ひとつ前のかどはさよならサヨナラ -8ページ目

少し酔いがまわって
少しもどかしい気持ちを胸に感じて
僕は部屋に戻った

ゆっくり押したはずなのに
思いのほか勢いよく灯りのスイッチがパチンと響き
ため息にに似た
一息をついた


部屋のテーブルの上に目が行き

前夜、写真の整理をやりかけのままだったことを思い出しす


写真の整理なんて面白いのはやり始めの数十分だけで
あとは
右から左に移すだけの果てしない単純作業に変わる

しかも
途中で見入ってしまったりするから
なかなかはかどらない

古い写真は
4年前のものまであった

4年前から現在近くまでの
色んな場所で色んな顔をした自分や他人を眺めていたら

四六時中
あぁだ、こうだと不平を言ったり
死ぬの生きるのと大騒ぎをしたりしてきた割には、

結構僕という人間はずっと元気に生きて来たのだなぁ

なんて気がして
なんだか可笑しくなった

写真というモノは
人の光る瞬間を、とりわけ上手にとらえるものなのかな…

そんなひとりごとがポロッと出る

4年間のそんな【瞬間】の羅列は
なんとなく階段に似ているな
とも思った

居酒屋から出たとき
僕は
大げさにジャケットの襟をなおしながら歩く
【そいつ】に言ったんだ

彼女の話、もうちょっと聞いてみろよ

けど、
そいつは口の中でモゴモゴやりながら言った

なげぇ話…聞くの…あんま苦手だしよ…


おまえバカじゃねぇのか

と、いう言葉はかろうじて飲み込んだ

かわりに

かわらねぇな

っとだけ、言った

そんなついさっきの事を思い出しながら
整理するのを放棄した写真を
まとめて箱に詰める

ただ、
整理を放棄した写真を詰める時
そいつの恋も終わってしまうのかな…

なんて居心地が悪い思いをした


それから二、三週間たって
【たまたま】僕は街でそいつを見たと言う目撃談を聞いたんだ

えらく楽しそうに
彼女と腕を組んで歩いていたらしい

僕は、想像し安心と嬉しさで笑った反面

あんなに心配して
なんかすごい損した

なんて、思ってみたりもした

この二、三週間で
そいつも階段を一つずつ昇っていたんだ

そいつのアルバムに
また光る時が増えるのだろうと
考えた

同時に

僕もまた帰ったら

途中で放り投げた
写真をアルバムに入れていくなんて面倒な作業を再開するかな
なんて

晴れやかな気分になったんだ
久しぶりに会った
【そいつ】の話は

相変わらず女の事だった

そいつは新しい恋をしていたんだ

そいつの付き合いが悪くなるのは
大抵そんな時で

また、そんな中
突然現れたりする時はイツモその恋に苦味を
感じている時だった


そいつは焼酎ジョッキを傾け
少し投げやりに少し寂しく言ったんだ


ごめんなさい
が、言えないんだ


…ああ、うん…わかるよ

僕達は随分と前から、同じように繰り返してきた言葉をまた言いあった

僕は決まり文句みたいに、返事をした後
ふと
長い間同じ事を同じ様に言い合っている癖に
ちっとも新しい結論が出て来ないのかな
ナンテ、ふと思った


そう思ったら
僕達はかなりのバカで、学習出来ないニワトリくらいの知能しかないんじゃないかという気がして
急に
そいつや自分が
実はもの凄く愛嬌のある奴らのではないか?
なんて感じられたんだ

そいつは

明日も早いから帰るか

と、言う

お前車だろ、大丈夫か?
なんて僕が訊くと

こんな時間から取り締まってるようじゃ日本もオワリさ

そいつは、答えながら
空いたグラスをヒラヒラ左右に振った

僕は思わず吹き出しながら
この分じゃ
新しい恋もそう長続きはしないだろうと思った

その方が
そいつっぽい気もしたし、
そいつの様な男に
余計な我慢は不必要なんじゃないか
なんて気もしたんだ

そう考えてみてから、やっぱり僕たちは

愛嬌のある奴らなんかじゃないな
と思い直した


続く→
アメリカ合衆国
最古の町

フロリダ州セント・オーガスティン


そこの
カスティロ・デ・サンマルコス国定公園(旧フォート・マリオン)と呼ばれる場所に僕はいた


フォート・マリオン

フォート…【要塞】…か…
呟き

僕は高い壁づたいにゆっくり歩く

要塞と呼ばれた地



建物の中は
窓もあるのに
また、広く天井もない平地も

昼間であっても
どこか暗くて

静けさはしっかり僕の耳に入り伝わってくる


日が当たり
射し込む、辺りは
その視覚だけの印象で

【今】は平穏だけを与えてはくれる


フロリダって場所は
位置的に微妙で、歴史を振り返ると
何べんもアッチコチをたらい回しにされた過去を持っている

イギリス対スペインの戦争のはざまで
取り合いをされ

時には
独立戦争の中で揺れた

どの国の
手にある時も

誰の
手にある時でも、
何百年もの間

常に…

常に…
人々の戦いの場として機能してきた場所

歩いていると
なんて表現すればいいのか、
長い歳月の間に

人の念
の様なものが蓄積されているかの様で
少し背中が寒い

頑丈に構築された建物の中には

兵士の寝床

というのがあって
思わず目がいく

今の感覚でいうと
子供用の二段ベット程度で
そこに上下2人づつ、大の男が寝ていたらしい


もちろん
今とは違って電気も暖房もない

そんな
寝床の石壁には
当時の兵士たちが書き残した落書きが残っていて

英語なのか
スペイン語なのかも定かでなく
ただ、無造作に書き散らされてる


現在の言語学者の知識をもってしても
それは解読不能なんだと説明があった


僕は
そんな落書きに見入ってしまった

要塞詰めなのだから
最前線とよんでもいい戦地

何の為に戦わされているのか

それすら理解していない庶民の手で書かれた落書き
なのか

いや勇兵ここにあり!
なんて血気盛んな男が書いたんだろうか

はたまた
戦いの為に家族と引き離された者が

あいたい

その一文だけを書いているのか

落書きを前に


そんな事書いたあったら、どーすっかなぁー

なんて僕がひとりで叫びながら身悶えところで

どーしようもない事だとはわかっている

なんせ何百年も昔の事だし…

それでも

人の思い
というモノは

何百年かの時を超えて

例えば現に
僕というひとりの個人の心を
動かしたりするのだな

なんて考えた


もちろん
落書きの内容なんて
とーていわかりっこはないけれど…