現地校の第3学年(日本の小学1年生相当)に通っている6歳の長女ガル。

最近は音読の宿題が出ていて、学校から毎週1冊絵本を借りてきています。

 

この宿題、私ではまったく役に立たないのでロットが見ているのですが、それでも

ガル「ちがう!おとーさんは、フランスごがへたねえ。」

 

ジュネーブ生まれ。病院で生まれたときからフランス語を聞いていたガルの耳には、ロットの発音では「不正確」に感じられるようです。

そこで第7学年(小学5年生)の男の子に「家庭教師」に来てもらっているのですが、私も、音読が無理でも何か手伝えないかなあ・・・・

ということで、最近はスーパーの絵本のコーナーをちょこちょこ覗いています。

 

フランスのスーパーの絵本コーナーで発見

 

 

『人魚姫』 ディスニーの物語ならガルの受けは良いはずですが、これ、アンデルセンの原作とはあまりにも内容が違うしなあ。そもそも、アンデルセン童話のほうの人魚姫が「歌う」シーンなんて、あったかしら?

 

と思いつつ、もう一度表紙をよく見ると・・・・。んんん?

 

”La Petite SIRENE”

フランス語では人魚ってSIRENE(シレーヌ)なの?

 

シレーヌって言えば、鳥じゃなかったっけ?・・・

 


永井豪の名作マンガ『デビルマン』の圧倒的な存在感の強敵妖鳥シレーヌ・・・

 

じゃなくて、そのモデルになった、ギリシャ神話の海の怪物セイレーン。

女性の顔に、の体。岩礁に住み、甘美な歌声で船乗りを誘惑し、船を難破させて犠牲者をむさぼり食らうセイレーンは「男を破滅させる女(宿命の女、ファム・ファタール)」の比喩としても使われ、また、英語の「サイレン」(SIREN 警報)の語源でもあります。


けれども、いつごろからか、ヨーロッパの絵画や彫刻で描かれるセイレーンは、人魚だったような気がします。そういえば、、カナリア諸島で泊まったホテルの玄関前に飾られていた、オブジェ。

 
人間の女性の顔、上半身は鳥、下半身は蛇?魚?
蛇なら多分ゴーゴン(ギリシャ神話の怪物3姉妹。末妹が有名なメドゥーサ)かケツアルコアトル(翼ある蛇。南米の神様)で、魚ならセイレーンだろうけど、どっちかなあと思っていました。
 
調べてみるとどうやら、セイレーンが「鳥」から「魚」に変化したのはまさに大航海時代。
航海技術が発達し、船が沿岸しか航海できない時代から、外洋を旅するように変化したときのようです。
 
船が遭難するイメージが、沿岸の岩礁に乗り上げたり衝突したりするものから、外洋で波にのまれるものに変わり、そのために「犠牲者をむさぼり食らうモンスター」のイメージもまた、岩礁に群れを作っている鳥から、水の中を泳ぐ魚に変化していったとのこと。
 
また「宿命の女(ファム・ファタール)」がモチーフとして好んで描かれた19世紀末、女性の姿を描く際には今ではビックリするようなさまざまな規制があって、たとえば「裸」や「乱れ髪」は原則として描けないことになっていたそうなのです。
そこで「人間の女性ではないモンスターの絵」だし、「水の中だから髪がこんな風になります」と言い訳して、美しい乳房をあらわにし、髪を結わず、長くなびかせた「水の魔女」を描く。それで余計にセイレーン=魚のイメージが定着したのかもしれません。
 
アンデルセンの人魚姫の原題は「Den lille Havfrue」 =直訳すれば「小さな人魚」。
ディズニー映画のタイトル「The Little Mermaid」もフランス語の”La Petite SIRENE”も本当に直訳なんですね。
 
けれども、人魚=SIRENE=セイレーン と考えると、
ディズニー映画のアリエルが素晴らしい声で歌っていたことに納得しました。
 
また、アンデルセン童話の人魚姫が奪われた「声」も、単に「コミュニケーションの手段としての言葉を発する能力」を奪われたのではなく、「男性を魅了する魔法の歌声」を奪われた、ということなのだなあと。
だって、「セイレーンの歌声」を使えば人間の王子さまは簡単に、人魚姫の虜になってしまいますからね。それでは物語になりません。
 
あるいは「人間になる」=「セイレーンとしての魔力を失う」
ことだという象徴なのかもしれません。