セドリック・ディゴリーの死を阻止しようと三大魔法学校対抗試合の第2の試練に介入したアルバスとスコーピウス。
ところが、タイムターナーに引き戻されて「現在」に帰ってみるとそこは「ハリーが死に、ヴォルデモートが支配する世界」に変わり果て、生まれなかったことになったアルバスも消えてしまいました。
一体なぜそんなことになってしまったのかと必死で原因を探るスコーピウス。
聞き込みの結果、公衆の面前で恥をかかされたセドリックはなんと死喰い人(デスイーター)になってしまったことが判明します。
そしてこの世界の彼の父、ドラコは魔法省の高官でした。ヴォルデモートが支配する世界では、ドラコはホグワーツ決戦で最年少死喰い人として活躍した殊勲者だからです。
この世界では生きていたスネイプ先生は言います。
「セドリック・ディゴリー? 奴は決戦ではたった1人殺しただけだ。それも、ネビルとかいう冴えない小物を」
ネビルは確かに目立つ少年ではありませんでした。けれども、本来の歴史では7個目の分霊箱、大蛇ナギニの首を刎ねるという重大な役割を果たしていました。スコーピウスは、死喰い人になってしまったセドリックがネビルを殺したために歴史が変わってしまったのだと思いました。
でも、私はホグワーツの戦いの結果が変わったのは、それだけが原因ではないと思うのです。
通常の魔法使いには「死の呪い」をはじめとする多くの強力な「闇の呪文」は禁止されています。せいぜい失神呪文しか使えません。ところが、死喰い人たちは闇の呪文を撃ち放題なのですから、人数が相当上回っていないと、そもそもハリー側はまともに死喰い人とは戦えません。
この「人数」という戦力増強に貢献したのが、生徒の参戦でした。
それに、生徒たちがホグワーツ防衛の戦いに参加して時間を稼いでくれたからこそ、ハリーたちはホグワーツに隠されていた最後の分霊箱、「レイブンクローの髪飾り」を探し出し、破壊することができたのです。
更に、分霊箱破壊後の後半戦においても、人間の魔法使いによる援軍はほぼ、 参戦した生徒たちの親族だったことを考慮すると、生徒の参戦は戦いの勝敗を左右する非常に大きな要素だったと思います。
ホグワーツの戦いの、ハリー側の戦死者50人。大人だけでなく、生徒たちにも犠牲者が出ましたが、それだけ多くの生徒たちが戦いに参加したということです。
ハリーの所属するグリフィンドールからは未成年の下級生までが参加。
スリザリンからはゼロ。(ただし、ドラコ、ゴイル、グラップは死喰い人側として参加)
ハッフルパフからはかなり大勢の成年に達した上級生が参加。
レイブンクローからは少数ながら成年に達した上級生が参加。
もしもセドリックが殺されていなかったら、ハッフルパフやレイブンクローの生徒たちまでもが参戦したでしょうか?
私は、グリフィンドール寮以外の生徒たちは、ほとんど参戦しなかっただろうと思います。もしかしたら、スリザリン寮の生徒のように、「ハリーさえ引き渡せば済む」とさえ考えたかもしれません。
理由は大きく分けて2つあります。
1つめは能力の問題。セドリックが闇の魔法で殺されていなければ、魔法使い同士の実戦に耐えられるほど実践的な戦闘訓練を積んでいた生徒はほとんどいなかったということ。
2つめは、動機の問題。ハッフルパフ寮のセドリック。ハッフルパフに限らず校内全体でも人気があり、人望があった上級生。ハッフルパフからの参戦者の多くは、ホグワーツ決戦の3年前に殺されたセドリックへの想いがあったからこそ残ったのだと思います。
参戦した生徒たちのほとんどは、第5巻『不死鳥の騎士団』で結成された「DA(ダンブルドア軍団)」のメンバーでした。
「DA」は名称こそ「ダンブルドア軍団」ですが、実態はハーマイオニーとロンが発案し、ハリーを教師役にした「闇の呪文に対する防衛術」の自主トレサークルです。
第五巻では魔法省から派遣されたアンブリッジがホグワーツを牛耳り、「防衛術」の授業もまったく役に立たないものにしてしまいました
けれども前年度末に「セドリックの死」に直面した生徒たちは「実戦に使える防衛術」の必要性を痛感していました。だからこそ、アンブリッジに逆らう危険を冒してでもハーマイオニーの呼びかけに応えて自主トレサークルに集ったのです。
DAにはハリーの属するグリフィンドールだけでなくセドリックが所属していたハッフルパフから、セドリックと親しかった多くの生徒たちが集まりました。レイブンクロー寮のチョウ・チャンが友人を誘ってDAに加わったのも、彼女がセドリックの恋人だったからでした。
そして、最初は「武装解除」の基礎的な呪文から始まり、最後には最高難度の「守護霊の呪文」までDAメンバーが使いこなすようになっていくうちに、「DAメンバーとハリーとの絆」も育ったのだと思います。
こうしてみると、死んでしまったセドリックこそが、実はDAの隠れた中心だったと言えるのではないでしょうか?
ここで、『呪われた子』の物語の後半になって明かされた、重大な預言を読み返してみます。
“When spares are spared, when time is turned, when unseen children murder their fathers: then will the Dark Lord return”
”Spares”が”Spare”されるとき、時が逆転されるとき、いまだ生まれざる子らがその父たちを死なせるとき、闇の帝王が蘇る。
”SPARES”をどう訳すべきか悩んでググってみた日本語サイトの中に、「生贄(いけにえ)」と翻訳しているものがありました。
なるほど、「生贄」かあ・・・・。
確かに、後から振り返ってみると、セドリックの死はヴォルデモートを倒すために(少なくとも、ホグワーツ最終決戦に勝利するために)どうしても必要な「犠牲」「サクリファイス」だったように思えてなりません。
生贄、犠牲は本来は神に捧げられるものなので、生贄の資格は「欠点の無い、最上のもの」であること。
そういえば、第一幕でセドリックの父、エイモス・ディゴリーが言っていました。
”The spare. My son, my beautiful son, was a spare.”
炎のゴブレットが三大魔法学校対抗試合の「ホグワーツの代表選手」として最も相応しいと選んだセドリック。
対抗試合で試される「魔力の卓越性、果敢な勇気、論理・推理力、そして危険に対処する能力など」の能力において、ホグワーツで最も優れた生徒。
ハッフルパフのクィディッチチームのキャプテンで、シーカー。優しくて公正で、クラスメイトや下級生からも慕われていて、ハンサムで女の子からの人気も絶大だったセドリック。
・・・・・・生贄の資格にピッタリあてはまっています。
すると、”SPARES ARE SPARED” は「捧げられるべき生贄が、惜しまれて捧げられない」と解釈するべきなのかもしれません。
「生き残った男の子(=ハリー)」
その子1人が生き残るために、(ハリーの両親も含めて)どれほど多くの人々が犠牲になったことか・・・とハリーが嘆くシーンがあります。
その多くの犠牲はみな、ヴォルデモートを倒すために不可欠の人柱であり、ただの1人も抜き去ることはできないものだったのかもしれません。
だからこそ、運命を変えようとしたデルフィが最後に試みた手段は、「最初の人柱を抜きとる」ことだったのかもしれません。