。



難病の子をもつ親へのメッセージとして、
よくこのような語りかけがある。


というより、難病に向き合わざるを得ない状況の人に
辛うじてポジティブな言葉をかけるとしたら、
良くてこの位しか思い浮かばないだろう。
私は当初病気の重さを受け止めきれず、


この言い回しを鼻白んでいた。
冗談じゃない、と。

私は元々子どもが大嫌いで、電車で居合わせようものなら
車両を移るほど。
長男出産に伴い解消したが、根っから小さい子が大好き!
という女性を見ると、人種が違う、とでも言うのか…
羨望とも寂寥ともつかない感情を抱いた。


この私が、子どもにも神さまにも選ばれるわけないでしょうよ。
そもそも私、これほどの困難なんて
受け止めも乗り越えもできない。
そんな器じゃないよ…。



その矢先、寝かしつけをしていた光が
おもむろに目を開き、語り始めた。


「おかあしゃん。
 ぼくね、ちっちゃいちっちゃい
 たまごの赤ちゃんだったとき
 お空の上から、どのおかあしゃんがいいかなぁって
 見ていたの。


 それで、まりもおかあしゃんがいい。
 やさしいまりもおかあしゃんのところに
 行こうと思って、生まれてきたんだよ。
 それで、何日もたって、今はおかあしゃんと
 遊べるようになったんだ。」


驚いた。

どうしていきなりこんなことを言ったのか、わからない。
私の悩みを見透かしたかのように、語りかけてきた息子。
(もちろん、息子の前で上に書いたような
 苦悩を漏らしたことなどない。)

まっすぐな瞳は、月の光をたたえて穏やかに輝いていた。
不意をつかれて一瞬言葉を失ったが、素直に嬉しかった。


「そっか、どうもありがとう。
 お前とさくらちゃんがお母さんの子どもに
 なってくれて本当に嬉しいよ。
 お母さんは光ちゃんのこと大好きなんだ。


 お前はお母さんの大きい宝物。
 さくらちゃんはお母さんの小さい宝物だよ。」


「ぼくもおかあしゃんのことだいしゅきなんだ!」

ちっちゃいちっちゃいたまごの赤ちゃんも、
今では手足がすらりと伸び
お腹の中にはとうてい入らないサイズに成長した。
私は身体を丸めて、大きくなった光を抱きしめた。


「ぎゅ~っとぎゅ~っと、だっこして~。」
笑顔で抱きついてくる光を力いっぱい腕で引き寄せ、
見えないように涙した。


私はもともと空の上の子どもや神さまに選ばれるほどの
ベストマザーではない。

だけど、この子たちを受け止め、見守り、なってみせよう。
母の中の母に。