プロの音楽練習室に立つ。譜面台の前に姿勢を正し、手を腹部に当てて、ひとつの長音を追いかける。鏡には、口の形、息の流れを微調整する自分が映っている。

「声には、その人の全ての歴史が乗る」

オペラ歌手の指導を受けるようになって、初めてその重みを実感した。良い声とは、大きな声や力ずくの押し出しではない。体という共鳴箱を響かせ、相手に、空間に、届く「響き」そのものなのだ。

これまでの私は、つい「伝えよう」と力み、声そのものを固くしていた。今、学んでいるのは、逆のアプローチだ。深い呼吸から生まれる安定した支え。無理のない開きで導かれる自然な共鳴。それは、自分自身のあり方そのものに向き合う作業でもある。

毎日少しずつ、過去のクセを取り外し、新たな響きを探している。ビジネスの場でも、大切な人との会話でも、この「調律」はきっと生きる。自分という唯一無二の楽器を、丁寧に、自由に鳴らすために。