駅に向かって歩いていたら。

30代くらいの男性に声をかけられた。


「小銭を恵んでもらえませんか?朝から何も食べていないんです。」


若くて健康そうに見えたし、英語もちゃんと話せるし、身なりも普通。

あいにく、わたしも昨日から何も食べていなかったから(酒は飲んだけどね)、さほど同情もできず。


その場を急ぎ足で離れた。


あまり外に出ることのないわたしも、しょっちゅうこういう場面に出くわす。

通勤途中の電車の中でも、紙コップを持って車両ごとに「小銭を下さい」と誰かが回ってくる。

テリトリーがあるのか?毎回同じ顔ぶれだ。


物乞いをしている人が、ロンドンではもともと多かったけど、最近は以前よりもっと増えた。


昨日、ピカデリーサーカス駅に入ったら、

人が多すぎるせいで、改札口が閉められており中に入れない。

人数を制限するため、数分おきに改札口を開放する仕組みになっていた。

それを知らずに駅に入った人々で、駅の中はごった返していた。

改札口の前の人だかりの中に押し流されて、

身動きできない状態でいると、わたしのジャケットの右ポケットにそっと手を入れて来たヤツがいた。

顔を動かさずに横を見ると小柄なおばさんが、何食わぬ顔でわたしのポケットに手を入れているのがわかった。


改札はスマホ決済で通るから、スマホは手に持っていたし、買い物もApple Payなので財布は持ち歩かない。

気づかないフリをして前を向いたまま

「わたしのポケットの中には、使用済みのティッシュしか入っていないんだけど!さっき鼻かんだやつや。」

と、結構大きめの声で言ったら、

すーっと人混みをうまくかき分けて、わたしから離れて行った。

あの動きはプロだな。


前にいた数人が、振り返って不思議そうにわたしを見たからちょっと恥ずかしかった。


乙女おじさんを強盗したヤツといい、

昨日旅行でロンドンに来ていた知人の財布をスッたヤツといい…

「貧しいから奪おう」という考えがわたしには分からないけれど。


「朝から何も食べていないから、小銭を恵んでください」と、面と向かって訴えてきた男性の方が潔くて、まだ好感が持てるわい、と思った。


潔くてもお金はあげないけどね。(人間には)