ひとつ前のかどはさよならサヨナラ -4ページ目

ジャイアント馬場と呼ばれた巨人が
死んでから

もう、10年も経つんだ…

情報誌の見出しに目が止まった

……



10年前の新宿アルタ前で
僕は
冬の寒空の中、大画面テレビに
映し流される

【世界の巨人・ジャイアント馬場、逝く】

の文字をじっと眺めていたのを
よく覚えている



あんな大きな人でも
ヤッパリ死ぬんだな

単純にそう思ったんだ

どんなにカラダの
大きな人間も
どんなにカラダの
小さな人間にも

死、そのものには
サイズなんてないんだな

僕は
バカでかい棺桶
を思い浮かべると

ちょっとだけ
物哀しくなった

そんな
追憶の時間を引き出されながら感じたんだ



そうか僕はあれから
10年間も生きてきたのか…

いっつも黒い服着てるよな


そんな風に友達に指摘された事がある

先に言うと僕は服を買うって行為が苦手だ

オシャレが嫌いな訳じゃないんだ
たまたま目について気に入り買った服を着て
出かけた日に
会った人から

それ、いいじゃん

なんて褒められれば嬉しいし、人並みにオシャレ心は持っているつもりではあるんだ

だけど

【色】

に関する事になると、数学くらい及び腰になる


よく服を一緒に買いに友人がいる
そいつとの出来事で随分前の事になるんだけど

ある服屋に2人で居た時だったんだ…

あのネクタイ良いな

僕が指差し言ったら

お、いいじゃん

友達も同意した
だから、僕は何気なく続けたんだ

あのネクタイさぁ
僕が持ってる、あのムラサキのスーツに
多分合うよな

ところが友人は
そこのところで眉間にシワを寄せて言った

ムラサキのスーツ…?
お前、そんなモノ持ってたっけ…?


えっ、よく着てるじゃん

えぇ?いつだよ

結構最近

どこでさ?

こんなちぐはぐな会話がいくばくかの間交わされてから

友人は僕が
【ムラサキのスーツ】
と呼んだモノが何であるかを把握し
そして絶望したかのように叫んだ

お前何言ってんだ!?
アレは『ムラサキ』って言うんじゃねーぞ!


え………………?


怪訝に僕がそう問い返した時
友人は再び
今度は若干小さめの声で絶望の叫びを洩らした

あれは
『チャイロ』
って言うんだよ!

まさに青天の霹靂!


僕は自分が『ムラサキ』と認知している色が
世間では『チャイロ』
と認知されている事を、その時初めて知ったんだ

もちろんその後
我が家に客人が訪れる度に
例の
【ムラサキのスーツ】
を引っ張り出しては披露して見せ

コレをムラサキと思うか、チャイロと思うか
と訊ねる、検算的な手段もとってみたけど

全員が

チャイロ

と答えた

答えを聞く度にショックを深めていく
僕の表情を見て気の毒に思ってくれたのか

その中の一人は遠慮がちな口調で

あぁ…
百歩譲れば、『アズキイロ』
って呼べない事もないと思うよ…
なんて慰められた…


その件がキッカケで様々な色に関して

その色を何色と呼ぶか?
なんて訊ねた結果
僕が

キミドリ

と認知していた色が
他の大勢の人にとっては

キイロ

であったり

僕が

フカミドリ

と認知していた色が
他の大勢の人にとっては

アオ

であったり…

その度、かなづちで頭をはたかれている感覚だった

僕は
服選びが苦手と書いた

でも
ホントは大好きなんだ…

ただ
色彩感覚のズレが生じる、現実に叩きのめされるのは
やっぱり少し
怖いんで

僕は今日黒っぽい服を着るのです
寂しさ

考えてみれば、不思議な感覚だった

寂しい…


寂しい時…


誰かを信じると口にする事を
僕は一時、狂気の沙汰と思う時期すらあった

人間は
もともと信じる対象としと適していたない
ものだと
考えていた

それが
【普通】
の事だと

ただ
僕が居るという事を
母はどう感じ
父は
僕が居るという事にどう考えるんだろう

人を信じるのは
狂気の沙汰

普通の事ではない

なら


普通から狂気の沙汰へと、その一線を人に超えさせるものは何なのだろう…



自分自身の事すら僕は
誇りに思えるほどには
僕は愛せていない

あの水族館の光景は
僕自身の姿とも思った





この時に起きている出来事を

その事実を
伝える相手が居なければ…



僕はその後の言葉を考えるのが怖かった


誰かのためになりたい

誰かにとって役に立つ存在でありたい


心の何処かにひっそりと佇む
一片の感情の正体


僕という自分を確立するため

僕を架空のものにしないため

僕をどこかで
この世界と繋ぎとめておくための
ほとんど利己的な希望なんだ


そういう思いを切ないくらいに
抱えながら生きていく事が

自分らしく生きる

と呼ぶに足り得るものであるならば
もしかしたら
僕は自分らしく生きているのかも知れない


僕は死を恐れる

生に対する未練がある

多分それは
自分の生が無に帰するのが怖いせいだと思う


そうならない様にする為、自分の存在を無に終わらせない様にする為
僕は精一杯他者を思い

他者を愛す

少なくとも
そうであるように努める

その時に
感じた
精一杯の考え方が


在るという事に

誇りを持ちたい


だった