さくらには肝移植が必要だという認識を
自分の中で落ち着かせていくのと同時進行で
移植に向けて具体的な準備が始まった。
その中でも優先順位が高いのは、予防接種である。
なぜか。
移植後は免疫抑制剤を服用するため、
基本的には予防接種を打つことができない。
そのため、可能な限り移植前に済ませておく
必要があるのだ。
さくらが生後2ヶ月、葛西術後もう少しで
1ヶ月を迎えようとしていたころ(5月22日)
感染症科の医師がやってきて、説明をしてくれた。
葛西術後1ヶ月をもって、予防接種を計画的に打っていく。
(手術時に輸血を受けた関係で、
1ヶ月は空けた方が良いと言われたため。)
今週中にHib(インフルエンザ菌b型)・肺炎球菌・
B型肝炎の3種類を同時接種。
その後は移植手術の日程を最優先しながら、
月齢3ヶ月以降は4種混合(DPT-IPV)と上記3種を
打てる範囲で効率的に打っていく。
基本的に退院後のワクチン接種は
近所のクリニックで大丈夫とのことだった。
現時点では、生ワクチンは禁止。
ワクチンが引き金で病気になる恐れがあるためだ。
葛西術後、免疫抑制効果のあるステロイド
(プレドニゾロン)を服用していたため、
その総量(内服量と期間)を勘案してNGが出た。
よってBCGも打たない。
MR・水痘・おたふく風邪・ロタについては、
移植がもしかなり後になりそうなら
生後半年以降に検討可能。
ただし1歳以降に打つことが推奨されているもので、
抗体が十分つかない可能性もある。
B型肝炎は任意接種(概ね5,000円×3回)だが、
肝臓移植をした人には重要。
術後の免疫抑制との関係で、
もし罹患すれば重症化しやすいのみならず
肝臓の病気は拒絶反応の引き金になることもあり、
悪くすると命取りになるため。
術前の予防接種は、不活化ワクチンであれば
最短2週間あけてオペになるよう調整すること。
(生ワクチンの場合は4週間以上。)
移植後の予防接種は、成育の場合
・術後1年以降を目安とし、免疫抑制剤が1剤のみの場合
→不活化ワクチン
・術後2年以上経過し、免疫抑制剤が1剤のみの場合
→生ワクチンを
ワクチン外来という形で打つ方針にしているよう。
打てるようになるまでは「うつらないよう気を付ける」
ほかない。
免疫抑制剤は、「プログラフ」1剤で管理するのが
基本形ではあるものの、拒絶反応との兼ね合い、
あるいは副作用の調整などで他の薬剤も併せて
使用されるケースもある。
その場合は予防接種ができない。
術後どのような免疫抑制が必要になるかは、
原疾患によって多少の傾向があるものの、
厳密にはその時になってみないとわからない。
感染症はまわりの人みんなでブロックしてあげるのが
とても重要。
家族の母子手帳を参考に、抗体を持っていなそうな
ものがあれば、周囲の人が予防接種を受けておくことも
必要と、併せて話があった。
私は、免疫抑制をしている子などは時に死に至るほど
重症化することもあるという水痘を恐れており、
何がなんでも打っておきたいと考えていた。
しかし感染症科の医師はこう諭した。
「お母さん、気持ちはわかりますけど、
まずは手術が無事にちゃんと終わるというのが一番大事。
これ間違えちゃいけないとこです。
いまのさくらちゃんに生ワクチンを打つというのは
リスクがあります。
それでもし、一番いい時期に手術できなかったりしたら
それこそ大変です。
あと、さすがにうちの病院でも、生後半年以内で
水痘の予防接種をした実績はないんです…。
(母体からの以降抗体が残っているため。)
なのでやっぱり6ヶ月超えるまでは待った方が
いいと思います。
そこまで移植が延ばせるなら、の話ですが。」
当時さくらは早ければ1ヶ月後にも移植と言われていたので、
水痘ワクチンまでたどり着くのは難しいだろうなと
半ばその時点で諦めた。
できることなら十分備えたうえで移植に臨ませてやりたいが…。
ちなみに、移植直後は拒絶反応と感染症の綱渡りという
難しい駆け引きが必要で、
重い感染症に罹ることもある。
その時に登場するのが感染症科ということなのだが、
移植後の非常にナーバスな局面で初対面だと
うまくコミュニケーションを取りにくいということで、
移植前に担当医師が面識を作る意味合いも含めて
このような説明の場を設けているらしい。
さくらの担当のDr.はなかなかユーモラスな若い男性で、
入院中は特段用件がなくても
「あ、お母さんいるなーと思って来てみました。」と
頻繁に立ち寄って下さった。
(移植前も移植後も)
翌5月23日、さくら、生まれて初めての予防接種。
(Hib・肺炎球菌・B型肝炎)
ふにーっ!と、高くて細い声で怒ったさくら。
ごめんね、痛いけど、この注射がお前を守ってくれるから。